堅物騎士は、お嬢様達のぼったくり計画に加担する
ソレーユが提案した『ぼったくり喫茶店』だが、招くのが男性中心ならば『ぼったくり食堂』のほうが惹かれるのではないかと、リュシアンは提案する。
「ぼったくり食堂、いいわね。さすが、リュシアンさんね!」
そんなわけで、ぼったくり喫茶店改め、ぼったくり食堂の計画がスタートした。
遠い目をするコンスタンタンを一人残して。
さっそく、リュシアンは実家の父親に手紙を書いたようだ。
王の菜園は非常に困った状態なので、作物量が多い野菜を譲ってもらえないか、と。
つまり、真っ先に父親に寄付を求めたのだ。
フォートリエ子爵の対応は早かった。豊作過ぎて畑の隅に転がっていたカボチャを、これでもかと寄越してくれた。
王の菜園のすっからかんだった倉庫に、十箱以上のカボチャが運ばれる。
「さすが、お父様ですわ」
「こんなにもらっても、よかったのだろうか?」
「大丈夫かと。豊作過ぎて、その辺に転がっているくらいだと手紙に書いてあったので。このままでしたら、家畜の餌になっていたでしょう」
「それならば、問題……ない、のか?」
家畜の代わりに、国内の資産家の口に入る。その情報は、聞かなかったことにした。
リュシアンは木箱の中からカボチャを取りだし、うっとりとした目で見つめていた。
「ずっしりと重たく、照りのある緑。すばらしいカボチャですこと」
王の菜園に来てくれてありがとうと、リュシアンはカボチャに感謝の気持ちを囁くだけでは足りなかったのか、愛おしそうに頬ずりする。
久しぶりに、リュシアンの野菜への愛を見たと、コンスタンタンはじっと眺めていた。
ここ最近、事件続きだった。野菜について考える暇がなく、今、この瞬間に爆発させてしまったのかもしれない。
「カボチャは、素敵な野菜ですわ。甘くて、ホクホクしていて、スープにしてもおいしく、お菓子も作れます」
「では今回は、この大量のカボチャを、スープにするのか?」
「いいえ、主役です」
「カボチャが?」
「はい。この子達は、メインを張れる食材ですわ」
カボチャを使ったメイン料理――コンスタンタンは腕を組んで考えるが、浮かんでこない。
「フォートリエ子爵家では、カボチャのメイン料理が出てきていたのか?」
「いいえ。スープかテリーヌなどの前菜でしか、見たことがありませんわ」
「ということは、アンがこれから料理を考えると?」
「はい!」
リュシアンはカボチャを両手に、元気のいい返事をする。
「これから試作品を作ろうと思っているのですが、コンスタンタン様もお手伝いしていただけますか?」
「ああ、わかった」
カボチャをいくつか選ぶようだ。リュシアンは傷が付いていたり、形がいびつだったりするカボチャをコンスタンタンに渡していく。
「と、こんなものですか」
大判の布に丁寧にカボチャを包み、持ち上げようとしたので、カボチャ運びを買って出る。
「コンスタンタン様、重たくないですか?」
「なんてことない重さだ」
「ありがとうございます」
リュシアンは頬を染め、うるんだ瞳でコンスタンタンを見上げる。
カボチャを運んだだけでこのように愛らしい表情をしてくれるならば、何個でも持とうとコンスタンタンは思ったのだった。
帰宅すると、リュシアンはまっすぐ厨房に向かった。時間帯は昼を過ぎ、三時のおやつの時間にほど近い。
厨房では、夕食の仕込みが行われていた。邪魔にならないよう、端の調理台を借りることとする。
リュシアンは笑顔で、コンスタンタンに折りたたんだ緑色の布地を手渡した。広げてみたら、エプロンだということがわかった。
「いつか、コンスタンタン様も厨房に立つかもしれないと、作っていたのです」
「アンの、手作りだったのか」
「はい」
「ありがたく、いただこう」
リュシアンは笑顔で、コンスタンタンがエプロンをかける様子を眺めていた。恥ずかしいので見ないでほしかったが、微笑むリュシアンは愛らしいので何も言えなくなる。
「コンスタンタン様、お似合いですわ!」
「そうか」
リュシアンは手早く、フリルが付いたエプロンをかける。
「では、調理を始めましょうか」
まず、カボチャの上部を包丁で切る。カボチャの皮は硬いので、カットはコンスタンタンが引き受けた。
「む……硬いな」
「フォートリエ子爵領の北風にさらされていたので、余計に硬くなっているのかもしれませんわ」
しかし、日々稽古を重ねているコンスタンタンの敵ではない。サックリと、切り分ける。
「アン、これでいいのか?」
「はい」
カボチャはリュシアンが受け取り、中の種をスプーンで取る。
「このカボチャの種は、お菓子作りに使ったり、おつまみにしたりできますので、捨てずに取っておきます」
「わかった」
種を抜いたカボチャを洗い、蒸し器で十分ほど蒸す。
その間に、中の具を作ると言う。
「具を、カボチャに入れるのか?」
「はい!」
リュシアンが取り出したのは、豚ひき肉。どうやら豚ひき肉をカボチャに詰めるようだ。
まずは玉葱をみじん切りにしてバターで炒め、粗熱を取る。
続いて、ひき肉には塩、黒胡椒、チーズ、パン粉、牛乳、卵を入れ、しっかり捏ねる。
粗熱を取った玉葱を入れ、さっくり混ぜたひき肉を、蒸したカボチャに詰める。
鉄板にカボチャを置きかまどで十五分焼いたあと、チーズを振りかけてさらに五分焼く。
こんがり焼き色が付いた、カボチャのひき肉詰めが完成となった。
リュシアンがカボチャにナイフを入れると、肉汁がじゅわーっと溢れてくる。上に載せていたチーズも、糸を引いていた。
一口大にカットして、コンスタンタンに味見をするよう「あーん」してきた。
チラチラと、料理人の視線を感じていたが、リュシアンの「あーん」は断れない。
それに、カボチャのひき肉詰めもおいしそうだった。
コンスタンタンは口を開き、リュシアンに食べさせてもらった。
「――ッ!?」
焼きたてアツアツだったが、リュシアンは火傷しないよう冷ましてから口に運んでくれたようだ。
まず、肉汁溢れるひき肉の旨味が口の中へと広がり、あとからカボチャの甘さを感じた。チーズの塩っけが、カボチャと肉の味わいを引き立ててくれる。
「コンスタンタン様、いかがでしょう?」
「非常に、おいしい。これは、メインを張れる、すばらしい料理だ」
そう答えると、リュシアンは満面の笑みを浮かべていた。




