105.クルティナ君には友達がいない
「イヤだ~置いてかないで~」
情けない声で助けを求めるゼムノア君を見送る。
本来は旅立つ私達が見送られる方なのだが、何だかゼムノア君の旅路の方が大変そうなので、こんな形となった。
ゼムノア君はアリティアファンクラブの面々に担ぎ上げられて小さくなった。
アイドル育成職人となった彼等にとって、相手は誰だろうと関係はない。
武闘大会の覇者でも、魔王でも、魔神でも、邪神だろうと関係ない。
アイドル育成に人生を懸け、死の恐怖すら乗り越える、屈強な魂を持った職人だ。
彼等にとってアイドルの原石は、磨き上げるべき大切な素材。
ただただ真っ直ぐに、丁寧に、素材と向き合って、ひたすらに磨き上げていく事だろう。
戻った時、ゼムノア君がどう変わっているか楽しみだ。
多少コミュ障が改善してたら儲けものである。
『さて、では私達も出発しようか。』
私が旅立ちを宣言すると、フワリ身体が宙を舞った。
今回も私はリティア君にぶら提がっての航空旅行だ。
徐々に高度を上げながら北へ北へと飛んで行くと、ランクシャーの街が小さくなっていく。
久し振りに町全体を眺めたが、1年前と比べても建物の数が増えたものだ。
順調に成長していると分かる。
『やはり空か見る景色は綺麗だね。』
「そうね!毎日毎日ライブ会場にばかり通ってたから、久し振りに広い空を飛ぶと気持ちいいー!」
アリサはアクロバティックにくるくると飛び回っていた。
確かに気持ち良さそうだ。
「シャチョー様、落ちないように、しっかり私にしがみついて下さいね。うへっ、うへへ」
君は前回もそれ言ってなかったか?
『妖木、うっかり落ちるように、ハーネスの留め具を外しておく事を勧めるぞ。』
クルティナ君も天から見ている。
今回の旅はこのメンバーだ。
ここで旅の目的地を紹介しよう。
今回の目的地はリインシス=ヨルメノー伯爵領。
南の辺境地であるランクシャーからは、牛馬車で7日間程かかる北の辺境地。
直線距離としては王都と大差ない感覚である。
リインシス領の領地はエレンゼクト王国の北の果てに位置する、寒冷で自然豊かな地域だ。
領地は真四角のダイヤ形、◆に近い形をしており、中心に領都リインシスが座している。
リインシス王国時代は王都だったので、今でも古い住民は「王都」と呼んでいるそうだ。
領地の北西と北東は海に面しており、海産物が豊富に揃う。
南東は平野で南西は深い森と山地が広がっている。
緯度的に北極に近い為か、まだ雪が降っているらしい。
ランクシャーでは温かくなったのに、リインシス領ではまだ冬が続いている。
以上、クルティナ君からの情報だ。
ご苦労様、鑑定スキルさん。
って言うか、手元にある物だけではなく、そんな遠隔地の情報すら入手出来るって、ぶっ壊れ性能な鑑定スキルだな。
中の人(クルティナ君)に直接問合せ出来るスキルになって良かったよ。
但し、リティア君がお願いしないと機能しないがね。
◆
『随分飛んできたが疲れてはいないかね?』
「んー、そろそろお昼よね?休憩する?」
チート存在であるリティア君には何も心配要らないが、アリサは普通・・普通ではないが、このメンバーの中では常識的レベルの存在だ。
無尽蔵に飛び続けられるリティア君と違って、気を遣わないといけない。
だが、彼女に気を遣う必要はないのかもしれない。
アリサは魔力が減ってくると、リティア君にぶら下がっている私から魔力を吸って回復しているからね。
つまり、この体制だと航続可能距離を飛躍的に伸ばすことが出来るのだ。
リティア君は空中給油機か・・。
しかし、目的地に向かってひたすら飛び続けるという行為は、地味な故に精神的に疲れる。
その為、適度に休憩を挟むべきと思ったのだ。
「あの湖のところなんて良くない?」
アリサは休憩に良さそうな、木陰のある湖畔の広場を見付けて降下を始めた。
高度を落としフカフカの下草の上へ着陸。
では、少しゆっくりしようか。
私はアリサに吸われた魔力の回復に吸収スキルを発動。
自然破壊をしないように、スキルのレベルは低めに設定し、ゆっくり吸い上げる。
アリサは草の上に座って、リティア君に出して貰った蜂蜜カクテルを呑んでいる。
飲酒飛行だが、この世界にそれを取り締まる法は無い。
リティア君は湖畔の岩に座って景色を眺めている。
美人なので絵になるね。
ここはまだ広大なリバーエイカー領の北の果てにある山の裾野。
新緑の緑に囲まれた、澄んだ水を湛える湖は、雪解け水を貰い受けて水位が上がっているのか、所々に水没林が見える。
やわらかな風が静かに水面を揺らす穏やかな午後。
渡り鳥の群れが湖面で羽根を休め、時折跳ねる魚が豊かな生態系を育んでいる事を示唆していた。
平和だ。
光合成が捗り、実に気持ちがいい。
このまま意識を手放し・・・おっと、また昼寝するところだった。
こんな所でまた一年眠ってしまったら、残して来たゼムノア君がキレるだろう。
しっかりしなくては。
思い思いに過ごす面々を見ながら、私はクルティナ君に話しかけた。
『クルティナ君、今はどの辺りなのか教えてくれるかな?』
『全行程の1/4を消化している。』
早っ!まだ半日しか経ってないぞ?
障害物なく真っ直ぐ最短距離を進めるので、陸路で7日間かかる道程も、飛んで行けば2日程度で到着出来るのか。
これならもっとのんびり行っても良いかもしれない。
『ところでクルティナ君、先程は何故素直に教えてくれたのかね?いつもなら無視したりするではないか?』
問いかけに即答するなんてクルティナ君らしくもない。
どんな心境の変化だ?
『う、うるさい!暇だったからだ!』
んー、これデレてるのか?
「あ、シャチョー様、クルティナは一年間ずっと・・」
『わー!リティア様!』
んー?これはもしかして?
ニンマリ
『そうかそうか、暇だったのか。つまり寂しかった訳だね。』
『ぅなっ!?違う!』
声が裏返ってるではないか。
分かり易くて助かる。
『お?図星かな。クルティナ君もかわいいところがあるのだな。』
『か、かか、かわいい!?妖木、貴様、ワタシに向かってかわいい等と言ったのか?』
おー、クルティナ君が驚いてるぞ?
ちょっと新鮮だ。
『? ああ、その通り。可愛らしいではないか。』
『なんてヤツだ・・』
は?妙な反応だな。
信じられないと驚嘆しているみたいに聞こえた。
するとリティア君が解説してくれた。
「シャチョー様、クルティナは容姿では大変人気がありますが、性格上少々荒っぽく激しい部分がありますので、友達がいないんです。」
『ちょー!リティア様ー!』
珍しくクルティナ君が盛大に狼狽えてる。
『確かに美人ではあるが荒ぶる女神って印象は強いな。』
「唯一わたしには懐いてますけど、下位の者には畏れられる事はあっても、可愛いなんて言える者は皆無なんですよ。」
ゼムノア君が言っていた通りだな。
神界では怖がられて、避けられてるのか。
『ふむ、つまり可愛いとか言われる事に耐性がないと?』
「その通りです。」
『違う!違う違う違う違う違う!』
取り乱してるなー。
『なんだ、やはり可愛らしいではないか。』
「ですよね?さすがはシャチョー様です。」
『やめてくれー!』
クルティナ君の意外な弱点が判ったな。
ま、あまり突っつくと怒るだろうから、ほどほどにしておいてあげよう。
「一年間、私達と会話出来なかったのが、よほど寂しかったのでしょう。シャチョー様のお目覚めを一番楽しみにしていたのは、わたしよりもクルティナだったのかもしれませんね。」
『リティア様ぁーーー!』
リティア君、追撃とは容赦ないな・・。
クルティナ君が悶え苦しむようなプライベート情報を天然で暴露するとは。
恐ろしい子!
『だがリティア君は里帰りしていたのだろう?だったらクルティナ君はいくらでも君とはお喋り出来たのではないかね?』
秘書スキルが切れていたからね。
リティア君は強制送還されていた筈だ。
リティア君が傍にいるなら、クルティナ君が寂しさを感じるとは思えないのだが。
「わたしはその・・」
『そこまでだ妖木、邪推が過ぎるぞ。控えろ!』
おっと、あちらの事情に踏み込む勘繰りに聞こえたか。
『いや済まない。単なる純粋な好奇心だったのだが、踏み込んだ事を聞くことになったな。リティア君を困らせるつもりはなかったのだよ。』
「いえ、シャチョー様が謝られる事ではありません。」
ならば、この話はここまでか。
『しかしクルティナ君に友達がいないとは知らなかった。』
『貴様、失礼だ!居ないのではない、ワタシが作らないだけだ!』
おお、荒ぶってる荒ぶってる。
『クルティナ君、その反応こそが友達がいない人の典型的言動なのだが?』
『なんだとー!』
友達の認識が既に間違っている。
友達は意図的に作るものではない。
いつの間にかなってるものだろ。
だから友達が居ないのだよ・・。
「何何?なんか面白いこと話してない?」
アリサが会話に加わった。
『ああ、クルティナ君が友達が居ないらしくてね、一年間寂しい思いをしてたそうなんだよ。』
「へー、クルティナも寂しがるんだねー。」
『よおぉぉぼぉぉくぅぅー!』
うわー怒ってる怒ってる。
激オコクルティナ丸だ。
今頃神界では顔を真っ赤にして奮えているのではないか。
地上にいるから知らんけど。
『あー恐い恐い。この程度で怒るから友達が居ないのだよ。』
『貴様、絶対消滅させてやる!』
やれるものならやってみたまえ。
リティア君、その時は守ってね。
「でもクルティナ、オジサンの言うことも一理あるよー。こんな安っすい挑発にイチイチ腹立ててたら、周りの人も絡み難いよ。」
『アリサの言う通りだ。』
『うぬぬぬ。』
そう、私が言いたかったことをアリサが代弁してくれた。
あーあー悔しがってる悔しがってる。
「アイドルやってると、やっぱ嫌な事言ってくる人もいるんだよね。そんな人って構って欲しくてワザと挑発的な事言うの。そんなヤツにマトモに反応すると、返ってエスカレートしちゃうから、サラッと受け流してあげるのが正解なんだよ。」
『待ちたまえ、今の流れだと、私がクルティナ君に構って欲しがっているみたいではないか。』
ちょっとイヂっただけなのに、迷惑なファンみたいに言われるのは心外だ。
「実際そうじゃないの?」
「あら、クルティナ、羨ましい。」
『妖木、貴様も寂しいヤツなのだな。』
『違う!』
くっ、アリサにやられた。
後手に回っては面白くない。
ならばここは逆転の一手を打って会話の主導権を握ってやろう。
『良かったら私が友達になってあげようか?』
『ああっ?何だと?』
だから恐いって。
人の厚意に対して威嚇で返すのをやめたまえ。
友達無くすよ。あ、居ないんだった。
「あっ、アタシもアタシもー!」
良かった、助け船が出た。
『・・・アリサは良いが、妖木は嫌だ。』
おや、素直な反応だね。
ま、私はお断りされるのは予想通りだがね。
ある意味素直だ。
だが、簡単にフラれるのもつまらないし、クルティナ君との関係は深めておいて損はない。
なので、もう一押ししておこう。
『まあ待ちたまえ。男友達もいた方が健全だよ。』
今は打算的な位置から始める友達関係もアリだ。
その内慣れれば良いではないか。
私とてクルティナ君との親密さを深めたいという純粋な気持ちがある。
同時に友達となればこれまでの物騒な発言も薄まるのではないかと打算している。
打算が悪いのか?否、友達の形なんてどうだって良いものだ。
結果良い関係を築けたなら、それに越したことは無いではないか。
とにかく今はクルティナ君の力になりたいと思って提案している。
「確かにオジサンの言う通りかも。しかも、落ち着いた年配の男友達って貴重じゃん。」
ナイスフォローだアリサ。
するとここまで静観していたリティア君が狼狽え始めた。
「と、ととと、友達!?」
リティア君が何故かガクガク震えていた。
・・また何か残念な事を考えているに違いない。




