第30話 経験
ハルが走り出す。横目で確認すると、フウマの動きを牽制するように剣を振る。フウマとレネルは適度に距離を保っており、どちらか相手をすると、一方が抜けてしまう。何もしないと、連携が飛んでくる。そんな絶妙な距離感だった。
「……何分持つかな」
「何分? 残念っすけど、何秒っすよ」
そう言うとレネルは地面を蹴り、走り出す。見てからシンも追う。追いつき、剣を振る。しかし宙を斬り、カウンターをもらいそうになる。
「っぶね」
シンは魔力を一点に集め、レネルのカウンターを防ぐ。そのまま、動きを止め、間合いをとる。
「本当に、速いな」
「シンさんは、憧れっすからね。速さだけでも、追いつきたかった」
レネルの純粋な瞳に、シンは本音なのだと感じ取り、内心嬉しくなる。そこでシンは気付く。
(気配が無くなってる!? もう一人いた。フウマという魔導騎士)
「ほら、何秒でしょ?」
シンは魔力量を上げ、集中する。すると、ハルは向かうフウマを見つける。
「あそこか––」
「ははっ、流石っす! もう見つけた。でも行かせないっすよ!」
レネルの蹴りがシンを襲う。鼻先を掠めたその威力に、致命傷になりかねないと悟る。次ぐ攻撃を腕で受けて、シンはレネルの足を掴む。
「大人しくしてろっ」
「うおっ!」
レネルを空中へ投げ飛ばし、すぐにフウマを目で捉える。
腰を落とし、高速で拳を突く。バンッと音の壁を破壊する音が聞こえる。その風圧がフウマに向かって行く。
「フウマ、後ろ!!」
レネルが叫び、フウマが振り向く。間一髪で防御が間に合ったようで、後ろに吹き飛ばされるだけで済む。その隙にハルはシンに教わった気配を消す魔法を使い、街に近づく。
「その技術力、流石っすね。あそこでフウマに近づくんじゃなくて、遠距離攻撃を選ぶあたり、エゲツないっすよ」
「速いからな。空中でも、あそこからならギリギリ届く。俺と、同じだからな」
シンのその言葉に、レネルの胸に来るものがあった。レネルは胸を押さえ、高揚とし、すぐさま蹴り主体の構えをとる。
「フウマ!! 任せるぞ!! 俺が引き止める!! 人質にとれよ!!」
「こいよ、レネル」
ブンッ、と蹴りが弧を描く。直撃は避けるが、足と一緒に付いてきた土や砂利が視界を奪う。その隙に次の蹴りを喰らう。
(受けにまわったらダメだな。相当、魔装を使いこなしてる。流石は魔導騎士団といったところだ。ただ、)
「時間は俺も稼げるな」
シンがそう言うと、レネルは後ろを振り向く。すると先程シンが放ったような風圧がフウマを狙っていた。先程とは違い、知っている為、難なく防げてはいるが、警戒していて走れていない。
「やっぱり、エゲツないっすよ。あの一瞬で風圧を、」
「お前も蹴りを二発入れてきただろ」
今度は不意打ち気味に、シンが斬りつける。レネルは後ろに飛ぶ事で回避するが、シンがそれを見て走り出そうとする。レネルはそれを防ぎに蹴りを入れる。僅かにシンが街に近づく形になる。
「ヤッバ、よけらんねぇじゃん」
「経験だな、これは」
速さは同じなのかもしれない。だが確実に力の差が伺える。避けるのに無駄のないシンに対して、レネルは距離をとってしまう。それは自分より遅い相手には有効だが、シンのように、同速で動いてくる相手には無駄になってしまう。
「ぐっ、」
「60点。もっとキレと戦い方を学べ」
シンはそう言うと、距離を取ろうとしたレネルにあえて近づく。
「ヤッベ!」
レネルは防御するため、魔力を腹部に集める。すると必然的にその他の部位の魔装が薄くなる。それを見越して、シンは足を天高く上げる。
「後はよく見る! 魔力移動を見るのは基本だぞ!」
かかと落としがレネルの後頭部を直撃し、頭が地面に勢いよく当たる。
「クッソ、負けたっす」
シンは、まだ意識があることに驚くが、すぐにハルを助ける為に、街へ急いだ。
二人の姿は見当たらない。




