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第27話 解剖




 それは、まだ寒い冬のことだった。

 魔樹の森に、白い雪が降り積もる。辺りが別世界になった様な感覚を覚えるなか、一人の少年が、四足歩行型の魔獣と遭遇していた。


「はっ、はっ、」


 少年は酷く怯え、疲れ切っていた。長い耳が小刻みに揺れ、蒼い瞳が見開いている。少年の名は、シュラウデン・フラン。当時、7才であった。


「来ないで、死にたくない、」


 少年は、涙を流して言う。当然魔獣に言葉が分かることもなく、ジリジリと、少年を食うために近づいて来る。


 (もうダメなんだ)と、シュラウデンが諦めかけるその時。また、別の魔獣が、目の前にいたヤツを、食った。肢体の無いヘビのような魔物が、一口で食らったのだ。しかし、シュラウデンへの危機は去っていない。喰らった魔獣は、今度はシュラウデンに襲い掛かろうとする。


「ひっ!!」


 赤黒い口が全開に開くが、動きが止まる。シュラウデンは腰を抜かしながらも、遠くへ這うように逃げようとする。すると、ヘビ型の魔獣が悶え始める。暫くすると、ミチミチッと音を立てて中から先程食われた魔獣が腹から出て来た。

 訳もわからず見ていると、そこに不思議と恐怖はなく、自然を眺めている。ただそれだけなのだと錯覚してしまう。


「あぁ、キレイだ。とても、キレイ」


 その言葉を最後に、シュラウデンは眠りについた。

 

 その日からだろう。何年か経ち、彼が変人だと言われる様になったのは。魔獣の研究をし、その為に死骸を里の外から持ち帰る。その不気味さによって、里のはぐれ者にされて来た。

 そんなある日だった。いつも通り、魔獣の研究をしていると、ドアが鳴る。「誰だ?」とドアに隙間を少し開け、外を見る。そこには男女のグループが立っていた。


「すいません、課題で魔獣のレポートを書かなくてはいけなくて。見ても良いですか?」


 一人の男が代表で言う。アポイントメントも無しに、失礼すぎる対応だが、シュラウデンにとって、客はほとんど初めてだった。その為、追い返す理由もなく、解剖中の魔獣を見せた。


「うわっ、凄い、」


「血の色が、違うんですね」


 三者三様、十人十色、正にその通りで、一人一人が違う感想を言う。シュラウデンはそこで考える。

 (エルフも、解剖してみたい)と。勿論エルフだけではなく、全種族を解剖して、見てみたいと考えるようになってしまった。


「……あぁ、ダメだ。無理だ」


 魔獣を見ている彼らの後ろで、刃物を手に取る。そこに、躊躇いなど無かった。









******



「後は、聞いてるんだろ? 殺して、エルフの解剖に興味が出て、また殺した。でも、しょうがないよなぁ?」


 シュラウデンは口を大きく開けて言う。


「俺がこうなったのは、全部エルフが悪いんだよ!!」


「何を、言ってるの……」


 酷く興奮しているシュラウデンに、ハルは狂気を感じる。きっとこの人は、倫理が壊れてしまっているのだと、考える。


「おい、」


「…なに?」


「魔族も、解剖してみたかったんだ」


 いつの間にか、シュラウデンの手の周りから小さな植物が生え、手の甲を刺していた矢が抜き取られる。

 血の吹き出る拳が、ハルに当たりそうになったるその時。


「ガボッ、ゲハッ!!」


 シュラウデンは血を吐き出し、前に倒れる。見えた背中には、黒く、何かで燃やされたような跡が出来ている。


「無事か? ハル」


 シンが、手に電撃を纏いながら近づいて来る。どうやら魔法を使ったらしい。


「……ハル、世の中には、明確な悪が存在する。それでも、見極めるのは自分だ」


 そう言ってシンは、シュラウデンに魔法を撃ち込む。彼は動かなくなり、小さな植物たちも枯れて行く。


(明確な悪。見極めるのは自分。ねぇ、シン。それは、()()()()()()()()()?)


 ハルは、服の燃えたシンを追いかけて、顔を見れずに、ただ心の中で強く、疑問を感じた。







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