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SKY  作者: RUI


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Sky2-世界が終わる日-


翌日の午前中。

中等部の教室には、いつも通りのざわめきがあった。


窓の外では、宇宙空間に散る微細な光が、飽きるほど見慣れた背景として広がっている。


「——じゃあ、進路希望調査の最終提出な。今日までだぞ」


担任の声が、教室に響く。


あすみの机の中には、まだ名前も書いていない進路希望の紙が入ったままだ。


(普通科。地球の学校に行く、って書けばいい……はず)


昨日、伯母にはそう言った。

でも、紙に書こうとすると、ペン先が止まる。


——カイトは、もうパイロットの道を選んでいる。


(私まで軍に行ったら、きっと、両親を裏切るみたいに感じる…)


そんな子どもじみた感情と、

「それでも、そばにいたい」という欲張りな気持ちが、胸の中でぶつかり合う。


「おーい、昼休み、外のデッキ行かね? 地球見えるらしいぞ」


ジョンの声がして、クラス中がわっと沸いた。


「行く行く!」


「今日は雲少ないって!」


——その瞬間。


世界が、かすかに軋んだ。


ほんの一瞬、照明が揺れたような気がした。

窓の外の景色が、ほんの少し、歪んだような。


「……今、何か——」


あすみが視線を上げた時。


「きゃ——!」


悲鳴が、どこかの教室から重なって聞こえてきた。


床が、ぐにゃりと波打つ。

天井が遠くなり、次の瞬間には目の前に迫る。


「地震……? いや、コロニーで——」


誰かの声は途中で途切れた。


黒板が白いノイズに溶けていく。

隣の席のアンの顔が、モザイクみたいに碎ける。


壁も、窓も、空も——

全部が「線」と「点」にほどけて、ばらばらになっていった。


(え……なに、これ)


耳鳴り。

遠くで誰かが叫んでいる。


「システムが——!」


何人もの声が、混ざり合う


「戻せ! まだ——!」


知らない大人たちの怒鳴り声が、ノイズに飲まれて消える。


そして、視界が真っ白になったと感じた瞬間


全てが落ちた。





ランプの灯に反応して、意識が戻ってきた。


まぶたを開けると、白い天井に見慣れない照明が並んでいる

…左右には機械のパネルと、静かに点滅するランプの列。


(……ここ、どこ)


「……起きたのね。大丈夫? 気分悪くない?」


柔らかい声と、消毒液の匂い。


喉がひどく乾いている。

身体は重くて、自分のものじゃないみたいだ。


「……こ……こは?」


かすれた声でそう問うと、顔を覗き込んでいた女医が微笑んだ。


「……医務室よ。ずっと眠ってたから、まだあんまり動けないと思うけど……」


見覚えのある顔。

いつも診療室で会っていた、優しい女医——カイトの母さん。


「あ……ばさ……」


呼ぼうとした名前の代わりに、まず浮かんだのは、たったひとりの顔だった。


「……カイト……は?」


女医の表情が、ほんの一瞬だけ揺れた。


「……今はいないの。さ、ゆっくり休んで」


「……?」


返事になっていない。


胸の奥に、不安がじわっと広がった瞬間、視界がまた暗くなっていく。


(……さっきまで、教室にいたのに)


アンの笑い声。

カイトの横顔。

伯母の部屋の、古い地球の写真。


全部が遠ざかっていく。


(夢? 違う……現実?それともあれが夢……?)


考えるより先に、意識はまた深く沈んでいった。



どれくらい時間が経ったのか、分からない。

知らない大人が入れ替わりやってきては検査やこれまでの状況の説明をしていった


少しだけ歩けるようになった頃、

あすみは静かな通路を、一人で歩いていた。


(「ずっと眠ってた」って、どれくらい?

 どうして誰も、ちゃんと説明してくれないの——)


艦内放送の音が遠くで鳴っている。

ここが宇宙船の中だ、ということだけは、窓の外を流れる星々が教えてくれる。


——その時。


曲がり角の向こうから、声が聞こえてきた。


「……え? 行方不明ってなに? 医療ポッドの信号読めないの?」


「回線が切られたらしい。途中から全く分からなくなって、捜索隊も戻って来たってよ」


「じゃあ、エリンさんの息子さん、見つからないってこと?」


足が止まる。


(……エリンさんの、息子さん——)


胸が冷たくなっていくのが分かった。


(……カイト?)


ふらつく足で、あすみは医務室へと戻った。


自動扉が開く音が、やけに大きく響く。


「…行方不明って、どういうことですか?」


エリンに詰め寄る。

彼女は、少しだけ目を伏せてから言った。


「……聞いたのね」


「……教えてください」


声が震える。


エリンは、深く息を吸ってから、言葉を選ぶように続けた。


「……貴方たちが13年間眠っていた医療ポッドの施設が、襲撃されたの。」


「……13年?」


「あのコロニーで暮らしていた時間は、全部プログラム。

 貴方たちを守るために作られた、仮想環境だったの」


「……守る、ため……?」


頭が追いつかない。


「彼は、その襲撃の時に連れ去られた。誰にかは、まだ分かっていない」


「……そんな……」


さっきまで、一緒に教室にいた。

昼休みの計画を立てて、帰り道のことを話して——。


「あの教室は……プログラムされた世界?」


エリンは、答えない。

ただ、苦しそうに唇を噛んだ。


「だって....さっきまで……嘘……」


床が揺れた。

自分の身体が崩れ落ちたのか、世界が崩れたのか、区別がつかない。


(私は……13年間、眠ってた?

 あのコロニーは……全部、作り物?)


喉の奥から、声にならない息が漏れた。


(カイトがいない)


目の前の世界が完全に崩れ去った瞬間だった。

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