第5話 学校生活
「ねえ?彰。霜月さんとなんかあった?」
「……いや、何もない。それよりも。刀也こそ。紫陽花と何かあったのか?」
「…………………いや。何も無いよ」
「なんだよ。今の間は?」
「…………………別に何も無いよ。うん。何も無い」
土日の休みも終わった月曜日。彰と雪乃は《《何事もなく》》登校していた。
そして、彰が見つめる先には、雪乃が、クラスメイトの友達と談笑している姿だった。
「そういえば。今日も近衛は休みなのな。先週からどうしたんだろうな?アイツ」
「だね。九条さんも休んでるし。イチャイチャしてるとか?幼馴染みなんでしょう?あの2人って」
さっきから彰と親しげに話している絶世の美少年は、風間刀也。彰の高校から友達で、いつも行動を共にしている。
最近は、専属メイドを雇ったと。千歳高校で可笑しな噂が流れているが、定かではない。
「……さぁ?友達の事とはいえ。そいつのプライベートまで深く入り込みたくないな」
「出た出た。彰の他人事の振り。どうせ。近衛君が大変な目にあってたら助けるくせにさ。このこの~!」
刀也は、彰の脇腹を右肘突っつきながら。ニヤニヤしている。
「……うわ。ウザァ」
そんな刀也の可愛らし仕草を、彰は鬱陶しそうに払い除けた。
「アハハ。怒った怒った」
「それで?刀也の方は休みの日は何してたんだよ?噂の専属メイドさんと過ごしてたのか?」
「……………………何も無いよ」
刀也は気まずそうに、雪乃と楽しげに喋っている女の子の方へと目を向けた。その目線を彰は追った。
「……そっか。何かあったんだな」
「だから何も無かったよ」
この時の刀也の体中は、汗まみれになっていた。
(……刀也様がこちらを見られてますね。何か。私に、ご用事か何かでじょう?)
「それでね。紫陽花さん。私、なんとか新しいお部屋に住まわせてもらう事ができたの。その人が凄く良い人でね」
「ほうほうです。良かったですね。雪乃さん」
この、ボーッと雪乃の話を聞いている女の子は、藤乃紫陽花。
黒紫色の髪色をお団子状の髪型にして、肌は雪化粧を思わせるように白くて綺麗な肌。
顔立ちも整っている和風美人の女の子で雪乃の親友の1人。
「うん。凄く良いなの。凄く良い人なんだ。……私の話しもちゃんと耳を傾けてくれて、尊重してくれるの」
「……素晴らしい方ですね。まるで刀……あ」
紫陽花は、”とお”っと言いかけて喋るのを中断した。額には、
「とお?どうしたの?紫陽花さん」
「遠い親戚ですね」
「遠い親戚?そうなのね。紫陽花さんの親戚にも。藤……あ」
「ふじ、ですか?」
「ふじ…富士山みたいな。徳の高い人がいるのね。オホホホ」
「はぁ、そうなのですね。オホホホ」
実は、雪乃も紫陽花。どちらも人には言えない秘密を抱えている。
まぁ、紫陽花の方はとっくに、とある秘密を全校生徒に暴露した為。その秘密は周知されているが。彰と雪乃は、とある事情があり。その珍事件を全く知らない。
そして雪乃は、今のままの話題で話を続ければ。彰との共同生活が、紫陽花にバレてしまうと考えて話題を変える事にした。
「そ、そういえば。真莉愛ちゃん。今日も休みなんだね。これで、3日目かな?」
「……そうですね。真莉愛さん。お体は強い方でないので、心配です」
「だね。……真莉愛ちゃんは、フリーダムな女の子だから心配だね」
「ですです。真莉愛さんは、フリーダムな方なので。近衛君も色々と大変だも思われます」
真莉愛というのは、雪乃達の親友で。いつも学校に居る時はいつも一緒に行動している女の子で。最近学校を休んでいる。
「雪乃、紫陽花。今日の放課後。一緒に買い物付き合ってくれない?」
「木ノ華ちゃん」「木ノ華さん」
雪乃達の話し割って入って来たのは、清水木ノ華。2人の友達である。
「あ。……えっと。ごめんなさい。木ノ華ちゃん
。私、今月もお金に余裕が無くて。その…」
気まずそうな顔で、木ノ華を見つめる雪乃。
「え?雪乃。また例のお義母さんに苛めてるの?そろそろ。お父さんに、今の現状伝えた方が良いよ。なんなら私の両親とかにも相談して……」
「それは止めて!そんな事したら。木ノ華ちゃんがあの人に何されるか分からないもの」
「雪乃。……わ、分かったわ。何かあったら相談してね。なら、紫陽花は…」
「メイドの仕事があるので無理です」
「だよね。ポンコツメイドなのにね」
「ポンコ…酷いです。木ノ華さん」
紫陽花は、木ノ華を不満そうに見つめる。紫陽花と木ノ華は、小さい頃からの仲なので。軽口を叩き合う仲の為、言葉を鋭くなる。
「はい。ポン、ポン、ポンコツっと。2人には、フラれたから。……彰~!放課後暇~!」
「へ?藤村君に行くの?」
「……雪乃さん?」
木ノ華は彰の元へと、手を振りながら小走りで向かって行く。そして、雪乃はそれを見るやいなや慌てふためき始めた。
……それを横で冷静に見つめる紫陽花だった。
「彰~!放課後は、どうせ暇でしょう?買い物付き合え」
「げっ!木ノ華。なんで俺の方に来るんだよ」
「げっ!清水さん」
木ノ華の登場により。嫌な顔を隠そうともしない彰と刀也。
「……ア、アンタ等。張り倒すわよ。私が何をしたっていうのよ?」
それを見た木ノ華は、2人の制服の胸ぐらを掴み。ドスの効いた声で問い質す。
「いや。俺にとって、木ノ華はトラブルメーカーだからな」
「だって、この間の裁判で、僕は清水さんに処されたからね。僕は当分。清水さんとは……はぎゃあ?!」
刀也は、木ノ華に頭を右手で掴まれ、そのまま静かになった。
「そう。風間君は、用事があるから来れないと。彰は?」
「……お前。なんで。刀也の扱い雑なの?」
「ん~?失言したから?」
笑顔で、そう答える木ノ華。その間も、刀也は静かにしている。
ちなみに、彰と木ノ華は小学校から高校まで同じ学校に通っている知り合い同士で。学校でも行動する事が多い。
「際で。…………」
彰は、一瞬。雪乃の方へと目を向けた。今、雪乃がどんな表情をしているか確かめる為に。
「……藤村君」
「……おいたわしやです。刀也様。後で帰ったら良い子良い子してあげます」
雪乃は、複雑そうな表情をし。その隣の紫陽花は、刀也の事を心配そうに見つめていた。
「何々《なになに》?そっち側に何かある……の?おふ?!」
「ないない。それよりも。悪いけど今日は無理だわ。木ノ華。……つうか暫く無理かも。悪い」
「……なんで無理なの?前はもっと皆で遊びに行ってたのに」
「だから。俺にも事情があるんだっての。昔からの付き合いなんだから。察してくれるだろう?」
彰は両手を重ねて、木ノ華に頭を下げて謝る。
「あん?察しろだあ?小さい頃にアンタが落ち込んでる時、ずっと側に居てやったのに。恩を仇で返す気?彰」
それを見た木ノ華は、随分と不機嫌そうな顔で彰に告げる。
「つっ!……いや。それには、感謝さてるけどさ」
再び。雪乃の方へと一瞬だけ目を向ける。彰。
彰は、雪乃の事を心配している。放課後に雪乃1人にする事を。
「………ほう。ほうほう。成る程ね」
そして、そんな彰のちょっとした変化に気がついた小学校からの腐れ縁。物言い彰の幼馴染み。木ノ華は、何かに気づいた様子だった。
「なにが。ほうほうなんだよ。木ノ華」
「いやいや。今日は、引かせてもらいますよ。《《彰君》》。君も色々と大変みたいだからね。ほら、今日の放課後は、私と買い物に行くわよ。風間」
「……あが……うあ」
傀儡人形の様にコクコクと。木ノ華の命令を、了承する刀也。
「刀也様~!お気を確かにして下さい」
それを少し離れた場所で、アワアワしながら意識を失った刀也へと近づく紫陽花だった。
(木ノ華。なんか気がついたか?いや、気がつかれた所で今の霜月さんを放っておけるわけないしな。……霜月さんを安心させる為に、ウィンクでもしとくか)
彰は、バチッ!とできもしない下手なウィンクを雪乃に向かって放つが……
「え?えっと……なんですか?藤村君。私に何かのアイコンタクトでもしてくれたんでしょうか?」
「うお!霜月さん。居たのかよ……いや。何も。ただの瞬きの練習だから。気にしないでくれ。霜月さん」
どうやら。彰が雪乃に伝えたい事は、全然伝わっていなかった様で。雪乃は、彰の不自然な行動の真偽を聞く為に隣に立っていた。
◇
《霜月家 リビング》
ここは、雪乃が3年前まで住んでいた実家である。今は、血の繋がらない義理の母親と。その愛人の歪んだ愛の巣になってしまっているが。
煙草臭い部屋には、床一面に何が入って入るかも分からないのゴミ袋や、空いたビール缶の山が散乱していた。
「はぁ?もう。小遣いがあげられないって、どういう事だよ。美和子」
「だから言った通りよ。夫が海外から帰って来るから収入が激減するの。数ヶ月待ってくれれば。娘が住んでいたマンションの家賃代もろもろ手に入るから待ってなさいよ。大毅」
背丈は低いが。筋肉質な30代後半位の男と。長年の不摂生が影響して、酷い肌荒れと髪質をした女が言い争いを始めた。
男は、家無し無職の屑男田中 大毅。不健康そうな女の方は、雪乃の義母。美和子である。
この2人は、昔から付き合っている間柄で、美和子は長年に渡り、実の夫に不倫を隠し続け。大毅と不倫関係を維持していた。
「数ヶ月待ってだぁ?!馬鹿なのか?お前!それじゃあ、俺の毎日の生活日と遊ぶ為の金は出されんだよ?」
「だからそれは! ちゃっと!何すんのよ?!私が頼んだ誘拐もすっぽかして。アンタ!私の恋人ならちゃんと働きなさいよ!娘の誘拐くらい簡単にできるでしょう!」
「……娘?!あぁ。美和子が拐え拐え言ってた。女子高生か?……おい。スマホ貸せ。美和子」
「ちょっと! 何?勝手な事しないでよ!」
大毅は、美和子が手に持っていたスマホを無理矢理取り上げると。保存フォルダーのアプリを立ち上げて、ストレージを確認し始めた。
「なんだよ。……俺とは、違う男との思い出写真ばっかじゃねえか。家族の思い出写真くらいいれとけや」
「家も無い浮浪者に言われたくないわよ」
「うるせえな。……お!あったあった。へ~、結構。可愛い女子高生の娘じゃねえか。美和子に全然似てねえな。おい。ハハハ」
不気味な笑いを浮かべながら、雪乃が写った写真をなめ回す様に見つめる屑男。
「夫の連れ子よ。そのガキを誘拐して、どっかに連れて行ってほしいって、アンタに頼んだのに断ったんじゃない」
「馬鹿。そんな事を今の監視社会でやる奴なんていねえよ。直ぐ捕まって人生終わんだろう」
「……アンタの人生なんて。ずっと前から終わってるじゃない。私と一緒で」
「違いねえな。……だが。お前の娘は金になるぜ」
「は?今更。誘拐したって遅いわよ」
イラついた顔で、美和子は屑男を睨みつける。この2人。お互いは嫌いあっているが。別の意味での相性は良い為、関係が奇跡的に続いている。
「ばーか。誘拐なんてしねえつうの。こんな上玉の金の卵だぞ。壊れるまで使い古すつうの」
「……何をする気よ?言っとくけど。犯罪行為に私を巻き込むんじゃないわよ。夫が帰って来たら。離婚して、多額の慰謝料を貰って海外に住むんだから」
美和子はボーッとした顔で、口から涎を垂らして。淡い明るい未来を想像した。
「馬鹿が。馬鹿な夢見てんじゃねえよ。それよりも。お前の義理の娘で、商売始めんぞ。商売」
「商売?何すんのよ?」
「いいか。よく聞けよ。美和子」
―――
――
―
「アハハ!何それ!最高じゃない!」
「だろう?たんまりと儲けようぜ」
「フフフ!」「ハハハハハハ!」
屑男と毒母の笑い声が、雪乃の実家内で響き渡った。




