第16話 猛虎と狐
「シン、寝ないの?」
「ハルは寝てて良いよ。俺はやらなくちゃいけないことがあるんだ」
「…分かった。おやすみ」
そう言ってハルは横になる。センナの家に泊まることになったハルとシンは、ハツの見舞いが終わると、すぐにこの部屋に訪れたのだった。
蝋燭の火がチラチラと揺れる中、ハルの寝息が聞こえてくる。シンはハルが起きないように、その部屋から出た。
「……」
シンは部屋から出ると、晴れているはずの空に、星が見えないことが気になる。
廊下を進むとギシギシ、木材が軋む音が聞こえる。
ふと、シンは足を止めた。目を瞑り、天を仰ぐ。
「……なんで、毒なんか盛ったんですか?」
………
静寂。何も聞こえない。しかし、シンは、こちらを見る視線を、確実に捉えていた。
目を開く。全身に魔力を纏ったその瞬間、閃光。音もなく、ただ光が走る。
「……」
シンは目を強く瞑った。
「……甘いな」
ガインッと剣の弾かれる音が廊下に響く。すると徐々に光が収まり、シンを襲った人物が浮かび上がる。
「…もう一度聞きます。なんで、毒を盛ったんですか? センナさん」
シンがふり返ったそこには、剣が弾かれる形で体勢を崩した、センナがいた。
「これだから、勇者やら英雄やらが嫌いなんだっ」
センナは舌打ちをすると、一歩、二歩と後ろに下がる。センナが止まったところで、虎の獣人が出て来る。
体格は2メートルを軽く超え、牙を剥き出しにし、四つん這いになる体勢で、今にも飛びかかって来そうだ。
センナはその獣人に隠れるように立っている。
「…まるで、虎の威を借る狐だな。さあ、こいよ、猫ちゃん」
その一言で獣人が飛びかかる。ヒト族よりも強靭な肉体、優れた嗅覚や聴覚。そして桁の違う腕力と顎の力。普通なら太刀打ちできない。しかし、シンは、勇者だった。
「戯れてる暇は無いんだ。寝ててくれ」
獣人の牙が、シンの喉元に噛みつくその瞬間。ドンッと大きな音が鳴り響き、獣人は廊下の突き当たりに激突し、意識を失う。
あまりにも速い攻撃。センナは理解できず、後ろで倒れる獣人を、慌てた様子で探していた。
「おい、化け狐。なんで毒を盛った?」
その威圧に、センナは成すすべが、なかった。
******
「シン、聞いた? センナさんが村長に毒を盛った黒幕だったんだって」
次の日、朝早くから出掛けたハルが、昼頃に帰って来ると、村で聞いたのか情報を教えてくれる。
「…へぇ、なんで分かったの? センナさんが犯人だって」
「自首したんだって。仲間の獣人も数人、それも一斉に」
ハルの目が見開いている。シンは、その話に適当に相槌をうちながら考える。
(金が欲しかった、ね––)
シンは昨夜のことを思い出す。
昨夜センナを取り押さえたシンは、動機を聞いていた。
センナはこのままの村じゃダメだと思い、獣人の力を借りて、観光名所を作ったのだそうだ。それが『願いの塔』。それが予想以上に収益を生み出し、センナは欲に溺れた。
塔をさらに建てようとするが、反対をして来た自分の夫であり村長を、病気に見せかけ殺そうとし、事情を知った村人には、口封じを行なっていた。
(その結果が、何も知らない村人に、「『願いの塔』は、人を不幸にする塔だ」と思い込ませ、話しをしたくなくなっていたと、)
「…ハル、旅を続けよう。村長も、解毒剤を打たれたらしいからな、心配要らないだろ」
「え、うん。次はどこに行くの?」
次の目的地を考えながら、村の外に出る。ふと、ハルが、向かおうとしていた方向とは違う場所に歩いて行った。
「どうした? ハル」
「風車、もう一回見たくて」
風車が大量に立っていた草原に、二人は足を踏み入れる。しかしそこには、緑の綺麗な草原が、ただ広がっていた。
「あれ、風車は?」
「……ハル、行こう。風車は無くなったらしい」
「ええ!? 急に!?」
「よくあるんだ、コッチでは」
「そう、なんだ?」
シンはハルを連れて、その草原を離れて行った。




