第6部「希望を求めて」
王都陥落。
救い出した王女リシェルは、自我を失い、敵の名を呟くだけの傀儡と化していた。
戦いの果てにダンクを失い、暁の傭兵団は敗北の苦汁をなめた。
だが、希望は残されている。
――王女の心を取り戻すこと。
その糸口を求めて、中立国フルムーンの聖女を求める。しかし、そこには光と闇の思惑が渦巻いていた。
第6部「希望を求めて」、開幕。
登場人物紹介
◆ ゼム・マイスター
本作の主人公。知略と信念を武器に戦う若き軍師。
誰かを救うため、そして世界を導くために覚悟を固める。
◆ ジェイ(ジェイコブ)
黒の魔法と諜報に長けた情報工作員。
飄々とした態度の裏に、仲間への深い忠義を秘めている。
◆ダンク・ダンストン
暁の傭兵団の気弱な巨漢。傭兵団での役割は皆の盾となり、前線を維持すること。王国の騒乱の際、ゼム達を逃がすため、自らを盾として敵の攻撃を防ぎ殉職した。
◆ローレン・マイスター
ゼムを拾った老人。その正体は賢者を継ぐものであり、ゼムに世界を見て、世界を導くよう使命を与えた。
※残りの主要な登場人物はあとがきに記載しています。
第1章「手がかり」
暁の傭兵団の拠点ルミレスト、かつては英雄として栄光を究めた傭兵団は、王国の転覆を目論んだ史上最悪の傭兵団として世間には認知されはじめていた。団長のクビには賞金が掛けられ、拠点には毎日のように賞金目的の盗賊や他の傭兵団が戦いを仕掛けに来ている。
拠点の城壁の上に、鋭い眼光で敵を見下ろす者がいた。
バルザ「来るぞ!魔法防衛隊用意!」
バルザの号令により魔法部隊が詠唱を始める。
バルザ「金に眩んだ者たちよ!思い知れ!……今だ!」
バルザの指揮により魔法が発動する。拠点の堀の手前で、紫色の霧が立ち込める。
敵「…くそ!何も見えねえし!紫色とは気味が悪すぎる…」
紫色の霧は、敵の視界を遮るが、敵の位置を知らせるように淡い光を放っていた。
バルザ「あそこだ!淡く光っている部分を狙い撃て!」
バルザの号令により、弓隊の一斉射撃が魔法により場所がバレている敵に降り注ぐ。
矢が鎧を打ち、悲鳴や血しぶきが上がる。
敵「なんで向こうはこっちを攻撃できるんだ!?」
ドンパ「さあて…仕上げじゃな!」
おらぁ!と声を上げて、ドンパは大きな槌を振り下ろす。
次の瞬間、ドゴン!ドカン!と破裂音が霧に包まれた敵を駆け抜ける。地面に仕掛けられた地雷が作動したのだ。
敵「引け!引けぇ!」
敵「話とちげぇじゃねえか!」
敵「方向がわからねぇよ…もうおしまいだ…」
そこにバルザ率いる騎馬隊が追い討ちをかける!
バルザ「こちらの命を狙のなら、自分の命も取られることを覚悟せよ!」
バルザと騎馬隊が砂埃を上げて、敵に突進する。
バルザの槍が唸り、敵を血祭りに上げていった。
敵が散り散りとなり、這いながらも拠点の向こうに消えていった。
バルザ「…ふん!腰抜け共が!」
---
事の発端は約1週間前。王国がエクリプスにより壊滅し、ダンクが殉職して1週間立ったときだ。騎士団長ノームに変装したベルモンドが王国中にお触れを出したのだ。
暁の傭兵団の古参メンバーは、全員がルミレストの作戦会議場に集まっていた。
[善良な貴族及び商人を謂れのない罪で断罪し、革命軍を裏で操って王国の混乱を招いたのは、暁の傭兵団である。我が国の王女リシェルも現在、かの暁の傭兵団に誘拐されている。リシェル王女の救出、暁の傭兵団団長の殺害を達成した者には白金貨100枚の進呈する。 アイリス王国国王サナディアス]
ゼム「白金貨100枚か…」
ドンパ「ガハハ!!一生遊びまくっても使い切れねぇな!」
ドンパが豪快に笑うも会議場は重苦しい雰囲気だった。
バルザ「この金額だと、うちの団の中から裏切り者がでる可能性がある。規律を遵守させねばなるまい。」
サリイ「おかしいですよ!国王サナディアスはあのとき、殺されてました!」
ゼム「…つまりはリシェルの代わりに傀儡にしたんだ。病床に伏せていると理由をつければいいからな。」
クララ「人間って怖いわぁ…」
トム「でも、表立って動けないということですよね?」
ゼム「…エクリプスはリシェルを玉座に座らせ、傀儡政権により王国を裏から操るつもりだったとヨイは言っていた。」
ジェイ「つまりは奴らも焦ったのか、国王を無理矢理据えたってことだな。」
バルザ「どのような時も悪党は、変わらぬな」
暁の傭兵団が議論している中で、アメリアが遠慮した声色で話す。
重苦しい雰囲気だったが、勇気を出して疑問を投げかける。
アメリア「ちょっと待ってください!」
全員がアメリアの顔をみる。
アメリア「…あの…エクリプスは何でわざわざ傀儡政権にするんですか…?あれだけの力があるのなら、傀儡政権にせずに自分達の誰かを王に据えたほうがいいですよね?」
アメリアの言葉に対し、ゼムは表情を変える。
ゼム「…つまり、傀儡政権にしなければならない理由がある。世間的には国王が死んでいることを発表していないってことは…」
ジェイ「つまり、めんどくさいのよ。王になったら法律やらなんやら変えないといけないからね!」
アメリア「そんなことって…酷すぎます!」
ドンパ「嬢ちゃん。それが狡猾な者達のやることだから理解できないのもわかる。」
会議場に沈黙が流れる。
ゼム「わからないことが多すぎる。」
ドンパ「??深く考えすぎじゃねえのか?リシェル王女を洗脳状態から解放するのが先決だろう。」
そのとき、外からドスドスと大きな足跡がする。
暁の傭兵団全員が臨戦態勢に入る。
作戦会議場のドアがコンコンとなり、ゆっくりと開かれる。
バルザ「誰だ!?名を名乗れ!」
バルザは扉の前で槍を構える。
???「失礼する。」
ドアが開き、男が2人見えた。1人は大剣を背中に付けたギルドマスターのゴルドー、その後ろには城塞都市の領主、サンドレイクが立っていた。
ゴルドー「……話に来た。」
ジェイ「おいおい…冒険者ギルドのギルドマスターと領主様が何しに来た。」
ゴルドーはゆっくりと周りを見渡し、ゆっくりと口を開く。
ゴルドー「…まて…お前らと事を構えにきたわけではない。」
サンドレイク「ゴルドー、すまない。下がってくれ。」
ゴルドーは後ろに下がると、サンドレイクが前に出た。
サンドレイク「久しいな。何やらめんどくさいことに巻き込まれたようだな。」
ゼム「サンドレイク領主…城塞都市はアイリス王国の都市だ。僕は敵ですよ?」
サンドレイク「なあに…君が黒だったら直ちに行動を起こすとしよう。しかしながら、今まで暁の傭兵団がやってきたことは城塞都市の住民は嫌でも知っている。ほとんどの領民は『これは王国の罠だ!』と言っているよ。」
ゴルドーは隣で頷いている。
サンドレイクはコツコツと足音を立ててこちらに近づいてくる。
そして、椅子に座って、腕を組んだ。
サンドレイク「君達が王都で巻き込まれたことについて、全て話してもらおうか。」
ゼム「………分かった。信じてもらえるかわかりませんが…」
---
サンドレイク「ふうむ…これは思っていたより根が深そうだ。」
ゴルドー「敵の規模が掴めぬ」
サンドレイク「しかし、君達がリシェル王女を救い出してくれたことだけが救いになる。」
ゼム「信じてくれるのですか…?」
サンドレイク「君達がランド伯爵との騒乱のとき、我々に手を貸してくれた理由と同じだ。我々も大切な者を守るためだ。」
ゴルドー「とは言え、リシェル王女を元に戻させねば王都へ進軍も出来ぬ。」
ゼム「ならば、私達がリシェル王女の洗脳を解く方法を探します。リシェル王女を洗脳から解除できれば、こちらに正当性が生まれます。」
サンドレイク「それが良いだろう。」
ゴルドー「俺は信頼できる王国内の冒険者ギルドの連中に声をかけてみよう。洗脳解除の方法もこちらも模索する。」
ゼムはサンドレイクとゴルドーという身分のある大人が協力してくれることに、心なしか安堵していた。
サンドレイク「…目処はあるのか?」
ゼム「…正直ありません。」
サンドレイク「…そうか、ならば中立国フルムーンにて聖女の力を貸してもらえ」
ジェイ「…おいおい、それって…」
クララ「中立国の聖女様と会うのは難しいわよ…」
サンドレイク「その通りだ。しかし、王都が陥落したとなれば傍観してられないだろう。状況は変わっているんだ。」
ゼム「つまり、中立国にて聖女に接触して味方に引き入れろというわけですか?」
サンドレイクはニヤリとした。
クララ「頭が痛くなるわね…」
ゼム「…」
サンドレイク「明日の朝に、中立国への親書を渡す。準備しておいてくれ。」
話し合いが終わり、サンドレイクとゴルドーはルミレストから去っていった。
ジェイ「相棒?どうするんだ?」
ゼム「サンドレイク領主の言う通りにしよう。俺はフルムーンに行く。」
ジェイ「…それなら俺は王都へ侵入して情報を仕入れてくるかな…」
ゼム「それは危険だ!」
ジェイ「それでも、お相手さんが何をしているかぐらいわかんねぇと後手に回るぜ?」
ゼム「………絶対に戻ってこいよ」
ジェイ「♪」
ジェイは手を頭の上に乗せながら、部屋から出て行った。
バルザ「拠点はワシが守ろう。任せておけ…ワシとサリイとドンパで守り通す…」
サリイ「任しておいて!バッサバッサ斬りまくるから!」
バルザ「……防衛は魔法と弓が中心だ…」
サリイ「なんでよ!?」
さっきまでの暗い空気が噓かのように賑やかになっている。
ゼムの目には、静かな闘志が宿る。
ゼム「中立国フルムーンには、俺とクララ、アメリア、トムで向かう。ドンパ、バルザ、サリイは拠点の防衛、ジェイは敵の情報収集を頼む。」
暁の傭兵団「了解!」
---
王都の地下深く、赤い血のようなワインを片手にした影があった。
ヨイ「次の一手は……光の排除だな…」
左手で静かに光を消した。
第2章「中立国フルムーン」
中立国フルムーン――その名は、大陸の中で唯一、平和を維持するための盟約を結ぶ国として知られていた。白亜の城壁に囲まれた都市の北にはファミリアと呼ばれる塔が建っており、先端には月の紋章を掲げ、夜の闇に淡く光る。
その塔からやや南にシャングリラと呼ばれる大神殿があり、大陸中に根付くハインツ教の総本山である。
暁の傭兵団は、王国の混乱を経てリシェル王女の洗脳を解くため、聖女に助力を願おうとこの国へ向かっていた。
街道を馬車がガタガタと進む。御者はトムが務め、手慣れた様子で馬の手綱を握っている。馬車の後ろにはゼム、アメリア、クララが乗っていた。
ゼム「クララはシスター時代にフルムーンには行ったことあるのか?」
クララ「全てのシスターは総本山のシャングリラで洗礼を受けるのよ♡」
アメリア「シスターも大変なんですね…」
クララ「洗礼と言っても、偉い人が「そなたをシスターに任命する!」って言うだけよ。形だけ立派なのよ。」
ゼム「本当に簡単なんだな…」
クララ「信者を増やすのが目的になってきたから、形式ばったのはどんどん廃れちゃったわね。」
馬車内で雑談していると、外から声がする。
トム「着きましたぞ!中立国フルムーンですぞ!」
ゼムは馬車の窓から外を見る。
そこには荘厳な白い外壁に囲まれた都市だった。目立つように、大きな月の紋章が輝く塔が見えた。
ゼム「スゴイ…」
クララ「いつ見ても綺麗よねー…」
馬車はフルムーンにそのまま向かい、城門へとやってきた。
衛兵「何者だ!?何のようでこの中立国に参った!」
衛兵が大きな声で問う。
トムが御者席からある書面を見せる。
トム「城塞都市ガルタン領主サンドレイクからの書状を届けに参りました。教会へと案内してもらいたい。」
衛兵は書面を見ると、顔色を変えて、姿勢を正してトムに正対した。
衛兵「領主の遣いでしたか!失礼致しました!どうぞ、お通りください。今は独立100周年記念祭の前で賑わっております。馬車の運転にはお気を付けください。」
トム「ご丁寧にありがとうございます。」
トムは軽く会釈をして、開門された城門を馬車を歩かせた。
城塞都市の中は、白い建物で統一されていた。太陽の照り返しで非常に目が痛い。
ゼムが目を細めて街を見ていると、前の方から修道服を着た司祭らしき人物が歩いてきた。
司祭「ようこそ。いらっしゃいました。私の名前はロンドと言います。ロンド司祭とお呼びください。皆様方を案内をいたします。」
トムは御者席から返事をする。
トム「感謝致します。」
ロンド司祭は、トムの隣の御者席に座り、あちらのほうですと言わんばかりに道を示した。
---
ロンド司祭「ここが、ハインツ教の総本山のシャングリラ大神殿です。教皇陛下がお待ちです。」
ロンド司祭はスタスタと大神殿へと歩き出した。
ゼム「?国王に会うのではないのか?」
トム「中立国フルムーンには国王は居ません。聖女を象徴として、ハインツ教会が政治を行っているので、国の実質のトップは教皇様になります。」
クララ「ちょっと感覚がずれるわよね。」
ゼム「宗教と政治が同じなのか……」
ゼムは一抹の不安を抱えながらもロンド司祭の後について行った。
大神殿の謁見の間。高い天井と彩色ガラス、ステンドガラスに囲まれた荘厳な空間で、ゼムたちは跪いていた。
玉座のように設えられた椅子には、白金の法衣をまとった老齢の男――ハインツ教会の頂点、教皇ローレンスが座していた。
教皇「……城塞都市ガルタンの遣い、とな。書状を」
その声音は冷たく、威厳に満ちていた。
ゼムは顔を伏せたまま、書状を近づいてきた司祭に両手を上げて手渡した。
教皇「読め」
司祭が書状を広げ、読み始める。
『アイリス王国王女であるリシェル王女の洗脳を解くため、聖女の浄化又は解呪の力を助力して頂きたい。
アイリス王国は、先日クーデターにより表向きは平穏だが、裏では様々な思惑が蠢いている。リシェル王女はその思惑の毒牙にかかり、洗脳の憂き目にあっている。何卒、ご助力願いたい。城塞都市ガルタン領主 サンドレイク』
教皇「ふむ…その方、面をあげよ。」
教皇は先頭で膝をつくゼムを見て言った。
ゼムが顔を上げ、口を開こうとした時、横に控えていた一人の司祭が声を張り上げた。
司祭「この者は血塗られた暁の傭兵団の団長です! 多くの戦で不和を撒き散らした外道にございます! 中立の地に迎えるなど、教会の威信を汚す行為に他なりませぬ!」
場の空気が一瞬にして重くなる。
ゼムは慌てて言葉を継いだ。
ゼム「我らは戦を望んだことなどない。リシェル王女の洗脳を解くため、聖女様にお力添えを――」
しかし教皇は手を振って制した。
司祭「今ここで捕縛すべしです!」
教皇はしばらく黙っていた。
教皇「書状の内容も公式に発表されている内容と相違がある。真偽がわかるまではお主を拘束する。」
その声に呼応するように、兵士たちが一斉に動いた。
ゼムは抗う間もなく、仲間たちと引き離され、両腕を縛られて地下牢へと押し込められた。
---
冷たい石壁。湿った空気。
闇に沈む牢獄の中で、ゼムはただひとり、重い鎖に繋がれていた。
(……どうしてこうなった)
悔恨と焦燥が胸を締め付ける。
その時――。
「……そこに、誰かいるのですか?」
壁越しに、柔らかい女の声が響いた。
驚いたゼムは鉄格子の間から隣の牢を覗き込む。だが、薄暗さのせいで人影すら見えない。
ゼム「……ああ。俺はゼム。暁の傭兵団の者だ」
「……やはり。予言の通りです」
静かな、しかし確信に満ちた響き。
ゼムは思わず身を乗り出した。
ゼム「予言……?」
「詳細は明かせません。ただ……“導く者”が現れると。あなたが、その方なのですね」
ゼムは息を呑んだ。
声の主は、自分の名も告げず、姿も見せない。
ただ、囁くように言葉を重ねる。
「あなたへの予言があります。『新月に迫る影、光を消そうと祭りの中に死を潜ませる。満月が昇る時、囚われし者の手により運命は揺り動かされん。』」
その声は、まるで祈りのように胸へと響いた。
「すみません…これ以上はここに居れません」
ゼム「待って!君の名前は…?」
「いずれ…また会えます……」
声の主は去っていった。
---
深夜。牢獄の前に足音が近づく。
松明の明かりが壁を揺らし、姿を現したのは――昼間案内役を務めたロンド司祭だった。
ゼム「……ロンド司祭?」
ロンド「静かに。声を出してはなりません」
彼は小さな鍵を取り出し、錆びついた錠を器用に外した。
鉄の扉がきしむ音を立てて開かれる。
ゼム「なぜ俺を……?」
ロンドは一瞬だけ瞳を伏せ、低く告げた。
ロンド「理由を問うてはなりません。ただ――“御方”の御意志です」
ゼム「……御方?」
ロンド「いつの日か分かります。その時まで、どうか命を繋いでください」
ゼムは言葉を失ったまま頷いた。
鎖が解かれる音がやけに大きく響いた。
ロンドはゼムの腕を取り、暗がりの中へ導いた。
その背には、静かな決意がにじんでいた。
---
こうしてゼムは、聖女の声に導かれ、ロンド司祭の手により密かに牢獄を抜け出した。
夜に光輝く空には満月が浮かんでいた。
第3章「新月の企み」
満月に照らされた月明かりの夜の街。石畳の路地裏に、ゼムは身を潜めていた。濡れた路面に映る月の淡い光が、冷たい空気に揺れている。
(……仲間たちは無事だろうか)
息を潜めながら、ゼムはひとり呟く。脱獄後の緊張が心臓を速める。
ゼム「まずは落ち着かないとな…」
ゼムは深呼吸をして、自分の身に起きたことを整理した。
ゼム「新月の夜の祭りに光が消える。それを防ぐのは、満月の日に囚われし者か…」
ゼムが真上を見上げると満月がゼムを照らしていた。
ゼム「あまりに出来過ぎだ…」
ゼムは心無く笑った。
仲間と連絡を取りたいが、自分が脱獄しているのがバレると仲間にまで危害が及んでしまう。
ゼムは俯いて、小さく溜め息をつく。
ゼム「ジェイが……居たら……」
ゼムの声は、風にかき消されそうなほど小さく、しかしどこか切実だった。
ジェイ「呼んだ?」
ゼムの背後にヒョイと現れた。ゼムは驚きのあまり、腰を打ってしまった。
ジェイ「……久しぶりだな、ゼム。」
ゼムは思わず息を呑む。ジェイの表情は夜の闇に溶け込みながらも、確かな安堵と覚悟が混じっていた。
ジェイ「王都の様子を報告しようと思ってね!なんやら面白いことになってんじゃん」
ジェイはニヤッと笑って手を差し出した。
ゼムは伸ばされた手をとり、ゆっくりと立ち上がった。背筋を伸ばし、路地の闇に身を隠しつつも、微かな希望を胸に抱いた。
ゼム「ジェイ…王都はどんな感じだ?」
ジェイ「どんな感じもなにも、平穏そのもの!俺らが居たときと何も変わってねぇよ。」
ゼム「不気味だな。」
ジェイ「でな…王城に忍び込んだら、こんな会話があってよ…「新月の夜の祭りを血祭りにする」ってね。」
ゼムの顔に衝撃が走る。
ジェイ「新月に行われる祭りと言えば、フルムーンの独立記念祭だからな!これは怪しいと帰ってきたのよ!」
ゼム「ナイスタイミングだ。実はな…」
ゼムはフルムーンに着いたあとから、ここに至る経緯をジェイに話した。
ジェイ「おもろすぎる…お前が予言の者か…」
ジェイは腹を抱えて笑っている。
ゼム「おいおい、こっちは真剣なんだぞ?」
ジェイ「あーお腹痛い…」
ゼムはしかめっ面になりながらも安堵を感じていた。
ゼム「ジェイ、探ってくれるか?」
ジェイ「お安い御用で…何をご所望かな?」
ゼム「独立記念祭の細部、エクリプスの動き、教会の内部事情だ。」
ジェイ「了解…ゼムはどうするんだ?」
ゼム「俺は魔法でトムやアメリア、クララと連絡を取る。」
ジェイ「了解…また3日後この場所で…」
ジェイは闇に消えて行った。
ゼム「さて、どうでるかな…」
---
宿屋の一室、トムとクララ、アメリアは俯いてベッドに座っていた。
アメリア「団長…大丈夫かなぁ…」
クララ「あらあら?心配してるの?♡」
アメリア「そんなんじゃないですよ!」
トム「おや?窓に光が来ましたぞ?」
アメリアがベッドから飛び降りて、窓の方に向かう。
そこには、魔法で小鳥の形をしていた。小鳥の足には紙が巻かれていた。
クララ「あらあら…珍しい魔法ねぇ」
アメリアは紙を取り出して中身をみた。
『仲間達へ、俺は無事。独立祭影あり。民衆、シスターに情報収集。結果を3日後、この鳥に。紙で報告。M.Z』
アメリアはこれを読み上げて、腰が抜けてしまった。
アメリア「よかったぁ…」
クララ「それにしても、姿を現さないってことは、まだ巻き込まれてるってことね…」
トム「指令通りに動きましょうぞ!」
アメリア「そうね!明日から聞き込みよ!」
---
3日後、昨日まで満月だった月が少し欠け、楕円型を描いて輝いていた。
路地裏の闇の方から光る鳥が近づいてくる。
ゼムは光る鳥から手紙を受け取ると、中身を読んだ。
『聞き込み内容。
◯今年は100周年ということで、全員が仮面を被る。
◯塔の上に今年はとびきりの舞台を建築
◯いつもは聖女様は塔を階段で上がる。
◯今年はパレードで都市内を回った後に、塔に階段ではなく、魔法で上がるそう。
P.S. アメリアが心配しているわよ♡』
ゼムは報告書を読み、少し笑った。
ジェイ「なに、1人で笑ってんの…きも…」
ゼムは静かに下を向いた。
ゼム「…ジェイ……報告」
ジェイ「はいよーむっつりなゼムに報告するぜ。」
「今年は100周年ってことで、パレードやら塔の上の舞台を再整備するなど、力が入っているそうだ。それも今の教皇になってからだそうだ。あとは、夜になると黒いローブの男やらが中に教会に訪れている。」
ゼム「…今の教皇になったのはいつだ?」
ジェイ「……王都が陥落して20日後だ。」
ゼム「例年との変更の知らせは?」
ジェイ「今の教皇になってから!」
ゼム「つまり…」
ゼム・ジェイ「教皇が怪しい」
路地裏に静寂が流れる。
ゼム「…潜入するしかないな」
ジェイ「…おう」
ゼム「決行は今からだ。俺は司祭に魔法で化ける。ジェイは俺の影に潜んでいてくれ。」
ジェイ「りょーかい!」
ジェイは影の姿になり、ゼムの影の中に入っていった。
ゼム「さぁて…行動開始だ。」
第5章「潜入!シャングリラ大神殿」
夜の帳が街を包む。淡い月光が白亜の大神殿の屋根を照らし、その影が石畳に長く伸びている。ゼムは深呼吸を一つ、暗闇に紛れながら大神殿の外壁に沿って身を低く進めた。
ジェイ「…静かに、だ。声を立てるな。」
ゼム「おう、心配するな。お前は影なんだから、喋るなよ…」
ジェイはクスリと笑うと、ゼムの影の中に入っていった。
石造りの壁を伝い、窓の格子や見張りの巡回ルートを確認する。塔の上では、独立祭の準備の灯りがちらつき、遠くに人影が動く。ゼムの心臓は早鐘のように打ち、全神経が研ぎ澄まされる。
ゼム「計画通りだ。中庭に通じる側門から侵入する。」 ジェイ「了解」
二人は闇に溶け込み、誰の目にも触れぬよう静かに足を運ぶ。重々しい扉の前、ゼムは用意していた司祭用の法衣に姿を変え、赤の光球と青の光球を融合させた。
ゼム「フォトンミラージュ」
自分の身体の周りに薄い膜が張られる。
ゼム「これで、光の屈折によって、俺の姿は周りと同化する。」
ジェイ「でも、影は残るぜ?」
ゼム「影を目立たなくさせるのは、お前の仕事」
ジェイ「任された。でも、司祭の服に着替えなくてもよくないか?」
ジェイが冗談を言う。
ゼム「笑うな。まだ見張りがいる」
忍び足で門をくぐり、大神殿の内部へ。大理石の廊下は冷たく、静寂の中で二人の足音さえも吸い込まれる。影が長く伸びるステンドグラスの間を通り抜けると、奥から低い声が漏れ聞こえた。
教皇と、エクリプスの幹部ガルド――二人が密かに会話を交わしている。
ゼムは息を殺し、耳を澄ませた。
ガルド「…新月の夜、すべてが整う。聖女は宵の象徴となるだろう。」
教皇「…そのときが、私が新たな闇の光となる。」
ゼムの手が思わず拳を握る。
ジェイ「…あれだな。ターゲットは聖女」
ゼム「…あとはどこで殺すかだ。」
闇の中で、静かに頷く。
ゼム「次は教皇の私室に行くぞ。」
ジェイ「御意」
ゼムがその場から離れようとしたとき、後ろからヒヤリとする空気を感じた。
ゼムが振り返り、教皇とガルドの方を見た。
ゼム「ヨイ………!」
教皇とガルドの間には、黒いローブに身を包んだヨイが立っていた。
ヨイ「これはこれは、教皇様。間もなく宿願が成就されますね。」
教皇「うむ…貴様の策のお陰で中立国を我が物にできそうじゃ」
ヨイはニコニコしていた。
ジェイ「あの野郎…」
ゼムは必死に我慢していた。あのとき、俺達を庇って死んだダンクが脳裏に浮かぶ。
ゼムは唇を噛み締めて、我慢していた。
ジェイ「おい!ゼム、落ち着け」
ゼムの唇から血が流れて、地面に落ちてしまった。
ポタン…
ヨイがこちらを首を回して見た。
ヨイか歯を剥き出してニヤリと笑う。
ヨイ「ネズミがいるなぁ…」
ゼム「ヤバい!気づかれた!」
ヨイの背中に黒の光球が現れ、黒の光球は黒色の無数の手に変わり、こちらに向かってきていた。
ゼム「くそ!」
ゼムは白の光球を瞬時に作り、眩い光に変えた。
ヨイ「また、目眩ましですか…」
光が止むと、そこにゼムの姿がなかった。
ヨイ「逃げられたか…」
ヨイは掲げた腕をゆっくりと下げる。
ヨイ「まあ精々あがいてみてよ」
ヨイは高笑いが部屋の中にこだましていた。
---
ゼムとジェイは隣同士で廊下を走っていた。異変に気付いた白い鎧に身を包んだ騎士達がたくさん追ってくる。
ジェイ「ゼムのせいだからな!」
ゼム「お前だってイラついていただろう!」
お互いに罵り合いながら、廊下をひた走る。
前方に3人の白の騎士が現れた。
白の騎士「止まれ!止まらぬと痛い目にあってもらう!」
3人の白の騎士は全員剣を抜き、こちらに向けて待ち構えている。後ろにも白の騎士が走って来ている。
ゼム「立ち止まるわけには」
ジェイ「いかないんでね…」
ゼムの背中に緑と青の光球、ジェイの背中に黒の光球が展開される。
ゼムは緑の光球を風に変え、手に集めた。
ゼム「エアープレッシャー!」
ゼムは勢いよく、手を前に突き出すと空気の固まりが中央に居た白の騎士を豪快に吹き飛ばす!
白の騎士は壁に回転しながら、叩きつけられそのままめり込んでしまった。
両脇の白の騎士が、再度ゼム達を向き直すと目の前にはジェイが居た。
ジェイ「よそ見は禁物だぜ…シャドウスレッド」
ジェイの手の先から黒い糸がシュルシュルと伸びる。
その黒い糸は両脇の白の騎士に巻き付いた。
白の騎士「くそ…離せ!」
ジェイ「それは、できない相談だぜ…」
ジェイはそのまま、走り去った。その後ろをゼムが走る。
ゼムの背中の青の光球が光り、地面に溶け込む。
ゼム「最後の仕上げだ…ウォーターウェーブ!」
青の光球が埋まった場所から水が勢いよく後方に流れる。その奔流は、後ろを追いかけてきた白の騎士達を押し流した。
ゼム「悪いな!」
ゼムとジェイはハイタッチをして、大神殿内を駆け抜けていった。
やがて、大神殿の裏庭に着いた。
ゼムとジェイは息が切れていた。
ゼム「ぜぇぜぇ…ようやく…巻いたか?」
ジェイ「ふぅ…それにしてもどうやってこっから脱出するか…」
すると、裏庭の茂みから小さな声がする。
ロンド司祭「ゼム…こちらです…」
ジェイは身構えたが、ゼムが静止する。
ゼム「大丈夫だ。彼は味方だ。」
ゼムとジェイは、身体を起こし、ロンド司祭が消えた方に歩いた。
茂みを抜けると、大神殿の敷地外に抜け出せそうな地下への入り口があった。
ロンド司祭が目配せする。ジェイと目を合わせ、ジェイを先頭にゼムも入っていった。背後ではロンド司祭が地下への入り口を閉めている音が聞こえる。
ぴちょんぴちょんと水が滴っており、生臭い臭いが広がっている。通路の先に光が見えた。
光が差す方向に歩いていくと、扉が見えた。
扉をゆっくりと開けると、そこは部屋が広がっていた。
ロンド司祭が後ろから話し出す。
ロンド「ようこそ。我々の隠れ家へ」
ゼムが周りを見渡すとそこには、ロンド司祭と同じ法衣に身を纏った人物が数人座っているのが見えた。
部屋の奥から聞き慣れた声が聞こえてきた。
アメリア「ゼム!」
アメリアがゼムに抱きついてきた。
クララ「あらあら♡お熱いわねぇ…」
トム「おや!ジェイ殿も一緒でしたか!」
ゼム「みんな、どうしてここに?」
トム「ロンド司祭が案内してくださったのです。」
ロンド司祭が皆の前に出てきた。
ロンド「我らは、御方のために志を共にするものです。御方がゼム殿に協力するように言われたため、貴公を助けたのだ。」
ゼム「…予言か」
ロンド「そのとおりだ。貴公がかの予言の運命を変える人物だと御方は確信している。我々を導いてくれないか?」
周りの目線がゼムに集中する。
ジェイが肩を叩く。
ジェイ「覚悟を決めろってさ」
ゼムは深呼吸をして、答える。
ゼム「わかった…それでは新月に行われる独立記念祭にて行われる聖女の暗殺計画について、現在の情報から推測し、対策を練る。」
会議場の雰囲気が一気に張り詰めた空気に変わった。
第6章「新月の夜、満月の光」
夜空には月の欠片すら浮かばず、星々が淡い光を降り注いでいた。
百周年を祝う独立記念祭――そのクライマックスを告げる鐘の音が、都中に響き渡る。パレードを終え、聖女レナが塔の前の魔法陣の中央に立つ。
いつもなら、塔を自力で登るのだが、今回からは魔法陣の浮遊により、塔の頂上に向かう。
魔法陣には教皇、黒いローブに身を包んだガルドとヨイ、聖女レナ、レナに付き従う仮面を付けた4人の従者が付き従っていた。
魔法陣が起動し、塔の頂上まで上昇を始めた。
塔の頂点にある満月を模したシンボルが間近にあり、その手前には広い祭壇が建築されていた。
塔の真下の中央広場には、数万の市民が押し寄せ、色とりどりの提灯や旗が揺れていた。
塔の上で聖女が白い大光球をシンボルに捧げ、強い光を放たせることが独立記念祭のクライマックスだ。その光を見逃さまないと、見上げる群衆は熱気に包まれている。
教皇「それでは、聖女レナよ。最後の祈りを満月に捧げるのだ。」
聖女レナの顔は凛としていた。
聖女レナは目をつぶり、祈りのポーズをとる。
すると、聖女レナの背後から見たこともないような白い大光球が現れた。
聖女レナは立ち上がり、両手を挙げる。
白い大光球は聖女レナの両手の上にとどまっている。
聖女レナ『信じています…ゼム…』
聖女レナが満月のシンボルに白い大光球が捧げられる。
しかし…満月のシンボルは白い大光球を跳ね返した。
ヨイ「バイバイ」
跳ね返った白い大光球は聖女レナに直撃した。
教皇「はっはっは!あの女!消し飛びおったわい!」
「これで、わしの国となる!下の何も知らないカス共をこき使ってやるぞ!」
ヨイ「さあ、最後の仕上げですねぇ」
ヨイは先ほどとは対照的な黒い大光球を作り出した。
ヨイ「これを満月のシンボルに捧げ、夜を迎えるのさ!」
???「計画通りだ」
ヨイが聖女レナが居た場所を振り返る。
そこには、聖女レナを抱いた仮面を付けた騎士が立っていた。
教皇「誰だ!貴様は!?」
仮面を勢いよく剥ぐ。
---
時を少し遡り、作戦会議
ゼム「おそらくだが、聖女の暗殺は独立記念祭のクライマックスの白い大光球を捧げる場面で行われるだろう。」
ロンド「それは不可能だ!聖女様の周りには騎士の中でも指折りが護衛するのだぞ!?」
ジェイ「その騎士が教皇の手がかかっていれば?」
ロンド「そうか…教皇もグルだったな…」
ゼム「つまり、祭壇に何らかの細工をしておき、白い大光球を持って聖女を葬り去る。」
ジェイ「そこにエクリプスが黒の大光球を捧げて、聖女は死に、夜がきたとかなんとか宣言するのか。」
アメリア「…ヒドイ」
ロンド「1つ質問いいか?」
ゼム「…なんだ?」
ロンド「なぜ、クライマックスに聖女様を害するのだ?パレード中に害する方が簡単だろう?」
クララ「そうよねー皆仮面を被ってるわけだし…」
ゼム「それこそがヨイの罠だよ。」
アメリアがビクッとする。
ゼム「ヨイの性格からして、あいつは絶望を見るのが好きだ。つまり、民衆が一番注目して、期待しているところを一気にどん底に落とすのがあいつが目指す所なのさ。仮面の着用、魔法陣による上昇、パレードの実施の全てがブラフ。つまりは戦力分散のための陽動に過ぎないのさ」
ジェイ「じゃあ、どうやって聖女様を守るんだ?」
ゼム「簡単な話さ。あらかじめ塔に登っておけばいい。」
クララ「確かにそうよねぇ」
ゼム「白い大光球が何かしらで聖女に襲いかかったとき、俺はこのタクトに白い大光球を吸収させる。そして、併せて煙幕を発動。ジェイとロンドは聖女に付き従う騎士を片付けてくれ。クララは祭壇の仕掛けの解除。アメリアは遠くから援護の準備だ。トムは塔の下で避難の誘導。」
ジェイ、クララ、アメリア、トム「了解!」
ロンドはこの作戦会議の流れを見て、不思議におもう。
ロンド「ゼムよ…君は一体何者だ?」
ゼム「俺?そうだなー」
---
そして、塔の祭壇前、仮面を剥ぎ宣言する。
ゼム「ただの脱獄犯だよ」
ゼムの周りの煙幕が晴れる。そこには付き従っていた4人の騎士が倒れていた。
ジェイ「俺の見せ場はー?」
ロンド「ゼムよ…読み通りだな…」
ゼムは聖女レナを地面に下ろす。
ゼム「お怪我はないですか?」
レナ「…ありがとうございます。信じてましたわ」
ゼムはその祈るような声に聞き覚えがあった。あのとき、牢獄で話しかけてきた声にそっくりだった。
ゼム「やっぱり、牢獄で話しかけてくれたのはあなただったのですね?」
レナ「はい…!」
ゼム「聖女様、ここは危険です。まずはロンドの所に避難してください。」
レナ「わかりましたわ…ご武運を…」
レナはロンドの所に駆け寄っていく。
ヨイ「ゼム!ゼム!ゼム!よくも俺の計画を台無しにしやがったな!」
ゼム「王都でのお返しだよ!」
ヨイ「ガルド!やるぞ!」
ガルド「…御意!」
ガルドが両手に短剣を持ち、こちらに向かってきていた。
ジェイ「お任せを…相棒!」
ジェイが影のようにゆらりと前に出る。
ガルドの短剣を楽々と受ける。
ジェイ「軽い一撃だね?本気?」
ガルド「…おしゃべりが過ぎるぞ」
キンキン!ドカっ!
ジェイとガルドは切り結んでいる。
ヨイ「ゼム…貴様は私が必ず葬り去る。」
ゼム「できると思うか?」
ゼムはタクトを掲げると眩い白い光がタクトを包んでいた。
ヨイ「なに!?それは…?」
ゼム「さっきの白い大光球の魔力だよ。このタクトは古の魔道具でね。魔力との融合適性が高いのさ」
ヨイの顔が強張る。
ヨイ『くそ…俺の黒の魔法と相性が悪すぎる…どうにかしてこの場から逃げなくては…』
背後から声がする。
教皇「貴様らーー!武器を捨てるのだ!」
ゼムが振り返ると、教皇がロンドを踏みつけて聖女レナを人質に取っていた。
教皇「おら!早く武器を捨てんか!」
ヨイ「よくやったね…教皇」
ガルドとジェイも動きを止めていた。
ゼムとジェイは目を合わせ、武器を持ちながら両手を挙げる。
教皇「そうだ…そのまま、武器を下ろすのだ…」
ゼムとジェイが武器を離したその瞬間
アメリア「ウィンドアロー!」
アメリアの放った矢が風の螺旋を描きながら、教皇の胸を貫いた!
教皇「ぬぐおっ!」
教皇は聖女レナを離した。そのスキを突き、ゼムがレナを抱きかかえる。それを援護するかのようにジェイが敵の方を向いていた。
ヨイ「あーあ…本当に台無しだよ…本当に困るよ…」
教皇が胸を押さえながらヨイの方に歩いてくる。
教皇「ヨイ…様…助けて…ください…」
ガルドは短剣をしまう。
ヨイ「最後まで役に立ってね!」
ヨイは背中の黒い光球を教皇の身体に融合させた。
みるみるうちに教皇の身体が膨らんでいく。
教皇「あ…ヨイ…さ…ま!お助…けを…」
教皇の姿は正に異形と化しており、宗教を裏切った罰ともいえる姿だった。
ヨイ「ゼム…次は負けないよ」
ヨイとガルドは闇に紛れて去っていった。
教皇「ぬぅ……あ…」
ジェイ「おいおい!こりゃやべえぞ!」
ゼム「これが破裂すると、下手すると塔が崩れる!」
そこに、クララが走ってやってくる。
クララ「月のシンボルよ!月のシンボルの跳ね返りの目標を奴に設定したわ!そのタクトの魔力をぶつければ相殺できるはずよ!」
ゼムはタクトを掲げる…
ゼム「光よ!」
タクトの先端から白い大光球が月のシンボルに向かって放たれた!
月のシンボルは光り輝き、その光は目の前の膨らんだ教皇に収束し、跡形もなく消え去った。
塔の下では、クライマックスが成就されたと思い、民衆から大歓声が上がっている。
ゼムは夜空を見上げる。
ゼム「新月の夜にふさわしい…満月の光だ…」
第7章「ルミレストへ」
夜明けを迎えた王都は、昨夜の戦いの影を残しつつも、朝陽に照らされて輝いていた。街路には民衆が集まり、大神殿前の広場に溢れた人々は、昨夜の勇敢な戦士たちと聖女レナを祝福する歓声を上げている。色とりどりの旗や提灯が揺れ、街全体に活気と喜びが満ちていた。
大神殿シャングリラの大扉が開かれると、ゼムたちは慎重に歩みを進める。祭壇の上に立つ聖女レナは神聖な衣装に身を包み、凛とした姿で謁見者たちを迎えた。民衆は広場の周囲から拍手と歓声を上げるだけで、その場の空気を温かく満たしている。
聖女レナは微笑みながら頭を下げた。
「ゼム様、ジェイ様、クララ様、アメリア様、トム様…昨夜は本当にありがとうございました」
ゼムは短く頭を下げ、彼女の無事を心から喜ぶ。聖女の澄んだ瞳は民衆の祝福を受け、柔らかく輝いていた。
その時、大神殿の中央祭壇で静かな儀式が始まる。長年ロンド司祭として聖女に仕えてきた彼が、教皇としての位を授かる瞬間だった。
大司教の前に跪いたロンド司祭は、神聖な祝福の言葉を受けると、白銀の聖職者用装束を纏い、堂々と立ち上がる。
大司教「ロンド司祭よ、これより汝をロンド教皇と認定する」
民衆の歓声が一層大きく広がる。塔の頂上での混乱を乗り越えた安心と喜びが、声となって大神殿を包んでいた。
ロンド教皇は聖女レナに一歩近づき、丁重に頭を下げる。
ロンド教皇「これより、聖女様を守る守護の任に、私も全力を尽くします」
ゼムはその様子を見つめ、心の中で小さく頷く。塔の戦いから一夜明け、大神殿には平和と希望が戻ったのだと実感した。
聖女レナの穏やかな微笑みと民衆の祝福の声が、静かに、しかし確かな力となって王都を満たしていた。
---
謁見の間にて、教皇ロンドと聖女レナが待ち構えていた。
ゼムはその場に跪く。
レナ「そんな…ゼム様お顔をお上げください…」
ロンド「そうだぞ!君は我が中立国を救った英雄なのだから」
ゼムはニコリと笑いながら立ち上がった。
ゼム「そうさせてもらうよ。」
ロンド「それで?話とは?」
ゼム「洗脳されたリシェル王女を救うため、聖女レナの浄化の力を借りたい。」
ロンド「よかろう。」
ジェイが少し、体勢が崩れる。
ジェイ「おいおい…そんな簡単に、決めてもいいのかよ?」
ロンド「君達になら、聖女様を任せられるからだ。それに…」
ゼム「何かあったのか?」
ロンド「エクリプスの襲撃がいつ来るかわからぬから、聖女様にはお隠れになってもらう予定だったのだ。」
クララ「なるほどねぇ…表向きは巡礼にしてこちらに保護をお願いするつもりね」
ロンド「…そういうことだ。頼まれてくれるか?」
ゼム「任しておいてくれ。聖女様は必ず守る。」
レナは少し顔が赤くなったが、すぐに顔を逸らした。
ジェイ『あーあ…やっぱり天然たらし』
アメリア『なんか…複雑です…』
トム「さぁ、出発はいつですかな?私が馬車やら何やら手配致しましょう!」
---
フルムーンを出発する日になった。
トムは「聖女様が乗られるのですから!」
と言い、スゴイ豪華な馬車を用意しようとしたが、ゼムから「周りからバレバレだ」といい却下されてしょんぼりしている。
ゼム達は馬車に乗り込む。
フルムーンの城門には多数の民衆が集まっていた。
子供は笑い、民衆は旗を振っている。
「また来いよー!」という声も聞こえてくる。
ゼムが馬車の荷台からフルムーンを振り返る。
塔の頂の月のシンボルが今日も光輝いていた。
---
馬車に揺られて、ルミレストに到着した。
ドンパ「お?あの馬車は…?」
バルザ「団長のお帰りだ!門を開けよ!」
ルミレストの門が開く。
馬車からゼム達が降りる。
ゼム「バルザ、ドンパ、サリイ大事ないか?」
バルザ「金に目が眩んだ愚か者共は全員、返り討ちにしてやったわ」
ドンパ「この期間によ!新しい罠を開発したんだ!」
サリイ「聞いてよ!バルザったら私に出番をくれないのよ!」
いつもの軽いノリでのやり取りが続き、再会を分かち合う。
そこに、聖女レナが馬車から降りてくる。
レナ「ここが、ゼム様の拠点のルミレストですか…良いところですね。」
レナの姿を見て、男の団員達が驚いた表情をする。
バルザ「静まらんか!」
サリイ「そうよ!女なら私が居るでしょ!」
団員「サリイさんは女じゃないもん」
サリイ「むきー!お前ら!覚えとけよ!」
サリイが団員を追いかけ回している。
ゼム「御手を、レナ様」
レナ「レナ様なんて、やめてください。レナでいいです。」
ゼム「そうか…レナ、拠点を案内するよ。」
レナは顔を赤くして、小さく頷いた。
ドンパ「あー大将の悪い癖だのう」
ジェイ「本当だよ…羨ましいやら悲しいやら」
---
その日の夜、領主サンドレイクとギルドマスターゴルドーは、リシェル王女を連れてルミレストにやってきていた。
サンドレイク「ゼムよ。よくやった。」
ゼム「色々とありましたが、何とかなりました。」
サンドレイク「うむ…ゴルドー!リシェル王女をここに」
ゴルドーはリシェル王女を抱えて、椅子に座らせた。
ゼム「レナ…頼む」
レナ「わかりましたわ…これは…」
レナの表情が悲しい表情になる。
レナ「これはかなり純度の高い黒の魔法がかけられているわ。少し時間がください。」
サンドレイク「了解致しました。聖女様」
レナは手を併せる。
背中に白い光球が生まれる。その光球はますます白くなっていくのがわかる。
クララ「スゴイ…なんて純度の高い白なの…」
サリイ「スゴイ綺麗…」
レナ「ハイアンチカース…」
レナの作り出した純度の高い白の光球がリシェル王女の身体に融合し、眩い光を放つ。
リシェル「…ここは…?」
サンドレイク「リシェル王女!正気に戻られましたか!」
リシェル「サンドレイク…?」
リシェルは周りを見渡している。ゼムと目が合った。
ゼム「リシェル王女…お待たせして申し訳ありませんでした。」
リシェル「ゼム…説明してくれ…」
ゼム「まずは、お休みになってからでも…」
リシェル「いや…聞かなければならない…話してください」
ゼムは心配そうな表情をしていたが、リシェルの現実を見ようとする真面目な表情に負けてしまった。
ゼム「わかりました。リシェル王女の身に起きたことを全て話します。」
ゼムはリシェル王女の洗脳から、中立国フルムーンの聖女レナが解呪してくれたこと、国王の死亡、エクリプスによる傀儡政権の全てを話した。
リシェル王女は頭を抱えている。
リシェル「……なんということなの…?父が死んだ?王都が陥落?」
リシェル王女は完全に混乱していた。
そこに聖女レナが膝をついて、手を握る。
レナ「リシェル王女…今は辛いときです。ですが、失った物を数えてはいけません。今は手に取れるものを確実に掴むことが大切ですよ…?」
リシェル「手に取れるもの…?」
リシェルは周りを見た。
暁の傭兵団、領主、ギルドマスター、聖女レナが立っている。
リシェル「…そうですね…しっかりとしなければなりませんね。失ったものを取り返すためにも…」
リシェルの瞳にわずかながら、炎が宿った気がした。
ゼム「まだ希望はあります。」
リシェル「……希望…?」
サンドレイク「リシェル王女…そなたが生きてここにいることが王国の希望となる。我が城塞都市は王都奪還に力を貸しましょうぞ。」
ゼム「俺達、暁の傭兵団も協力させてもらう。」
リシェル王女はその言葉を聞き、涙をながす。
リシェル「…ありがとう…ありがとう…」
リシェル「聖女レナ様、この度は解呪してくださり、ありがとうございました。この御恩は、アイリス王国は永遠に忘れないでしょう。」
レナ「…本当によくなってなによりですわ」
レナはリシェルに微笑んだ。
ゼム「アメリア、リシェル王女を寝室へ」
アメリア「わかったわ」
サリイ「私もついていくわ」
アメリアとサリイがリシェル王女を寝室に連れていった。
サンドレイク「さて…今後だが、リシェル王女を旗頭として王都奪還へとステージを進めよう。」
ゼム「しかし、リシェル王女の容態が安定してからでも…」
ゴルドー「甘いな。王都の冒険者ギルドの話だと、王都中の民衆がどんどん消えているという話だ。」
バルザ「ううむ…戦の前にはよく民衆は避難しておりましたな…」
クララ「あらぁ?なんか動きがあるのかしら?」
ゴルドー「戦かどうかはわからんが…何かが動いているということだ。」
ゼム「まずは情報を収集すべきです。わかってからでも遅くはない…」
???「悪巧みかい?随分と悠長なんだね」
謎の声が部屋中に響き渡る。
暁の傭兵団とゴルドーは武器を手にとる。
ゼム「外だ!」
ゼム達は外に出てきた。
夜の闇の空に何かが浮かんでいた。
ヨイ「これはこれは…お久しぶりですね…」
ゼム「ヨイ!!!」
ヨイは余裕の笑みを浮かべる。
バルザが槍を構え、突進する!
バルザ「ダンクの仇!ぬぁ!」
バルザの渾身の突きは、空を切った。
ヨイの身体はバルザをからかうように空中に浮いていた。
ヨイ「危ないじゃないか…残念だけど本体の僕は王都に居るんでね。そこに居るのは幻さ…」
サンドレイク「何が目的だ?」
ヨイ「リシェル王女が元に戻ったからね…もうお人形さんごっこを辞めようと思って」
ゴルドー「どういう意味だ?」
ヨイは指を鳴らすと空に映像が流れる。
その映像にはエクリプスのドンであるベルモンドが映っていた。
ベルモンド「全世界の諸君、私がエクリプスのドンのベルモンドだ。我がエクリプスはアイリス王国の王都を陥落させた。我等の宿願は世界を永遠の夜に誘うことである!人の欲は制限がない。それらを一旦闇に沈め、黒による侵食により世界をリセットする必要がある!その手始めとして、15日後、城塞都市ガルタンへ侵攻する。抵抗は無駄だ。我が不死の軍勢が城塞都市を埋め尽くすのを震えて待つがよい!」
映像が切れる。
ゼム「ヨイ!永遠の夜とはどういうことだ!?」
ヨイ「答える義務はないね」
ジェイ「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ!」
ヨイ「15日後。また会えるのを楽しみにしてるよ」
ヨイはそう言うと、夜の闇に消えていった。
バルザ「…いつの世も戦なのか」
誰もが言葉を失っていた。
夜空には満月が煌煌と光っている。
永遠の夜、不死の軍勢、エクリプスの台頭、ガルタンへの侵略
決戦の舞台は新月の夜…
ゼムは夜の静けさに新たな戦争の臭いを感じていた。
ゼム「俺はもう負けない…誰も失わせない!」
第6部「希望を求めて」 完
残りの主要登場人物
◆サリイ・アイバーン
金髪の女騎士。身長は155センチ前後。剣術に自身を持っており、実力は高い。性格は曲がったことが大嫌いで猪突猛進タイプ。
◆クララ・アルセーヌ
シスターとしての実力はトップクラスで白と青の光球が得意。体つきは非常によく、豊満な胸を強調している。シスターにもかかわらず信者を誘惑するなどが問題視され、教会から破門されたところを傭兵団に拾われる。
傭兵団での役割は、後方支援及び回復を担当
◆トム・ポート
異国を渡り歩く商人。魔物に襲われているところをゼムに助けられた。ゼムとジェイの傭兵団に共感し、出資する。傭兵団での役割は、非戦闘員ながら兵站及び会計を担当
◆ ドンパ・パンドン
ドワーフの鍛冶職人。かつて鉄の傭兵団に属していたが、理想を求めて暁へ加入。罠や武器の開発、大斧戦闘を得意とする。
◆ バルザ・ドーン
元・城塞都市ガルタンの騎士団長候補であり、槍術の達人。沈着冷静で戦場全体を見渡せる判断力を持ち、ゼムの作戦遂行において頼れる実戦指揮官。
◆アメリア・ドーン
バルザの娘。父譲りの戦闘センスで緑の光球を使用した弓による狙撃が得意
【敵の勢力】
◯ ベルモンド
エクリプスの団長。大柄の男で長剣を得意としており、赤の光球からの火の魔法が得意
◯ ヨイ
通称、宵の軍師。エクリプスに所属している。ゼムに一目置いている。アイリス王国の傀儡政権の樹立のため暗躍した。




