第30幕 手のひら返しはステキな生き方?
美少年の冒険者グループに競り落とされそうになっているミス・セプテンバーであったが、彼女を助け出すために躍起になっているスケさんたちの苦労も知らず、かの妖精はウキウキ気分で美少年たちに付いていく気満々だった。
しかし美少年グループ以外の者が値を付けて競り落とそうとすると、キーッと威圧的にブーイングをかますその姿は横柄この上なく、はたから見ていても彼女のなかの何か大事なものがドンドン失われていくようでもあった。
「アンタたちもシャシャリ出てくるんじゃないわよ!」
チョビンたちをも睨みつけて、そう言い放つミス・セプテンバーであったが、どうやら邪魔者には今まで旅をしてきた仲間も含まれているらしい。
「もう、このまま放って帰ってもいいんじゃないのか?」
「・・・なんかそんな気がするね」
チョビンの提案をスケさんも否定することができないというか、否定しようという気すら起きてこない。
しかし間もなく風向きは徐々に変わってくる。
若い冒険者グループは予算がオーバーしてきたのだろうか、次第に全員の顔が紅潮してきて競売レースから遠ざかっていく気配が。全員が財布の中身を確かめてはいるが、その表情からは絶望しか伝わってこない。
「頑張れ、ガンバレ!」
やがてそんなミス・セプテンバーの応援も虚しく、そのうち彼らは諦めてしまったように着席してしまった。同時にガクリとうなだれる妖精の姿。
「あああぁ・・・」
「なんだ?妙に気分がいいのは何故だろう」
「気のせいか、チーンという空耳が聞こえるよ」
「ざまあみろの気分というのは、こういうことを言うんダスか?」
残念ながらミス・セプテンバーを擁護する声は皆無だった。
「ちょっと、アンタたち何してんのよ!さっさと助けてこんな競売なんか終わらせなさいよ!」
そんな仲間たちの言葉が聞こえてかチョビンたちの方を睨みつけて、そう叫ぶこの変わり身の早さは、ある意味清々しくもある。この華麗なる手のひら返しは、今後彼女の必殺技として語り継がれていくのであろう。
「恥を知らないというのは、ある意味ステキな生き方ダス」
「仕方がない。あんな性格の悪い妖精なんぞ、ワシらが助けてやらんと救い手がおらんじゃろうからな」
見ればまだ競売レースに残っている買い手はタチの悪そうな悪人面が多かった。いくら腹黒い妖精と言えど、この先彼女がこき使われて、ムシられて、使い捨てられていく姿を想像したら、それはさすがに寝つきが悪いというものだ。
現在ミス・セプテンバーの値は3万6千ゴールド。
ペニーに払う落札金は踏み倒すとしても、メナードに支払う手数料の20%分は確保しておかなくちゃならない。それを参加時の預け金で賄うとしても、50万まではいけるから余裕はあるのだが、お金を使わされすぎて意気消沈している黒勇者に少しでも多く返してやりたいというのがスケさんの考えでもあった。
だから小刻みに値をあげていけばいいんじゃないかというスケさんの提案で、このメンツの主人という設定を演じているチョビンは3万8千と声を上げる。
「4万ゴールド!」
「4万2千!」
「こっちは4万5千だ!」
すぐさま追い打ちをかけるように値は吊り上がってくる。
さらにチョビンが4万6千と言いかけた時、別の誰かに先手を打たれた。
「8万」
品のいい老人の発した言葉に、会場からは"うっ"とあきらかに躊躇した溜息が漏れてくるが、スケさんはその老人の顔に見覚えがあった。
「(ん?あの人は・・・)」
掲示板の前でオークションについて調べていた時、親切に声をかけてくれたお爺さんだ。
お爺さんはスケさんの視線に気付くと、目を細めてニコリと返してくる。
「くぅっ・・・、仕方がない。ここは8万1千ゴールドで」
チョビンが悔し気につぶやいた時、突如場内の照明が消えた。
「何だ、なんだ!?」
「これは一体何事ですか!?警備の者は何をしているのです!」
最初何かの演出かとも思われたが、暗闇の中でメナードたちの動揺も伝わってきたので、その線はないのであろう。そして壇上の一角がスポットライトで照らされたかと思うと、モクモクと床上を白い煙が這っているのが見えた。
火事だ!と誰かが叫んだが、それにしては物が焼け焦げるような臭いもしないので、その心配はないだろうと思われるが。そんな時、どこからともなくどこかで聞いたことのある声が響いてくる。
「ひとぉ~つ、人の情けも知らぬ守銭奴たちにぃ・・・」
それと同時に、荷物の搬送用と思わしき滑車に乗って、お面をかぶった着物姿の女がスポットライトに照らし出されるのであった。




