第5部「蠢く者」
ついに、ゼムたちは「世界の闇」と対峙する。
暁の傭兵団の活躍は、王都にまで知れ渡りつつあった。
しかしその裏で、腐敗した王政、陰謀渦巻く闇の傭兵ギルド、
そして一つの国を揺るがす──革命の火種が、静かに燻っていた。
欺瞞と暴力の連鎖。
民を盾に、真実を捻じ曲げて生き延びる者たち。
ゼムたちは、「守る」ために、あまりに残酷な現実を知る。
これはただの戦いではない。
この世界を“導けるかどうか”が、試される戦場だ。
そしてその裏で、彼らをあざ笑うように動く、
影の存在が蠢いていた。
◯登場人物紹介
◆ ゼム・マイスター
本作の主人公。知略と信念を武器に戦う若き軍師。
誰かを救うため、そして世界を導くために剣を抜く覚悟を固める。
◆ ジェイ(ジェイコブ)
闇の魔法と諜報に長けた情報工作員。
飄々とした態度の裏に、仲間への深い忠義を秘めている。
◆ サリイ・アイバーン
誇り高き金髪の女騎士。正義にまっすぐな言動は、時に戦場で命を賭ける覚悟に変わる。
◆アメリア・ドーン
バルザの娘。父譲りの戦闘センスで緑の光球を使用した弓による狙撃が得意
◆ローレン・マイスター
ゼムを拾った老人。その正体は賢者を継ぐものであり、ゼムに世界を見て、世界を導くよう使命を与えた。
※残りの団員の紹介は、後書きに記載しておきます。
第1章「傭兵団の拡大」
乾いた風が、小さな村の大地を吹き抜けた。
丘の上に築かれた木製の監視台、その頂に立つ青年のマントが、風を孕んでなびいている。
ゼム・マイスターは遠くを見つめていた。
整備が進む拠点の中庭には、新たな志願兵たちが列をなしていた。
武骨な傭兵、鍬を手にした農民、家族を守るために剣を取った青年──
その目はどれも、不安と期待に揺れていた。
ジェイ「また増えたもんだな。これで三十七人目……団長の顔も広くなったもんだ」
後ろから声がかかった。振り向かずとも、誰かは分かっていた。
ゼム「……ジェイか。報告は?」
ジェイ「特に変わった動きはなし。平和そのものだよ。まだまだ傭兵団への加入予定者は増える一方だ。」
ゼムは軽く目を細めた。
まだ陽は高いのに、胸の奥がざわつく。
急速に広がる勢力。
理想を掲げたはずの傭兵団が、いつの間にか“組織”になっていく。
ゼム『これでいいのか……?』
仲間の命を預かる身として、力は必要だと分かっている。
だがその“力”に、無自覚に呑まれてはいないだろうか。
バルザ「ゼム」
今度は別の声。振り返ると、バルザが訓練場から歩いてくる。
バルザ「またそんな顔をしているな。お前が迷ったら、皆は誰を信じればいい?」
ゼム「……迷ってはいない。ただ、考えているだけだ」
ジェイ「それ、迷ってるって言うんだって」
ジェイは笑いながら肩をすくめ、並んで丘の下を見下ろした。
「別にいいんじゃねーの?今の暁の傭兵団。臆病な盾がいて、トムのような世話焼きがいて、妙に色っぽいシスターまでいて──
なんだか、家族みたいじゃん」
ゼムは、ほんのわずかに目を伏せた。
それはまだ穏やかだったが、どこか遠くで──
何かが蠢いている気配が、確かにあった。
---
その日の夜、暁の傭兵団の古参メンバーが集まっていた。
トムが手元にある書類をもって話している。
トム「今日だけで20名のメンバーを迎え、総勢37名となりました。あまりにも子供だったり素行が悪いのは除いてはいますが…驚異的な数字です。」
ゼムは報告書を頬杖をつきながら、眺めている。
トム「…あと…言いにくいのですが、規模が大きくなったことで訓練をさせていますが…早く戦に行かせてくれや実入りの多い依頼をさせてくれという願いが募っています。」
ジェイ「おーおー血気盛んだね…」
バルザ「あほうが…まずは規律がなければ軍隊としては動くことはできぬ。」
トム「…はい…そうなんですが…」
サリイ「もう実践投入して、適当にやらせればいいじゃん」
ダンク「それは…ダメですよ…ちゃんと教育しないと依頼先の村で勝手に略奪とかするかもしれないし…」
ドンパ「人間ってのはめんどくさいな…」
ゼムは目の前で仲間達が言い争うのを見て溜息をつく。
アメリア「ゼムさん…?」
ゼム「いい加減にしないか…まずは教育だ。あいつらは暁の傭兵団という肩書が欲しいだけだ。暁の傭兵団の理念がわかるまで教育させろ。」
バルザ「承った。」
ゼム「しかし、実入りのある依頼も必要だ。」
そういうとゼムは静かに皆の目の前に1枚の書状を出す。
ダンク「書状…?」
皆の目線がゼムに集まる。
ゼム「我が傭兵団の王都への推薦書だ。」
会議場がざわつく。
ドンパ「おいおい!そんなものをいつ仕入れたんだよ!」
ゼム「領主様から頂いたんだ。これがあれば、王都で依頼を仕入れることができる。それなりに実入りのある依頼が手に入るだろう。」
トム「良い考えです。王都であれば依頼も高額なものがたくさんあるでしょう!」
ゼムは淡々と話す。
ゼム「王都に行くのは、情報収集でジェイ、俺のボディガードでサリイ、遠隔監視でアメリアの4人だ。」
ジェイ「王都での休暇もあるよな!?」
サリイ「任せておきなさい!」
アメリア「期待に添えるよう、頑張ります!」
ゼム「留守の間はバルザ、お前に拠点を任せる。ドンパとクララも協力してやってくれ。」
バルザ「承った。団長が戻ってくるまで、徹底的に新入りをシゴクとしよう。」
ドンパ「おう…任せておきな」
クララ「私も王都に行きたかったのだけれど…仕方ないわね♡」
ゼム「出発は、明朝。準備を怠るな。」
暁の傭兵団「りょうかい!」
こうして、依頼を求めて王都へ訪れることになったゼム達。しかし、待ち受けていたのは、王都のいや、世界の闇だった。
第2章「王都リルスティア」
ゼム達は王都に向かう街道上で馬車に揺られていた。
ゼムの懐には王都への推薦書が入っている。
ゼム『さぁ、どんな出会いが待っているのか』
心地のよい風が馬車をすり抜ける。しかし、その風にはどこか暗いものが含まれていたが、ゼム達は知るよしもなかった。
王都リルスティア。周りは高い壁に覆われており、中央には豪華絢爛な王城が小高い丘の上にそびえている。城下の大通りは生きのいい商人が店を構えている。
ゼム「ここが王都か…」
ゼムは馬車から降りて、大通りの奥に見える豪華な王城を仰ぎ見ていた。
サリイ「田舎もん…」
ジェイ「ゼムは王都は初めてか?」
ゼム「ああ…森から出たあとは城塞都市にしか行ってなかったからな。」
アメリア「本当に何度見ても目を奪われますよね。」
ゼム「さて、この王都への推薦書を提出して仕事を貰いに行こうか。」
ジェイ「それなら、こっちだ。」
ジェイが王都の傭兵ギルドまでの道を案内するため、先頭に立ってくれた。
ジェイに連れられ、大通りを歩く。
しかし、ゼムは大通りから覗く路地裏の雰囲気や通行人達のどこか暗い表情が気になっていた。
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傭兵ギルドに到着したゼム達は、受付に回る。
そこには、頬杖を書いた男性の受付が居た。
ゼム「私達は城塞都市にて旗揚げした暁の傭兵団だ。王都での依頼を受けたいが、斡旋してもらえないか?」
受付の男性「推薦書」
受付の男性は、頬杖をつけたままさっさと出せと言わんばかりに手を差し出す。
ゼム「………これだ。」
受付の男性「はいはい、お待ちを…」
受付の男性は面倒くさそうに立ち上がり、ギルドの奥に消えて行った。
ゼム達は傭兵ギルド内の椅子に座って待つことにした。
傭兵ギルドに入ったのは昼頃だったが、辺りが暗くなってきていた。中々呼ばれない。
業を煮やしたサリイが受付に問い合わせる。
サリイ「ちょっと!いつまで待たせんのよ!」
受付の男性「あー…もう少しお待ちを」
受付の男性はまたもやダルそうな感じで奥に消えていく。
数十分後、受付の男性が戻ってくる。
受付の男性「あー…あっちの部屋にどうぞ」
ゼムは無言で立ち上がり、勧められた部屋に入っていった。
勧められた部屋の中は、ろくに掃除もされてない部屋だった。部屋の中央には粗末な長テーブルが置かれ、それを挟むようにホコリを被ったソファがある。
ゼムはソファの横に立って待っていた。
すると、部屋のドアが空き、お腹の出た中年男性が入ってきて隣には受付の男性が居る。
中年男性「君達かね!?しつこいという輩は?私はギルドマスターのチャムだ。忙しいから早くしてくれ」
ゼムは無表情で応対する。
ゼム「私達は、城塞都市にて旗揚げした暁の傭兵団です。私は団長のゼムです。この度、城塞都市の領主サンドレイクよりの推薦書を携え、王都での依頼を受けにきました。」
チャムは面倒くさそうにタバコに火をつける。
チャム「そんなもんはいいから、うちらから仕事を取ろうとするなら、誠意を見せてもらわないと」
ゼム「…誠意…ですか?」
チャム「わしにもよォ色々付き合いってのがあるんでねぇ…お前らさんに依頼を回すとうちが睨まれちまうんだよ。」
チャムは肩が凝るような仕草をして、ニヤリとする。
チャム「それともなんだ?城塞都市の田舎もんは礼儀を知らぬのか。後ろの別嬪の弓師を1日貸してくれてもいいぞォ?」
サリイが腰に付けている剣を抜こうとする。
ジェイが剣の柄を咄嗟に握る。
ジェイ「……我慢だ…」
チャム「ケッ!この野蛮人が!かの領主騒乱のときの功績もちょっと良かったところを過大に良く見せただけだろう?礼儀も知らない、野蛮な奴らに渡す依頼などない。」
チャムはそういうとゼムの目の前で、推薦書を出す。
チャム「……この程度の紙切れで依頼をもらえると思うなよ。」
バリバリ
静かに破れる音が部屋に響く。
チャムは時間を無駄にしたと吐き捨てて、部屋から出て行った。
受付の男性「早くお引き取りください。」
ゼムは無言で立ち上がり、傭兵ギルドを出て行った。
ゼムの唇からは血がでていた。
ゼム『………これが……王都か』
第3章「王都の闇」
ゼム達は、王都の宿屋に戻ってきていた。
サリイ「なんなのよ!あの男は!!!!!!」
ジェイ「まあまあ…」
サリイ「アメリアを寄越せですって!?絶対にぶっ殺す!」
ジェイがサリイの口を塞ぐ。
ジェイ「あんまり大きいことを言うな。どこに誰の目と耳があるかわからん…」
ゼム「……アメリア大丈夫か?」
アメリア「…はい、王都って怖いところですね。」
ゼム「……そうだな、ちょっと夜風に当たってくる。」
サリイ「ゼム大丈夫かな?」
ジェイ「希望が絶望に変わったからな…」
ゼムは1人で宿屋の扉から出て行った。
夜の王都は昼の賑わいが噓かのように静かになっている。城塞都市では酔っ払いの冒険者や傭兵がそこら中で騒いでいたが、夜風の音だけが流れている。
ゼム『あの、屈辱から、王都に対する見方が変わってしまった。どこもかしこも歪だ。』
ゼムは王都の中を流れる川にかかっている橋の上に来ていた。
ゼム「この川も良く見れば、底が黒すぎる。掃除されてないな。」
川の底は黒く淀んでおり、まるで王都の表面的な美しさと裏の闇を現しているかのようだった。
ゼム「ローレン…これが世界を見るということか…」
助けてぇ!
ゼムはその助けを求める声の元に駆けつける。
背中には、緑、白、青の光球を出していた。
ゼムは大通りから外れた路地裏についた。
そこに、3人の大人に囲まれた女の子の姿が見えた。
子供の姿は、全体的に薄汚れていたが、髪の毛には艶があり、どこか気品があった。
女の子「離してください!」
男1「おーおー子供がここで1人は危ないよぉ?」
男2「そうだよ?俺たちが保護してあげるからねぇ?」
男3「さぁ、良い子だから」
男達が子供を捕まえようとしていた。
ゼム「待て!」
ゼム「その子をどうするつもりだ!?」
男1「僕たちは、子供をしっかりと憲兵に差し出して保護してもらうつもりですよぉ?」
ゼム「そうか…なら俺も憲兵に引き渡すまで同行しよう。」
男2は舌打ちをする。
男2「めんどくさい人ですねぇ。あんまり関わってはいけない世界もあるんですよ?」
男3「今、引けば何もなかったことにしてあげます。」
ゼムは少し目線を落として、呟く。
ゼム「……そうか。これも現実か…」
男1「引き下がる気がないなら…ここで死んでもらいましょう!」
男1の声を合図に男2と男3がゼムに攻撃しようと走ってくる。
ゼム「ウォータースリップ」
ゼムの青い光球がヌルヌルした液体に代わり、男達の足元に広がる。男2と男3は、足を滑らせ転んでしまう。
ゼムは緑の光球を身に纏う。
ゼム「ウィンド・アクセラレーター」
ゼムの身体を風が纏い。滑っている男2と男3にパンチを浴びせて、ノックアウトした。
男1「この子供がどうなってもいいのか!?」
男1は子供を抱えて、子供のクビにナイフを突き立てている。
男1「一歩でも動けば、この小娘を殺す!」
ゼム「……いつぞやのゴブリンと同レベルだな」
男1の背後に音もなく影が現れる。
ジェイ「影縫い…」
ジェイの影魔法が実体化して、男1のナイフを落とし、男1を拘束した。
ジェイ「よう!ゼム奇遇だな!」
ゼム「……助かったよ」
ゼムはジェイの態度には何も言わず、無表情で男1に近付く。
ゼム「あの子供を攫ってどうするつもりだった?」
男1「そんなもん、人身売買に決まってるだろう?女の子の奴隷は高く売れるからな!」
ゼム「…ゲスが…」
ゼムが光の光球を発動させようとする。
ジェイ「ゼム!殺してはダメだ!!」
男1はジェイのスキをついて、影魔法から抜け出す。
男1「俺達、エクリプスに逆らったことを後悔させてやるよ!震えて待ってな!!」
男1は街の闇に消えて行った。
ゼム「……どこもかしこも腐ってやがる。全部潰してやる。」
ジェイ「そんなことより、女の子の保護が優先だ。」
ゼムとジェイは女の子を連れて、宿屋に戻っていった。
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男1「そうなんですよぉ!邪魔されちまって…」
謎の男「そんな言い訳は聞いてねぇ!連れて行け!」
男1「それはないですよぉ!御慈悲をぉおお!」
男1は違う部屋に引きずられて行った。
男1の喉を裂くような悲鳴と、刃物が何かを断ち切る音が、分厚い扉越しに漏れてきた。
謎の男「この邪魔した男は誰かわかるか?」
そこに現れたのは漆黒のローブを纏う男だった。
黒ローブの男「よく知ってるよ…暁の傭兵団の団長のゼムって奴だよ…頭がよくキレるみたいだね。」
謎の男「お前さんが褒めるということは大概だな。なぁ?“宵の軍師”さんよ」
宵の軍師「まあ僕には及ばないけどね。それより、革命軍はどうなの?ベルモンド」
ベルモンド「計画通りさ、俺達エクリプスの工作で王都内では腐敗が進行。民衆の恨みが高まっていて、革命軍も間もなく動き始めるさ。」
宵の軍師「…なるほど。王都はもう崩壊寸前だ。僕たちは只、糸を切るだけでいい。」
ベルモンド「あとは、火種のみ。つまり、王家の暗殺だな。」
宵の軍師は闇の中に消えて行った。
ベルモンド「ふん…いけ好かない野郎だ。まあいい…もうすぐでこの王国は俺のものだ…」
第4章「葛 藤」
宿屋に連れてきた少女は、アメリアとサリイにより、綺麗にされた。
ゼムはアメリアとサリイが少女の世話をしている間、宿屋の窓から外を見ていた。
ジェイ「何を考えてるんだ?」
ゼムは窓の景色から目を逸らして、ジェイに向き合う。
ゼム「……この綺麗な景色も全て偽りだと思うと改善する事項が多すぎると思ってな。」
ジェイはゼムの横まで来て、宿屋の窓から同じように外を見る。
ジェイ「ゼム…俺達は民衆のための傭兵団だ。民衆の幸せのために、戦わないとな。でも、お前は1人じゃねぇ。仲間を忘れんなよ。」
ゼム「………」
すると、部屋の扉が開く。サリイとアメリア、先程助けた少女の姿があった。
少女は身体の汚れが落とされ、身なりも整えられていた。そして、やはりどこか気品がある。
ジェイ「おーおー…ちっこい割には結構別嬪だな。」
サリイ「え?あんたって…」
アメリア「犯罪です…」
ジェイ「誤解だって!守備範囲外だよ!」
すると、少女がゼムの前に歩いてくる。
少女はスカートの裾をあげて、頭を下げる。
少女「昨日は助けて頂き、ありがとうございます。しかし、私には会わなければいけない人が居ますのでしばらくしたら、ここを出ていこうと思います。」
アメリア「出ていくのは危険です。私達もその人と出会うまで手伝いますよ!」
少女「しかし…皆さんに迷惑をかけてしまうので…」
サリイ「子供が迷惑をかけるのは良いことだよ!ちなみに探している人って誰なの?」
少女「……先の領地騒乱で活躍した暁の傭兵団の団長なのです…」
サリイとアメリアがゼムを見る。
ゼムは目を瞑っていた。
ゼム「俺が…暁の傭兵団の団長のゼムだ。」
少女は目を見開いて、ゼムをマジマジと見る。そして、目から涙が溢れる。
少女「なんてことなの…神の導きだわ…」
少女は涙を拭いて、再び話し出す。
少女「私の名前は、リシェル・リルスティア・アイリス。このアイリス王国の王女です。」
ゼムとジェイは目を見開く。サリイとアメリアは「えーーー!」と大声をあげていた。
ジェイ「それで?お姫様がうちの団長になんのようかな?」
リシェル「私の国は窮地に立たされています。ここ数年で王国内の腐敗が進み、革命の兆しが出ています。ここで、革命が成されると民衆に被害が出てしまいます。それを防ぎたいのです。」
ゼムは無言で聞いている。
リシェル「お願いです。かの領地騒乱で活躍した暁の傭兵団の御力をお貸しください…」
ゼム「保留にさせてくれ。」
サリイ「なんで!?あんたには慈悲とか騎士道精神の1つくらいないの!?」
ジェイはゼムの顔を見ている。
ゼム「悪いが、俺達暁の傭兵団は、王都に来て色々と屈辱を味わっている。例え、俺達が革命軍を倒したとしても、腐敗を止めなければまた同じことを繰り返すだけだ。それができるのか?」
リシェル「王都の腐敗は、ある組織が絡んでいることが分かってます。エクリプスという裏の組織です。」
「このままでは、王都と革命軍がぶつかり、国が疲弊してしまいます。そうなると、最後に笑うのはエクリプスなんです。お願いします。御力をお貸しください。」
ゼムは目を瞑り、下を向く。
ゼム「少し考えさせてくれ。返事が決まるまではここに居ると良い。」
ゼムは部屋から出て行った。
部屋から出ると、ジェイがついてきた。
ゼム「ジェイ…頼み事がある。」
ジェイ「なんでさ?相棒?」
ゼム「難しいことだが、エクリプスと革命軍について調べてくれ。」
ジェイ「そういうと思ったぜ。任せときな。」
ジェイはゼムの背中をポンと叩き、宿屋の外に出て行った。
ゼム『俺は誰に味方すればいいんだ…?』
---
その日の夜、ゼムは返事を保留したまま部屋に横になっていた。静かな夜だが、胸の奥がザワザワする。
コンコンとドアを叩く音がする。
ゼムは起き上がり、返事をする。
扉が開くとそこには、ジェイが立っていた。
ジェイ「よう、起きてたか?」
ゼム「…ああ、眠れなくてな…」
ジェイ「革命軍とは接触完了。向こうの指揮官のゼパイルと会ってきた。」
ゼム「…それで?」
ジェイ「ゼパイルは、革命を確実に為すと息巻いていたよ。そして、暁の傭兵団にも協力してほしいって。地方の英雄から国の英雄になろうだってさ。」
ゼムの心がまたざわつき始める。
ゼム「……それでエクリプスは?」
ジェイ「……すまねぇまだ掴めてねぇ。ただ…」
ゼム「…ただ?」
ジェイ「昨日の男1が川に浮いているのがわかっただけだ。全身バラバラでな。」
ゼム「………」
ジェイ「正直…闇が深すぎる。」
ゼム「わかった…無理をしない程度で情報を集めてくれ。」
ジェイ「りょーかい!」
ジェイは外に出て行った。
ゼムはジェイが出て行った扉を閉める。
???「ふーん…暁の軍師ってこんなもんかぁ…」
ゼムは、瞬時に白と緑の光球と展開して振り返る。
そこには、漆黒のローブに身を纏った青年が顔を隠して、窓の縁に座っていた。
ゼム「何者だ…?」
???「“宵の軍師”、ヨイとでも呼んでもらおうか。」
ゼム「何をしに来た?」
ヨイ「怖いなぁ…ただ僕は君と話に来ただけだよ。」
ヨイは不適に笑う。
ヨイ「君、迷ってるねー…理想と現実が乖離した感じ?自分の正義が歪み始めた感じ?エクリプスの正体も分からない!革命軍、王国のどちらの味方になるのがいいのか分からない!」
ゼム「……黙れ!」
ヨイ「でも、心優しい僕が君に答えを教えてあげよう。」
ヨイは、ふわりと窓の縁から飛び下りるとゼムに近づき耳打ちをする。
ヨイ「それは…全てぶっ壊せばいいんだよ。王国も革命軍も全てぶっ壊して、自分が全部やればいいんだよ。」
ゼムは、ヨイを振り払う。
ゼム「そんなわけないだろ!?ふざけるな!」
ヨイ「えー…いい案だと思うんだけど…ねぇ?エクリプスの僕と組まないかい?」
ゼムはエクリプスの言葉を聞き、目を見開く。
ゼム「…エクリプスだと…?」
ヨイ「そうさ!僕たちで革命軍と王国を戦わせて、民衆が疲弊したところを暁の傭兵団が救う。素晴らしいシナリオさ…」
ゼム「……何が目的だ」
ヨイ「ふぅん…まだ考える力はあるようだね?返事を待ってるよ。暁のゼム」
ヨイは窓の外から飛び降りていった。
ゼムが窓の下を見ると、姿は見えなくなっていた。
ゼム「ちくしょう…俺は…どうすれば…」
ゼムは窓の縁に手をかけ、静かに苦悩していた。
第5章「決 断」
ゼムはサリイ、アメリアとリシェルを呼び出した。
ゼム「リシェルに協力することにした。」
リシェルは飛び切りの笑顔になった。
リシェル「ありがとうございます!」
ゼム「しかし、条件がある。」
サリイとアメリアはゼムの顔を見る。以前のような余裕がある姿勢ではなく、かなり悩んでいる様子が見て取れた。
ゼム「協力する見返りに、腐敗した貴族や商人達を俺達の判断で断罪できるようにしろ」
リシェル「それは…厳しい条件です。個人に断罪させるなど、前例はありません。」
ゼム「なら、この話はなしだ。腐敗を止めねばどうせ王国は崩壊する。」
リシェル「何の目的で、この条件を?」
ゼム「2つだ。1つは、腐敗の元凶を断ちエクリプスに関する情報を掴む。もう1つは民衆の信頼の獲得だ。王女が雇った傭兵団が次々と断罪していく。民衆は俺達を英雄視し始めるだろう。そして、それを実行させたあんたの評判もあがる。民衆の支持が得られれば、革命軍を話し合いで解決できるかもしれない。」
リシェル「………わかりました。父に話しましょう。」
ゼム「サリイ、城塞都市に居る暁の傭兵団に連絡だ。内容は“王都を救う大きな仕事が入った。全員王都まで来い”だ。」
サリイ「任せなさい!」
ゼム「アメリアはリシェルの側から離れないでくれ。」
アメリア「わかったわ。」
ゼム「リシェル、国王と謁見したい。取り次いでもらえないか?」
リシェル「わかりましたわ…」
ゼムは決意を旨に行動を開始した。
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王都リルスティアの中央に位置する王城リルスは、外観は非常に豪華絢爛の作りであり、内装も豪華そのものだった。しかし、城の角を見るとホコリを被っているところもあり、衰退を感じさせた。
謁見の間に通されたゼムとアメリアは、国王サナディアス3世の前に膝をつく。
サナディアス3世の玉座を中心に左右にぶくぶく太った官僚らしき偉そうな男達が並んでいる。
サナディアス「おお…リシェルよ。よくぞ戻った。目の前に居るのが、噂の暁の傭兵団か?面を上げよ。」
ゼムは膝をついたまま、顔をあげ、国王を見る。
サナディアス3世は国王としての威厳に満ち溢れていたが、度重なるストレスだろうか、どこか痩せて見えた。
ゼム「リシェル王女の要請により、暁の傭兵団については王国に協力することに致しました。」
サナディアス「そうか…それは助かる。しかし、条件が“腐敗に関与したものを個人的に断罪できる権利”というではないか。」
サナディアス3世の発言に、左右に並ぶ官僚達が声を荒げる。
貴族1「ありえませんぞ!人を裁くには裁判を通すのが当たり前ですぞ!」
貴族2「どこの誰かもわからぬ者に任せられることではない。」
他にもたくさんの貴族達が声を荒げていた。
サナディアス「しかし…暁の傭兵団が居らぬと国が危ういのだ。」
1人の大きな笑い声がする。
その笑い声の正体は、ゼムに屈辱を与えたあの傭兵ギルド長のチャムだった。
チャム「国王様!騙されてはなりませぬ!この傭兵団は我が傭兵ギルドにやってきましたが、依頼を寄越せと私を脅すような輩です。信頼などできませぬぞ!」
サナディアス「ゼムよ。誠か?」
ゼム「脅した?先に誠意を見せろやら、横に居る女性を一晩貸せとか言ったのはそちらだろう?」
チャム「そんなこと言いましたかのォ?」
チャムは飄々とした態度でしらばっくれている。
ゼム(これが……正しいとは限らない。それでも、俺が動かねば、何も変わらない)
ゼム「我が名は、ゼム・マイスター。慧眼の賢者ローレン・マイスターの弟子である。我が名と賢者の後継者として、王都の腐敗を正すべく、ここにいる。」
謁見の場が騒然となる。
サナディアス「ゼムよ…賢者の弟子というのは本当なのか?」
チャム「国王様!騙されてはいけませぬぞ!こいつはハッタリをかまして逃げようとしているだけです。」
サナディアス「リシェルよ…あれを持って参れ。」
リシェル「かしこまりましたわ」
リシェルが持ってきたのは指輪だった。
サナディアス「これは賢者の指輪と言って、以前ローレンがここに置いていった物。ローレンは賢者の後継者を名乗る者が現れたら、その識別として置いていったのだ。ゼムよ…指輪をはめてみなさい。」
ゼムは指輪を受け取る。指輪に刻まれた術式を見る。
確かに、ローレンの術式だった。
ローレンが指輪をはめた。
チャム「ほらみろ!にせ…」
チャムの言葉を遮るかのように、賢者の指輪が光り出す。
サナディアス「おお…!指輪が反応しておる!」
指輪の光が消え、謁見の場が静寂に包まれる。
ゼム「これで文句ないな。我は賢者の後継者。王国を正すため、条件を飲んでもらいたい。」
サナディアス「賢者であれば、問題ないだろう。許可する。」
チャム「こやつのような者が権力を握れば、王都は混乱に包まれますぞ!どうか、この愚かな提案をお引き取り願いたい!」
サナディアス「だまれ!」
チャムは怯えた顔で口を閉じる。
サナディアス「我がサナディアス3世の名をもって、宣言する。暁の傭兵団団長ゼム・マイスターに暁の軍師の称号を授け、王都の腐敗を正す役目を与える。」
ゼムは膝を付き、頭を下げる。
ゼム「それでは、早速仕事に入ります。」
ゼムは指を鳴らす。謁見の場のドアが開いた。
続々と人が入ってくる。
ゼム「暁の傭兵団よ!先ほどから声を荒げていた貴族達を拘束せよ。拘束した後、貴族の家を当たれ、不正の証拠を掻き集めよ!」
暁の傭兵団「了解!」
暁の傭兵団が次々と貴族を拘束していく。最後に残ったのは騎士団長と宰相の補佐のみだった。
ゼムの元に歩いてくる者が居た。
バルザ「団長、全軍只今到着しました。」
ダンク「王国を救うって…どういうことですか…」
ドンパ「おう!しばらくぶりだな!」
クララ「王都にやっとこれたわねぇ♡」
トム「面白くなってきましたね!」
ゼムの元に暁の傭兵団が集い、再会を喜んだ。
第6章「断罪と闇」
暁の傭兵団の腐敗への断罪、賢者の後継者の登場は王都中に広まった。民衆の中には、王都が変わることに期待するものやどうせ変わらないだろうと絶望する者に分かれていた。
今日もまた1人、広場にて叫ぶ男が貼り付けにされた。『私は違う!私は違うんだ!』その叫びは、市民の喝采の中にかき消された。」
民衆の中には、暁の傭兵団に参加しようとするものや心酔する者も現れ、王都内は荒れていた。
王城内の一室。ゼムは机に並べられた書類や物品に目を通していた。側にはジェイも居る。
ゼム「これは…傭兵ギルドの帳簿、異国の言葉の文書、燃えかけの文書…たくさんあるな…」
ジェイ「ここまで、不正があると自分が正しいのか分からなくなってくるな」
ゼムは全ての証拠と物品を漁っていたが、目に留まる者があった。
その物品は黒い封筒に包まれていた。
その封筒にはEの文字が書かれていた。
ジェイ「あえて、見せつけているような物だな」
ゼムは黒い封筒を手に取り、中身を取り出す。
中身は書類だった。以下の内容が書かれていた。
[王都の会計記録を改ざんして、改ざんした余剰の金銭を例の場所に。王国の浄化までまもなくだ。エ……プス]
最後の方はかすれていて、読み取れなかった。
ゼム「間違いなく、エクリプスが王国の腐敗に関与していたのは確定だな。」
ジェイ「了解。おれはこの筆跡から類似した資料を持っていた者を片っ端から調べる。」
ゼム「わかった。判明したら関係する貴族や商人は全員捕縛しろ」
ジェイ「……了解」
ジェイは行動に移そうと部屋を出ようとするが立ち止まる。
ジェイ「…ゼム、焦るなよ。」
ジェイはそう言うと部屋の外に消えて行った。
ゼム「わかっているさ…でも、今はこれが正しいと信じるしかないんだ…」
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ゼムが貴族や商人の腐敗を断罪し始めて数週間が立った。
ゼムが処刑や処分を与えたのは数百人に及び少しずつではあるが、城下は活気が戻りつつあった。
王城に居たゼムは連日届く不正や汚職の証拠、エクリプスの痕跡を見ながら、苦悩していた。
ゼム『貴族や商人の黒かどうかは分かるが、エクリプスは王国を奪おうというのがわかるが、次の出方がわからない…』
そこに、コンコンとノックがして、バルザが入ってきた。
バルザ「大丈夫か?かなりやつれているぞ?」
ゼム「……ああ、悩み事が多くてな」
バルザ「あんまり無理しないことだ。休息も仕事だ。」
ゼム「…頑張って対処するよ。それで要件は?」
バルザ「革命軍のリーダーゼパイルからの手紙だ。内容は、今後の王国について話し合いがしたいそうだ。」
ゼム「ようやく来たか…」
ゼムは安堵の表情を浮かべる。
ゼム「先方には、喜んで応じると返しておいてくれ。」
バルザ「承った。」
バルザはスタスタと部屋から出て行った。
ゼムは椅子にもたれかかり、上を仰ぎ見る。
ゼム「あとは、革命軍を説得して協力関係を築くだけだ。」
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ゼムはバルザとジェイを連れて、革命軍のアジトの前に来ていた。
ゼムは息を吸い込み、深呼吸をする。
ゼム『王国の未来はこの会談次第だ…』
ゼムは革命軍のアジトの重い扉を開けた。
革命軍のアジトに入ると、1つの部屋に案内される。
部屋の中はランタンが1つしかなく、薄暗かった。
そして、部屋の中央には椅子が2組と机が1つ置かれていた。
部屋には1人の青年が座っていた。
青年はゼムが来たのに気付くと、立ち上がり手を差し出す。
ゼパイル「革命軍のリーダーのゼパイルだ。よろしくな暁の軍師」
ゼムはその手をとり握手をする。
ゼム「暁の軍師、暁の傭兵団の団長のゼムだ。」
ゼパイルはゼムに椅子を勧め、自らも椅子に座った。
ゼパイル「さて、本題だが我々革命軍は暁の傭兵団の断罪の行動に賛同している。これからは我々も協力態勢を取って王国を浄化したい考えだ。」
ゼム「それは良い情報だ。同じ王国国民として王国の浄化を促していきたい。しかし…」
ゼパイル「…エクリプスの存在だろう?」
ゼム「そのとおり。汚職を犯した貴族と商人からエクリプスのものと思われる痕跡が見つかっている。むしろ、あえて残しているかのようにな。」
ゼパイル「我々も独自でエクリプスを調べている。あいつらの目的は王国の乗っ取りであることはわかっているが、本拠地も何もわかっていない。」
ゼム「そちらもか…こっちも同じ状況だ。汚職や腐敗を促していたなら、この断罪を妨害すると思っていたが……何も行動がないのが気になる所だ。」
ゼパイル「まあ、引き続き王国の浄化を共にやっていこうじゃないか。」
ゼム「……そうだな。これからよろしく頼む」
ゼムとゼパイルは再び握手を交わし、その日は別れていった。
ゼム『これで、ようやく王国の浄化の目処が立った。』
ゼムの心の中には微かな希望が芽生え始めていた。
次の日の朝、広場においてゼパイルの死体が広場にさらされていた。
第7章「民衆の反発と敗北」
広場には、ゼパイルの死体と首がゼムが行ってきた貴族の処刑と同様の形で横たわっている。
民衆1「え…?革命軍のリーダーをゼム様が処刑したの?」
民衆2「いや!ゼム様がそんなことするはずがない!」
民衆3「ゼム様は私達のためにやってくれたのだ!」
昨日までは熱狂的に信じられていたゼムへの信頼が民衆の間で分断を生んでいた。
ゼムはゼパイルが死んだことを王城の執務室で知る。
ジェイ「非常にまずいぞ…」
ゼムは執務室の自分の机で頭を抱えている。
ゼム「ああ…疑念がある中では革命軍との関係は修復出来ない。それに、民衆の支持も上がらない…」
バルザ「団長!広場にこんな檄文が!」
バルザが持ってきた檄文にはこのように書かれていた。
[革命軍のリーダーは暗殺された。ゼパイルの死因は毒死からの首の切断。毒の成分は暁の傭兵団が使用していた毒の成分と類似。民衆よ!立ち上がれ!暁の傭兵団は正義の皮を被った獣だ!王国を乗っ取ろうとしている!!]
ゼムが机を勢いよく、叩く!
ゼム「出鱈目だ!」
ゼムが珍しく怒りをあらわにして周りがおどろいている。
ドンパ「おい!冷静になれ!」
ダンク「まだ大丈夫ですよ…」
そこにドアが開いて騎士団長ノームが入ってくる。
ノーム「国王陛下がお呼びだ。速やかに来い」
ゼムは感情を頑張って抑えつつ従った。
ゼム「………わかりました」
ゼムは謁見の間についた。ゼムの正面にはサナディアス国王、脇にはリシェル、騎士団長のノームが並んでいる。
ノーム「この檄文の内容だが、真実を話せ。」
ゼム「我が暁の傭兵団は、ゼパイルを暗殺などしておりません。これは誰かの罠です。」
ノーム「だまれ!ならこれはどういうことだ!」
ノームは丸めた書類をゼムに投げ渡す。
ゼムはその書類を拾い読んだ。
ゼム「これは!」
書類には、貴族の冤罪による処刑や帳簿等の改ざんにより不当に処刑を行ったということが書かれていた。
ゼム「暁の傭兵団は、正当な調査の元行っており、こんなことはありません!」
ノーム「ふざけるな!実際にこのような改ざんされた証拠があるのだ!言い逃れなど出来ぬ!」
リシェル「ゼム…噓ですわよね?」
ゼム「暁の傭兵団は決してそんなことはしません!」
サナディアス「もうよい」
サナディアス国王が重い言葉で会話を遮る。
サナディアス「ゼムよ。ワシはお主を信頼していたが…今回ばかりはお前を庇ってやれぬ。」
ゼムは絶望の顔を浮かべる。
ゼム『俺は…どこで間違えた!?俺の信じた道の結果がこれなのか…』
サナディアス「それでは…ゼムの処遇は…」
そのとき、謁見の間の扉が勢いよく開かれ、衛兵が行き絶え絶えで走ってくる。
衛兵「国王様!大変です!暴徒化した民衆と革命軍が王城に迫っております!」
サナディアス「なんだと!?衛兵はすぐに防御を固めよ!暁の傭兵団も応戦せよ!」
ゼム「だめです!応戦しては信頼を本当に失ってしまう…」
ノーム「だまれ!貴様の名誉を回復するには暴徒を鎮圧するしかないのがわからんのか!」
ゼムは悔しさを噛み殺し、謁見の間から出て行った。
ゼムが出て行ったとき、騎士団長の顔には笑みがこぼれていた。
ゼムは自分の執務室まで走った。
執務室を開けると、暁の傭兵団のメンバーが集まっていた。
バルザ「団長…指示を!」
サリイ「あんたの身は私が守ってあげるわ!」
ダンク「あなたの盾となりましょう!」
ゼムは息を切らしながら、答える。
ゼム「暁の傭兵団は……戦わない!」
全員が驚愕の顔をする。
ドンパ「バカな!お前さん死ぬぞ!」
ゼム「ここで抵抗してしまえば、完全に民衆の敵になってしまう…それだけは絶対にダメだ。」
トム「しかし、どうやって鎮圧するんですか…?」
ゼム「俺が丸腰で話に行く!」
アメリア「それは絶対にダメです!殺されちゃいます!」
アメリアの目からは涙がこぼれている。
ゼムがその姿から目を逸らす。そこにジェイが走ってきた。
ジェイ「大変だ!城門が破られてて城内に民衆が流れ込んできた!ここが戦場になるぞ!」
バルザ「バカな!ここの城門が破られるなどありえぬ!」
ジェイ「本当だぜ!間もなくこっちにやってくる!」
ドンパ「俺は戦うぞ!」
ゼムは仲間同士が言い争う中で必死に考えていた。
ゼム『ゼパイルが死に、その翌日に民衆が暴動、そして城内に民衆が迫る…あまりに出来すぎている。それに、あの暁の傭兵団を陥れるような書類の数々…つまり、敵は俺達を悪者にすることで全てを押し付けようとしている。敵の狙いは王国の乗っ取りだとすれば……』
ゼムはハッとする。
ゼム「エクリプスは、この暴動を利用して王族を殺害し、全てを俺達になすりつけようとしている。そして、王座に座るのはリシェルではなく…」
ジェイ「今、一番偉い騎士団長のノームだな…」
全ての内容が繋がってしまった。
ゼムは号令を出す!
ゼム「暁の傭兵団は民衆を殺すことなく、鎮圧せよ!いいか!絶対に殺すな!そして、そのまま、王都を出て拠点へと戻れ!バルザ!指揮はまかせる!ジェイだけは俺に同行せよ!国王が危ない!」
ジェイ「りょーかい!」
バルザ「承った!」
ゼムはアメリアの元に行く。
ゼム「必ず戻るから、待っていてくれ。」
ゼムとジェイは謁見の間へと走り出した。
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ゼムとジェイは謁見の間の扉を開く。
そこには、血を流して横たわる国王と、返り血を浴びた騎士団長ノームの姿があった。リシェルは魔法により拘束されている。
ヨイ「おや?案外気付くのが早かったね」
ゼム「ヨイ!!貴様!!!」
ヨイ「おいおい…誤解しないでね。国王を殺したのはそこの騎士団長だよ。」
ノームはこちらを見て不適に笑う。
ノーム「さっきのお前の顔は最高だったぞ!正義のために頑張ってたのに、途端に全てに裏切られるんだからな!」
ジェイ「……あんまり笑うと手加減できなくなるぞ…」
ヨイ「暁の軍師の相棒は怖いねぇ」
ゼム「お前らの狙いは、国家の転覆ではなく国家の乗っ取りだった。つまりは、全ての闇を俺達暁の傭兵団に押し付けることで、民衆の狂気を俺達に向かわせた。そして、暴動の最中に国王とリシェルを殺し、そこの騎士団長を国王にすることだったんだろ?」
ヨイは静かに笑い始める。
ヨイ「すごい推理だねぇーでも最後がちょっと違う。」
ゼム「……!?」
ヨイ「リシェル王女は洗脳して、傀儡政権を作るのさ。ノームは国王なんか出来ないよ。」
ノーム「そりゃあ、そうさ!なぜなら…」
ノームの姿が変わっていく。
ベルモンド「俺の名前はベルモンド!エクリプスの頭領だからな!」
ゼムとジェイはその圧力に負けそうになるが、なんとか踏みとどまった。
ヨイ「ゼム、君は本当に可哀想だね…信じてきた道の結果がこれだ。まぁ、僕が全部仕組んだんだけどね」
ゼムの目に動揺が走る。
ヨイ「あのEの文字が入った封筒も!ゼパイルの暗殺も!檄文も!ぜーんぶ、僕が仕組んだ!」
ゼムの手が震えだし、怒りが顔に満ちている。
ヨイ「どう?悔しい?どんな気分?ねぇねぇ?」
ゼムは、敵に走り出そうとする。
ボゴぉ!
ジェイがゼムを殴り飛ばしていた。
ゼム「ジェイ!邪魔をするなぁ!」
ジェイ「馬鹿野郎!ここで相手の挑発に乗ってどうなる!リシェル王女さえ助け出せば、状況が好転するくらいわかんねぇのか!」
ゼムは胸ぐらを掴まれながら、話し出す。
ゼム「すまねぇ…ジェイ…」
ジェイは胸ぐらから手を話す!
ジェイ「この俺を失望させんな!さっさと作戦を考えやがれ!」
ゼム「わかった!」
ヨイ「あれれ?もう目が戻っちゃったよ…おもんな…」
ベルモンド「ガハハ!面白ぇ!かかってきな!」
第8章「王都陥落」
ゼムは心を切り替えてベルモンドとヨイに対峙する。
ゼム『まずは魔法の拘束を外すことだ!そのためにはベルモンドを引き付ける必要がある。』
ヨイ「あら?考え事かい?なら、こっちから行くよ!」
ヨイの背中に5つの黒の光球が現れる。そのうち3つの光球が黒い鎖に姿を変える!
ヨイ「シャドウチェーン…」
3つの鎖がゼムに迫る!
ジェイが前に出る。
「シャドウカーテン!」
3つ鎖が影で出来たカーテンに絡まり動かなくなる。
ジェイ「黒の攻撃は黒にしか防げない!あいつは任せろ!」
ゼムはその言葉を聞き、ベルモンドへと走り出す。
ゼムは赤、青、白、緑の光球を展開する。
ベルモンド「お前が俺の相手をするのか!」
ベルモンドは手に持った長剣を構える。
ゼムはタクトに赤の光球を融合させ、炎の刃を宿させる。
ガキン!ガキーン!
ベルモンドの長剣とゼムのタクトがぶつかる。
ベルモンド「ガッハッハ!魔法剣とはおもしれぇ!」
ベルモンドは魔法剣に怯むことなく剣戟を繰り返す。
ゼムのタクトから炎の刃が消える。
ベルモンド「魔法が切れたみてぇだな!トドメだ!」
ベルモンドは長剣を上から力強く振り下ろす!
ゼムは白の光球を発動させる。強い光が発せられる!
ベルモンド「くっ!」
ヨイ「気持ち悪い輝きだねぇ…不愉快だ」
ヨイとジェイの影魔法が光により解ける。その瞬間、ジェイはヨイまで走っていた!
ジェイ「お前さん!接近戦は得意かな?」
ヨイ「君…いいね…受けて立とうか…」
ゼムは光により、態勢を立て直す。
ゼム『ベルモンドが厄介すぎる…俺の剣技だとあいつには太刀打ちできない』
ゼムは緑と青の光球を混ぜ合わせる。
ゼム「アイシクルニードル!」
ゼムの足元からベルモンドへと氷のトゲが生成され、ベルモンドへと迫る!
ベルモンド「俺がいつ、魔法が使えないと言った!」
ベルモンドの背中にボウリングの玉ぐらいの大きさの赤の光球が生成されていた。
ベルモンド「フレイムドライブ!!」
ベルモンドの長剣の先から火炎放射のように炎が生成され、ゼムに迫る。ゼムが作った氷は火炎放射により溶かされる。
ゼムの身体は炎に包まれた。
ベルモンド「ガッハッハ!これで終いだな!」
炎がなくなると、そこには巨大な盾があった。
ダンク「ゼム!助けに来たよ!」
ゼム「ダンク!なぜここに!」
サリイ「おりゃあ!!」
サリイがベルモンドに剣戟を仕掛ける。
ベルモンド「怖いお嬢さんだな!」
ダンクが膝をつく。
ゼム「ダンク大丈夫か?どうして…」
ダンク「だって僕は暁の傭兵団の盾だから…それより、リシェル様を!ベルモンドは僕とサリイが足止めする!」
ゼム「わかった!」
ゼムはジェイの元へ走る!
ジェイは息も着かせぬ短剣での斬撃をヨイに仕掛けていた。
ヨイ「きみ…しつこいって言われないかい?」
ジェイ「お互いさまだろ!」
ゼムが叫ぶ。
ゼム「ジェイ!」
ジェイはゼムの声を聞いて跳躍する。
するとジェイが跳躍した後ろではゼムが緑と白の魔法を混ぜ合わせていた。
ゼム「ライトニングアロー!」
ヨイ「まだまだ…甘いね…」
ヨイは自身を影に変えて、ゼムの魔法を避けた。
ヨイ「きみの考えなんて、お見通しなのさ…」
ゼム「それはどうかな…?」
バリバリ!
ゼムの放った雷はリシェルを拘束している魔法にぶつかり、拘束魔法を破壊した。
ヨイ「…しまった!あのジェイっていうやつ…ここまで計算しながら僕に攻撃を仕掛けていたのか!」
ジェイ「今更気づいてもおせーよ!」
ジェイはリシェルを抱きかかえている。
ジェイ「ゼム!玉座の後ろに王族用の転移装置がある!それで逃げるぞ!」
ゼム「わかった!」
ゼムはありったけの魔力で赤と青の光球を融合させる。
ゼム「ミストイリュージョン!!」
紫色の霧が謁見の間の中に立ち込める。サリイとダンクはベルモンドから引き、ダンクは足を引き釣りながら、玉座の間に向かう。
ダンクにゼムが肩を貸しながら、運ぶ。
全員が間もなく転移陣に入ろうとする。
ヨイ「好きにさせるかぁ!」
黒の光球が闇の光線へと姿を変える!
ヨイ「ディメンションレイ…」
ヨイの片手から複数の闇の光線が螺旋状になりながらゼム達に迫る。
そのとき、ダンクがゼムを転移陣に投げ飛ばす。そして、ダンクが闇の光線を盾を構えて受け止める!
ゼム「ダメだ!ダンク!死んでしまうぞ!」
ダンク「早く!行って…ください!」
ダンクが徐々に押されている。
ダンク「ゼム!あなたと始めて出会った時、僕はボコボコにされました。僕より年下なのに何でこんなに強いんだろうって嫉妬してました。でも、あなたと過ごす内に、とてつもなく考え努力していたことを知りました。ゼムは僕の憧れなんです!今回はヨイにしてやられたかも知れませんが、ゼムなら絶対に勝てると信じています!」
ゼム「ダメだ!生きて俺を守れよ!」
ジェイがゼムの肩を掴む。
ジェイ「………行くんだ!!」
ゼム達の身体が光に包まれる。
ゼム「ダーンク!!!!!」
ダンク「ジェイ、ありがとう…ゼム!信じてるから!」
ジェイ「馬鹿野郎がぁ……」
ゼム達は光に包まれて消えた。
ダンクは前を向く!
ダンク「俺の名前はダンク!暁の傭兵団の盾であり、皆の守護者だ!!!!」
ダンクの姿は闇に飲まれていった。
第9章「洗脳と希望」
転移装置により、王国外にゼム達は転移された。
転移先には先に脱出していた暁の傭兵団の姿があった。
バルザ「大丈夫か!クララ来てくれ!」
クララ「あらあら…とりあえず馬車に乗せて拠点に戻りましょう。」
トム「ダンクは…?どこですか…?」
ジェイ「ダンクは…死んだ」
全員の作業している手が止まる。
バルザ「悲しむのはあとだ!まずは馬車を出し、拠点へと戻るのだ!!」
ゼムとジェイとサリイとリシェル王女は馬車に乗せられた。ゼム達は安心したのか、気を失ってしまった。
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ゼムはベッドの上で目を覚ました。
身体中には、包帯が巻かれており、隣にはジェイが同じような姿で横になっていた。
ゼムはベッドから起き上がり、部屋の外に出る。
それに気付いたクララが歩いてくる。
クララ「だめよ!今は安静にしないと!」
ゼムは肩を壁につけている。
ゼム「リシェルとサリイは?ダンクは…?」
クララ「サリイは軽症、リシェル様はまだ意識が戻ってないわ…というか人形みたいな感じね。ダンクは…戻ってきてないわ」
ゼムは膝をつく。
ゼムの目から涙が流れる。
ゼム「ダンク…すまない……」
クララは静かに横の座っていた。
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リシェルの容体は異常だった。クララの浄化の魔法や解呪の魔法をかけたが、洗脳状態は一向に解けることがなかった。
リシェルは目は虚ろで、食事はとるが必要最低限しか取らなかった。言葉を出すと
リシェル「ヨイ様、ベルモンド様…ご指示を…」
と呟いている。
リシェルを部屋に閉じ込めたクララが戻ってくる。
クララ「やっぱりダメね…私の浄化でもダメなら打つ手がないわ」
ゼム「そうか…なら解呪方法を探さないといけないな。」
ドンパ「当てはあんのかい?」
ジェイ「解呪とか浄化の総本山は中立国、黒の魔法なら魔皇国タルタロスだな…」
ゼムは考え込む。
バルザ「団長…まずはダンクの死体はないが、弔ってやらねばなるまい」
ゼム「…そう…だな…」
バルザ「なら手配は私が受け持とう。準備が出来たなら呼ぶ。」
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しばらくすると、バルザが呼びにきた。
バルザ「…準備ができた。」
ゼム「………ああ…」
バルザ「団長、ツライのは分かる。しかし、死人に報いることができるのは今生きている者だけなのだ。」
ゼム「……ああ…」
バルザ「……」
ゼムはバルザに連れられて、拠点の広場に出る。
広場には木が組み上げられ、火が灯っている。
木の正面には、一緒に転移してきたボコボコになった大盾が立てかけられていた。
バルザ「それでは、只今からダンク・ダンストンの葬儀を執り行う!全員、花を火に、焚べよ!」
暁の傭兵団全員が花を持って、順不同に火に花を投げ入れている。中には泣くものや感謝の気持ちを述べる者が居た。
トム「ダンクさん…お疲れ様でした…」
アメリア「色々と守ってくれてありがとう…」
クララ「先に死んじゃって…本当にバカね…」
サリイは涙で顔が濡れていたが、無理に笑顔にしていた。
サリイ「良い相棒でした!お疲れ様っす!」
ドンパは花を手向けず、目の前で酒を飲んでいる。
ドンパ「……乾杯」
バルザ「…才能のある若者であった…」
ジェイは花を手向けず、壁に背中をつけて俯いている。
ゼムはその光景を見て、ダンクは本当にたくさんの人を守ってたんだなと感じた。
ゼムは火の前に立つ。
(ゼムのこと、信じているから!)
ゼムは火に花を投げ入れ、振り向いた。
ゼム「暁の傭兵団よ!今回は私達の負けだ!王国は陥落し、王女の洗脳は解けていない!しかし、王女が生きて正気が戻ったときに希望が蘇るのだ!ダンクの意志を継ぎ、王国に希望をもたらしたい者は、俺に着いてこい!希望をもたらすのは…王国に夜明けをもたらすのは、俺達暁の傭兵団だ!」
ゼムの号令に暁の傭兵団全員が歓声をあげた。
ゼム「さぁ!希望をもたらすため動きだそう!」
第5部「蠢く者」 完
残りの登場人物
◆ クララ・アルセーヌ
破門された元シスターで、白と青の光球を得意とする回復担当。美貌と奔放な性格で人心掌握にも長ける。
◆ ダンク・ダンストン
臆病ながら忠実な巨漢兵士。大盾を装備し前衛で敵を止める盾役。言葉は少ないが、仲間を守る意思は誰より強く、団の安心感を与える存在。
◆ トム・ポート
旅商人出身で非戦闘部門を担う実務派。兵站・資金調達・交渉のサポートに強く、傭兵団の運営を裏から支える縁の下の力持ち。
◆ ドンパ・パンドン
ドワーフの鍛冶職人。かつて鉄の傭兵団に属していたが、理想を求めて暁へ加入。罠や武器の開発、大斧戦闘を得意とし、「手を汚す実務担当」。後に正式加入し、仲間の拳となる。
◆ バルザ・ドーン
元・城塞都市ガルタンの騎士団長候補であり、槍術の達人。
沈着冷静で戦場全体を見渡せる判断力を持ち、ゼムの作戦遂行において頼れる実戦指揮官。




