第24幕 ビギナーズラックを侮るな!
うおぉぉぉぉ・・・
歓声に次ぐ歓声にグリンは酔いしれていた。
「オラの使命は、ほんわか癒し系キャラとして皆を支えることだと思っていたダスが、こんな役割がまだ残っていたとは、なかなか神様もオツなことをしてくれるのダス!」
そう言いながらグリンはベットと叫ぶ。
そして間もなくルーレットが回転を始め、後から投入されたボールが黒い枠に納まって止まると大歓声が巻き起こり、大量のコインがグリンの前に運ばれてくる。
そして彼のテーブルにはコインが山積みとなっていた・・・。
数刻前にヨンズとはぐれてしまったのはプリンたちだけではなかった。グリンは緊張感からかトイレを我慢できずに、ちょっと用を足しに皆から離れたスキに置いてけぼりを食らっていたのだった。
「う~ん、一体どうしたもんダスか」
ウロウロしながら皆がどっちに行ったのか探し回っていると、見覚えのあるハゲ頭が前方に見えた。
「おお!ハゲチン!」
「誰がハゲチンじゃ!って、おおグリンじゃないか。なんじゃ、お前もはぐれてしもうたのか?」
チョビンはグリンの姿を見つけて、ホッとしたように笑みをこぼす。
「そうなのダス。ちょっとトイレに行った隙に誰もいなくなってたのダス」
「そりゃ無理もない。ワシなんかずっとヨンズの近くに居ったっちゅうのに、見失ってしもうたんじゃから。皆と離れてしもうたら、そりゃ迷うてしまうわい」
そう言いながらチョビンが辺りを見渡すと、周囲は結構な人混みで溢れかえっていた。
「皆どこに行ったダスかねえ?」
「まあ心配せずとも、このパンナコッタ・ヘブンから出ていることはないじゃろうから、ここに居ればいずれは合流できると思うがどうしたもんかのう」
「皆オラたちの重要さをないがしろにしているのダス!こうなったら迎えに来るまで帰ってやらないのダス!」
威勢よくそう豪語するグリンであったが、チョビンの脳裏には一抹の不安がよぎる。
「・・・いや影の薄いワシらは、忘れ去られたままストーリーが終わってしまう可能性もあるぞ」
「ウッ・・・」
「ここはやはり、ワシらの方から探しに行かんとマズイのじゃろうな」
とは言え、二手に分かれて探すとなるとまた互いにはぐれてしまうし、グリンを連れて歩き回っていてはスピードが落ちて埒が明かない。どうしたものかと周囲を見渡していたチョビンはある決断をする。
「グリン、お前はここで待っておれ」
「え~っ、オラまた置いてけぼりダスか?」
「違う違う、お前には大事な仕事を頼みたいのだ」
「仕事?」
「そう、今ここに五百ゴールドがある。この五百ゴールドを増やして、全員分の今日の飯代を稼ぐのじゃ」
「メシ代?」
「そうじゃ、今日の食事が豪勢なものになるか、はたまたメシ抜きになるのか、それはお前の双肩にかかっておるのじゃ!」
「なんと!責任重大なミッションなのダス」
「そうじゃ、よいかくれぐれも無駄遣いをせずに大人しく遊んで・・・ンガぐぐ。いやともかく、ここから離れずに慎重にこの金を使うのだぞ」
「あい、わかった!なのダス」
グリンはキラキラした瞳でチョビンを見つめ返している。
「よいか、仮にこの金を使い切ったとしても絶対にここから動くのではないぞ!」
「了解ダス」
これで暫くは時間稼ぎができるであろう。この隙に急いで皆を探さねばとチョビンはその場を後にする。
―その後―
結論から言えばチョビンは皆を見つけることが出来なかった。
しかしいつまでもグリンを一人にしておく訳にもいかず、チョビンは重い足を引きずりここから離れるなと約束したあの場所へと戻ってきたのだった。
「なんじゃ、この人混みは!さっきよりも酷くなっておるではないか!」
グリンと別れた時もそれなりの人混みはあったが、それでも今のように前に進めないほど酷くはなかった。こんな場所にグリンを一人残してしまったことに、チョビンは深い後悔の念に囚われながらも彼の姿を探す。
「どこじゃ、どこに行った。グリンよ、無事でいてくれ!」
人波をかき分けながらグリンを探すが、これでは近くにいても見つけられるか自信がない。
「チョビン君じゃないダスか?」
聞き覚えのある声に突然呼ばれて、チョビンは辺りを見渡す。
「どこを見ているダスか?ここダス」
声が聞こえてきた方向、それはあり得ない位置であったが、ゆっくりとチョビンが視線をスライドしていくとグリンの姿がそこにあった。
台風の目のようにギャラリーが渦巻く中心地にグリンはふんぞり返って座っていた。
「んなっ!?」
そして彼のテーブルの前には、百万ゴールドは下らないだろうと思われる大量のコインの山が。
「今日の食事代と言わず、この旅が終わるまでの食事代くらいオラが稼いでやったのダス。その辺から適当に持っていくがいいのダス」
チョビンは自分の目を疑った。
時間つぶしのために与えた小遣い程度の五百ゴールドが、どうやったらこの短時間でここまで膨れ上がるというのだろう。
オカルトと言われるかもしれないが、ビギナーズラックと呼ばれる得体の知れないものは確かにある。しかしこれは出来すぎているし、グリンはキャラが変わってしまうほどに自分を見失っているではないか。こうなると後は、(素人だからこそ特に)闇へと飲まれていくだけである。
こういう時にこそ立ち止まる勇気というか、一度頭の中をクールダウンして冷静さを取り戻す必要があるのだが・・・。残念なことに、ここまできてしまった者に他者の声は届いてくれない。
「グリン、悪いことは言わん。もうこの辺で止めておくんじゃ」
チョビンの忠告にグリンは薄ら笑いを浮かべてかぶりを振った。
「何言ってるダスか!オラは一生遊んで暮らせる金を、ここで稼いで帰るダス。それよりもチョビン君、オラはコーヒーが飲みたくなったダス。買ってきてくれたまえ」
そう言いながらグリンは、釣りはいいからと一万ゴールドを手渡す。
完全に調子に乗っているグリンの姿をみて、これはダメだとチョビンは諦めた。もったいないとは思うが、これは狂った本人が全てを失って気付くしかないのであろう。いや、全て失って気付いてくれればまだよいのだが。
「わかった、買ってきてやろう」
「早くするのダス。オラはカラカラに渇いているのダス」
「へえ、アンタ調子いいな」
その時、チョビンが飲み物を買うために去った後も、気分上々で着々とコインを増やしていくグリンに話しかけてくる者がいた。




