220.リティナス教最後の砦を陥落せよ!聖女要塞攻略戦
さて、アリサ、クルティナ君、ゼムノア君との合流をどうしようか?
魔王称号の特典スキル「四天王召喚」で呼べば簡単なのだが、1日一回の使用制限があるので帰りに使うことにした。
聖女の着替えを待っている間暇なので、ちょっとした試みを企画提案した。
『第一回潜入トライアル!聖女の部屋までバレずに忍び込めるかRTA!』
ルールは書いてそのまま、聖女の部屋へ誰にも見付かる事なく誰が一番早く辿り着けるか競争である。
反応は上々で、「面白そう!」「面白い!」「面倒・・だがそれが良い!」と全員の賛同を得て決定だ。
相変わらずノリが良いなウチのメンバーは・・。
では早速スタート。
少し待っていたら一番乗りのアリサが窓から飛び込んできた。ま、順当な順位か。
『あっぶな!ギリギリ勝てた。クルティナ、アンタ何でそんな速いのよ!?』
見付からないように壁沿いを飛んで来た様子だ。
続いてクルティナ君も入って来たが、姿がよく見えない。
『死神の権能である認識阻害を使った。』
最近のクルティナ君は、一部の死神の権能を使えるようになっている。
レベルが上がったからだそうだ。
ただ、例の念じるだけで何でも死滅させる物騒な権能は、まだ封印中らしいのでホッとしている。
というか、皆何事もなく三階の窓から入ってくるな。
ここ、結構高いのだが・・。
パルクールやフリークライミングのプロ選手並みの身体能力だな。
『ハァハァ、ちょ、しんどい!』
ゼムノア君はアビスゲートの転移を使ってやって来た。
一度遠くへ転移して、部屋の場所だけ確認し、窓の外側を座標登録し、再度アビスゲート。
だがバルコニーが無いので、転移後に三階から落下してしまう。
落ちる前に窓枠を掴んで、必死こいてよじ登って来た。
偉い偉い。
彼女は身体能力に頼らず、魔法を駆使して、何とか実行する頭脳派な姿勢が良いよね。
不自由な身体である私と近い感性の持ち主だ。
さて、全員見付からずに辿り着けた。
凄いなウチのメンバー達は。
潜入も思うままか。
等と感心してたら聖女が固まっていた。
「・・・・。」
突然飛び込んできた妖魔の王のメンバーに、口をパクパクさせている聖女。
まだ下着姿で服を選んでいた。
では私も姿を現すかな。
『驚かせて済まない。それより早く服を着たまえ。話が出来ないではないか。』
「!?」
私は擬態スキルの光学迷彩を解いて姿を現す。
「な、な・・」
『む、マズイ。魔法障壁展開。』
下着姿のまま固まっていた聖女の時間が動き出す。
あ、これ叫ばれる。
「キャーーー!何ですかこれーーー!」
聖女の悲鳴が響き渡る。
突然自分の背後に、魔王と妖精が現れたら流石に驚くか。
だが、その悲鳴は部屋の外には聞こえない。
響いたのは魔法障壁内部だけだ。
「いつからそこにいたのですか!?」
『5分程前からだが?』
「ちょっ!?当たり前のように言わないで下さい!」
ずっと下着姿のままだったと気付いて戸惑う聖女。
『私は木の魔物だぞ?君は草木の前で着替えるのが恥ずかしいのかね?』
「そう言う問題ではありません!」
また怒ってる。カルシウム足りないのかね?
若いのに皺が増えるぞ。
「あー、聖女ちゃん、そのおじさんにデリカシーの話しても意味ないから。」
「シャチョー様、言語理解能力があり、視覚がある生物は女性の着替えを見てはいけないのですよ?」
先程論破されたのを根に持ってるのか、味方を得たリティア君が再度覗きの罪を私に着せてきた。
それよりもリティア君に常識を諭されているのが屈辱だ。
するとクルティナ君が首を傾げながら尋ねる。
「どうした?裸を見られて何が困るのだ?」
「ここにも常識外れがいた!」
ほら、仲間がいた。
な?クルティナ君もそう思うだろ?
「に、似た者夫婦・・。」
「ゼムノアァ、誰が夫婦だ?」
「ヒィッ、殺さないで!」
呟きを察知されたゼムノア君がクルティナ君に殺意を向けられて怯えていた。
そんなやり取りを無視して、急いで服を着ている聖女。
待ってる時間が惜しいので、こちらの挨拶だけ先に済ませる。
『改めて久し振りだねエリーゼ君。この度正式にゼムノークスにおける魔法の王、魔王の座に就任した妖魔の王シャチーだ。宜しく頼む。』
「そういう挨拶は普通着替え終わってからにしませんか!?」
おやおや、まだオコだ。
「残念だけど、アタシ達に普通って感覚通じないから諦めて。この間痛感したのよねー。あはははは。」
「笑って誤魔化すのではなく、普通は謝りませんか!?」
『アリサ、割りと笑い事では済まないとも気付かされただろう?』
普通を繕う事を諦めてしまうとモザイクおじさんとしての活動に支障が出る。
具体的は妖魔の王と言う正体が即バレする。
諦めたら、そこでモブキャラハンタームーヴは終了なのだよ。
常識大事、絶対!
「シャチョー様はあなたのような貧相な身体には興味がありません。やはりわたしのようなダイナマイトなナイスバディにだけ、触手を動かすのです!」
『だから私には性別も性欲も無いと言ってるだろう!誤解を与えるような事を言うんじゃない。』
女神状態のリティア君は確かに均整の取れた美しい体型だが、ダイナマイトバディって感じではないので虚偽申告だな。
今は妖精姿なのでチンチクリンに見える。
「確かに。腹が立つ事に妖木はこのワタシの全裸にさえ反応しないからな。」
『君のは見慣れただけだが?』
クルティナ君は容姿に自信が有り余っているせいか、わざと見せようとするからなぁ。
「見ていたのか!?」
そこに驚くの!?
君が見せてくるからだろ!
あと、何故嬉しそうな顔をする!?
『君は故意に見ずとも目の前でスグに脱ぐだろ!嫌でも目に入るのだよ!』
「嫌とはなんだ!?」
『別に嫌ではないが、目のやり場に困るのだよ!君は見て欲しいのかね?』
「ワタシを露出狂のように言うな!」
露出狂一歩手前だろ。
『では見ないようにするので、今後は裸でウロつかないように。』
「何だそれは、面倒だ!」
『見て良いのか悪いのか、どっちなんだね!?』
見ても見なくても文句言われる!
「別に見ても良い。その代わり褒めろ!」
『面倒臭い!』
見ても良いんかい!
「見ても良いんだ・・。」
「本当にクルティナがここまで心を許す存在は稀少なのですが・・。」
「し、神界でも有り得ない驚異的事象を確認。」
そこ、コソコソ何を話してるのかね。
「・・・はぁ、もう良いです。とにかく大人しくしてて下さい。」
聖女がなんか色々諦めた。
あー、うん、人生を達観した人がする目をしてた。
なんかあの目を最近よく見るんだが、何故だろう?
ま、いいか。
とにかく覗き魔扱いはされずに済んだ。
ほらね、リティア君。問題なかっただろ?
◆
「で?どうしてアナタ達が教団内部にいるのですか?」
怪訝だ。
お手本のような怪訝な顔だ。
対面の聖女が腕と脚を組んで、怖い顔で睨んでいる。
あらあら、可愛らしい聖女フェイスが鬼のようですよ?
「聖書が読みたかった!」
「せ、せ、聖書が面白いと聞いて!」
『という訳だ。』
「どういう訳ですか!」
単純明快、簡潔明瞭に答えたのに怒られた。
『ぶっちゃけた話をすると、国からリティナス教団の内部調査を頼まれた。』
「本当にぶっちゃけましたね・・。」
自分達はスパイだと簡単に打ち明けたのだから、聞いた方は呆れるしかないだろうな。
『ざっと調べた結果、大した悪巧みはしてないし問題ないだろう。ここまで潜入したのは、聖書やら御神体やら面白そうな物を作っていたので、興味本意で潜入した。』
「興味本意!?」
普通はこんな教団の奥深くまで入ろうと思っても入れない。
なのに動機は興味本意と聞いて唖然としていた。
ですよねー?
「どうやって教皇様や枢機卿に取り入ったのですか。」
『お布施を金一本以上、献納したからね。』
「金一本!?」
これも普通は出せない。
しかも即金だったから異常な話だ。
『私はお金には困ってないのだよ。使い道が無いので、聖書と御神体作りに協力しようと思ってね。それで色々技術供与したり、改善策を講じたりしてたら皆から感謝された。』
「それであの様な待遇を・・。」
現状を理解した聖女が頭を押さえていた。
リティナス教が拝金主義で助かったよ。
「正体が妖魔の王と、教皇様はご存知なのですか?」
『いや、知らないね。』
「はあぁぁ・・。」
肺の底から吐き出すような深い溜め息を吐く聖女。
『だが聖書を読んで、君達がどうして魔物や魔王を毛嫌いしているのか理解は出来た。問題は、あの内容が事実に基づいていないフィクションだという事が周知されていない点だ。』
「フィクション?」
『創作物という意味だよ。君もガンプ大森林の奥樹海に居たから分かるだろう?魔物や魔獣は積極的に人を襲わない。』
「・・そうですね。」
魔獣にも生存本能があるし、怪我はしたくないのだ。
リスクの高い行動は取らない。
だからベースが肉食動物でない限りは、積極的には襲って来ないし、亜人族を選択的に補食して生きている魔獣はいない。
そして食べ物が無くならない限りは、縄張りからは出て来ないのが通例だ。
『勿論凶暴な魔獣もいるので、区別する必要はあるが、多くの魔獣は臆病で、人を見ると逃げる。』
「確かに。」
この事実を正しく認識しているのは聖女だけだろう。
『あれが聖書でなければ問題は無いが、聖書とは人を導くものだ。そして聖書が魔獣へのヘイトを煽っているのが頂けない。魔獣=悪と極端な構図で描かれているので、本来放置していても問題がない魔獣すら、討伐対象と見られてしまう。』
この世界の亜人族は情報に疎く、与えられた情報を精査する手段に乏しい。
その為聖書のように、大きな組織が発行してる書籍の内容は全面的に信用して、鵜呑みにしてしまう傾向が強い。
加えて娯楽に乏しいため、現実とフィクションの区別が付けられない。フィクションへの耐性が無いのだ。
すると簡単に影響されて、現実と混同してしまう。
一種の中二病に罹ってしまうのである。
前世でも同様の現象が昔に起きていたね。
映画の悪役俳優が、現実でも悪い人と思われて誹謗中傷を受けたりした。
ヤンキー漫画に影響されて、ヤンキーが流行ったり、根拠や証明に乏しい大予言やら、UFOやUMA、心霊現象等を扱ったTV番組に影響され、本気で信じられていた。
現代になってそれらが流行らないのは、情報に満たされ、客観的で現実的・科学的な視点が洗練されたからだ。
情報を精査する手段を得られたから「こんなの有り得んの?」「科学的に立証されるんじゃない?」と、得た情報に対して確認する事が常識となったので、鵜呑みにされ難くなったのだ。
だから本当に好きな人だけが信奉するようになり、ニワカファンが減って落ち着いたのである。
未確認飛行物体であった「スカイフィッシュ」や「ロッズ」が、カメラの性能により飛んでる虫がそう写ってしまうだけと判明した時は、私もショックだったよ。
この世界にはインターネットもスマホもない。
その為、情報を発信する側は細心の注意を払う必要があるのだ。
「しかし、魔獣を討伐すれば報酬や素材が得られ、生活が潤います。魔獣討伐自体に問題はないのではないですか?」
確かに魔獣討伐自体に罪はない。
『問題なく倒せるなら良いが、討伐する必要の無い魔獣と戦い、怪我したり、死者が出た場合はどうするのかね?』
「あっ!?」
聖書を読むと魔獣を忌み嫌うように煽動される。
そして聖書は信者であれば誰でも読める。
この誰でも読めるというところが危うい。
魔獣を討伐出来る実力が無い者が影響されると危険なのだ。
このままでは不要な悲劇を招く危険性があることに気付いたかな。
『最も危険なのは、判断力が未熟な子供の場合だよ。正義感に駈られ、無謀に魔獣へ挑んだ結果、死傷する可能性が高い。その原因が聖書だったとしたら、君はどう思う?』
「・・・。」
そんなつもりで聖書を広めたつもりはないだろう。
だが、結果的にそうなった場合は悲しい。
『聖書が悲劇を生み出す温床となるのは、同じ聖書ファンとして私は見過ごせない。』
「それはわたくしも同意ですが、それでは聖書が読めなくなってしまいます。」
悲劇を起こさない為に、聖書を禁書とする。
それは極端な方法だ。
『聖書を禁止までしなくても良いと私は思う。要するに無用な戦いを煽動しないように、編集すれば良い。ある程度の規制を設けたり、魔獣討伐のガイドラインを注意喚起したりして、正しい認識に軌道修正するのだ。その為の協力は惜しまないつもりだよ。』
R12やR18指定等、読解力が身に着くまで年齢制限するのも一つの手だ。
要するに注意を促し、情報を受け取った者が精査する機会が与えられれば、ある程度防げるのだ。
但し、悲劇がゼロになることはないし、そこまでする必要もない。
注意を無視したり、楽観視したりする奴等までは面倒を見ない。
そこから先は自己責任だ。
「・・リティナス教をどうするつもりですか?」
聖女は私達の教団への関与に対して警戒心を顕にしていた。
『安心したまえ、リティナス教にかけられた疑惑は晴れた。少し行き過ぎた献金集めのやり方さえ改めれば、今後は目を付けられることは無いと思うぞ。』
「それもですが、わたくしが心配しているのは、あなた達がリティナス教に与える影響です。」
あー、そこは気になるよね。
『それも安心したまえ。悪いようにはしない。なんせ私達は今や敬虔なるリティナス教信徒だからね。』
単なる聖書のファンなだけだがね。
ただ、周囲を見るに宗教らしい事は全然やってなくて、私達同様聖書が好きな連中ばかりだ。
ならば私達も立派な信徒と言って良いだろう。
「そうよ、リティシア様マジ女神だもん。」
「悔しいですが、リティシアマジ可愛いです。」
「ワタシはリティシア✕クルシュミナの尊さに感動したぞ!」
「ボ、ボ、ボクは聖書や御神体制作に興味あるかな。」
私達の目を真剣に見る聖女。
あー、私は見ても無駄だよ、目が無い無表情だからね。
「・・・分かりました。」
聖女が納得してくれた。
それはつまり、私達の教団滞在を見逃してくれたという意味になる。
以前の魔王絶対コロスマンだった頃では考えられない心境の変化だ。
魔境の前庭での生活が、彼女に変化をもたらしたのだろう。
良かった良かった。




