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二人の涙と歪み

誰かを大切に思う気持ちは、とても優しい。


でも。


その優しさは時として、遠く離れた誰かの心を揺らすこともある。


繋がるはずのなかった想い。


交わるはずのなかった秘密。


そしてーー


静かに近づく《歪み》


今回は、優しい涙と不穏な影のお話です。



静かな時間だった。


見えない誰かがいる部屋。


でも、不思議と怖くない。


むしろーー

どこか安心する空気だった。


なおき君は、ゆっくりと話してくれた。


自分が、堕天使の《レミエル》と出会ったこと。


そして、一緒に暮らすようになったこと。


「今は……エルとミニエルって呼んでる」


なおき君は、眠る二人へ視線を向ける。


少し迷ってから、小さく続けた。


「二人は、元は一人だったんだって…」


「堕天するきっかけの時に、分かれたんじゃないかなって」


頭を撫でているように見える…


そしてなおき君の声は優しかった。


決めつけるわけじゃなく、

大切に触れるみたいな言い方だった。


それから。


なおき君は、自分のお父さんとお母さんのことも話してくれた。


お母さんが天使だってこと。


誤解して恨んでいたこと。


苦しかったこと。


ずっと、自分の中で引っかかっていたこと。


でも、その誤解を、ミニエルちゃんとエルさんが解いてくれたこと。


「……この子たち、すごいんだー」


なおき君が、小さく笑う。


「僕のこと、ずっと信じてくれるから」


その顔は、

少し照れていて。


でも、本当に嬉しそうだった。


「なんかね」


ぽつり、と続ける。


「そばにいてくれるだけで、救われてるっていうか……」


「……うん」


「愛おしい以外出てこないんだよ」


その言葉が、すごく自然で。


私は胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。


なおき君は、ちゃんと大切にしているんだ…


見えない存在を。


家族同然に。


だから私も、なおき君に自分の話をした。


お父さんの死…小さい頃のことは、あまり覚えていないこと。


でも。


サンタさんが、ずっと私たち家族を守ってくれていたこと。


気づけばもう、十年以上一緒に暮らしていること。


そして何より家族として大切な存在だってこと。


「普通じゃない力も使えるんだよ」


「やっぱり…」


なおき君が、小さく息を呑む。


私は少し笑った。


「怖い力じゃないんだよ!」


そして、私が頭に浮かぶのは、洗濯物を畳む姿とか。


料理を手伝う背中とか。


静かに見守ってくれる横顔とか。


そんなものばかり…


「そんなサンタさんが私は大好きなの」


なおき君はそれにも優しい顔で頷いてくれた。



「時々、天界の話をしてくれるの」


「天界……」


「うん。綺麗で、静かで……でもその話の時は少し寂しそう」


その時。


ふと、テレビ横の写真立てへ目がいった。


商店街のクリスマスツリー。


光に包まれた、あの日の写真。


私は小さく笑う。


「……私、この時すごく嬉しかったんだ」


「え?」


「サンタさんの知り合いが、こんなに綺麗なことを起こしたんだって思って」


あの日。


奇跡みたいに輝いていたツリー。


細かく吹き上がる水。


弾ける氷。


みんなの歓声。


そして。


写真の中で、嬉しそうに笑っているなおき君…


「これ両横にミニエルちゃんとエルさん映ってるんでしょ」


「バレたか、気持ち悪いよね」


「何で!?全然だよ」



「今日その写真見て……なんか嬉しくなったよ」


なおき君は少し驚いた顔をして。


それから、照れたみたいに笑った。


「そっか」


静かな空気が流れる。


その部屋には、眠ったままのエルさんとミニエルさん。


そして…




「サンタさんと、ミニエルちゃん達って…関係あるんだよね…」


なおき君も、ゆっくり頷いた。


「僕もそう思う」


「でも」


私は苦笑する。


「本人たち起きないと、これ以上分かんないよね」


「あはは……確かに」


その笑い方が、

なんだか少しおかしくて。


でも、安心した。


秘密を話したのに。


むしろ距離が近くなった気がしたから。


こんな話、誰にもできないと思ってた。


なのに今は、分かってくれる人がいる!!


それだけで、胸の奥が軽かった。


私は立ち上がる。


「……なおき君、ありがとう」


「え?」


「なんか、安心した」


なおき君は少しだけ目を丸くして。


それから、優しく笑った。


「僕も」


玄関まで送ってくれる。


外の空気は、もうすっかり夜だった。


「また学校でね」


「うん。また来週」


私は手を振って、歩き出す。


その背中を、

なおき君がしばらく見送ってくれていた。


ーーそして。


静かになった部屋。


なおきは眠ったままのミニエルとエルをそっと見つめる。


2 人の頭を撫でるとなおきはキッチンへ向かった




その時ミニエルとエル、二人の頬を一筋の涙が、伝っていた…



ーー


そして同じ頃…


夜の街を、

静かな風が抜けていた。


誰もいない交差点。


赤信号のまま点滅する横断歩道。


遠くで鳴る救急車の音。


そのすべてが、

どこかほんの少しだけ《ズレて》いた。


街灯の光が、一瞬だけ遅れて揺れる。


自動販売機の明かりが、不自然に瞬く。


そして。


暗いビルの屋上。


そこに、ひとつの影が立っていた。


『見ーつけた!』


低い声。


愉快そうでもあり、懐かしむようでもある声音。


その視線の先には、あめの家があった。


『やっぱり、繋がってるねー』


『キャハハハハ』


その瞬間。


影の足元に、

黒い波紋のようなものが広がった。


まるで、

世界そのものに小さな亀裂が入るみたいに。


『だから、壊したくなるんだよなぁ』


風が吹く。


次の瞬間には、

そこにはもう誰もいなかった。


ただ。


屋上の床だけが、

わずかに軋むように歪んでいた。


まるで、

この世界の《境界》が、少しだけ捻じ曲げられたように…



ここまで読んでくださってありがとうございます!


今回は、あめとなおきがお互いの秘密を打ち明ける回でした。


そして、その会話を聞いていた二人。


ミニエルとエル。


一言も言葉を交わさないまま流れた涙には、それぞれの想いが詰まっています。


一方で、


誰かが繋がる時。


誰かが救われる時。


それを面白く思わない存在もいます。


少しずつ。


本当に少しずつですが物語は日常から離れ始めています。


そして次回、平和だった時間に、小さなズレが生まれます。


そのズレはやがて、家族も。天界も、全部を巻き込んでいくことになります。


あの笑い方が本当に私嫌いです!!


第三章、いよいよ終盤。


ここから先は、誰も知らなかった物語の続きをお届けします。


次回もよろしくお願いします!


ここまで平穏に3章書いてきたので、私もぶっ壊すように書きますねっww


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