Li sTe N -リッスン- 2
3年の2学期(数ヶ月前)
数学の授業中だった。
チョークの音が黒板を引っかく。
規則的で無意味で…眠くなる音。
「コラーッ!」
そのリズムを壊すように怒鳴り声が落ちた。
「なにやってるんだーッ!!」
教室の視線が一斉に一ヶ所に集まる。
蒼葉未來。
窓際、後ろから二番目の席。
そこだけ空気が違っていた。
未來は顔も上げず、イヤホンを耳に押し込んだまま、窓の外を見ている。
――無駄に晴れわたる空。
ただ、それだけ。
「おいっ!!聞いてるのか?!」
机を叩く音。
それでも、未來は動かない。
音楽を聴いてる方がマシだった。
「なんなんだ!その態度は!!」
「……」
何も返さない。
返す言葉がないんじゃない。
返す意味がないだけだ。
「おいっ いい加減にしろ」
次の瞬間、視界がぶれる。
両耳から、イヤホンが乱暴に引き抜かれた。
「イッテーよ」
未來はゆっくり顔を上げる。
鋭く細めた目が、まっすぐ教師を射抜く。
「うるせぇな。ちゃんと聞こえてるよ。……それ、返せ」
「聞こえてるなら、返事ぐらいしろ」
「それ返せよ」
教師の手から、イヤホンを奪い返す。
乱暴に。
「真面目に授業出てんだから、これくらい、いいじゃん」
小さく吐き捨てる。
「どこが真面目にだ!」
間髪入れずに返ってくる声。
――うるさい。
「あー……じゃあもう帰る」
椅子を引く音が、やけに響いた。
「あんたの授業なんか、これ以上聞いてらんねーよ」
ポケットから取り出した、赤い携帯を指先で操作して、音量を一気に上げる。
耳に押し込む。
世界が音に塗り潰される。
「待ちなさーーい!!」
背後で何かが叫んでいる。
でも、届かない。
――届かなくていい。
教室のドアを開ける。
ざわめきが一瞬だけ膨らんで、すぐに歪む。
「あいつ何がしたいの?」
「バーカ」
「帰れっ帰れっ!!」
笑い声。
軽い声。薄い酸素。もうどうでもいい。
未來は振り返らない。
ドアを閉めた瞬間、ふと我に戻った。
廊下は静かだった。
音楽だけは…やけに優しい。
鼓動みたいに、内側から響いてくる。
――こっちの方が、まだマシだ。
誰の声もいらない。
誰の言葉もいらない。
ただ。
音だけあればいい。
未來はそのまま、歩き出した。




