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106.秘書と友達どちらが上なの?

「シャチョー様、友達と秘書はどちらが上なのでしょうか!?」

 

ほらね。

これは暴走の兆しだ。

早めに認識を正しておかないと、面倒臭いことになる。

 

『上も下もないだろう。友達は知り合い以上、恋人未満の関係性で、秘書はビジネスとしての関係だ。』

「こ、恋人未満!?」

 

木と女神の友達関係なんて実例ゼロの前代未聞だから、友達以上に親密な関係なんて分からない。

その為一般的に男女の友達関係の場合を言っただけなのだが、大丈夫だろうか・・。

男同士の場合は親友未満だぞ?

 

だが、どうやらあまり人の話を聞いてないっぽい。

これはマズい。

 

『まぁ既に私達はチームで、信頼厚い仲間みたいなものだから、今更友達になる必要はないだろうがね。ただ仲間と友達は似て非なるも・・』

 

リティア君が暴走しない様に、間髪入れずに捕捉説明を入れようとしたのだが、

 

「 シ ャ チ ョ ー 様 が 、ク ル テ ィ ナ に 告 白 し た !? 」

『 な ん で そ う な る の だ !? 』

 

さすがはリティア君だ。

理解の埒外に常にいる。

そこに呆れる顎が外れる。(アゴはないが)

 

「友達から始めるのですよね?つまり、これから恋人への階段を登っていくスタート地点に着いたと言う事。違いますか!?」

『うん、全然違う。』

 

あー、そう来たか。

その発想は無かったよ。

 

「なんと言う事でしょう。わたしの恋路にクルティナが立ちはだかるなんて。」

『はぁ!?』

『勝手に立たせたらクルティナ君も怒ると思うぞ?』

 

妄想暴走に巻き込まれたクルティナ君。

流石のクルティナ君も、斜め上の解釈に絶句してた。 

いい迷惑だろう。

しかしリティア君の暴走は続く。

 

「まさかシャチョー様がクルティナに恋するとは思っていませんでした。」

『な!?』

『クルティナ君、リティア君の妄言にいちいち反応しなく良いよ。』

 

ところでいつ私がクルティナ君に恋慕した事になった?

 

「もしや、あんな雑な鑑定がキッカケに!?」

『君の何でも食ってみたブログよりマシだとは思うが。』

 

しれっとクルティナ君の仕事を雑だとディスってた。

 

「わたしも何か始めるべきでしょうか。秘書との秘密の甘いロマンスを!」

『リティア君は人の話を聞く事から始めてはどうだろうか?』

 

君も友達から始めれば良いだろう。

何故わざわざ遠回りな秘書スタートを第一選択肢として持って来た?

 

「クルティナも満更ではない様子。ピンチです!」

『満更!?ち、ちち違います!そんな事は微塵も!』

『リティア君、妄想と事実が大きく解離してる事に気付きたまえ。』

 

リティア君の勝手解釈に翻弄されるクルティナ君。

下手に動揺しない方が良いぞクルティナ君。

余計面倒になる。

 

「こうしては居れません。シャチョー様、今すぐ秘書スキルをレベル5へ!」

『君は恋愛関係をスキルレベル頼りにするのをやめたまえ。』

 

こっちはこっちで致命的な恋愛下手だった。

関係を深め、想いを育てていくプロセスをすっ飛ばしても上手く行かないぞ?

 

付き合い下手な女神と、恋愛頭でっかち女神

尖った性能してる女神ばかり居るなー。

 

これ以上は付き合っていられない。

もうリティア君は無視の方向で話を元に戻す。

 

『とにかく落ち着きたまえ。私はクルティナ君が友達を作る手助けがしたいだけだ。その為にまずアリサと私が友達になりたいと言っただけだよ。で、クルティナ君、どうなんだ?』

 

場を落ち着かせて改めて問いかけた。

 

『・・・す、好きにすれば良いだろ。』

 

お、意外に素直。

では遠慮なく、

 

『ではクルティナ君と私は友達だ。そこで友達として最初に君に伝えたい事がある。友達として助言するから、君も友達として聞いてくれたまえ。』

『・・分かった。』

 

素直でよろしい。

 

『では最初の助言だ。君が私の事を毛嫌いしている理由は知らないし、言えない事でもあるのだろう。そしてそれは友達となっても無理に変えなくて良いからね。』

 

ここは大切な部分なので最初に伝えておきたかった。

 

「んー?何それ?友達なのに嫌いって変じゃない?」

 

言いたいことは分かる。

形としては変だ。だが、

 

『アリサ、友達とだって喧嘩はするだろ。価値観や信条なんて人それぞれだ。それを抑えて無理に付き合う関係なんて健全ではない。大切なのは相手を思いやって、尊重し付き合う気持ちだ。要は終わった時に笑ってハイタッチができる間柄なら、万事OKという事だよ。』

 

喧嘩しても仲直りが出来るなら、それはもう友達だ。

気兼ねなく、素の自分で付き合える仲間。

友達とは、そういう間柄でありたいと私は願う。

 

「ふーん、ま、良いんじゃない。クルティナ、ハイタッチは出来ないけどね。」

 

声だけ存在だからね。実体がないからハイタッチは物理的に不可能か。

 

『その時はゼムノアの身体を借りる。』

 

ゼムノア君、ハイタッチの度に身体を乗っ取られそうだよ?

これからもクルティナ君に便利に使われそうだな。

 

「それではゼムノアがハイタッチ出来ませんよ?」

 

お、リティア君が現実に戻って来た。

確かにゼムノア君との交代になるので、彼女がハイタッチに参加できない。

 

『アイツはまだワタシの友達ではないから混ぜてやらない。ふふん。』

 

確かにこの場に居ないゼムノア君は申請が出来ない。

早いところゼムノア君も友達申請させようと思うが、殊更クルティナ君を畏れる彼女が、果たして友達申請をする事が出来るだろうか?

 

「まあ、ではわたしもまだ友達宣言出来ていませんので混ざれませんね。困りますぅ。」

 

お、リティア君も友達になるかね?

 

『んな!?リティア様、それは!』

「わたしも混ざりたいなー、って」

 

イタズラな顔で天を見上げるリティア君。

その向こうにクルティナ君がいるのかな?

 

「クルティナ、チャンスだよ!」

『わ、わわ分かっている。』

『ここで尻込みする所が友達居ないクオリティだな。』

『うるさい妖木!』

 

照れてるのが手に取るように分かるなー

 

敬愛して止まないリティア君と、正式な友好関係を結べる願ってもないチャンス。

クルティナ君は一拍置いて、意を決して言葉を紡ぐ。

 

『リ、リティア様もワタシの友達になって下さいますか?』

「あら、わたしは既にクルティナの友達だったって認識ですけど?」

 

ですよねー

 

『!! 意地悪しましたね!』

「ふふふ、クルティナから言ってくれるのを待っていただけですよ。」

 

リティア君も人が悪い。

まあ傍目から見ても、会話の親密性から見ても、彼女達は既に友達関係だったと思っていた。

逆に友達関係ではなかった事の方が意外だ。

特にゼムノア君の観察中は、親友の様な息の合い方だった。

 

とにかく事これに至っては今更感アリアリだ。

 

だけど、やっぱり言葉に表す事、意思を伝える事は大事だ。

意思を伝える。

それだけで変わる世界がある。

そこから始まる関係がある。

言葉に出さないと、それは本当の意味で伝わらないものなのだ。

 

そしてどんなことでも話し合える関係こそ友達。

だから意思を伝えないと、友達は始まらない。

そういう事だった。

 

◆

 

とまぁ、たかだか友達になるだけで、ここまで大袈裟になるとは思わなかったが、結果としてこの会話は良かった。

 

これで晴れてクルティナ君に、友達が三人増えたという事だ。

 

『では、友なった記念にワタシから贈り物をあげよう。』

『要らない。』

 

クルティナ君、友とは贈り物で繋げる関係ではないだろう。

嫌な予感もビンビンするので、とにかくお断りだ。

 

『人の厚意を即断で拒否するとは良い度胸だな妖木。』

 

おー、ビキビキという擬音が今にも聞こえてきそうだ。

 

『どうせロクでもない事だろ!嫌な予感しかしないのだよ!』

 

クルティナ君から貰ったものは、盗賊の襲撃、国王の秘密、未来の事件の真相

ほら、ロクでもない。

 

『トラブル好きな妖木の為に、手頃なトラブルを見付けたので教えてやろうと思っただけだ。』

 

やっぱり余計なものだった!

期待を裏切らないな君は、悪い意味で!

 

『いつ私がトラブルが好きと言った!余計な手間を引き寄せないでくれたまえ!』

 

その不名誉な認識は断固否定したい。

 

「え?オジサン、マジ?」

「シャチョー様、トラブルは友達怖くないではなかっのですか?」

『君達ですらソレかね・・。』

 

私以外全員が同じ認識だった。

どこで狂ったのだその歯車!

 

そして、何だその嫌な友達は!

トラブルなんて無い方が良いに決まってるだろ!

 

『今回は引き寄せよてはいない。偶然見付けた。』

『見付けたとは、この近くなのかね?』

 

クルティナ君の場合、神様的な存在だから、星の裏側の事でも見えている可能性すらあるからね。

さすがにそんな所まで首を突っ込みに行く気は起きない。

 

『この湖の対岸辺りで、亜人族が一人溺れている。あ、沈んだ。』

『マズイではないか!リティア君、急いで向かってくれ。』

「畏まりました。」

 

リティア君は私を抱えてすぐに飛び立ってくれた。

 

「わわっ、待ってよー!」

 

アリサも慌てて追いかけてきた。

 

 

水の澄んだ美しい湖の水面ギリギリを高速で飛行するリティア君。

飛び去った後は、水飛沫が盛大に舞い上がっている。

それにしても速いっ!亜音速レベルではないか?

アリサが全然追い付けない。

 

それもそのはず、進行方向目の前に円錐形の風防を出現させて、空気抵抗を減らしていた。

リティア君それ、戦闘機の機首部品だよね?

もうツッコまないよ?

 

お陰で私も風圧で葉を散らさずに済んだ。

 

『クルティナ君、どの辺りかね?』

 

クルティナ君に事故現場の方向を教えて貰う。

既に水に沈んだのであれば一刻を争う。

早く現着しなければ、蘇生が間に合わなくなる。

 

『進行方向1時20分39秒方向。』

 

正確な方位を示してくれた。

正確過ぎて合わせられるか心配なレベルだ。

 

『リティア君、合わせられるかね?』

「多分こんな感じですね。」

 

正確な方向を伝えられても、合わせるリティア君が方向性ガバガバなので意味がなかった。

でもそれなりに、なんとなく、割りと合わせた感じに方向を微調整した。

 

『その方位です。さすがリティア様!』

「ふふふ、秘書に不可能はありません。」

 

まさかの偶然の一致!

秘書とはコンパス並みに正確な方位を掴む能力も備えているのか。

いや、そんな業務は秘書には無い。

 

『水没地点まで5秒、4、3、2、1、ソコです。』

「止まります。」

 

湖岸から15メートル程の場所だったが、湖は急に深くなる場所があるからね。

 

クルティナ君のカウントに合わせてリティア君が急ブレーキ。

不自然に滑らかに制止し、空中浮遊。

私もGを感じることなかった。

 

どうやって減速したのか物理法則を無視した不思議な挙動だが、事実あの猛スピードが急速に止まった。

慣性の法則ガン無視である。

ニュートンさんも驚き戸惑っているよ。

 

気味が悪いが、多分この世界の魔力さんが何とかしたのだろう。そう結論付けておく。

不思議な事は大体魔力さんのせい!

 

私は間髪入れずに魔力感知を広範囲展開し、湖底に沈んだ人の魔力を探る。

合わせて魔力障壁も起動。

 

『見付けた。確かにこの真下だ。リティア君、君と私に魔力障壁を張ったので、構わず潜水したまえ。』

「ああ、シャチョー様と同じ膜に包まれて、愛の泉に沈み行く。」

『いいから早く!』

 

どんな時も妄想力豊かだな君は。

そんな事に呆れている暇はない。

まだ沈んで1分程度、蘇生が間に合う筈だ。

 

リティア君は私を抱えたまま水中へ飛び込んだ。

 

魔力障壁Lv2は、ゴムのような膜で体表面を包む事が出来る。

原理不明だが、物理的な運動や物質を受け止める事が出来る。

つまり、空気も遮断し閉じ込める。

その為、膜の内側に居れば濡れることなく、しかも呼吸する事も可能だ。

 

二人とも呼吸が必要なのか怪しい存在だが、ま、濡れないのは良いよね。

私は濡れても良いが、鉢植えの土が流出すると格好が悪い。

また吸収スキルがあるので、ぶっちゃけ土はなくても良いのだが、形式美というやつだ。

 

どうでも良いが、何故か勝手に沈んで行ってくれている。

空気入りなので、浮く筈なのにどうしてだろうか。

原理は不明だが、魔力さんのせい。魔力さんのせい。

好都合なのでそのまま潜水。

 

『いた。』

 

水深7m程の湖底に沈んでいたので、サルベージ開始だ。

リティア君が腕を掴んで一気に水面へ跳び上がる。

 

派手に水飛沫を爆散させて飛び上がったリティア君は、そのまま弧を描いて湖岸の砂浜へ。

引き上げた亜人族を寝かせて離れる。



『あー、これってエルフ・・なのか?』


耳が長く、無駄にイケメンなエルフの男が横たわっていた。やはり息はしていない。


そして何故か服を着ていない。

パンツ一丁エルフである。

コイツは助けるべきなのか、疑問に思えてきた。

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