第25幕 盛者失墜
「へえ、アンタ調子いいな」
チョビンが飲み物を買いに去った後も、気分上々で着々とコインを増やしていくグリンに話しかけてくる者がいた。男は黒を基調にブルーのラインが入った鎧をまとっており、こんな華やかな場所に鎧姿とは場違いなセンスにも思えたが、ファッションに疎いというよりもそもそも裸族のグリンにそれを咎められるはずもなかった。
「その幸運に少しあやかりたいもんだ、隣り座ってもいいかい?」
男はそう言い、空いているグリンの隣を指差した。対してグリンはその男を見下すような冷たい視線で一瞥すると、フッと鼻で笑い大きな態度をとる。
「いいだろう!許してやるのダス。だがオラの天性の運にそうそう簡単に便乗できると思ったら、痛い目みるかもしれないダスよ」
「ふふっ、わかった気を付けるよ」
そして男は少額の賭け金で少しずつではあるが堅調にコインを増やしていく。それを隣で見ていたグリンは男を鼻で笑い、大きく賭けた。
それを見たギャラリーたちが、おおおぉっと歓声を上げて盛り上がる。
「フフン、みみっちい勝負なのダス。オラは偉大なる野望のためズンズンいっちゃうダスよ!」
しかし堅調に少額を増やした男に対して、グリンは外して大きく失った。
なにやら大風呂敷を広げたわりに、これまでの乗りまくっていたツキに陰りが見えだしたようにも感じる。
そしてギャラリーたちの熱を帯びた歓声もわずかにトーンダウンして、グリンたちを取り囲む輪からいくらかの人々が離れていくのが見えた。
「ぐぬぬぬぬっ・・・、次っ!次なのダス!」
しかしマイナス分を取り返そうという心理、周囲のギャラリーにイイ格好をしたいという浅はかで邪な欲望のブレンドが嚙み合うとコインは見る見るうちに減っていく。
「(くっ、とんだ疫病神が隣に来たものダス・・・)」
思わず口に出そうになった一言を必死にこらえるグリンであったが、凄まじい形相になってそれは顔に現れている。しかしそこはギャラリーの目もあるし、グリンのプライドが最後の砦となって彼を踏みとどませていたのだろう。
だが、ここで男が放った一言が火に油を注ぐ。
「何だか急に調子が悪くなったな」
「やかましいのダス!」
思わず口に出かけた"お前のせいだ"という言葉を飲み込みつつも、完全に頭に血が上ったグリンはさらに無謀な勝負に出るのだが、ここまで潮目が悪くなるとすべてが裏目に回り始めるものだ。
賭ける端から外していって、最も調子のよかった時から三分の二ほどのコインを失っていた。
「ぐぬぬぬぬ、こうなったらそこのお前、オラと勝負するダス!」
「勝負?別に構わんよ」
「お互いの持ちコインを賭けての一回勝負。勝った方は相手のコインをすべて頂く、そして負けた方はさっさとこの場から消え失せるダス!」
グリンのこの言葉で、消えかけていたギャラリーの熱気が再び燃え上がってきた。
うおおぉっ、うぉぉぉと盛り上がってくる歓声にグリンは酔いしれながら勝負の説明に入る。
奇しくも少額の賭けで少しづつコインを増やしていた男と、大きな賭けでコインを減らし続けたグリンのそれぞれの持ちコインは同じくらいの量になっていた。小細工なしの一発勝負となれば、対戦内容はシンプルなものに限るだろう。このテーブルはルーレット、36までの数字と赤と黒の組み合わせの賭けで勝負を楽しむものだが、赤か黒かのどちらの色かの勝負で勝った方が相手のコインを総取りするというのがグリンの提案だったが、対する挑戦者は不満を漏らすでもなく同意する。
「いい覚悟なのダス。その覚悟に敬意を表して、どちらの色か選ばせてやるのダス」
(フフン、悔しいけどこっちのツキが落ちてきてるから、ここは相手に選ばせた方が有利なのダス)
しかし自分の運命を人に委ねている時点で、勝負する前から負けていることにグリンは気付かない。
「わかった、それじゃあ赤か黒かと言われたら・・・俺はやっぱり黒だな」
「じゃあオラは赤ダスね」
間もなくルーレットは回りだし、ディーラーが玉を放り込む。
カラカラと円盤の中を滑るように回転する玉の行方を一同が凝視する。
赤か?
黒か?
シンと静まりかえった場内に誰かがゴクリと唾を飲み込む音が響き、同時にカランと玉が落ちた。
「黒だ!」
誰かが叫びギャラリーがワァと盛り上がる。
「噓ダス!こんなのイカサマに違いないダス!」
突然のグリンの言葉に場内からはブーブーとブーイングが巻き起こり、そのギャラリーの態度に心外だと言わんがばかりにグリンは叫ぶ。
「なんダス!?お前らザコはオラの味方じゃなかったダスか?」
その言動にブーイングはさらに大きさを増してゆく。
冷ややかなギャラリーの視線、離れていく人々、お金を失った上に信用も失い、つい先ほどまでの絶頂からどん底への急降下、悪い夢でも見ているのではないかとクラクラするほどの目眩がグリンを襲う。
「こんなの何かの間違いダス。オラの金が・・・オラの野望が・・・」
全てを失ったグリンは、そのまま気を失って倒れ込んだ。
グリンは裸族・・・、っていや、リアルなやつではないです。
自分としては、ガ〇ャピン的な姿形をイメージしているのですが・・・。
リアルなスプラッシュ、なんかコワイ。
ブシャー!
°Note




