223.リティア重機株式会社と怒りの魔王覇気
人って、あまりに無防備に隙だらけだと、攻撃を躊躇してしまうのか・・。
でも襲い掛からず唖然としてくれていて助かった。
無視して攻撃してたら、アリサに投げ飛ばされて、床に叩きつけられていただろう。
あんな風に隙だらけに見せて、実は誘ってるだけという罠だったりする。
簡単に隙を晒さないから妖魔の王のメンバーは全員性質が悪いのだ。
一体誰の入れ知恵なのか、悪辣である。
『あー、お待たせして申し訳ない。ウチの空気を読めない四天王が失礼をした。ところでここは狭い。そこで私から提案なのだが、アームレスリングで勝負してはどうだろうか?』
「お、それは面白いな!」
「何だそれは?」
クルティナ君が食い付いて、ガンダムス君は困惑していた。
腕相撲なら手加減し易いからね。
クルティナ君が「こうやるんだ」と近寄って教えていた。
ガンダムス君が顔を赤くして戸惑っていた。
無邪気な死神だな君は・・。
『ガンダムス君が勝ったら、妖魔の王全員の敗けで良い。私達は退散し、二度とここには姿を現さないと約束しよう。』
餌を用意するのは忘れない。
「そ、それで良いのか?」
『ああ、構わない。その代わりこちらが勝ったら、大人しく座って話を聞いて貰うよ?』
メリットが多く、デメリットが少ない条件だ。
食い付いてくるに違いない。
「良いだろう。」
よし釣れた。
これなら平和に解決できる。
とにかく落ち着いて話が出来る場を作るのが先決だ。
『決まりだね。そちらは好きな相手を選んでくれて構わない。その上魔法で強化しても良い。だが、こちらもアリサを指定された場合は、攻撃はしないが妨害はさせて貰う。』
アリサは組まれると弱いからね。
負けても話を聞くだけのデメリットなのだ。
その程度のハンデは許容して貰おう。
「ふん、どんな卑劣な手でも、捻り潰してくれる!正義は勝つのだ!」
『では、対戦相手を選びたまえ。』
さて、誰を選ぶかな。
「ムムムムム・・では、お前だ!」
「わたしですか?」
あーー、リティア君選んじゃった。
ま、見た目は小さな妖精族。
同じ妖精族のアリサは妨害有りと聞いて警戒し、リティア君にしたようだ。
「誰でも良いのだろう?今更撤回は利かぬぞ!」
『ちなみに彼女の場合は、怪我をしないように気を付けてくれ。』
手加減知らないからなぁ、リティア君は。
なりふり構わず勝ちに来たのが裏目に出たようだ。
よりにもよって、こちらの最強カード引いちゃった。
「何の事だ?かような小さな妖精に、我が腕を倒せると言うのか?」
『やってみれば分かる。本気でかかる事をお勧めする。』
腕を倒されるだけで済めば良いが、下手をすると腕の骨をへし折られ、テーブルごと粉砕されかねない。
見た目に騙されたら瞬殺だよ?
「あの、シャチョー様、腕のサイズが違い過ぎて腕相撲が成り立たないのでは?」
確かに根本的な事を考えてなかった。
ガタイの大きなガンダムス君の腕と、妖精姿のリティア君の背は同じくらいのサイズ感だ。
『リティア君は腕じゃなくて、全身倒れたら負けで。』
「分かりました。ではわたしを転倒させたら勝ちで良いでしょうか?」
「やり難いが良いだろう。」
よし、レギュレーションは決まった。
『では、セット。』
「フィジーゲイン」「フィジーゲイン」「マナフィード」「身体強化」
可能な限りバフを盛る教団サイド。
そこは油断しないようだ。
無駄な抵抗だけどね。
対してリティア君はポ~~っとして卓上で待っている。
気が抜けるなあの顔!
そしていよいよ勝負だ。
ガンダムス君の手の平が、リティア君の頭から胸辺りまでを覆うように構えられ、その手にリティア君が両手を添える。
可憐な妖精を握り潰しに来てる悪漢のようだ。
見た目は完全に妖精虐待である。
『レディ・・』
私の合図で開始となる。
では、行くよガンダムス君。
女神の力、思い知るが良い!
『GO!』
「えいっ。」
「なっウオオ!?」
ガン!
『勝者、リティア君。』
分かっていた事だが圧勝だった。
「はあああ!?」
「何だとぉ!?」
「嘘?」
そう思うよね?
この世界、魔素があるせいか、色々増幅され易い傾向がある。
亜人族もレベルが高くなると、かなり力が強くなる。
とは言っても前世のマッチョ現代人の筋力と大差はない。
それを魔法やスキルで倍以上に引き上げたとしても、片腕で200kg持ち上げられるのが限界だろう。
リティア君、片腕で500kgが標準だから。
身体全体使えば、1ton以上の重量を持ち上げることが出来る。
妖精(女神)チェーンブロック
妖精(女神)ホイスト
妖精(女神)クレーン
リティア重機株式会社
定格1tクレーン、魔法補助で3tまで荷揚げ可能
人は重機には敵わない。絶対。
「イ、イカサマです!」
「有り得ない!」
やっぱり難癖付けてきたか。
「そんな肉ばかり食う、欲にまみれた穢れた妖精に、神聖な力を得たガンダムスが負けるはずがない!」
「ぐふぅ!」
リティアくーん!
やめろ!やめてくれ!
彼女はそれでも君達が崇める女神なのだよ!
「私は見た!魔獣の体内に侵入し、腹をかっ捌き出てきて血と脂塗れでウットリしている邪悪なる姿を!」
「ごふぅっ!」
リティアくーーーん!
耐えろ!耐えるんだ!
「私は知っていますよ!魔境でイワギンダルムを飼い慣らし、肉の採取と偽り、触手に絡まり粘液まみれになってウットリしているでしょう!不潔です!」
「がはぁ!」
リティア君に深刻な精神的ダメージ。
効果は抜群だ。
だが、全て事実なので自業自得だった。
『あの、その、そろそろリティア君を悪く言うのはやめてあげて欲しいのだが・・。』
リティア君が瀕死だ。
これ以上はマズイのでフォローを入れた。
リティア君もマズいが、リティナス教幹部達も立場的にヤバい。
ボロカスに言ってるそのリティア君こそが、彼等の信仰する女神だと判明した後がやるせない。
取り返しがつかなくなる前に止めなければ!
だが私の憂慮とは裏腹、勢い付いたリティナス教は止まらない。
「まさしく邪悪!妖精女王らしいが、魔境を生み出している諸悪の根元ではないのか!?」
「がフッ!」
「ちょっとリティシア様に似ているからと、手を抜いたら調子に乗りおって!とんだ悪女よ!穢らわしき邪精め!今すぐその化けの皮を脱げ!」
「ぐはッ!」
「よもやリティシア様の姿を真似て、我々を惑わしていたのではないだろうな!なんと醜悪な心根か!リティシア様を瀆すでない!」
「ぶごふぅ!」
罵詈雑言の嵐である。
身から出た錆なのは揺るぎなき事実だが、これは確かに酷いな。
リティア君は別にリティシア様を真似ている訳ではない。
リティア君をモデルにリティシア様を生み出したくせに、自分達のイメージに合わないからと、リティア君をなじるのは身勝手な話だ。
「ひーーん!ヒドいですぅ!」
「貴様等ぁ、リティア様を泣かしたな!殺してやる!」
『わー!クルティナ君、やめたまえ!ゼムノア君、クルティナ君を抑えてくれ!』
「ひぃぃ、怖い~。」
今にもクルティナ君が飛び掛かりそうだったので、ゼムノア君に制止をお願いしたが無理っぽい。
「ちょっと!アンタ達リティアになんて事言うのよ!ホントの事だけどヒドイじゃない!」
「ト、トドメ刺した!」
「ひーーん!」
身から出た錆、これがカルマか・・。
『君達、一旦落ち着きたまえ。勝負はこちらの勝ちだったではないか。まずは話を・・』
「あんな勝負は無効だ!」
「卑怯者の言など聞く耳は持たぬ!」
「また妙な小細工して勝っただけでしょ!」
イラッ
「アンタ達が弱いだけじゃん!」
「リティア様への暴言、断じて許さん!死をもって償え!」
イラッ
ええーい、話が進まん!
威嚇スキルレベル1開放!
『 総 員 静 ま り た ま え ! 話 が 進 ま ん ! 』
「「「「 !! 」」」」
私はガツンと雷を落とす。
物理的には落とさないよ。
物理的に落とせるのがヤバいのだがね、この世界・・。
「「「「・・・・。」」」」
「「「「・・・・。」」」」
あれ?なんか全員青い顔して萎縮してしまっている。
威嚇スキルを使ったけど、レベル1だよ?
何故そんな高レベルの威嚇を食らったみたいに、恐れ戦いてるの?
聖女や教皇まで腰を抜かして、へたり込んでるぞ?
アリサがドン引きしてこちらを見ていた。
こっち見んな。
ゼムノア君に至っては「殺さないで、殺さないで」とブツブツ呟いていた。
んーー、これ、何かあるね。
『クルティナ君、威嚇エキスパートな君に確認だ。』
「おい、何だその反社みたいな敬称は?」
みたいではなく、普段の君は反社そのものではないか。
『威嚇スキルレベル1なのに、何故皆戦慄しているのか分かるかね?』
「はぁ・・貴様、魔力を乗せただろう?」
おっと、何故か呆れられてるぞ。
よく見るとクルティナ君でさえ僅かに表情が強張っていた。
え?彼女がビビる威力だったのか?
『あー、腹が立っていたので、無意識に乗っていたかもしれないね。』
「威嚇スキルは魔力を乗せると、効果が跳ね上がる。」
おっと普段使わないスキルなので知らなかった。
『マジかね?』
「マジだ。早く解け。聖女が漏らすぞ。」
とんでもない事実を突き付けられた。
そんなに強烈なの、私の威嚇!?
解除!解除!
解除した途端に、張り詰めた空気が割れたように時間が動き始める。
「うーわ、エッグぅ、おじさん、マジもんの魔王じゃん・・引くわー。」
「シャチョー様、良いです!もっとそういうのカモンです!」
やめて、悪辣とか鬼畜のスキルレベルが上がりそうだ。
「ゼムノア君?」
「ヒィッ!」
何故君がそこまで怯えるのかね・・。
教団側も青褪めた顔でこちらを警戒していた。
聖女は震えている。
『とにかく話を聞きたまえ。君達は勘違いをしている。』
「な、何をだ?」
教皇は必死に口を開いて言葉を紡ぎ出していた。
『モザイク、イコール私だ。モザイク姿は擬態スキルというスキルの効果だよ。この通り。』
擬態スキル展開。
「!? モザイク殿!」
擬態スキル解除
「なっ、魔王!?」
「!?!??」
これだけ分かり易くすれば理解できるだろう。
『これで判ったかね。モザイクと魔王シャチョーは同一人物、中身は同じだ。私はモザイクとして、君達と共同で聖書の改良に取り組んできた。モザイクが聖書に掛ける情熱は魔王の情熱。つまり魔王はリティナス教の敵ではない。勿論、ここにいる魔王四天王も同様だ。』
魔王が敵だと言うなら、聖書改善に切磋琢磨して取り組み、一緒に過ごした日々は何だったのか。
長期間培った信頼関係は裏切らない。
「な、なんと言う事だ・・。」
「モザイク殿が魔王だったとは・・。」
やっと理解してくれたか。
『そして、これからも聖書を良くしたいと考えている。君達の心情も信条も理解するが、魔王だからというだけで悪と決め付けるのは、些か乱暴ではないかね?』
魔王だって聖書(漫画)は好きなのだ。
「何かの企てに聖書を利用したのではないか?」
「魔獣や魔物に対する敵愾心を緩和し、我々に取り入り、リティシア様に接近しようとしていたのではないか?」
「そ、それで聖書の改編に取り組んだ?」
どうやら魔王の心象改善の為に聖書を改編しようとしたと疑っている様子だ。
心に深く刻まれた猜疑心とは、なかなか取れないものだな。
『違うよ。聖書の改編は魔獣への正しい認識を反映し、無為の犠牲が生じないようにと考えたからだ。』
まあ魔物に対する心象改善の意図もあったがね。
「そうやって我々を傀儡とし、リティシア様を、女神様を害する魂胆ではないのか?」
そこに何のメリットがあるのか・・。
女神を害して、どんな得があるのだろうか。
それ以前に聖書はリティナス教団が作った創作物だ。
神が創って与えられた書ならまだしも、魔王が女神に敵対するように描いたのは君達ではないか。
何故その設定に全幅の信仰を置いて、現実に持ち込もうとするのか理解不能だ。
自作自演も甚だしいのだが・・。
『だから聖書は創作物だろう?情報発信者である君達が現実と混同してどうする?一般人がそうならないように改善したではないかね。』
フィクションであると認め、改善提案に同意したのに、まだ設定に引き摺られているようだ。
「それも謀略の一部ではないのか?否定する証拠がない。」
『では問うが、君達は魔王という存在に会ったことがあるのかね?』
魔王は悪と決め付けているが、そもそも魔王とは、どんな存在なのか解っているのだろうか?
「無い!」
『自信満々に断言した!』
「無いんだ・・。」
「無いのですね。」
「よくそれで魔王を語れるな・・。」
最後のクルティナ君の感想に全面的に賛同だよ。
これで聖書の魔王は、全て想像上の存在だと判明した。
「それ故、聖書を信じる他無い。」
『だからそれは、君達が創作した物語ではないか!』
実際の魔王とは別物なのに、聖書以上の情報が無いので、近場にあった単なる設定を信じたようだ。
スッカスカの根拠ではないか!
だが、私は彼等を嗤うことは出来ない。
私だって幼い頃は情報が限られていたので、宇宙人やら未確認生物やら幽霊やら、他人が設定した実体や根拠のない情報を信じていたからね。
だけどね、信じたい気持ちは分かる。
だって信じた方が面白いのだから。
「だが、リティシア様は本当に存在する!」
「リティシア様を信じ、聖書を信じる。それこそが我がリティナス教の信条だ!」
確かに女神は存在したね。残念女神だけど。
そこは根拠がある。
そして聖書は絶対領域。
聖書に描かれている事は真実。
何故なら女神は存在したのだから。
従って魔王も存在する、か・・。
根拠のない拡大解釈だが、そう信じたいのだろう。
虚構の闇の世界に一筋の真実の光があると、その光を肥大化させたくなるのは、どこの世界でもありがちな話だ。
そして聖書に描かれている通り、魔王はリティシア様の敵ならば、リティナス教の敵となり得ると。
飛躍し過ぎだ。
『そうか、よく分かった。では魔王という存在がどういう存在なのか教えてあげよう。更にその証拠も見せよう。揺るぎ無い証拠だ。』
「何だと?」
「皆の者、気を付けろ!」
身構える教団。
そんな警戒しなくても暴力に訴えたりしないから。




