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第23幕 腹黒支配人とアクマの囁き

「ハナシはそんなに単純じゃないかもしれないよ」

神妙な顔つきでスケさんは語る。

「だってさ考えてもごらんよ、ミス・セプテンバーの所有権は現時点でこのオークション会社になってるわけでしょ?だからペニーを掴まえたところで、ミス・セプテンバーが自由の身になれるとは限らないと思わないかい?」

「はぁっ!?」

突然もたらされた予想外の指摘に、籠のなかの妖精が不機嫌に声を上げる。

「それじゃあ私は、見知らぬ誰かに買われていくしかないってこと?」

「イヤあくまで、その可能性が高いというハナシだよ」


「まさしく仰るとおりです」

その声に振り返ると蝶ネクタイ・タキシード姿にオールバックヘアーの中年男が立っていた。

「アンタ誰?」

「おっと自己紹介が遅れました。私めはここの支配人メナードと申す者です。以後お見知りおきを」

「支配人って何ですか?」

「イチバン偉い人って意味だよ」

ミス・セプテンバーに教えてもらって、プリンは左の手のひらを右のこぶしでポムと叩く。

「だったらハナシは早いのです。妖精さんを出して下さいなのです」

「それは無理な相談ですね。なぜなら既に我々とペニーさんとの間には契約が成立してしまったのです」

なにやら嫌な言葉が出てきたが、ミス・セプテンバーは自分のことなので聞かずにはいられない。

「それは一体、どんな契約なのよ」

「オークションでの落札価格の20%を手数料として頂くという契約です」

「人の連れを誘拐しておいて、それを無視したまま取引を継続するという訳かい?なんとも強引な商売をするもんだね」

スケさんが悪徳支配人を追い詰めるように語りかけるが、メナードはチッチッチと人差し指を突き出して目障りな笑みを浮かべた。


「それはあくまでペニーさんとあなたたちの問題ですよね?これはこれでペニーさんと私どもの問題ですので、私どもと致しましては関与する余地はございませんし、関与させる義理もございません」

「そんな!?」

「まあとは言え、私めもここでは紳士で通っておりますので、ちょっとしたアドバイスを親愛なる皆様に差し上げなくもないのですが」

「なにが紳士よ!」

「まあまあミス・セプテンバー、そのアドバイスとやらを聞いてみようじゃないか」

スケさんの提案にメナードはすました顔で話をつなげるが、その態度がいちいちハナにつく。


「いいでしょう。あくまで私どもと致しましては、落札価格の20%さえ手に入れば何も文句はございませんよ。そこから先は出品者であるペニーさんと落札者の問題ですから」

「どういう意味?何が言いたいの?」

「つまりあなた方がそちらの妖精を落札して、ペニーさんへの支払いを踏み倒そうが払おうが、こちらとしては手数料さえ担保して頂けるなら関係ないという事でございます」

「うっわ、悪どいわね!」

「うん、悪がタキシード着て歩いてるよ」

さすがにミス・セプテンバーもスケさんもドン引きの腹黒さだった。


「じゃあ何とかしてミス・セプテンバーをボクたちが落札して支払いを踏み倒す方向で動くとしても、20%の手数料をどうやって準備するか」

「落札後に金をとりに来たペニーを捕まえて払わせてやるのです!」

難しい話についてこれず発言が少なめだったプリンが、ここぞとばかりに的を得たことを言う。

「少々お待ちください、それは無理だと申し上げずにおられません」

「なんで?」

「なぜなら、ペニーさんはお金を持っておりませんから。あの人は浪費癖がかなり酷いようで、盗みで得たお金をすぐに使ってしまうとか。彼女の頭からは、宵越しのカネを持つという言葉が抜け落ちているのではないかというくらい、それはもう気持ちのいい使いっぷりらしいのでございます」

「なんてヤツ!」

「それに申し上げるのが遅れましたが、オークションの参加につきましては、まず最初に十万ゴールドをお預けいただくルールになっております。もちろんオークションの終了後にはお返しいたしますが、もしも落札後にお逃げになられるということがあった場合には、そちらから補填させていただくことになっておりますので」

「じゅ、じゅうまん!?」

「簡単に人を信用はできないというわけだね」

「さようでございます。ですので手数料うんぬんの前に、まずはこの十万ゴールドをご準備いただくというのが皆様にとって最初の難関になるのではないかと、まことに僭越ながら申し上げる次第です」

「ヤレヤレ、次から次へと・・・灰色の貴公子だって探さなくちゃならないってのに」

「仕方ないじゃない!私が悪いわけじゃないでしょ!?」

スケさんは別にミス・セプテンバーを責めるつもりで言ったわけではなかったが、囚われの妖精は敏感に反応してふてくされる。本人としても、そこは触れてほしくない失態だったのだろう。スケさんはゴメンゴメンとミス・セプテンバーをなだめながら、気まずい雰囲気を払拭するように話題を変えた。


「そう言えば、ちなみにメナードさんは灰色の貴公子について何か知らない?」

「存じておりますよ」

「へっ!?」

期待値ゼロとは言わないまでもかなり薄いところから、まさかの返答に一同が固まる。

「私めの口から何か申し上げることはできないのですが、知らないという事ではございません」

「ん?」

どういうことだろう?

何も言えないのなら知らないと言って黙っていればいいのに、メナードは何故わざわざ知っていると答えるような回りくどいことをしたのか。この男の真意が何なのかスケさんは考えあぐねた。

「なぜ言えないの?」

「ノーコメントでございます」

そこからどれだけ問い詰めようとも、メナードから新たな情報を引き出すことは叶わなかったが、それでもなんとか指先が引っかかる程度の進展はあった。現時点では残念ながら、これで妥協せざるを得ないということか。


「仕方がない。灰色の貴公子の件はとりあえず保留しておくとして、まずはオークションに参加するための十万ゴールドを何とかしようじゃないか」

「そんな大金どうやって手に入れるのよ?」

「どうやってって、ここはパンナコッタ・ヘブン。夢の国じゃないか」

そう言ってスケさんはニヤリと笑った。



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