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SKY  作者: RUI
REDROSE

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15/120

Sky15-北を焦がす光-

本作『SKY』は作者本人が小説家になろうにて連載・管理しています。無断転載・無断利用を禁じます。

 


 警報は、雪の夜を切り裂くみたいに鳴り響いた。


 《全館に告ぐ。帝国軍、北東山脈方面より接近中。識別コード未登録。地上部隊およびSKY部隊、第一戦闘配置につけ——》


 半分眠っていた意識が、一気に覚める。


 セリが眉をしかめ、ベッドから跳ね起きる

「……マジかよ」

 寝起きの声に苛立ちが混じる。枕元の端末を掴み、仮眠室のベットに寝ていたアスミを視線だけで急かした。

「あすみ、起きろ」


 アスミは跳ねるように上体を起こし、息を切らす

「起きてる!」

 すでに、枕元の端末を叩き落とす勢いで立ち上がっていた。制服の上着を掴み、足を突っ込む。冷たい床の感触が、かえっていい目覚ましになる。

 廊下に飛び出すと、同じように寝起きの隊員たちが一斉に走り出していた。制服のボタンを留めながら、靴紐を結びながら、それでも足を止めない。

「アルファ1・2、聞こえるか」

 走りながら耳元のイヤピースをねじ込むと、ハイルトンの声が飛び込んできた。


 《敵は山脈越し。地上の装甲車両と、小隊規模のSKY。まだ“様子見”の数だが——》

 声が少しだけ低く落ちる。

 《——今回は避難車列が、まだ山を抜け切れてない》

 その情報だけで、状況は嫌というほど見えた。

 北東の山あいを抜けてくる避難ルート。ついこの前、兄妹たちを拾い上げた道。

 雪と岩の隙間を縫って、車列が進む。その上を、帝国の影が覆いにくる。

「了解。アルファ1、出撃準備入ります」

「アルファ2、同じく」


 二人は声を揃えて返事をし、そのまま格納庫へ駆け込んだ。


 *


 昼間は工具音と冗談で賑やかな空間が、今は最低限の声だけで動いている。

 整備員たちが手際よくケーブルを外し、燃料ホースを外し、弾薬を装填していく。


「オルタイトタンク、正常値。同期回路オールグリーン。レイナー二等兵、問題なし」

 ラルフが早口に読み上げて、親指を立てた。

「ありがとう」

 アスミは短く礼を言い、コクピットへと駆け上がる。


 シートに体を沈め、ハーネスを締める。ヘルメットを被った途端、さっきまでの廊下の喧噪が一気に遠のいた。

(——行くよ)

 システムが起動し、透明なフロントスクリーンに、各種表示が浮かび上がる。


 《アルファ1、出力リンク開始。同期率、62……68……》

 リーサの事務的な声が、耳元に落ちる。

 《4、3、2、1——発進》

 瞬間、機体が後ろから蹴り出された。重力が一度押しつぶし、そのままふっと軽くなる。

 雪原と滑走路レーンが一気に遠ざかり、北方基地の光がミニチュアみたいになった。

 暗い雲の層を抜けると、そこには、薄く白んだ空と、遠く滲む星の帯があった。


「アルファ1、高度八千。北東へ向かう」

「アルファ2、同じく。……寒いな」


 セリの声が、いつもの軽さで紛れる。でも、その奥に緊張が混じっているのが分かる。

 遠く、山脈の稜線が黒い牙みたいに連なっていた。


 《敵編隊、接近。速度、マッハ2.6。こちらを探っている》

 機械音声が淡々と告げる。その淡々とした調子が、逆に怖い。


(探ってる……?)

 それはつまり、まだ本気じゃない。

 本気になったら、どうなる。

 脳裏に、雪の道を走る避難車列が浮かんだ。

 守らなきゃ。

 指先に力が入りすぎて、手袋の中で関節が軋む。


 黄色のバーのすぐ向こう側——さっきから、何かが扉を叩いている。

 開けたら戻れない気はする。けれど、開けなければ届かない場所も確かにある。


(今じゃない。まだ、ここで踏ん張る)

 そう決めたところで耳を刺すような、別種の電子音が割り込んできた。


 《……南西脈斜面に、新規熱源反応。複数。パターン固定中》

 リーサの声色が変わる。

 《推定……長距離砲座。砲列構築に移行しています》


「……は?」

 セリの短い息が、通信越しに漏れた。


 HUDの隅に、新しい赤点がぽつぽつと灯る。

 谷よりさらに上——山肌の雪を削るようにして、いくつもの熱源が並び始めていた。


(基地の方角……)

 嫌な予感が背筋を走る。


 《アルファ1、敵編隊まで——5、4、3——》


「行く」

 トリガーを引いた。

 光の帯が夜の空を裂き、最前列の敵機の装甲を削り取る。敵のカウンターの弾幕が、側面をかすめていく。

 警告灯が一瞬だけ赤く跳ね、機体が小さく震えた。装甲を削られた鈍い衝撃が、ハーネス越しに肋骨へ伝わる。


 視界の端が、少しだけ狭くなる。世界が、照準と軌道の線だけで構成される。


 《オルタイト出力、63%。同期率80%。アルファ1、負荷上昇中》

 《アルファ2、カバーに回る。右上、取るぞ》


「任せた」

 アスミは、セリの機体の影を盾にしながら、一気に距離を詰めた。


 敵機の間合いに踏み込み、ほとんど“ぶつかる”勢いで躱しながら機体を回頭させる。

 赤い銃火が、ひとつ、ふたつと夜空に咲いた。


(——まだいける)

 喉の奥で、自分の声がした。

 黄色のバーの向こう側が、じわじわと呼吸を合わせてくるような感覚。


 《……北東山脈裾野、地上部隊のシルエット確認。装甲車列、接敵》

 機械音声が告げる。

 その瞬間、あすみの心が冷たく締まった。


 下を見ない。見たら、手が止まる。

(守る)

 ただそれだけを、照準の中心に置く。


 敵機が避難ルート側に抜けようとした瞬間、その前に回り込み、弾道をねじ曲げる。


 《アルファ2、左側面の装甲車を押さえる。お前は上だけ見てろ》

「分かった」

 セリの声が、妙に落ち着いている。

 アスミは、ほんの一瞬だけ胸の奥が軽くなるのを感じた。


(……大丈夫。セリが下を押さえてくれてる)

 《地上車列、進行継続。第二区画を突破。上空援護、感謝する》

 短い報告が、胸の奥に小さな“手応え”を落とした。

 だから自分は上から、全部を見ていればいい。避難車列も。帝国の影も。自分の照準も。

 その“全部”の線が、どこで交わるのかを。


 *


 どれくらい時間が経ったのか、一瞬分からなくなった。


 敵機は確かに減っている。地上の装甲車も、何台かは煙を吹いて止まっている。


 《避難車列と地上部隊の距離、残り十キロ》

 《ノーザン・クロスからの砲撃まで、あと四分》


(……ギリギリ)

 呼吸が荒くなっていることに気付いて、アスミはわざと深く息を吸った。


 《オルタイト出力、72%。同期率86%。アルファ1、許容範囲を超過する可能性があります》


「うるさい」

 アスミは、機械音声に小さく吐き捨てた。

(限界、まだ分かんないくせに)

 視界の端にちらつくオレンジ色を、わざと見ないようにする。


 セリの低い悪態が、金属音みたいに耳に刺さる。

 アスミは、一瞬だけ息を止めた。

 さっきまで守り切ったはずのものが、まとめてその円の中に入っている。


 《アルファ1・2。現位置で待機しつつ、山側を監視。砲座が完成する前に、可能な限り攪乱してください》

 リーサの声が、冷たくなる。その冷たさが、逆に現実を突きつけてくる。

 敵は、基地ごと焼く気だ。

 《ここから先が、本番だ》


 雪雲の上で、二機のヴィーラが静かに旋回する。遠く、山脈の縁が、じわりと紅く滲んだ気がした。

(——まだ、終わってない)


 アスミは、握ったスティックに力を込める。胸の奥の熱も、さっきよりわずかに強く応えた。


 北の空は、まだ焦げはじめたばかりだ。



本作の本文・設定・登場人物・固有名詞・世界観・構成を、作者の許可なく転載、複製、翻案、要約転載、データセット化、AI学習・機械学習・生成AIサービスへの入力、解析、再配布に利用することを禁じます。


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