第26話 会話
ハルは、森を滑るようにして走る、一人の男を見つけた。シンの言っていた、シュラウデンと言う男だろうと、ハルは確信する。
「待って!!」
ハルが大きな声で呼び止めると、前から走ってきていた男が止まる。顔には呆れたような表情を浮かべ、ハルを睨んでいる。
「シュラウデンですか?」
「はぁ、またかよ。そうだよ、シュラウデン。追放されたシュラウデンだよ」
やけになった様子で、シュラウデンは、ローブのフードをとり払う。短い金髪が長い耳をより一層目立たせている。目は蒼く、エルフだと理解できる。
「追放された貴方が、何故森の中にいるのですか?」
ハルは里を出る直前のことを思い出す。
シンから魔獣の群れが、人為的であると伝えられ、驚くと共に、妙に納得できた。その後、シンはシュラウデンを捕まえると言い、ハルに保険として、里への近道に、いてもらったのだ。
(結果としては、良かったのかな?)
ハルは弓を構え、シュラウデンを見やる。表情は面倒くさそうに歪んでおり、舌打ちが聞こえてくる。
「復讐だよ。俺を追放した里と、里の長のエンデルに向けた復讐だよ!!」
そう言うとシュラウデンは、地面に手を掠めながら走り出す。シュラウデンの触れた地面から、突如として牙の生えた植物が現れる。
「なっ、」
ハルは驚きながらも、弓で正確にシュラウデンを捉える。植物の間から覗くと、シュラウデンは里へ向かっている。どうやら里へ直接この植物をばら撒く気なのだろう。
「止まって!! 射るよ!!」
ハルが叫んでも、シュラウデンは止まらない。それどころか、走るスピードを上げてくる。
「っ! はぁ、」
ハルは矢を放つ。口を開けた植物の隙間から、矢がシュラウデンの太ももを貫通する。次いで矢を放つ。今度はシュラウデンの動かした右手を貫き、地面に押しつけた。
「あ、がっ、クソ!!」
悪態をつくシュラウデンとは裏腹に、植物たちが枯れ始める。音を立てて崩れた植物を踏まないように、ハルはシュラウデンに近づく。
「お前に何が分かる!? さっきの奴もそうだ!! “クビ無し”を仕掛けなければ俺を殺していた!! 俺には、壊さないといけないんだ!!」
ハルは必死なシュラウデンの表情に、どこか父の面影を感じた。何故かは分からない。それでも、感じてしまったのだ。
「……じゃあ、話そうよ。その為に、言葉はあるんだもん」
「お前、なんなんだよ。こんな事され––」
「なら、死ぬだけだよ?」
シュラウデンは悟った。今、自分の命を握っているのは、目の前に立ち、自分を見下ろしているこの紅い瞳をした少女なのだと。
シュラウデンはその紅に吸い込まれそうになる。
「あれは、つい最近なんだ––」
シュラウデンは、ハルを見つめて、自分の過去を話し始めた




