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第20幕 ドンブリ


「それで?」

「ふぁ!?」

ハナを垂らしながら麵をズルズルと啜るアカハナにヨンズは尋ねる。

「いや、食事をさせたら情報を提供する約束だったでしょう」

「お~、お~、分かっとるがな」

「それでは、さっきマダムが言っていた三人のことを聞きたいのですが」

「豪商アダマンなら、いつも高額レートのテーブルで周囲をボディーガードに二重三重に守らせてカードゲームに興じとる。奴がおるときにはボディーガードの壁が出来上がっとるので、どこのテーブルで遊んでおるのか一目瞭然じゃな」


イヤそういう事ではなくと言いかけてから、ヨンズは会話の方向性を修正した。

「そのアダマンは不当に利益をかすめ取る・・・、つまりイカサマめいた手を得意とするのですか?」

「いや、言うて彼も商人の端くれじゃし、イカサマで勝負に勝つようなマネはせんじゃろう。ただ賭ける金額が大きいから、勝つにしても負けるにしてもその振り幅がでかいっちゅうんはあるじゃろうが」

「なるほど資金力からくる高レートの賭けで利益率のブレが大きくなってしまうという事ですか」

「イカサマっちゅう意味では黒勇者ヌンペッチィの方が怪しいかもしれん」

「黒勇者ですか・・・。でも何故そんな黒と形容されるほどの者が勇者と呼ばれるのでしょう。相反するイメージが両立しているように思えてならないのですが」

「要は必要悪をどう捉えるかじゃろう」


アカハナのその言葉でヨンズはヌンペッチィという人物をおよそ理解した。

「だいたいが勇者と呼ばれる人間は、"悪"つまり黒い者は絶対に許さんし、灰色であっても時に断ずる傾向にある。しかしヌンペッチィは世間的に黒だと言われとる者が、本当に黒かどうかを自分の目で判断する。悪い奴がアイツは黒だと言ったとしても、それは白だったって事もあるからな。要は評価する人間が自分に都合が悪いものは黒だと判断するが、その評価した人間がどうかでその意味も変わってくることをヌンペッチィは分かっておる」

「なるほど、つまり逆もまた然りということですね。たとえ白だと言われていても、それは彼が自身の目で判断すると」

「その通りじゃ。そしてその判断は想像するより遥かに難しい。それでも彼が勇者と呼ばれとるってことは、彼の判断が逸脱はしとらんっちゅう事なんじゃなかろうか?そもそも誰が彼を黒と呼んだのか、それを調べもせずに世間に流されとったら、お前さん自身のほうが儂には黒にも見えるがのう」

たしかにそういう意味ではマダムが白とは限らない。これほど大きな規模で賭場を運営しているのであれば、裏で汚いことの一つもやっていないとは言い切れないだろう。マダムのイカサマに対してイカサマで返して、かすめ取った利益というかその金を良いことに使っているのであれば、義賊もまた必要悪の一つであるという理屈も頭から否定するのは難しいかもしれない。


「なるほど、それではピンキー・ブラッド・・・」

「知らん」

「は?」

「なにやらイキってヤンチャをしとるようじゃが、儂から言わせればアイツには風情がない。ただ自分の好き放題に暴れることで、目立って世間の注目を集めたいだけの只のガキンチョじゃ。そこには自己顕示欲と自己満足しかない、なんちゅうかプロ意識がないと言うのか薄っぺらいっちゅうんかのぉ」

アカハナの言葉には明らかに嫌悪感が混じっていた。

「そんな人物がマダムの言ってたビッグネームの一人なんですか?」

「ああ、それでも若い連中には人気があるらしくてな。薄っぺらい連中が薄っぺらいアイドルを持ち上げて盛り上がっとる。どっちが踊らされてどっちが踊っているのか儂には分からんがのう、そんな感じじゃ」

若者の価値観が理解できない年寄りのジェネレーションギャップという気もしないではないが、これまでの話を聞いていた感触として、アカハナの観察眼が大きく的を外れて捉えているようには思えない。怪盗ピンキー・ブラッドといいペニー・ザ・ギャルといい、そのネーミングセンスから子供っぽさは感じていたが、良し悪しは別として若者が大きなことをしでかす爆発力みたいなものは軽視できないのもまた事実。信者めいたファンを多く抱えているならなおのこと、人海戦術で動かれたらどれほどの影響力が発生するのか、その規模が分からない以上未知数だけに用心に越したことはない。



「それでは・・・」

ウォォォォォォ・・・・・!

ヨンズが話を続けようとしていたら地鳴りのような歓声が聞こえてきた。

「一体何事でしょう!?」

「どうやらカジノの方で何かが起きたようじゃの」

アカハナはドンブリのなかの汁を一気に飲み干すと、景気よく"タンッ"と音を立ててそのドンブリを戻す。その動作に慌てる様子がないところを見ると、非常事態ということではなさそうだが、慣れない者からすれば何が起こったのか気にならずにいられない。

ヨンズのそんな気持ちを汲み取ったのか、アカハナは"どっこいしょ"と重い腰をあげた。

「さて、腹ごしらえも済んだことじゃし・・・。行ってみるかの、魔物どもがうごめく巣窟へ」

「そうですね」

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

そう言いながらもアカハナの顔はどこか楽し気に紅潮していた。





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