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Li sTe N -リッスン- 1


2020年、秋 (現在)


 朝の教室はうるさい。


 笑い声とか、机を引く音とか、どうでもいい会話とか。

 全部が薄っぺらくて耳障りだった。


「おはようございます。」


 担任の声に適当な返事で返す生徒たち。


「おはよーございます。」


 誰も本気で言ってない。

 そんなのわかりきってる。


「今日は待ちに待った文化祭の日ですね。放課後の練習の成果を、出し切りましょう。」


「オォー!!」


 教室が盛り上がる。

 理由なんてなくても騒げればそれだけいい。


 未來の席は空いたままだった。


 窓際。後ろから二番目。

 誰も座っていない椅子だけが、やけに目立つ。


 別にどうでもいい。

 そう思われてるのも、知ってる。


「私たちクラスの発表は2年B組の後ですので、その演目が終わる15分前には舞台袖に集合しておいて下さいね」


「はーい」


「それと、蒼葉先生の意向でサプライズ演目があるそうです。」


「なに?なに?なにやんの?」


「楽しみにしておいて下さいね。」


「どーせ、つまんねぇだろ」


 笑いが起きる。あははは…


 未來が教室に居ないことなんて、誰1人として気にかけていなかった。




屋上。


「……はぁ」


 浅く息を吐く。


 今ならまだ逃げられる、ただそれだけは。


「なんで、あんなこと言うんだよ……」


 ぽつりと呟いた言葉は風にすぐ消えた。


 ――歌え。


 美月の声が頭の中に残っている。


 あの人はいつもそうだ。

 勝手に決めて勝手に背中を押してくる。


 逃げ道なんて最初から用意してない。


「……別に聞かせるために書いたわけじゃねぇし」


 ポケットの中で指先が紙の感触を探る。

 何度も書き直した、あの歌詞。


 ノートの裏に隠すみたいに書いてた言葉。


 誰にも見せるつもりなんてなかった。


 あれはただ、無意識に吐き出しただけ


 溜まったものを外に出さないと、

 頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃうから。


「……Listen、って」


 美月がつけたタイトルに、ハズと笑う。


 聞け、って誰にだよ。


 誰も、聞かねぇだろ。


 ……聞いたところで、どうにもならない。


 フェンス越しに空を見る。


 無駄に広い。

 居るのかそこにと手を伸ばす。



「……クソ」


 吐き捨てる。


 あの日から、何も変わってない。


 親がいなくなった日。


 言いたいことはあるはずなのに、

 口を開くと何も出てこない。


 ――だから書いた。


 声にならないものを、文字にした。


 それを、歌に。


「……ほんと、最悪」


 美月の顔が浮かぶ。


 優しい顔。

 でも、その奥で絶対に引かない目。


 逃げようとしても、見逃さない。


 あの人だけは。


「……チッ」


 舌打ちして、顔を背ける。


 行かなきゃいけない理由なんて、どこにもない。

 でも――行かない理由もどこにもない。


 面倒くさい。


 全部。


「……一回だけだ」


 誰に言うでもなく、呟く。


「これで終わりにする」


 ドアノブに手をかける。


 ――逃げるなら、今だ。


 そう思いながら…それでも体育館へと向かった。


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