第29話 追跡者
広い大地。そうとしか表現できないそんな場所に、シンとハルはいた。次の目的地は、特に決めておらず、近くの街に向かっていた。
「日差しが、強くなってきたな。水飲まなくて大丈夫か?」
「さっき飲んだから大丈夫だよ」
ハルはローブを掴み、パタパタとあおいでいる。熱気がローブの中から出て行き、空気が循環する。
「そうか。あ、見えたぞ」
シンがそう言うと、目の前に小さく、街の様なモノが見えた。立派な門は黄土色をしており、門には何かの紋章が見える。
「ふぅ、やっとだね。疲れたよ」
ハルが一息吐きながら、シンのローブに掴まる。
シンとハルが歩き出し、暫くすると目の前から冒険者だろうか、二人の男女が現れた。
男は剣を腰に携え、女は杖を手に持っている。シンには、彼らの着る服に見覚えがあった。
「…ハル。絶対にフードをとるなよ。」
シンに言われて、ハルは頷く。理由は聞かない。それ程の信頼関係が二人には備わっていた。
「……ご苦労様です」
シンはすれ違い様に言い、頭を下げた。前から歩いて来た二人組は、王属魔導騎士団の団員なのだろう。その制服を着ている。
身分の上に該当する彼らには、お辞儀をするのが、王都での一般常識だった。
「ご苦労様です。暑いので、気をつけて下さいね?」
女性が笑いかけて言う。男性の方は何か、疑う様な表情を浮かべている。
(魔導騎士。勇者と魔王の娘を追っているだろう組織。そうでなくとも、なるべく接触は避けたい。顔は見えてない。大丈夫の筈だ)
「それでは失礼します」
シンは少し口調を変えて、ハルと共に歩き出す。するとその時、
「フード外すっす。お二人さん」
男性が声をかけて来る。日差しが大地を照らし、陽炎が見える。
「……なぜ、ですか?」
「俺たちは人を追ってるっす。特徴は、ヒト族の男と魔族の娘。こんな暑い日に、ローブは無理があるっすよ、ツノを隠す為とはいえ」
(頭が切れるな、コイツ)
シンは後方の街を確認する。今立つ所からの距離は、ざっと1キロメートルぐらい。全力で走れば秒もかからない。そう考えていると、男は続ける。
「“神速の勇者”知ってますよね。俺は、憧れてるんっすよ。そして速さだけなら、」
男は全身に魔力を纏う。
「並んだ––」
魔導騎士の男が動く直前。シンはハルを抱え、後方へと一歩飛ぶ。
悟られるが仕方ない。そもそも、シンの顔は割れているが、ハルの顔はまだ割れていないのだ。今シンがやるべき事は、
(ハルを全力で守る。以上)
「やっぱり。フウマ、援護は要らない。返って足手まといになる。シンさんを引き剥がすから、魔族の娘を捕まえろ!!」
「分かりました! レネル先輩、スクラフトで落ち合いましょう」
そう言ってフウマと呼ばれた女性は、シンの後方にある街を指差す。
シンはローブを脱ぎ、剣を抜いた。
「ハル、走って街の中に入るんだ。数分なら二人まとめて時間を稼げる。その後は、俺が教えたように、落ち着いて行動しろ」
「うん!!」
「行け!!」シンがそう叫ぶと、ハルは街に向かって走り出す。フウマも後を追おうとするが、シンが剣で牽制する。シンの目は、ハルをしっかりと捉え、期待していた。




