堅物騎士は、お嬢様と結婚お披露目パーティーに参加する
パレードが終わったら、王宮で結婚披露パーティーが行われる。
国内から招待された者達が、美しく着飾って参加しているのだ。
この日のためにあつらえた水晶のシャンデリアが、会場を明るく照らす。
宮廷楽団もフルメンバーで揃い、やわらかな音色を奏でていた。
ここ数年の中でもっとも大規模な集まりらしく、どこもかしこも会話が尽きないようだ。
コンスタンタンは引き続き、国王親衛隊に混ざって護衛任務に就く。
すぐ傍で、王妃の傍に立つリュシアンの姿もあった。
国王夫婦は、大勢の人達に囲まれ、祝福の言葉を受けていた。
コンスタンタンもリュシアンとの披露宴のさい、ふるまいなどを参考にしようと考えていた。だが、どれも真似できるものではない。
国王夫婦は物腰柔らかく応対し、最終的には緊張していた者を笑顔にしている。一朝一夕で習得できるものではないだろう。きっと、長年かけて苦労したのちに身についた能力なのだ。
二時間ほど経つと、国王はコンスタンタンに暇を出す。リュシアンと共に、パーティーを楽しむように言われた。
「一曲、踊ってくるといい。記念になる」
「お心遣いに、感謝します」
深く頭を下げ、リュシアンのほうを見る。いまだ緊張が解れていないのか、眉尻を下げて困った表情を浮かべていた。
そんなリュシアンのもとに行くと、王妃がコンスタンタンに耳打ちする。
「先ほどから、リュシアンさんに熱い視線を送る人達がいて、大変だったのよ」
見るだけでなく、あとで話ができないかと言葉をかける者もいたらしい。
リュシアンの困惑の正体は、パーティーの雰囲気に慣れていないのではなく、見知らぬ男性に目を付けられていたからだった。
「リュシアンさんの手を、絶対に離さないでね」
「無論、そのつもりです」
「頼んだわよ」
「御意に」
王妃に黙礼して、コンスタンタンはリュシアンへ手を差し出す。
リュシアンはホッとしたような表情で、コンスタンタンの手に指先を重ねた。
ちょうど、一曲終わったようだ。
「アン、どうする? しばらく、休憩するか? それとも、踊るか?」
「踊りたいです!」
瞳をキラキラと輝かせながら、リュシアンは訴える。
「そうか、だったら行こう」
目立たないよう、端のほうに立ってリュシアンと手と手を取った。
実を言えば、こういった場で踊るのは初めてである。
以前踊ったのは、夜会会場の庭先で、リュシアンの領地に伝わる農民の踊りだった。
「アン、先に言っておくが、踊りは得意ではない」
「わたくしもです」
「そうか。だったら、周囲を見ながら、慎重に踊ろう」
「ええ」
ゆったりとした曲の演奏が始まる。
先ほどまでは律動的なダンスであったので、コンスタンタンは内心安堵する。
だが、ゆったりとした曲調でも、ステップや振りが簡単なわけではない。
一瞬たりとも、気が抜けないのだ。
曲調に合わせ、ステップを踏む。
右にくるりと周り、左に戻る。右回りと左回りを切り替え、反時計回りに動いていく。
だんだん慣れてくると、踊りを楽しむ余裕がでてきた。それはリュシアンも同じだったようで、目と目を合わせて微笑み合う。
リュシアンと出会う前は、夜会では絶対に踊るものかと思っていた。
一応、紳士の嗜みとしてダンスは習っていたが、披露することはないだろうと決めつけていたのだ。
しかし、今、コンスタンタンはリュシアンと踊っている。
ずっと嫌だと思っていたのに、リュシアンと一緒だと不思議と楽しい。
夢のようなひとときを過ごした。
演奏が終わると、コンスタンタンはリュシアンを休憩部屋へと誘った。
ここでは、飲み物と軽食が楽しめる。基本立食であるが、端のほうに机と椅子が用意されていた。
給仕に飲み物と、食べ物を一通り持ってきてもらうように頼んだ。
「ここでの食事は、王妃様とアンが、考えたのだったな」
「ええ。お口に合うといいのですが」
給仕が料理と飲み物を運んでくれる。
まず、目についたのは、小さな壺に入ったパイ焼きだ。
「アン、これは?」
「タマネギの、ひき肉詰めスープパイですわ」
サクサクのパイ生地を破ると、中にタマネギのひき肉詰めが丸ごと入っていた。
タマネギはとろとろになるまで加熱され、匙を入れただけで解れる。
パリパリのパイと、タマネギのひき肉詰め、それからコンソメスープを匙で掬って食べた。
「これは、おいしい!」
「よかったですわ」
王妃とリュシアンによる、自信作だという。
他にもフォアグラとニンジンのパテに、野菜が添えられた白身魚のグリル、ウサギと野菜のワイン煮など、豊富な種類の料理を考えたようだ。
どれもおいしく、絶賛しながら食べ進めた。
一時間ほど、コンスタンタンとリュシアンはパーティーを楽しみ、国王と王妃のもとへ戻る。
「王妃様、ただいま戻りました」
「あら、もっとゆっくりしていてもよかったのに」
「十分なくらい、楽しめました」
「だったら、よかったわ」
王妃は扇を広げ、コンスタンタンとリュシアンに近くに寄るように命じる。
「二人共、素敵なダンスだったわ。本当に、お似合いね」
その言葉に、赤面してしまったのは言うまでもない。




