第8話 体育時間
現在、千歳高校の体育の授業中。男女に別れての2人 一組となってバレーボールの練習中である。
「雪乃ちゃん~!いきますわね」
「良いよ~!真莉愛ちゃ~ん!」
「いきます。刀也様~!」
「う、うん。良いよ~!藤乃さ~ん!……じゃなくて!なんで僕が女子の体育に参加してるのさ~!」
雪乃達が楽しそうにしている光景をジーッと見つめている彰と近衛綾人。
綾人は、彰の親友の1人で、近衛マンションのオーナー、近衛夕凪の姉弟である。
「……なぁ、悪友の綾人君よぉ」
「なんだい?ただのクラスメイトの彰くん」
「この1週間マンションから出なかったらしいけど。九条さんと何かあったのか?親友の綾人くん」
「……………………何も無かった」
(お前もかよ!なんで俺の親友は同じ反応してくるんだ?)
楽しそうに体育の授業を受ける真莉愛を見ていながら告げる綾人の顔には、焦りの汗が身体中から流れていた。
「綾人く~ん!」
それを見て嬉しそうに手を一生懸命に振る真莉愛。そして、優しそうな顔で手を振り返す綾人。
おいおい!これ何かこの2人の間に絶対に何かあっただろうと確信する彰。
「おいおい。綾人く~ん!やっぱり。九条さんと何かあったんだな?なんだよ。なんだよ。何があったか教え……」
「それ以上 、詮索するなら貴様と霜月との同棲を全校生徒にバラすが良いかな?親友の彰君」
少年漫画の悪役の様なゲスい顔で、彰へと質問する綾人。その顔はとてもとても楽しそうだった。
「はぁ?!綾人。お前……なんでそれを知ってんだ?」
「いや。カマをかけてみただけだけど。なんかあったんだな。親友君」
「おまっ!なんつう悪い顔してんだ。綾人」
ニヤニヤと楽しげに笑う綾人。その笑みは策士で有名な姉の夕凪とそっくりだった。流石、姉弟である。
彰は思う。このまま雪乃について喋らされて、事あるごとに話のネタとしてイジられると。
「ふ、藤村く~ん!」
そんな彰の事など知ってか知らずか。一生懸命に綾人に手を振る真莉愛の隣で、負けじと、彰に向かって手を振る雪乃。
(お、おいおいおいおい!なにしてんだ霜月さんは!このままじゃあ綾人に俺達が同棲してる事がバレるだろう)
「…………まぁ。お互いにトップシークレットな秘密事があるという事でこの話はこれでお終いにしようか。彰」
雪乃の反応で何かを察した綾人は、彰に向かって右手を差し出した。それを見た彰も連れてその手を握る。
「へ?あぁ。分かったよ……(何だ?随分と唐突に話を終わらせたな。綾人のヤツ)」
「人には言いたくない関係性ってやつがあるからな。うん!あるんだ。これがな……アハハハ」
「そ、そうなんだな。なんか知らんが頑張ってくれ。綾人」
「うん。頑張ってみるわ。色々と。……(真莉愛のせいで俺に注目が集まってる。バレたら色々と不味いんだよ。俺達は!後で家に帰ったらお仕置きだからな。真莉愛~!)」
強制的に話を終わらせたと思えば落ち込み始める綾人。彼にも彼なりの悩みがあるのかもしれない。と思う彰だった。
そんな体育の授業の一幕を思い出しながら授業で使った道具を片付ける当番だった為、雪乃と一緒に体育倉庫の中に居た彰は、綾人へと聞こうと思ったとある事を思い出した。
「あ!しくじったな。綾人に夕凪さんの事について聞くの忘れてたわ」
「夕凪さんの事ですか?」
バレーボールを持った雪乃が彰に聞く。今日の片付け当番が彰だと知ると、彰にお手伝いしますと自分から言い出し付いて来ていた。
「あぁ、あの人には色々と聞かないといけない事があるだろう?霜月さんの義理のお母さんの事や、霜月さんがマンションから出る事になった経緯とかさ」
「経緯ですか。……そうですね。夕凪さんには、昔から私の家族との間に入ってお世話になってますし。会いたいですね。夕凪さんに」
「そう。……なんだ」
「……はい」
雪乃は昔の思い出を懐かしむ様に体育倉庫の隅をジーッと見つめていた。
夕凪という人物を親友のお姉さん程度の認識の彰に対し、雪乃の場合の夕凪は母親代わりの様な存在だった。まぁ、そんな事を彰は知る由もないのだが。
そして、体育倉庫の外から、なにやら賑やかな話し声が聴こえ始めた。
「なんで僕が女子の体育の授業に参加しないといけなかったの?藤乃さん」
「それは刀也様が私のご主人様だからです」
「意味が分からないよ。藤乃さん。……全くもう!帰ったらお仕置きだからね。体育倉庫の扉開けっ放しだし……」
「嬉しいですわ。刀也様……」
そんな会話の後にガラガラと、閉められていく体育倉庫。
「は?おいおい!あの声刀也達だよな?なんで扉を閉めて。……おーい!まだ俺達が中に居……」
ガコンっと閉められる扉。外側から鍵まで閉められてしまった。
「閉じ込まれた。……あの声。刀也だな?会話に夢中になると周りが見えなくなるよな。やられたな」
「一緒に居たのは紫陽花ちゃんでしょうか?なんで体育倉庫なんかに2人で来たんでしょう?」
「……くそ~!あのボケボケコンビめ。やってくれたな」
「ですね。紫陽花ちゃんはいつもボーッとしてますからね」
「あぁ、刀也だ。スマホも持ってないこんな時に、大ボケ噛ましてくれたよ。あのおしどり夫婦」
ちなみに最近の刀也と紫陽花はまるでカップルの様に常に一緒に居る為、彰と雪乃は2人の関係は色々と怪しいと思っている。
この2人も大概怪しい関係なのだが。彰も雪乃もボケボケコンビなので気づいていない。
「どうしましょう。今日最後の授業でしたし、放課後の部活動が始まるまで開きませんね。体育倉庫の扉」
「そうだけど。これは色々と不味いシチュエーションだよな?」
「シチュエーション……ですか?」
焦った顔でそう告げる雪乃に対し、冷や汗をかいて絶望的な表情の彰。
(おいおい。やばいやばいやばいやばい。学校から離れたマンションならともかく。学校内は不味い。しかも体育倉庫だと?霜月さんは千歳高校のマドンナ。さっきの授業だって、男子生徒から俺に向けられる殺意の波動をどうにか耐えていたんだ)
彰が脳を一番活性化させ思考を巡らせる時は、自身が窮地に立たされた時だ。
そのずる賢い思考回路で自分の絶体絶命のピンチを打破する為に、普段は使わない脳みそをフル回転させる。
「んしょ……んしょ……駄目です。藤村君。開きませ~ん!」
「だな。……(別にクラスメイトとして接すなら自然だろうが。ここは密室の体育倉庫。悪は我にありじゃねえか。このままでは俺が霜月さんを体育倉庫に閉じ込めて襲おうとした変態になる。そんな事が学校全体に知れ渡れば俺は死ぬ!社会的に死ぬ)」
雪乃の可愛らしい動作など気にも止めず。彰は脱出方法を模索する。
(放課後までに体育倉庫を出ないと。霜月さんと一緒に居る決定的な瞬間を俺達の事情を知らない生徒に見られてしまう。クラスの帰りの会が終わる前に脱出しなくては。……こういう時に紫陽花とかが異変に気づいて助けに来てくれるけど。アイツ。刀也に夢中だったから無理だよな。……詰んだわ)
「……《《やっと》》学校でも2人きりですね。藤村君」
「ん?……ああ。そうだな。霜月さん」
絶体絶命の彰に対して、雪乃は嬉しそうに彰の近くへと徐々に近づき始めた。
一方その頃、体育倉庫外では――――
「なんで帰りの会ギリギリまで校舎裏に待機してるのさ?藤乃さん」
「それは私の親友にお願いされたからですわ。刀也様」
「相変わらず意味が分からないよ、藤乃さん」
そう告げると刀也は校舎の方へと走り出して行った。
「了解しました。刀也様。〖藤村君と仲良くなりたいの作戦〗スタートですね。雪乃さん。フフフ……」
紫陽花は似合いもしない不敵な笑みを浮かべていた。




