堅物騎士は、騎士として礼拝堂に立つ
国の象徴とも言える大聖堂で、結婚式は厳かに執り行われる。
礼拝席には、招待された者達が隙間なく座っていた。グレゴワールも参列しているはずだが、これだけの人数がいたら、どこにいるのかもわからない。
祭壇までの道には、真新しい赤絨毯が敷かれている。そこに、ずらりと並ぶのは国王の親衛隊だ。
王太子時代の近衛部隊の騎士から選ばれた者達を中心に、並んでいる。
もっとも祭壇に近い位置に立つのはクレール。それからその向かいに立つよう命じられたのは、コンスタンタンであった。
発表を聞いた当初、信じがたい気持ちになった。
親衛隊員を差し置いて、自分なんかが……という感情もわき上がる。
他の騎士達も、おもしろくないだろう。
クレールに相談し、今一度コンスタンタンが立つ位置を考え直してほしいと進言してくれと頼んだ。
けれど、クレールに断られる。王様の言うことは、絶対らしい。
それに、コンスタンタンが親衛隊の先頭に立って、不服に思う者は一人としていないだろうと言われた。
なんでも国王は、コンスタンタンの王の菜園での働きを高く評価しているらしい。
国王のもとに、「王の菜園を通じて、王族を近しく感じた」、という声が届いているようだ。
それらはすべて、リュシアンを中心とした者達が行った活動である。コンスタンタンはリュシアンを支えるばかりであった。
だが、クレールから、「それは違う」と否定された。
王の菜園の事業については、リュシアンの情熱をコンスタンタンが支持し、当時王太子だった国王に熱心に伝えたから実現したものである。
リュシアン一人ではなしえなかった。もちろん、コンスタンタン一人でも同様に。
だから、謙遜せず、今回の命令をありがたく受けるようにという助言があったのだ。
そんなわけで、コンスタンタンはしっかり前を見据え、国王夫婦を護衛する任に就く。
パイプオルガンの荘厳な演奏が始まった。とうとう、結婚式が始まるのだ。
演奏は十五分間続き、参列者の眠気を誘ったところで、扉が開かれる。
国王とソレーユが腕を組み、一歩、一歩と祭壇のあるほうへ歩んでいく。
周囲から、ため息が零れた。
宗教画と見まがうほどの、美男美女の夫婦である。
国王は騎士隊元帥の正装を纏い、ソレーユはシルクサテンの美しい照りのある婚礼衣装をまとっていた。
ソレーユは三メートルものベールを被っており、それを持つのはリュシアンを中心とする侍女達であった。
国王から目を離すわけにはいかないので、リュシアンを見ることはできない。
あとで、グレゴワールから話を聞こうとコンスタンタンは思う。
ついに、国王とソレーユが、コンスタンタンとクレールの間を通っていく。
これまで王の菜園で泥まみれになりながら働いていたソレーユが、王妃となる。まるで、知らない女性のように見えたので、不思議な気分を味わった。
長年の苦労が実り、王妃となるのだ。心から、祝福した。
そして、あとに続くリュシアンがコンスタンタンの前を通る。
コンスタンタンは国王に視線を向け、リュシアンはまっすぐソレーユの背中を見つめている。
二人の視線が交わることはない。
それなのに、誇らしい気分になった。
祭壇の前には、純白の衣装に身を包み、宝冠を被って、十字架の杖を握った大主教が立っていた。
夫婦となる二人の前で、誓いの言葉を読み上げる。
国王は「誓います」と答え、ソレーユも同様に誓った。
通常、これまでの王族の結婚式では、王妃となった女性は「国王陛下に従います」という言葉を発する。これが、慣例だった。
国王と同じく「誓います」と答えたのは、実にソレーユらしい。
国王とソレーユの結婚は認められ、今、この瞬間に二人は夫婦となった。
その後、すぐにパレードとなる。国民は、国王夫婦が馬車に乗ってくるのを、今か、今かと待っているだろう。
街には大勢の私服騎士が民衆の中に混ざり込んでいる。
警備に抜かりはない。
コンスタンタンとクレールは馬に跨がり、馬車の周囲を守る。
用意されたのは、天蓋つきの箱馬車だ。豪奢なドレスをまとったソレーユは、周囲の助けを得ながら馬車に乗り込んでいる。
窓の外にいたコンスタンタンに気付き、手を振っていた。
反応に困ったコンスタンタンは、黙礼する。それが面白かったようで、ソレーユは笑っていた。
指を差し、国王にもコンスタンタンが面白いと教えているのか。
ソレーユは相変わらず、ソレーユだった。
パレードが始まる。国王と王妃を迎えた人々は、歓喜の声をあげていた。
皆、キラキラとした瞳で、国王と王妃を見ている。
国王の即位と結婚を、心から祝福しているようだ。
新しい時代が、始まろうとしている。
その瞬間に立ち会えたことを、コンスタンタンは心から誇りに思った。




