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第26幕 パンツをパンティと呼ぶべからず!

「これは一体、どういう事ですか?」

場内の歓声や怒号が集中する場所へ向かって、ヨンズがアカハナと共にやってくると、そこには大の字になって倒れているグリンの姿があった。

そしてその倒れているグリンの傍らには黒い鎧姿の男が。

その光景はまるで冒険者によって倒された魔物のワンシーンのようで、仲間を傷つけられたと勘違いしたヨンズの髪が逆立っていく。

(まあ、ある意味では傷つけられたのだが、それはグリンの自爆とも言えるわけで)

「待て待て、落ち着け。心配せずとも、お前さんの仲間は傷ひとつ負っちゃおらんよ」

今にも鎧の男に掴みかかりそうな勢いだったヨンズの前に立ちはだかり告げられたアカハナの言葉で、なんとか踏みとどまったヨンズはわずかに冷静さを取り戻す。たしかに見る限りグリンにケガをしている様子はなく、まるで無傷のまま魂だけが抜け落ちているようにも思えた。


「それよりも、この男が噂の黒勇者じゃ」

「えっ!?この人が黒勇者ヌンペッチィ?」

驚いた様子のヨンズに、黒勇者からは殺気のようなオーラが漂う。

「やめろ」

「は?」

「誰から俺がヌンペッチィだと聞いたのかは知らん、だが俺をヌンペッチィと呼ぶな」

どうも黒勇者は自分の名前の呼び方に対して不満を言っているようだが、それは照れ隠しなどではなく本気で腹をたてているようにも見える。

「考えてもみろ、パンツをパンティと呼べば恥ずかしさが三割増しで跳ね上がる。俺の名前はヌンペッチ。だがただのヌンペッチでないことは、皆の心の中にしまっておいてくれたらそれでいい。俺はそのささやかな幸せを胸に生きていくだけだ」

「あの、わけが分かりません」

「フッ、アンタには少し難しかったのかもしれんな。だがこれだけ覚えておけば大丈夫、大は小を兼ねないとつまりはそういうことだ!」

何がどう転んだら"つまり"でそうなるのかサッパリだが、黒勇者はそう語ると清々しい表情を浮かべてスッキリしていた。

「そう・・・ですか。でも、何故あなたが黒勇者と呼ばれるのか、少しわかった気がします」


その時気を失っていたグリンが正気を取り戻す。

「ハッ!オラは一体何をしてたダスか?」

「目が覚めたか?」

意識が戻ったグリンはキョトンとした顔で、憑き物が落ちたかのように放心している。どうやらノリにノリまくっていた時の記憶は途中からぼやけて消え失せてしまったらしい。

「チョビンのジイちゃんから預かったお金が無くなってるダス!」

「お前はマダムの暴走した魔力"欲望の螺旋らせん"に囚われていたのさ」

「欲望の螺旋・・・ダスか?」

「そう簡単に説明すると、ギャンブルをする時には三つの敵がいるものだ。一つは胴元、ここで言うとパンナコッタ・ヘブンもしくはマダムということになる。そして二つ目が自分以外の他のギャンブラーたち、勝負の世界では足の引っ張り合いは日常茶飯事だからな。自分以外はすべて敵と思えと年寄りたちからよく聞かされたよ。そして最後に最も厄介と言えるのが三つ目、それは自分自身だ。自分以外ではなく自分も敵ってことだ。なぜなら自分で自分をコントロールできる精神力を持たないヤツは欲望の螺旋にはまり込んで抜け出せなくなっちまう・・・。つまり結果自分を見失ってしまって深みにはまっていくのさ」

「そう言えばオラも途中からドンドン気持ちがよくなって、自分が自分じゃなくなっていくようだったダス」

「それがマダムの魔法にかかっている証拠だ」

「そうやってマダムは魔法で人々を狂わせて、財産を奪っていくのですね」


ヨンズの言葉に黒勇者は額に手を当てて妙なポーズを決めて話をつなぐ。

「いや違う、そこには一つだけ間違いがある」

「それは?」

「マダムが狂わせているのは他人だけじゃない。彼女の暴走した魔力に自分自身も狂わされて、マダムも別人になっちまってるのさ」

「えっ、何故そんなことに!?」

「人の欲望の大きさを計り損ねたのだろう。人々の巨大な欲望をエサにして魔力が育ちすぎた、そしてその魔力にマダム自身も飲み込まれちまったってのが今の現状だ」

「そんな・・・」


とここで、両手にコーヒーを抱えたチョビンが吞気に戻ってきた。

「はっ!?グリンが身ぐるみはがされとる!」

「何言ってんだ、こいつは最初からハダカじゃねえか」

「チョビンさん、あなたこんな時に一体どこで・・・」

「誰じゃアンタって、おおヨンズもおる!良かった合流できて」

チョビンは大勝ちしているグリンからコーヒーを買って来いと、パシリに使われていたことを説明するが、当の本人グリンにはその記憶がないらしい。

「ここまで記憶がなくなるほどマダムの力は強力なのですね」

「ジイちゃん、すまないダス。オラ預かってたお金を全部使っちまってたみたいダス」

「まあ良い気にするな、お前が無事ならそれで十分じゃ(パシリ代の一万ゴールドは黙っとこう)」

「ううっ、ありがとうダス。ハゲチン・・・」

「誰がハゲじゃ!」


「あっ、いたのです!皆こんなとこで何してるですか!?」

「おお、プリン!」

バラバラになっていたメンバーが揃ったことでチョビンは喜ぶが、天敵ともいえる妖精の姿がないことに気付いて怪訝な表情を浮かべた。

「あの小ウルサイ妖精のヤツがおらんのう」

「そうなのです!かくかくしかじかで妖精さんが大変なことになっているのですよ」

「何ですって?ピンキー・ブラッドのペニーに・・・。ですがソチラはひとまず置いといてでも、我々は十万ゴールドを何とかするのが先決でしょうね」


「その金、俺が何とかしてやらんでもないぞ」

「えっ?」

突然会話に割り込んできた黒勇者の言葉に一同は固まった。


キャラの名前は結構悩みながら考えることが多いのですが、ジェラシーを感じるほどに素晴らしいネーミングが一つだけあります。

トンヌラ。

たった4文字でこれほどにインパクトがあり世界観のあるネーミングは逆立ちしても出てきません。

さすが巨匠です。

真似できません。

今日も頑張ってネーミングノートを埋め尽くします。


それではまた次回!


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