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『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

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お嬢様はおもてなしスイーツを作る

 ソレーユが提案した、ぼったくり食堂の準備は着々と進んでいった。

 リュシアンは今日も張り切って、料理を作る。

 ロザリーと共に、王の菜園の倉庫にカボチャを取りに行った。


「なるべく、傷ついたものを選んでくださいね」

「はーい」


 ガチョウのガーとチョーが、揃って倉庫の入り口に立っていた。

 この先を通る者、我らを倒してから行くといい、と言わんばかりの迫力があった。

 まだ、リュシアンの騎士役を務めているらしい。

 その様子に気付いたリュシアンは、クスリと笑ってしまう。


「ガー、チョー、いつも、ありがとう」


 リュシアンが話しかけると、クワクワと甘えた声で鳴く。

 聖誕祭ノエルの丸焼き用に、仕上げて連れてきた二羽であったが、今ではすっかり家族の一員のように思っていた。

 ただの家禽から家族になるなんて、奇跡のようだった。


「しかしアンお嬢様、ガーとチョー、いい感じの肉付きですね」

「ロザリー、ガーとチョーは家族の一員ですよ」

「す、すみません」


 ただ、ロザリーの言うことも否定できない。

 ガーとチョーの肉付きは、大変すばらしかった。

 リュシアンの実家では、毎年ガチョウの丸焼きを食べていた。聖誕祭のためだけに、育てていたのだ。

 ガーとチョーは、リュシアンが初めて育てたガチョウである。孵化から見守り、餌を与え、肉質がよくなるよう運動もさせた。そのため、このように懐いている。

 羽は艶があり、健康状態も良好で、自慢のガチョウに育った。

 父親であるフォートリエ子爵も、「こんなむっちりしたガチョウは見たことがない!」と絶賛していたのだ。


「ロザリー、わたくしはもう、ガチョウのお肉を食べられないかもしれません」

「あらら。だったら、今年の生誕祭は、鶏にしますか? それとも、七面鳥?」

「アランブール伯爵家では、鶏の丸焼きを食べると、コンスタンタン様はおっしゃっていましたわ」

「だったら、今回は鶏祭りですね!」

「ええ」


 丸焼きにされるとは欠片も思っていなかったであろうガーとチョーは、リュシアンに身を寄せて甘える仕草を見せていた。


「ガー、チョー、わたくしは行きますので、王の菜園の警備を頼みますね」


 リュシアンがそうお願いすると、ガーとチョーは元気よく鳴いて、王の菜園の巡回をするために飛び出していった。


 選んだカボチャをカゴに入れて、倉庫を出る。

 王の菜園には、緑が目立つようになっていた。もう、火事の跡は残っていない。

 ここで働く農業従事者達の努力の賜物だろう。


「アンお嬢様、畑も、元に戻りつつありますね」

「ええ」


 けれど、まだ失ったものは取り戻せていない。

 ソレーユ考案のぼったくり食堂を成功させて、王の菜園の復興をさせなければ。

 リュシアンは気合いも新たに、アランブール伯爵邸に戻った。


 帰宅後、休まずにそのままカボチャ料理の調理を開始する。

 ドレスの上からエプロンをかけ、腰部分でしっかり結んだ。


「アンお嬢様、今日は何を作るのですか?」

「お土産用にお渡しする、カボチャのパウンドケーキですわ」

「あー、いいですね」


 パウンドケーキを渡す相手は、世界中の美食を口にしてきたような人達である。

 普通のパウンドケーキでは、印象に残らないだろう。


「そんなわけで、パウンドケーキに一工夫加えようかなと」

「パウンドケーキへの工夫ですか。はて……?」


 ロザリーはカボチャをカットしながら考えていたようだが、思いつかずに降参した。


「アンお嬢様、わからないです。教えてください」

「正解は、キャラメリゼしたカボチャをパウンドケーキに混ぜて焼くんですよ」

「うっわー! それ、絶対おいしいやつじゃないですかー!」


 そんなわけで、カボチャのキャラメリゼ作りからはじめる。


 まず、カットしたカボチャを煮て、八割程度火を通す。

 次に、カボチャを油で炒め、軽く焼き色が付いたら砂糖と水を加える。

 カボチャの周囲に飴色のキャラメルが絡みついたら、火を止める。


「うーわ、おいしそう。これだけでも、お菓子として成立しそうですね」

「一つ、味見をしてみましょうか?」

「わーい」


 ふうふう息をふきかけて冷ましたカボチャのキャラメリゼを、口に含む。

 周囲のキャラメルはパリッパリ。中のカボチャはほっくり甘い。


「あー、アンお嬢様、天才です。神がかったおいしさです」

「ロザリーったら、大げさですわ」

「そんなことないですよお」


 続けて、パウンドケーキ作りを行う。


「アンお嬢様、私、パウンドケーキ作り、苦手なんですよねえ。いっつも、パサパサに仕上がってしまって」

「もしかして、焼いた当日に食べていませんでした?」

「食べていました」

「パウンドケーキは、日を置いたほうがしっとり感が増して、おいしくなるのですよ」

「そうだったのですねー!」


 ロザリーのパウンドケーキへの悩みが解決したところで、調理に取りかかる。

 ボウルにクリーム状にしたバターと砂糖を混ぜ、そこにバニラビーンズを加える。次に、溶き卵の中に小麦粉とふくらし粉を混ぜ、クリーム状にしたバターと混ぜる。ここで、先ほど作ったカボチャのキャラメリゼを入れてさっくり混ぜ合わせた。

 長方形の型にバターを塗って、生地をそっと優しく流し込む。調理台の上で生地が入った型を何度か叩きつけて空気を抜いたあと、四十分ほど焼く。

 仕上げに、シロップとブランデーを混ぜたものを、刷毛で全体に塗るのだ。


「一週間ほど熟成させたら、カボチャのキャラメリゼパウンドケーキの完成ですわ」

「い、一週間も、ですか?」

「ええ。おいしくなる秘訣です」

「ひや~~……!」


 完成したカボチャのキャラメリゼパウンドケーキは、油紙に包んで棚の中に保存する。


「アンお嬢様、冷暗所ではなくていいのですか?」

「冷やしてしまうと、食感がボソボソになってしまうのですよ」

「そうなのですね」


 試食は一週間後のお楽しみだ。

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