Li sTe N -リッスン- 4
「なぁ未來」
美月の声が少しだけ低くなる。
「お前にとって屋上は、楽しい思い出なんか一つもないだろ」
未來の視線がわずかに揺れる。
「一年の時は上級生に目をつけられ、ここでボッコボコにされ…、二年の時はここで担任と――」
「もういいよ」
遮る。
少しだけ強く。
「それ以上言うな」
空を見たまま、言う。
さっきまでの軽さは、もうなかった。
「……なーんにも」
ぽつりと、こぼれる。
「なーんにもないけどさ」
目を閉じる。
「空を近くに感じられるから……それだけでいい」
風が吹きサラサラな前髪が揺れ、視界が少しだけ滲む。
「……未來、大丈夫か?」
その一言で、現実に引き戻される
「また、なんだよ急に。気持ち悪いな」
すぐに、いつもの調子に戻る。
戻さないといけない。
「お前の両親がいなくなった夏の終わり……この時期になると、お前はいつも――」
「えっ」
「悲しそうな顔、するだろ」
言葉が刺さる。
「そんな顔、してねーよ」
「バレバレなんだよ」
逃げ場がない。
「なぁ未來、もっと素直になれ」
「だから、そんな顔……」
「悲しい時は悲しいって、言えばいい」
静かな声だった。
「寂しい時は、寂しいって顔すればいいだろ」
優しい声だった。
「……そんな事、簡単に言うなよ」
「簡単な事だろ」
「俺は男だぞ」
未來は、強い口調で言う。
「誰かに弱音吐いて、人前で泣くなんて……そんなのダセーよ」
「ダサくなんかない」
間を置かずに返ってくる。
その真っ直ぐさが、うざい。
「……だったら」
未來は、小さく呟く。
「俺だって、ほんとは……そうなりたいって思って…る…よ」
風に紛れるくらいの声。
「……そうか」
短い返事。
それ以上、何も言わない。
「……なーんちゃって!」
未來は美月の顔を見て、笑う。
いつもの顔。
「ウソだよ」
ニヤリと口角を上げる。
「そんな姿、誰にも見せたくない」
「……そうか」
「ってか、なんの話してんだよ」
鞄を持ち立ち上がる。
「もう帰る」




