表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SKY  作者: RUI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/44

Sky39-光の残像-

 


 

 宇宙ソラは、 いつもみたいに静かだった。


 センサー表示の中では、 帝国補給船団のマーカーがじわじわと近づいているのに、

  コクピットの中には自分の呼吸音しかない。


 《……ジャミング層、 展開完了》


 リア――《Jelly》 の冷静な声が、 ヘルメットの内側に落ちてきた。


 《護衛艦のレーダー帯域、 予定通りいくつか“穴”ができてる。 今のところ、 こっちには気

 づいてない》


 HUDには、 帝国側の探知範囲が淡い円で重なり合って浮かんでいる。

 その隙間を縫うように、 細いラインが一本――さっきブリーフィングでカイトが引い

 た “綱渡りコース”だ。


 《Strike Wing、 こちらブリッジ》


 ニコの声が、 いつもより少しだけ低くなる。


 《現時点で敵船団との距離、 三万。 Shade、 Fox、 Vector、 Jelly、 予定ルートどおり進

 行中。 ……このままなら、 真正面からバレる心配はなさそうだ》


 「その “このままなら”が怖いんだよな」


 サジ――《Fox》 が、 軽口混じりに笑った。


 《まあ、 帝国さんが教科書通りに動いてくれることを祈るさ》


 「祈るなら、 せめて俺たちの腕を信じてもらおうか」


 ウィリス――《Shade》 の声は、 相変わらず眠たそうで、 それでいて芯がある。


 《Vector》


 その声に呼ばれて、 カイトは短く息を吐いた。


 「……聞こえてる」


 《さっきお前が引いた線、 信じて前に出る。 嫌になったら、 今のうちに“やっぱやめま

 す”って言っとけ》


 「言わないよ」


 カイトは、 スロットルをほんの少しだけ押し出した。


 HUD上の “矢印”が、 引いたラインにぴたりと重なる。


 ここを通れば、 見えないで近づける


 自分で描いたコースだ。

 もう、 引き返す選択肢は最初からない。


 *


 帝国補給船団は、 教科書みたいな陣形を組んでいた。


 中心に灰色の輸送艦が三隻。

 その前後を、 やや小ぶりの護衛艦が二隻、 ぴったりと挟んでいる。


 《護衛艦の索敵パターン、 ループ解析完了》


 リアの声は落ち着いていた。


 《……やっぱりマニュアル通り。 こっちから見て右後方、 二十秒ごとに “死角”ができる。

 そこにジャミングを合わせる》


 「つまり、 “そこから殴れ”ってことだな」


 ウィリスが、 短くまとめる。


 《Fox、 撤退ルートのビーコン準備》


 「了解・了解。 逃げ道作っておくから、 前の二人は存分に暴れてきな」


 サジの機体マーカーが、 わずかに外側へずれる。

 補給船団から少し離れた空間に、 小さな光点がいくつも散っていく。

 デコイと退路確保用のマーカーだ。


 《Strike Wing、 攻撃位置まで十秒》


 ニコのカウントが始まる。


 カイトは、 視界の片隅で補給艦のシルエットを捉えた。


 燃料タンク。

 コンテナ。

 ハッチ。


 どこに何が載っているかなんて、 ここからは分からない。

 ただ、 「ここを潰せば、 この先の戦場で撃たれる弾が減る」 という一点だけが、 任務とし

 て目の前に置かれている。


 《五、 四、 三、 二――》


 「Vector、 先行する」


 カイトはスロットルを一気に押し込んだ。


 機体がきゅっと軌道を変える。

 リアが張った電子幕の “穴”の縁を滑るようにかすめて、 補給船団の死角に飛び込んだ。


 《行け》


 ケイの声が、 ブリッジから短く落ちる。


 トリガーに指をかけた。

 HUDの照準が、 護衛艦と輸送艦の継ぎ目――いちばん装甲の薄い接続部に吸い込まれ

 る。


 ここ


 カイトは、 迷いなくトリガーを引いた。


 ミサイルのアイコンが、 視界から消える。

 次の瞬間、 護衛艦の側面で、 白い閃光が弾けた。


 《っ……命中確認》


 ミナの報告が、 ブリッジに響く。


 護衛艦のシールドが崩れ、 バランスを失った船体がわずかに傾く。

 その隙間に、 ウィリスの機体が滑り込むように突っ込んだ。


 《Shade、 囮に入る》


 ウィリスの機体から、 連続射撃の光が走る。

 護衛艦の対空砲座に向かって、 誘導弾が次々に突き刺さった。


 《っち、 こっち向いたな》


 帝国側の迎撃機が、 護衛艦のハッチから吐き出されるように飛び出してくる。


 数は多くない。

 けれど、 慌てた動きと、 訓練された反応が入り混じったその機動は、

 明らかに “人”が乗っている感触だった。


 《Fox、 後ろ取った》


 サジが、 きらりと笑うような声で言う。


 《退路と、 敵の逃げ道、 まとめて塞いでやるよ》


 補給船団の周囲に、 いくつか小さな爆発が咲く。

 デコイと妨害弾が、 敵のセンサーをめちゃくちゃにかき回している。


 「……逃げる線は」


 カイトは、 すでに次の “矢印”を探していた。


 護衛艦が片方沈んだ。

 もう片方は、 隊列を崩さないように前に出ようとしている。


 輸送艦の一番後ろの一隻が、 わずかに進路を変えた。


 そこだ


 このまま行けば、 その艦は 「味方を盾にする」 形で、 艦隊の影に隠れようとする。


 そこに何が積まれているかは分からない。

 けれど、 指揮系統か、 特殊な積荷――隊列全体がそこを “守ろうとしている”のは、 動き

 の線を見れば分かる。


 「Vector、 後列の三番艦を落とす」


 《了解。 前は俺が引き受ける》


 ウィリスの声と、 正面で起こる光の雨を、 視界の端に追いやる。


 カイトは、 機体をぐっと回頭させた。


 輸送艦三番艦の裏側に回り込む。

 敵の迎撃機が、 遅れて追ってくる気配。


 ここで逃がせば、 この先で誰かが死ぬ


 自分の頭の中で、 線と線が交差する。

 今この瞬間と、 少し先の戦場と。


 だから、 選ぶ。


 《Jelly、 三番艦周辺に追加ジャミング》


 《了解。 ……やるなら早くして。 こっちもそんなに長くは持たない》


 リアの声と同時に、 ミニマップ上で、 三番艦の周囲にノイズが走った。


 カイトは、 その “ざらつき”の中央に照準を合わせる。


 「……っ」


 トリガーを引く。


 ミサイルが、 ほとんど反射的な動きで放たれた。


 白い軌跡が、 輸送艦の船腹に突き刺さる。


 一瞬の静寂。


 そのあと、 船体の内部から破裂するような光が溢れた。


 《三番艦、 大破。 ……沈む》


 ミナの声が、 わずかに遅れて落ちる。


 爆発の光の中で、 輸送艦の装甲板が剥がれ、 黒い影になって宙に散っていく。


 *


 ブリッジ。


 ホロスクリーンには、 帝国補給船団のシンボルが、 一つ、 また一つと消えていく様子が

 映っていた。


 「衛星の残像、 拡大」


 ミナが指先を走らせる。


 爆発直前、 三番艦の船内カメラから飛んできた映像が、 一瞬だけスクリーンいっぱいに

 広がった。


 白い蛍光灯に照らされた狭い通路。

 積み上げられたコンテナ。

 走る影。


 作業服の男が、 振り返る。

 誰かに何かを叫んでいる。 口の形だけが、 音のない映像の中で開閉する。


 その背後から、 白い光が一気に飲み込んだ。


 「……っ」


 ミナは、 短く息を呑んで、 すぐに映像を切った。



 ニコが、 横からちらりと彼女を見る。


 「大丈夫か」


 「ええ。 ……任務です」


 ミナは、 ごく小さく頷いて、 視線をコンソールに戻した。


 モニター上では、 帝国補給船団の残骸が、 ただの点になりつつあった。


 「Strike Wing、 全機の状況は?」


 《Shade、 小破。 装甲削られただけだ。 問題ない》


 《Fox、 無傷! ほら見ろ、 “逃げ道担当”は地味なんだよ》


 《Jelly、 システムにオーバーヒート警告。 帰ったら冷やして》


 《Vector、 ――》


 一瞬、 言葉が途切れた。


 《……大丈夫。 帰れる》


 カイトの声は、 少しだけかすれていたが、 はっきりしていた。


 《Strike Wing、 全機帰投ルートに乗った。 追撃は……今のところなし》


 ニコが、 静かに告げる。


 「よし」


 ケイは、 それだけ言って椅子に深く背中を預けた。


 「戻ってこい」


 *


 帰投ルートの最後のカーブを抜けて、 SKYたちはコアシップの格納庫レールに乗った。


 減速。 ロック。 動力停止。


 カイトは、 システムチェックを最低限だけ済ませると、 ハーネスを外してコクピットを

 出た。




 梯子を降りる途中で、 鉄骨の匂いと、 格納庫のざわめきが一気に押し寄せてくる。


 「よお、 線読み坊や」


 降り立った先で、 タミルが腕を組んで待っていた。


 その視線は、 カイトではなく、 機体の装甲に走る弾痕や、 焦げたパネルに向けられてい

 る。


 「……また、 派手にやってきたな」


 「必要最低限にしたつもりですけど」


 カイトがそう答えると、 タミルは鼻を鳴らした。


 「お前らの “最低限”と、 俺の “最低限”は違うんだよ」


 そう言いながらも、 指で弾痕の縁をなぞり、 内部まで貫通していないことを確かめる。


 ほんの一瞬だけ、 表情が緩んだ。


 「……まあ」


 タミルは、 機体の脚をこん、 と軽く蹴る。


 「壊すなよ。 ちゃんと戻ってきたから、 今回は許す」


 その言い方が、 どこか安堵に似ていて。


 カイトは、 小さく息を吐いた。


 「次も、 ちゃんと戻ります」


 「口で言うな。 機体で証明しろ」


 タミルは、 それだけ言って整備班に指示を飛ばし始めた。


 格納庫の騒がしさが、 少しずついつもの 「日常」 の音に戻っていく。


 さっき、 ミナのモニターに映った “走る影”のことを、 カイトはまだ知らない。

 あの艦の中に人がいたことを。


 ただ、 沈んでいく補給艦の光の残像だけが、 まぶたの裏に焼き付いたままだった。




次回更新は1/18 0時頃になります。



【SKY〜Harbor Nights〜】

※本編とは異なる時間・視点の短編を収録しています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ