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221.真約聖書(R16指定)と阿鼻叫喚御神木汁

4ヶ月後、私は兼ねてから計画していた大イベントを提案する事とした。


今は大聖堂の会議室に教皇や聖女を含め、リティナス教幹部が集まっている。



この4ヶ月、私達は聖女を旗頭に据えて、聖女を筆頭に聖書の改革に取り組んできた。

ストーリーや面白さを損なうことなく、全年齢に寄り添った表現方法を議論したり、登場する魔獣の正しい性質等を盛り込んだり、且つ過去の作品との整合性を模索したりと、忙しい毎日を過ごした。


尚、アークティアに植えられている私の分体だが、魔王と同じ妖木の幼木なので、リティナス教からイヂメられていないのか心配ではあった。

(御神木の苗木と称され王国から配られたが、少し調べれば判る)


ゼムノークスでは陰湿な嫌がらせをされていたからね。

最終的には討伐対象にされ、何故か手を組みラスボス化一歩手前まで行った実績がある。

アークティアも似たような一途を辿っていないのだろうか?

 

と思い気に掛けていたが、意外にも私の心配は杞憂に終わる。


何とリティナス教団が積極的に、それも手厚く育ててくれていたのだ。

それはそれで気持ち悪い!


何故なのか不思議だったので、暫く観察していたら、月に一度だけ分体の葉を採取しているのが判った。

半数は薬師に回され、残り半数は教団が確保。


一体何に使っているのかと思えば・・


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛。」

「うあああああぁ!締め切りがぁ!締め切りが迫ってくるぅ!」

「寝るな!寝たら間に合わなくなるぞ!」


月に一度の佳境。

聖書の各工程締め切り日である。

この日は絵師も彫師も摺師も幽鬼かゾンビのように生気無く、ひたすら手を動かしていた。


クオリティに妥協しないリティナス教信徒。

限界まで拘るが故に、仕上がりがいつもギリギリなのだ。


「も、もう駄目だ・・ね、眠い・・。」

「あ、瞼が閉じ・・て・・」


必死に手を動かしていた絵師達だが、いずれ限界が訪れる。

最早意識を手放す一歩手前だった。


「チッ、仕方ない、例のアレ持って来い!」

「分かりました。」


フロアを管理している強面司祭が、原稿の完成を待つ各絵師のマネージャーに指示をすると、数名が静かに部屋を出た。


「ヒッ!アレ、アレはもうやめてくれ!」

「やめて!お願いだから!」

「んな要望は、締め切り間に合わせてから聞いてやる!」


怯える絵師達。

一体アレとは何なのか・・


「イ、イヤ!助けて!」

「おっと今は退室出来ませんよ?」

「全員逃がすなよ。」


逃げ出そうとした絵師の前に立ち塞がるマネージャー。

軟禁状態だ。


バン!ガタ、ゴトゴト。


勢い良く扉が開き、部屋の中に運び込まれてくるワゴン。

その上には鍋に入ったビリジアンな汁とコップ。

うええ、何だあの不味そうなヴィジュアルは・・。


それ見て青ざめる絵師達。


「来たぞ、()()()()だ!飲め!」

「キャァァ!イヤァー!」

「嫌だぁ、飲みたくない~、でも飲まないと間に合わない~。」


私の葉を潰した汁だったー!

逃げ出すほど嫌がられてるー!

 

どうも私の葉をエナジードリンク代わりにしている模様だ。

 

「うあ゛あ゛あ゛あ゛、またボクジューだー!」

「ヒィィ!ボクジュー怖い!」


おい、何だその蔑称は!


御神木汁、略してボクジュー

バカにしてるのか!


「一人一杯飲め!」

「ううう、嫌だー!」

「泣くんじゃねぇ!飲まねぇヤツは鼻摘まんで無理矢理流し込め!」


拷問か!


「ぅぐっ!見ただけで吐き気が!」

「うぷっ、油断すると上がって来る!」


私 の 葉 ぁ ぁ !


「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛・・不味い。だが相変わらず効く。」

「くそ、とんでもなく不味いのに、抜群にキマりやがる・・。」


あんまり不味い不味い言わないで!傷付くから!

 

でも飲んだ後でゾンビのようだった絵師が生き返った。

本当に効くようだ。

 

「おえぇぇ。」

「吐いたな。もう一杯だ。」

「ひぃぃ!」


吐 か れ た ー !


「不味いよぉ~、不味いよぉ~、不味いよぉ~・・。」


とにかく味が大不評で、誰一人進んで飲もうとする者がいない。

その為、先生方のマネージャーが無理矢理飲ませている阿鼻叫喚地獄。


「いやっ!やめて!そんなの飲ませないで!」

「うるさい、オラ飲め!」

「イヤ!イヤァァ!」

「押さえ付けろ!」

「うぐっ!んぐっ、んぐっ、ゴクリ」

「有難い御神木汁なんだ。一滴たりとも残さず飲めよ。」

「ううう、苦い・・。」


もうやめてぇー!

そんな無理矢理飲ませなくても良いではないか!


「でも・・・・キタキタ!効いてきたぁー!ヒャッハー!」


え?あれ?


「あの先生にも困ったものだ。」

「あの変態ムーヴに付き合わされるコチラの身にもなって欲しい。」

「毎回あの流れやらないと不貞腐れて描かなくなるからなぁ。」

「唯一ボクジューを楽しみにしてる人なんだが、クセが強過ぎる。」


リティア君みたいな人がいた!


しかし飲んだ後は皆バリバリデスクに向かっていた。

目が覚めるのか?

お願いだから不味さで目が冴えるってのはやめて欲しい。


そんな風に使われているので、私の分体は重宝されているのだった。


実態を知りたくなかった!



で、

話を戻すと聖書改善会議だ。


私達とリティナス教団幹部が揃い、完成した改善後の聖書最新刊を確認した。


「良くなっているのではないでしょうか。」

「うむ、昔の尖った表現に慣れた我々からすると、物足りないと言うか、マイルドに感じるが、違和感はそれほど感じない。指摘された問題の深刻さを知ると、むしろこちら方をスタンダードとしても良いと思う。」

「逆に捉えれば親しみ易くなったと言うべきか。以前は子供が見ると、怖くて泣いた事もあったからな。」

「これなら老若男女楽しめ、且つ物語の主軸は狂わないですね。」


今読んでいるのは全年齢対象の聖書だ。

重鎮達の反応も概ね良好だ。


絵柄をアニメチックにして、リティシア様を可愛いく表現している。

リティア君に参考例を取り寄せて貰い、リティナス教の絵師に見せたら、猛然とペンを走らせていた。

大変気に入ったようだった。


「リティシア様がより可愛いらしく表現されているのが素晴らしいですな。」

「そこです!」

「まさしく!」

「さもありなん。」

「このデフォルメという絵画技術は革新的だ。」

「何と言うか、現実では有り得ないフォルムやデザインなのに、だがリティシア様だと確かに感じる事が出来る。」

「この姿のリティシア様を御神体にしたら・・ゴクリンコ」


リティシア様だけではなく、魔獣もリアルな描写ではなく、デフォルメして親しみ易くした。

これまで完全に悪役として扱われてきた魔獣も、これからは徐々に可愛くコミカルに描かれて行く。

いずれは魔獣を仲間にしたりして、魔獣の市民権を獲得したい。


最終的には魔獣すら一つのコンテンツとしてプロデュースする方針だと言ったら、目から鱗だと驚かれた。

そう、アンゴラトードのように可愛い魔獣だっているのだ。

魔獣にもスポットライトを当てないのは勿体無いのである。



そしてR16指定版聖書も作った。

ジャ◯プに対して、ヤングジャ◯プみたいな位置付けだ。


こちらは従来の聖書に近い過激な描写が含まれている。

表現の幅が自由なので迫力があり、作者の意図がより克明に反映される。

R指定版聖書で物足りない従来ファンを逃がさない為の措置だ。

こちらは「真約聖書」と呼称した。


「これは比べて見ると真約聖書のエグさが際立ちますね。」

「妻が子供に見せないで欲しいと言った意味がやっと分かったよ。」

「性的描写シーンもあるからな・・これが売りだと言って聞かない作家と絵師がいるから、彼女達をどう説き伏せるか苦心した。」


ちなみに聖書では、リティシア様はアレやコレやとちょいちょい酷い目に遭う。


具体的にはスライムに服だけ溶かされたり、敵に捕まって拷問されたり、麻痺して動けなくなったところをイタズラされたりと、割りとエロ要素もあった。


聖書でやるな!と言いたいが、既にリリースされており、取り返しはつかない。

さすが変態集団リティナス教の聖書。

神聖さや清純さなんて度外視で、欲望に素直で真っ直ぐである。



クルティナ君が「けしからん!けしからん!」と鼻息荒く読んでいたなぁ。

あーゆーのは薄い本でやるべきだと思うよ。


うーん、創作物のはずなのに、何故か現実のリティア君と重なるのが不思議だ。

聖書の中のリティシア様とリティア君、やはり同一神物なんだなぁと、こんなどうでも良いところで実感した。


他にも作者の好きにさせていたらマズい事がある。

 

「隙あらばクルシュミナ✕勇者とか描き始めるから、検閲が油断ならなかった。」

「断じて聖書を腐られてはならない。」


それには激しく同意するので、検閲は重要だ。

検閲にはリティナス教の幹部が担当し、教団の品位を損なうことなく、ギリギリを攻めた尖った作品に仕上げていた。


「聖書を読者の年齢層に分けるとは盲点だった。これなら真約聖書では従来の自由な表現も残せる。」


また、魔獣の描写シーンに注釈が入り、実際の魔獣の性質が巻末に載っていたりして、フィクションである事が理解できるようにしてある。


魔獣情報の監修は私達が(鑑定スキル シェルキス君特別協力)行っているので確かな情報だ。

これはこれで魔獣辞典のようにも機能するかもしれない。


「巻末の魔獣辞典は、別冊にしてハンター協会へ売れるのではないか?」

「別売版はより詳細な情報にして、聖書は大まかな特徴を載せ、差別化を図れば良い。要するに誤解を生まなければ良いので要点のみに絞るべきだ。」


様々な意見が活発に交わされていた。

良い傾向だ。


全ての意見が出揃い、多少の修正を経て、リティナス教初の全年齢向け聖書の発行が決まった。




よし、そろそろ頃合いかな。

 

ならば更なる進化に向けて、M&Aのプレゼンテーションを始めようか。





三週間後、私は教皇と枢機卿二人、そして聖女の四人を密室に呼び出した。


『済まない、あまり多くの人には聞かせられない話なのでね。』


突然の召集に応じてくれた彼等に、まずは謝意を伝える。


「何を他人行儀な事を申しますかモザイク殿。して、今回はどんな改良案を思い付いたのかな?」

「うむ、モザイク殿が来てから、聖書と御神体の完成度がグンと上がった。貴殿の革新的アイデアは、既に寄付金以上の価値があった。何でも言ってくだされ。全力で応えて見せようぞ!ガハハハハ!」


枢機卿二人は機嫌良く、この密会に参加してくれた。


「この面子を集めるとなれば、何やらまた大きな事をやろうとしているのではないでしょうか?」


教皇は少しだけ緊張した面持ちだった。

最高責任者だからね、その気持ちは分かる。


「・・・・。」


聖女だけは懐疑的な表情だ。

ま、彼女は私達の正体を知ってるからね。

そんな聖杖を握り締めなくても、突然襲ったりはしないよ。



私はここ4ヶ月の実績で、リティナス教団の中で確固たる地位を築き上げ、厚い信頼を獲得していた。

リティナス教にモザイク在り。

最早モザイク抜きには、聖書の進展は見込めないというレベルまで、私は教団に楔の如く食い込んでいたのだ。


そうなるように仕向けたし、そうなる自信もあった。


リティナス教の本懐は、聖書と御神体の発展及び進化

だからその本懐を遂げた時は、一気に好感度が上がるのである。


そしてその二点に関しては、揺るぎ無い信念と信条に執念まで持っている。

一心不乱に聖書と御神体に全力を捧げる覚悟なのだ。

ここに居る幹部は特にその気持ちが強い。


故に聖書の更なる進化の可能性を示した場合、彼等はその未来に手を伸ばさない訳にはいかない。

ただ、その未来が、これまでの彼等の在り方を否定するものであった場合、彼等は手を取ってくれるだろうか?

 

これから私が彼等に問いかけるのは、つまりそういう内容だ。

これは賭けとなるが、同じ聖書ファンとして、聖書の更なる進化と未来を見たい。

その気持ちを私は抑えられなかった。

 

彼等は聖書に心臓を捧げている。


ならばその覚悟、試させて貰おう。



『集まって貰ったのは他でもない。聖書の次なるステージへのお誘いだ。』

「おお!やはりか!」


全年齢対象聖書の刊行が始まったばかりの時期だが、今から動き始めないと機を逃す事になる。


組織立ったもの作りは、一朝一夕で出来上がるものではない。

各工程に都合があるので、様々な意見を纏め、諸々の問題を片付け、面倒な調整を経て、やっと着手出来るようになる。

「こんなん作りたいから、明日からヨロシク」なんて軽はずみで言おうものなら、作り手から総スカン喰らって終わりである。


なので恐らく完成するまで数年単位で掛かるだろう。

だが、この困難を乗り越えた時、聖書は間違いなく進化し、更にその裾野を広げる事となる。


故に私個人としても、絶対に成功させたいプロジェクトなのだ。


そして、このプロジェクトは私抜きには成り立たない。

だからこそ覚悟が必要だ。


彼等だけにその覚悟を求める訳ではない。

私達も覚悟を決めなければならない。



『その前に話がある。』

「何でしょうか?」


『驚かないで欲しいのだが・・』


まあ無理とは思うが前振りとして言っておいた。



『実は私達はこういう者なのだ。』



私は擬態スキルを解いた。

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