Li sTe N -リッスン- 5
「わかった。もうなにも言わないし、なにも聞かない。ただ……」
「ただ……なんだよ」
「お前の母さんがまだ生きてた頃にな」
未來の足が、わずかに止まる。
「いつも嬉しそうに、俺に話してくれたぞ」
「……なにをだよ」
振り返らないまま、低く返す。
「未來は人懐っこくて、よく笑って、よく泣いて、音楽が大好きな子なのよ、ってな」
「……ふーん」
どうでもよさそうに返す。
「音楽が好きなところだけは、変わってないみたいだけどな」
「じゃあいいじゃん」
「良くないだろ」
即答だった。
「今のお前は」
「なんだよ」
「音楽に逃げてるだけだ」
空気が止まる。
「はっ?!」
「人の作った歌に、自分の都合のいいところだけ重ねて」
一歩、詰める。
「共感して、慰められて、現実から目を逸らして」
さらに近づく。
「それで安心してるだけだろ」
未來が視線を逸らす。
その瞬間、腕を掴まれた。
「そうだろ」
強い力。
「俺の言ってること、間違ってるか?」
「そんな……こと……」
言葉が、途切れる。
「けどな、未來」
握る力が強くなる。
「お前が聴いてる歌の主人公は、お前じゃない」
「あんたになにがわかんだよ」
「なにもわからないさ」
あっさり言い切る。
それでも、手は離さない。
「でもな」
真正面から見据える。
「お前、ほんとは誰よりも伝えたいことがあるんじゃないのか」
視線がぶつかる。
「自分のこと、もっとわかってほしいって思ってるんじゃないのか」
未來が、目を逸らす。
「……ちゃんと伝えろよ」
「もういいよ……」
「なにがいいんだ?」
「もうわからないんだよ」
腕を振り払う。
「俺だって……自分のことがわからないんだよ」
「嘘つくな」
「はっ」
「お前はちゃんと、わかってるはずだ」
再び、腕を掴まれる。
さっきより、強く。
「なにすんだよ」
「いいから、ちょっとこい」
引かれる未來の腕。
「嫌だよ。もう帰るんだっつーの」
「いいから」
未來の抵抗を無視して、美月は歩き出す。
そのまま、校舎の中へ。
向かう先は――教室だった。




