第35話 同族
表通りには人が多い。ヒト族、獣人、ドワーフ。色々な種族がいるが、カラムとは違い、魔族の姿が見えない。ハルはシンの存在をそこで更に意識する。
(シンがいてくれたから、寂しくなかったのかな?)
ハルはローブを目深に被りなおし、路地裏に入る。誰もいない、薄暗いそこには、ハルが感じるはずだった、“孤独”が詰まっている気がした。
心臓が速く鳴るのが分かる。ポロポロと涙も溢れてくる。ハルにとって、シンは確かに親の仇だった。しかし、それでも、今のハルにとって、親同然の存在だった。
「分かってるのに、分かってるのに、」
年頃のハルには、複雑すぎるその心境。心が壊れない為に、取り繕った感情なのかもしれない。それでも、この気持ちは“本物”に変わりない。
「大丈夫?」
背後から呼ばれ、シンだと思い、咄嗟に振り向く。ハルと同じようにローブを目深に被っているが、どうやらシンでは無い。
「一人で何やって…。待て、お前魔族か?」
「……え?」
ハルは全身に悪寒を感じる。正体がバレた。それ即ち、死。ハルは全力で逃げようとする。しかし路地裏の奥は行き止まりだった。
「大丈夫だよ。お嬢ちゃん」
男が近寄ってくる。ローブを外すその姿を見たハルは、紅い瞳を鋭くさせる。
「……俺も、魔族だから」
ローブの下には黒いツノが、男の頭に生えていた。よく見ると、尻尾も生えている。ハルにとって彼は、魔王が死んでから始めて会う同族だった。
「名前は? 俺はグレゴリウス。姓は無い」
姓が無い。それは魔族の間では良く思われてない。理由としては、“流れ者”、いわゆる犯罪者だからだ。
「私は、ハ、いや、えっと、フ、フール。同じ、姓は無い」
ハルは、念の為にと、シンに考えさせられていた嘘の情報を教える。ある程度決めておかなければ、穴を突かれてしまう。
グレゴリウスと名乗った男は、ハルの瞳を凝視する。嘘だとバレたのか、ハルは次第に不安になる。
「……そうかい。宜しくな、フール」
「よ、宜しく」
グレゴリウスが手を差し伸ばしたので、ハルがその手を取ろうとする。その時、抱きしめられる。
「嘘はよくない。そうだろ? 愚者」
ハルはグレゴリウスの魔法だろうか、身動きが取れなくなる。その間に、グレゴリウスの手がローブの下に入り込み、ハルの着ている服を脱がせようとする。
「やめっ、てっ、」
「聞こえないなぁ?」
「助け、て。シン、」
服の下の、ハルの白い肌に、グレゴリウスが触れそうになった瞬間。雷鳴が轟く。
「……ハル。ごめんな、遅くなった」
「シン、ごめんなさい。ごめんなさいっ」
シンの蹴りを喰らったグレゴリウスは、立ち上がると、口の中の血を吐き捨て言う。
「その顔、見たことあるぜ? “神速”、シン・ベルハザード。なるほどね」
グレゴリウスは服を脱ぎ、上半身をあらわにする。背中からは黒い翼が、路地裏を塞いでいた。




