第9幕 BLチョビンと恐怖の大魔王
「記憶が・・・」
助けを求める少女の姿に、心を揺さぶられたヨンズの記憶の一部が蘇ってくる。
いや正確には断片的で意味をなさない記憶のかけらよりも、本当の意味で戻ってきたというのは失われた魔法の力の一部といった方が的を得ているのかもしれない。
そしてその力とは、
・・・チャームの魔法。
ここにきて、またそれかと、まるで意味がないだろう、と思われるかもしれない魔法の力ではあったが、この局面ではそうとも言えなかった。直接的に相手を魅了する魔法の力は、心を支配された人々の支配権をさらに奪うことができるかもしれないのだ。
「仕方がない。こんな力の使い方は本意ではないのですが」
優雅なポーズと共に、詠唱を始めるヨンズ。そして魔法は発動された。
「パーフェクトリー・チャームッ!」
その効果はほどなく現れた。
「あら、ヨンズ君じゃない。いつからそこにいたの?全然気付かなかった」
どうやらミス・セプテンバーが正気に戻ったらしい。
「なんかカッコイイ人がいると思ったら、やっぱりヨンズさんはオーラが違うダス!」
キラキラした瞳でヨンズを見つめるグリン。
「ヨンズ、どうやらワシはお前に告白せねばならんことがあるようじゃ」
「・・・いや、そんなオチはいいですから」
モジモジしながら語るチョビンに、ヨンズはその先の言葉を切り捨てた。
そしてヨンズは周囲を見渡す。
心を囚われた人たちの支配を奪えていたのなら、その人たちにかけられた魔法の力を解呪することで、この多くの人たちを正気に戻すことができるはずだ。しかし結果は、完璧とは程遠いと言わざるを得なかった。
魔法の効果自体はチョビンたちを見ればわかるが、何も問題ない。だがその効果が及んだ範囲が狭すぎたのだ。ストリートにいる人たちは観客たちを含め、数千人はいようかという規模であったのだが、ヨンズが心の支配を奪えたのは数十人程度でしかなかった。
「これでは全然足りない・・・」
たしかに魔法の力は戻ってきた。しかしいきなり本調子に戻るはずもなく、これが現状でヨンズの引き寄せることができる結果の限界ということなのだろう。力不足もいいところだと、ヨンズは自嘲気味につぶやく。
「え、ナニナニ?ヨンズ君、どうしたの?」
うなだれるヨンズに、ミス・セプテンバーが状況の説明を求めてきた。
「なんだ簡単なことじゃない」
ヨンズから一通りの経緯を聞いて、ミス・セプテンバーはしれっと言い放つ。
「えっ!?」
「これはオツ姫伝のパレードなんだよ。だったら心を奪われた彼女たちの中心にいるのは、他でもない彦ブーに決まっているよ。彼女たちを操っている彦ブーを見つけ出して、皆でぶっ飛ばせば観客も女の子たちも元に戻って一件落着じゃない!」
「いやでも、そんな簡単には・・・」
「簡単だよ、だってアナタは私が考えるかぎり最善で最高の仕事をしたじゃない!仲間である、私たちの正気を取り戻したっていう」
そう言いながらミス・セプテンバーはニコリと笑った。
ーところ変わって再びプリンは
「望むところなのです!今すぐ行くので、そこで待ってるのです」
「そう簡単に来られるもんですか!」
自称オツ姫の挑発に乗って、勢いよく城内へと飛び込んだプリン。
朱塗りの大きな柱と大広間。部屋の両サイドには一段高くなった欄干付きの通路に、奥には上階へと続くおおきな階段もあった。これであとは幕でもついていれば、巨大な舞台ではないかとも言えるような内装に息をのんでいたプリンの目の前に、ぞろぞろと不審な集団が現れる。
それは白い全身タイツに身を包んだ青ひげのオッサンたちだった。
その白タイツの集団が、奇妙な踊りをシンクロさせながらプリンを取り囲む。その踊りがいちいち不快感を煽るが、それ以上に気になるのがそれぞれの尻にはイヤな感じの黄色いシミがついていた事だった。
「お前たちは何者です!?」
「我々は星の王子だ」
一斉にそう答えたオッサンたちは全員が同じ声で同じ顔だった。
「気持ち悪いです!王子のイメージがダダ下がりなので、やめて欲しいのです」
「結構だ!褒め言葉と受け取っておこう!」
「まるで意味が分からないのです」
「フフン!この穢れた世界に意味のあるものなど、どれだけ存在するというのかね」
自分の言葉に酔いしれるかのように、全員がうっとりとした表情になる。
「訳のわからない変態オヤジと禅問答をしているヒマはないのです。さっさと先を急ぐのです」
「そうはさせないぞ」
白タイツがプリンとの距離を詰めてくる。
「サンダヤン!」
突如プリンがそう叫ぶと、白タイツの集団に電撃が走る。アフ~ンと気持ちの悪い声をあげて一斉に倒れこむ白タイツたち。
「詠唱なしで魔法・・・だと!?」
たったの一撃しかも弱攻撃で、床に這いつくばりながら白タイツたちは呻くようにつぶやく。
「くっ、こんなはずでは・・・」
「こんなはずも何も、最初から雑魚オーラがバリバリ全開なのです」
「・・・ふっ、やはりお前たちでは荷が重かったか」
突如広間の照明が徐々に落ちてきたかと思うと、スポットライトが奥の階段を照らす。
やがてその階段から新手の白タイツがゆっくりと降りてきた。ただ他の白タイツと違うのは、尻についたシミがそれはそれで嫌なカンジの真っ赤な色だった。
「部長!」
黄色いシミの白タイツたちが歓喜の声を上げて叫ぶ。
「また変なヤツが出てきたのです」
「私の名はフグ・ルィマン!人は私を赤いホウキ星のルィマンと呼ぶ」
「いや、誰も聞いていないのです!」
「ふっ、またまた。照れておるのだな、私の魅力に!」
「頭のなかが、お花畑なのですか?」
呆れるプリンを無視して、ルィマンは続ける。
「だが仕方がない。私もプロとしてファンに手を出すのは心苦しいのだが、許せよリトルレディ」
「こういう人の話を聞かない上司というのが、一番困りものなのです」
しかし見ると黄色い白タイツは、ルィマンの言葉に「あ~っ、もういい!それでいいから行っとけ」と、仕方がないから、もう許してやるから逝ってこいと、どうやらおかしな形で容認はされているらしい。
「どう対応していいのか、訳が分からないのです」
「問答無用!」
そしてルィマンがそう叫ぶと同時に、彼の体から放たれたまぶしい光で部屋が包まれる。さきほど照明を暗く落とされていたのは、この攻撃のための伏線であったのかはわからないが、突然の光にプリンたちは視界を奪われた。そしてこの隙に乗じて、ルィマンが攻撃を繰り出す。
「蜂のように舞い、蝶のように刺す!」
「いや、それを言うなら逆なのです」
しかし星の付いたステッキをあやつり、フェンシングの突きのような攻撃を繰り出してきたルィマンであったのだが、・・・痛くなかった。そしてすかさず白タイツたちがざわめきだす。
「だ~っ、だからいつも言ってたじゃないですか!ダンディズムとか日曜大工とか家事手伝いとか、そんな訳のわからないモノにばかりスキルポイント使うからこうなるんですよ。だからたまには、バトル系に役立つものにも振っとけって言ってんのに」
「いやぁ、ヨメがうるさいんだよ・・・、そして怖いんだよ」
「どんだけ関白失脚なんですか!」
身内であるはずの黄色い白タイツたちに責め立てられるルィマン。
しかしヤンヤヤンヤと彼らに責められるうちにやがてその目に狂気が宿る。
「クソッこうなったら、必殺ホウキ星ホウキの術だ」
ぷすぅ~!
音もなく現れる恐怖の大魔王。
「!?」
突如スケさんの顔色が変わる。
「ぐっっは!プリン、気を付けるんだ!毒霧だ、毒霧が放たれた」
「ダメです。意識が薄れていくのです・・・」
部屋の中に充満する黄色い霞に絶体絶命のピンチを迎えるプリンとスケさんであったが、やがて部屋の中を吹き抜ける爽やかな風で一命をとりとめた。朦朧とする意識を奮い立たせながら、やがて意識を取り戻したプリンの目に飛び込んできたのは、白タイツたちに囲まれてタコ殴りにされているルィマンの姿だった。
「お前それは敵味方関係なく、皆殺しの禁断の技じゃねえかコノヤロウ!」
「うちには家のローンがまだ30年も残ってんだぞ!コノヤロウ」
「うちの子はまだ幼いのに片親にするつもりか!コノヤロウ」
「あっ、痛い、やめて!ホウキ星のホウキの部分は、ガスとチリだというのに!私は真実を伝えたまでだというのに」
そんなこと知った事かと、白タイツたちの暴行は止まらない。
ー数分後
「ふっ、やるではないか!同士討ちを狙って戦況を覆すとは、見事な作戦だ」
顔じゅうボコボコになったルィマンが、気力のみで立ち上がりプリンを称える。
「自分から自滅しておいて、バカなのですか?いやいや・・・、バカなのですか?」
「何だかすごくメンド臭い敵だけど、これがオツ姫の作戦だとしたら恐るべしだよ」
「ホントです。まるで強くはないのに、すごく足止めされるっていう」
・・・足止め?ここでプリンの頭に嫌な思いがよぎった。
ここまで白タイツたちとのやり取りのなかで意識が薄れていたのだが、ふと気が付いてみると、この星宮殿に来るまで感じていた魔力の淀みが、この場所から感じられなくなっていたのだ。
プリンは白タイツたちの制止を振り切って、広間の奥に見える階段を駆け上る。
そこでプリンが目にしたものは、・・・案の定もぬけの殻となっていたオツ姫の部屋であった。
なんだか自分の思惑を離れて、話がどんどん暴走し始めました。
どんな形に収束するのか予測できず、いろんな意味でドキドキです。
ちょっと泳がせてみようと、危険な賭けに片足突っ込んでます(笑)
ではまた次回!
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