Li sTe N -リッスン- 6
夕方の教室は、静まり返っていた。
誰もいない。
机と椅子だけが整然と並んでいる。
その中で美月は未來の席の前に立っていた。
引き出しを開ける。
プリント。教科書。ノート。
無造作に取り出し、机の上に置いていく。
「このノート、見せてみろ」
そう言って、未來に差し出す。
「嫌だよ」
即答だった。
「なにも書いてないの、バレんじゃん」
「いいから見せてみろ。お前はちゃんと書いてるだろう」
「どこにだよ」
ノートを受け取ると未來は表紙を開く。
「ほら、よく見ろよ」
ページをめくる。
パラパラと音だけが教室に響く。
白紙。
白紙。
また、白紙。
「反対側から見せてみろ」
「……えっ」
一瞬、手が止まる。
目が泳ぐ。
「お断りします」
「ダメだ」
美月が手を伸ばす。
ノートを奪い取ろうとする。
「ちょっ――」
未來はすぐに取り返す。
少しだけ、間が空く。
観念したように、ノートを裏から開く。
「……ほらよ」
今度はやけに早くページをめくり始める。
「はやすぎだ。もう一回」
「はいはい……」
未來は舌打ち混じりにゆっくりとめくる。
ページが一枚ずつ、確かにめくられていく。
――そのとき。
殴り書きの文字が、視界に入る。
「ストップ」
美月の声が低く落ちた。
指がページを指す。
「これはなんだ?」
「……ゲッ」
逃げ場がない。
ページにはびっしりと文字が並んでいた。
整ってはいない。
ぐちゃぐちゃで、でも確かに“言葉”だった。
「ちゃんと書いてあるじゃないか」
美月がわずかに笑う。
知っていた、という顔。
「これは……」
未來は言葉を濁す。
「お前はこんなにたくさんの感情を抱えてるのに」
ページを見たまま、言う。
「どうして隠す?」
「……いつから知ってたんだよ」
「ここに書いてあるお前が本当の未來なんじゃないのか」
「だから、いつから――」
言葉が遮られる。
「誰かが痛みや苦しみを感じている時」
ゆっくりとした声。
「自分も同じように感じられる心があるんじゃないのか」
「……」
「逆に、誰かと一緒に笑い合えることもあるんじゃないのか」
間を詰める。
「どうして、そんな自分を隠そうとする」
「……俺は」
未來は視線を逸らす。
「誰ともツルむ気ないからね」
「いつからそんなふうに、一歩引いて人と関わるようになった」
「俺は、いつだってひとりだ」
「未來」
名前を強く呼ぶ。
「そうじゃない」
静かに、でもはっきりと。
「お前だけが孤独な人間なんかじゃない」
「……なんで、わかんだよ」
「わかるさ」
「さっきはわからないって言ったろ」
「わかるんだ」
言い切る。
「……よし」
美月の目がわずかに変わる。
「証拠、見せてやる」
「どうやってだよ」
未來が眉をひそめる。
そのまま、美月はノートを指差す。
「お前、そのノートに書いた言葉を繋げて」
一拍、置く。
「歌を作れ」
教室の時計は空気も読まずチックタックと進み続ける。
「自分の吐き出した言葉でだ」
「……はぁーー!!」




