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第9話 感謝彼女

 ここは昼休みの空き教室。なにやら不穏な雰囲気で話し合っている美少女達が2人。紫陽花は雪乃のお願いを聞いていた――――


「藤村君に何かお礼がしたいの!紫陽花ちゃん」

「彰君にお礼ですか?」

「彰君?……あれ?紫陽花ちゃんって、藤村君の事を下の名前で呼ぶの?」

「……いえ。昔の話です。小さい時のくせなので忘れて下さい」

「う、うん。分かった。それでね!」


 紫陽花は両手で顔をおおっていた。


 どうやら普段皆の前では、彰の事を藤村君と言っているのに、雪乃の前で言ってしまった事が恥ずかしかったみたいだ。


 恥ずかしいそうにしていた紫陽花は、スーッといつもの落ち着いた顔に戻り、雪乃を見つめた。


「お礼ですか。何故、雪乃さんが藤村君にお礼を言いたいのかは分かりかねますが。……とりあえず。あ……藤村君には、缶コーヒーでもあげてしまえば充分だと思いますよ」

「缶コーヒー?そんなので良いの?私、いつも藤村君にはお世話になりっぱなしでね。それで……えっと……ね……」


 どうしよう。色々話したら、藤村君との同棲生活がバレちゃうと考えた雪乃は、会話の最後に口ごもってしまう。


「……雪乃さんも色々な事情があるみたいですね」

「へ?」


 そんな雪乃の態度を見た紫陽花は、なにかをさっしたか。自分のおでこに親指を当てて何かを考え始めた。


「ムムム…………色々と考えましたが。やっぱり。藤村君には、缶コーヒーでもあげて、ありがとうと言えば、いと思います」

「で、でも、それじゃあ駄目だよ。藤村君は私にいつも良くしてくれてね」

「あの人が昔から優しいのは知っていますよ。昔から……それに藤村君は昔、沢山稼いでお金には困っていませんし。雪乃さんの心からの感謝のお言葉でしたら喜ぶと思います」

「そ。そうかな?そ、それじゃあね、紫陽花ちゃん。ちょっと協力してほしい事があってね。体育……」


 そんなやり取りがあった事など、知る由もない彰は焦っていた。


(この間、ネットで見た死亡遊戯じゃないんだ。どうにか体育倉庫から脱出して、無事に生還しなくちゃ駄目だ)

「あの!藤村君、のどとかかわいてないですか?」

「体育の後だからな。少し乾いてるかな。……古い建物だし窓を外してみるか?いや、それだ…」


 体育倉庫内を見渡しながら、必死に脱出方法を模索する彰の横で、雪乃は隠し持っていたコーヒー缶を取り出した。


「DOSSです。どうぞ!」


 頬っぺたを赤く染めた雪乃が、両手に缶コーヒーを持って彰へと差し出す。


「あぁ、ありがとう。霜月さん。……何でDOSSなんて持ってんの?霜月さん」

「はい!昼休みに自動販売機で買っておきました。計算通りです!」


 そして、満面の笑みでみずからのたくらみを暴露ばくろしてしまう。アホの子な雪乃。


「計算通り?………」


 数秒思案し、彰は体育倉庫の窓の外からこちらの様子をうかがっている紫陽花の存在に気づいてしまった。


「あ、あの。藤村君。今日は、藤村君に伝えたい事があって一緒に閉じ込めさせてもらいました」

「……霜月さん。貴様~!俺をめようとしたのか?」

「ひぃ!な、なんで怒ってるんですか?藤村君。重い、重いです。DOSSがだんだん重くなっていきます。藤村君!」

(まさか、真面目な霜月さんが、俺に悪戯いたずらを仕掛けて来るとは思わなかったな)


 彰は雪乃が持っていた缶コーヒーを右手で持つと、雪乃の頭に缶コーヒーを乗せて自分の体重を雪乃の頭に少しずつ負荷ふかをかけ始めた。


「外で待機しているアホの娘と組んで、俺に何かしようとたくんでたな」

「な、なんでそれを知ってあるんですか?ア、アホの子なんて知りません」

「なら、あそこの窓の外で俺達をボーッと見ている紫陽花は何だ?」

「……窓の外で……ボーッと?………私の親友の紫陽花ちゃんですね」

「だよな」 


 2人は窓の外をジーッと見つめた。そこにはワクワクした顔で事のすえを見守っている。紫陽花の姿があった。


「……頑張って下さい。雪乃さん」


 この瞬間をもって雪乃と紫陽花が企んだ〖藤村君に日頃のお礼を言いたいの〗作戦は、失敗に終わり。彰は雪乃に反省させる為に一人芝居打つことにした。


「後で、あのど天然にはお仕置きするとして……」

「ひぃ!ごめんなさい。ぶたな……」

「いや、ぶたないけど。なんで紫陽花と一緒にこんな変な事したんだ?霜月さん」

「え?」


 それは優しい声だった。おびえた雪乃を落ち着かせる為に、彰は優しげな口調で雪乃に問いただした。


「いつも学校だと優等生な霜月さんが、なんの理由もなく。俺を体育倉庫に閉じ込めないだろう?何かあったのか?」

「えっと。……それはですね」


 いつの間にか雪乃の頭に乗せられていた缶コーヒーも、彰が両手に大切そうに持っていた。


「うん。ゆっくりでいいから、俺に聞かせて。霜月さん」

「は、はい。えっと。……藤村君には普段から凄く凄くお世話になっているので、缶コーヒーをプレゼントとしてからちゃんとしたお礼を言いたかったです!ごめんなさい!」


 雪乃は深々《ふかぶか》と彰に頭を下げた。今にも泣きそうな顔で……


「おう!良いよ。缶コーヒーとお礼をありがとう!霜月さん」

「え?!………藤村君?私の事をしからないんですか?」

「なんで叱るんだよ。お礼を言ってくれた人にさ。それよりも教室戻ろう。帰りの会始まっちゃうぞ」

「藤村君。……はい!……ありがとうございます。ごめんなさい」


 自身の変な企みで体育倉庫に閉じ込めたのに。怒るどころか彰から感謝されてしまった雪乃は。戸惑いつつも、彰の心からの気づかいに感謝して、彰には聞こえない声で謝ったのだった。


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