第7話 同居会話
ここは都内の緊急病棟。
この現場の担当医師と看護師は、2日前へに緊急で搬送されて来た患者2名に頭を抱えていた。
「ぐおおぉ!!痛えぇよょ!早く治してくれよ。ヤブ医者共!!美和子。お前!意識あんだろう?なんか喋れや!」
「………………(無職で犯罪歴のある私が喋れるわけないでしょう。つうか!私の名前を連呼すんじゃないわよ。屑)」
緊急手術を無事に終え。意識を取り戻したと思えば。2人を懸命に救おうとした医師達に向けて、男の方は暴言を吐き。女の方は一切なにも喋ろうとはしなかった。
「意識を取り戻してくれたのは良かったですけど。ずっと騒いでるんですよ。どうされます?先生」
「どうしろって言ってもねえ。荷物も車が炎上したせいで全部燃えたんだっけ?」
「はい。スマホも財布も燃えたとは言っていました」
……2人の緊急患者を担当している医師は、怪しむ様に2人の患者を見つめる。
「これじゃあ。親族にも連絡のしようがないね。住所不定・無職……あの2人はいったい何者なんだろうね?」
「……身分を偽った犯罪者とかですか?」
「いや。流石にそんなわけないよ」
「ですよね」
医師と看護師は笑い合いながら。異様な2人の患者の話で盛り上がっていた。
◇
そして、場面は変わり。ここは暖房が効いた彰の部屋。雪乃は炬燵の中でゆっくりしていた。
〖都内某所で起こりました。男女2名の飛び出し事故のニュースです。緊急搬送された2名は意識を取り戻しましたが。身分が分からず警察が現在調査に動き―――〗
「……………」
炬燵の中へと入った状態で、リビングにあるテレビをボーッと眺めている雪乃。
「炬燵、ハマるだろう?」
「へ///いえ!そんな事ありませんよ!べ、別に寒い時は毛布の中に入れば冬の寒さは越せますから」
「…………(相変わらず。思い出話が重いな。霜月さん)」
いや。そんなとんでも話を暴露されるとは思わなかった彰。
「でも。珍しいんだな。今時の女の子ならスマホに釘付けだろうに。テレビばっかり見てるなんてさ」
「……えっと。スマホもお義母さんが解約したみたいなんで。もう使えません。えっと。圏外です」
雪乃は、テーブルの上に置いてあった使い古されたスマホを取り出すと彰へと液晶画面を見せた。
「随分と年期が入ったスマホだな」
「はい。死んだお母さんに買ってもらった初めてのスマホなんです。なのでずっと使ってます」
「そうなのか。そりゃあ大事なスマホだな」
「はい!」
圏外と表示された雪乃のスマホを見て、ある事を考え始める彰。
(一緒に住んでいるとはいえ。この先、四六時中、霜月さんと居るわけにもいかないしな。連絡手段が無いのも困るな。また紫陽花にお願いするのも気が引けるしな)
彰は、数日前の学校の空き教室に呼び出した紫陽花とのやり取りを思い出した………
(ネロに高級猫缶を毎日あげてるんだ。俺のお願いを聞いてくれ。紫陽花)
(……無理です。私は、とある方の専属メイドなので無理です)
(婚約破棄したとはいえ。元婚約者だろう俺達。緊急事態なんだ。頼む!紫陽花)
(あれはお母様同士が勝手に決めた事ですからね。……分かりました。不死屋のオレンジジュースで手を打ちます)
(ぐっ!高級店のオレンジジュースじゃねえか。流石に容赦ないな)
(彰さんは元婚約者なので当然です。そして、今は良きお友達です)
(だな)
その次の日の学校で彰は、紫陽花に大量の高級オレンジジュースを約束通り手渡した。
(紫陽花め。容赦なく俺から搾り取っていったな。いつもの事だが)
「藤村君。どうかしましたか?」
「いや。色々とな。……霜月さんのスマホ買わないといけないよな」
「え?……いえ!そんな!そんな事までしてもらうなんて失礼ですよ。駄目です。駄目ですよ!」
首を左右に振り、断ろうとする雪乃。だが。今後、雪乃の義理の母親が彼女を本当に連れ去ろうとするじゃないかと考えている彰には、そんな事はお構い無しだった。
「最新式が良いよな?防犯機能めちゃくちゃあるスマホにするか?」
自分のスマホを取り出した彰は、スマホをポチポチと操作して最新のスマホが映し出されたページを雪乃へと見せる。
「20万以上?!あ、あの。藤村君。私、そんなお金持ってませんから。買えません。無理です」
「いや。霜月さんは欲しい物だけ言ってくれればいいって。後は送ってもらえばいいんだからさ。お!これとかどう?折りたたみ型だってよ。面白そうだな」
「わ~!良いですね。色も青色で可愛いですし。……お値段30万円以上?!スマホでですか?」
驚愕な表情で固まる雪乃。何で今のスマホってこんなに高いの?とか心の中でツッコミを入れた。
「おう!じゃあこれにするわ。購入購入っと」
「ま、待って下さい!そんな。30万円以上なんて……」
「もう買ったわ。最近は便利だよな。スマホ買うのもオンラインストアで済むから。わざわざ携帯ショップまで行かなくてよくてさ」
「いえ。そうじゃなくてですね。藤村君。お金を…」
「もう購入終わったぜ。来月の支払い額は見たくないけどな」
〖購入ありがとうございました〗と書かれた画面を笑顔で見せる彰。これで雪乃との連絡手段が確保できると安堵した。
「……な、なんで。もう購入しちゃうんですか?私にはお金が無いんですよ」
「それは霜月さんの安全よりも高いのか?」
「はい?」
「例の霜月さんの母親が何時なんどき仕掛けてくるかもしれないんだぞ。普通は一刻も早く対策しないといけないだろう」
深刻な顔で雪乃へと告げる彰。その表情は、いつもの優しい雰囲気と違っていた為。雪乃は少し驚いていた。
「そ、それはそうですけど」
「……そうか。良かった。それに金の事なら心配しなくて良いぞ。俺はそもそも生活費用さえあれば暮らせるし。《《貯まっていく一方》》だからな」
「貯まっていく一方ですか?あの?それってどういう?」
「いや。昔の曲がな」
「曲ですか?」
「あ……いや。今の話は忘れてくれ。黒歴史だからさ。アハハ」
何かを誤魔化すように。わざとらしく笑う彰。それを見た雪乃は、これ以上、この話には踏み込まない方が良いと判断し。スマホの話題を中断した。
「?は、はい。……(黒歴史?いったいなんだろう?)」
その後。スマホを買い終えた彰と雪乃の会話は別の話へと移っていく。
「そういえば。霜月さんの部屋。あの狭い客間でいいのか?俺の部屋より少し狭いだろう?」
炬燵に入った彰は、お茶を飲みながら雪乃に質問する。
「い、いえ。住まわせてもらってるだけでもありがたいのに部屋の文句なんてありませんよ」
「そうか?俺なら一緒に住んでても文句は、どんどん言った方が良いと思うけどな。霜月さんと俺は家族みたいなもんなんだし」
「か、か、家族ですか?!藤村君。そ、それってえぇ!!」
「……例え話だけど。なんでそんなに慌ててんだ?」
真顔でそう告げる彰。そしてそれを見た雪乃は、先程までの頬の赤みは薄れ。少しムッとした表情になった。
「家族が例え話ですか。そうですか……そうでしたね。えー!そうでしたね」
「ん?何、いきなり怒ってんだよ。霜月さん」
「いえ。なんでもありません。私が勝手に怒ってるだけですので、お構い無くです。藤村君」
頬を膨らませて。自分の単純思考にイライラする雪乃。それを見た彰はというと。
(やっぱり客間だと部屋狭かったから怒ってのかもな。それか。……やっぱり鏡台とかの家具が無いから不満に思ってんかもな)
「私は単純ですからね。勘違いもしちゃ……いますよ」
「今度の休み。IKEOに行こうか。家具を買いにさ」
「えっと……分かりました。(よく分かってないけど)」
「よし!決まりな。週末は、霜月さん用の家具を見に行くと。ついでにゲーセンでもよろうぜ。映画も良いな。なぁ?霜月さん」
「はい?」
彰の言葉がよく分かっていない雪乃。こうして週末は家具を買いに、2人っきりで外へと遊びに行く事が決定した。




