第10幕 あたまの整理は誰のため?
変態集団のような白タイツたちをかいくぐり、星宮殿内の階段を駆け上ったプリンの目の前にあらわれたのは、あたって欲しくもない嫌な予感を具現化したかのように、もぬけの殻となったオツ姫の部屋だった。
さらにその部屋の奥にはモヤモヤした光の壁があって、その向こうにプリンたちがパンナコッタ・ワールドに来るまでに通ってきた道が見える。そして「ちょっと、コッチの方を見てごらんよ」と、慌てたようすのスケさんに促されたプリンが視線を変えると、どうやら目的地であるパンナコッタ・ヘブンらしき巨大な建築物も見えた。
「どうやらボクたちはこのパンナコッタ・ワールドという、ひとつの魔法空間に閉じ込められているみたいだね。」
「いつの間に!?どうにかして、ここから出られないですか?」
「ダメだね。たぶんゴキブリホイホイ的なやつだよ」
「ゴキブリホイホイ?」
「キミにはわからないか・・・。つまりアレだよ、獣を捕まえる罠とかみたいに、餌に吊られて檻の中には簡単に入れるんだけど、一度入ってしまったら出られないっていう」
「そんな餌に吊られて罠に飛び込む、アホな動物と一緒にしないでほしいのです!」
「・・・パンナコッタ・ワールドの入場口で、うひょ~って興奮しながら飛び込んでいったのはどこの誰だよ?やってみればわかると思うけど、ボクたちが入ってきた入場ゲートはこっち側からはどこを探しても見つからないはずだよ」
「ぐむむむむ・・・」
スケさんに痛いところを指摘されて、ヤケを起こしたプリンは短絡的行動に出ようとする。
「だったら・・・、こんな壁、アタチの魔法で壊してやるのです!」
「ちょっと待ってよ!恐らくここはシャボン玉のなかに造られた虚構世界みたいなものなんだ。無理に壁を壊しなんかしたら、このパンナコッタ・ワールド全体の空間がはじけて消えてしまうかもしれない」
「別に構わないのです!こんな忌々(イマイマ)しい場所」
「でもこれだけの規模で、これだけの密度の空間だよ?そりゃあ体にプロテクションフィールドを纏ってるキミや、まあボクも大丈夫かもしれないけど、ほかの四人・・・、特にグリンやミス・セプテンバーなんかは空間がはじけた衝撃で塵となって消滅してしまうかもしれないのに?」
「う・・・、それは困るのです」
「でしょ?だったら正攻法で乗り切るのが得策だよ」
たしかにスケさんが言わんとしていることは理解できる。しかし色々なことがありすぎて、何をどうすればいいのか頭の中がパンク寸前のプリンにとって、次にとるべき行動を含めて何が正攻法となりえるのか理解に苦しむところであった。
「キミはここいらで一度、頭の中の整理が必要なのかもしれないね」
そう前置きしてスケさんは続ける。
「ボクたちはパンナコッタ・ヘブンへと向かっている。というのも、チョビンさんがパンナコッタ・ヘブンの支配人マダム・ヤンから"遠見の水晶球"を借り受けたいからだ。あと・・・、どうでもいいけど、キミは自身にかけられた呪いを中和するため、パンナコッタ・ヘブンのカジノ景品である"幸せのフォーチュンダイス"が欲しかったんだよね」
「はっ!?今回のタイトルにもなってるフォーチュンダイスをどうでもいいとは、酷い言いようなのです!アタチにはソレが全てで、他の事はどうでもいいというのに」
「はいはい、でもここまでは大丈夫だね?だったらここまでは、とりあえず置いておこう。でだ、そのパンナコッタ・ヘブンへ向かうためにも、マダムが造ったこのパンナコッタ・ワールドをなんとかして抜け出さなくてはならないわけだけど、次にそのためのヒントやキーワードを整理するよ」
「ヒント?キーワード?そんなのあったですかね?」
プリンの言葉に、スケさんはハァと小さくため息をついた。
「あったじゃないか。フェアリーランドを発つ前ヨンズさんが言ってたよ、カジノであるパンナコッタ・ヘブンには結界があって、それを破るには魔力が必要だって。その結界というのはこのパンナコッタ・ワールドで間違いないだろう。ってことは、ここから出るために魔力が必要なんだよ」
「ふむふむ」
「パレードで心を支配されないよう防御のためって考えもあるけれど、ボクは実際その力が必要になるのは、言葉通りここを抜けるためだと思うんだ。だってキミも魔力の淀みを感知して、出口であろうこの場所まで来れたんでしょ?」
スケさんは何気に語ったが、そこには聞き流すわけにいかない注意すべき情報が含まれていた。
「やっぱりこの壁が出口なんですか?」
「そりゃそうでしょ、だって外の世界が見えているんだから。別々の世界をつなぐ扉の出口に立ったら、そこに見えるのは繋がった先の世界じゃないか」
その言葉に、プリンは鼻息荒くスケさんに食いかかる。
「じゃあ、やっぱりこの壁を壊すことで正解じゃないですか!」
「だから違うって!キミは毎日、家を出るたびに玄関の扉を壊すのかい?家を出るためには、扉を開かなきゃいけない。そしてその扉を開くには、"カギ"を開けるでしょ」
「カギ?」
「そう、キミも感じていた得体のしれない"魔力の淀み"、それこそがきっとこの世界を抜けるため、扉を開くための"カギ"なんだよ」
「でも魔力の淀みは消えてしまったのです」
「そう、カギは消えたよ。そしてオツ姫も消えた」
「あ!」
さっきからのスケさんのまわりくどい言い方に、少なからず苛立ちを覚えていたプリンだったが、ストンと腹落ちするかのようにスケさんが何を言おうとしているのかが理解できた。
「わかったかい?つまりこの状況が示しているのは、オツ姫がカギを持ってトンズラした。それだけのことだよ、だから次にボクたちのとるべき行動はわかったよね?」
「オツ姫を捕まえてカギを奪うです」
「正解」
スケさんはヤレヤレといった表情で一息ついた。
「でも魔力の淀みが感じられなくなったってことは、もうこの星宮殿にオツ姫はいないんだろうね」
「もしかしてパンナコッタ・ワールドの外に逃げたですか!?」
「いや彼女自身もまたパンナコッタ・ワールドの一部、別の言い方をするならNPCみたいなもんだ。この世界から出ていくことは不可能だろう。この閉じられた世界のどこかにいるはずだよ」
閉じられた世界。スケさんは簡単にそう言ったが、このパンナコッタ・ワールドをくまなく歩いたとしたら半日あっても足りるかどうか、それだけの規模があるような場所で人を探して歩くというのは、魔力の淀みを手掛かりにするとしても相当にきついだろう。
それを見越してかスケさんは続ける。
「まあどちらにしても、一度ヨンズさんと合流した方がいいだろうね。心を奪われたままの、チョビンさんたちのことも気がかりだし」
「そうだったのです!皆を元に戻すためには、ボスを倒すのがてっとり早いと思ったから、ここまで来たですのに・・・。そうですね、仕方がないので作戦の練り直しもかねて、一度戻るのです」
プリンとスケさんは、「もう仕事は終わりか」と落ち込んでいる白タイツたちを傍目に星宮殿をでて、チョビンたちと別れたストリートへと引き返すのであった。
誰のためって・・・
そりゃあ私(作者)のために決まっている(笑)
ではまた!
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