第19幕 ダメオヤジ
「ヤレヤレ、まったく困ったものなのですよ!」
「って、アンタがそれ言っちゃう?」
他人事のようにそうつぶやくプリンに、ミス・セプテンバーは突っ込みを入れずにはいられなかった。
一行は地下牢から解放されたとはいえ、これからマダムとの取引によって灰色の貴公子とやらを見つけなくてはならないのだ。
「そもそもプリンちゃんが商品のダイスを投げたりするからこんなことに・・・」
「幸せのフォーチュンダイスがあんなインチキ臭い代物だったのがいけないのです!まだアレだったら、お守りの方が信用できるというものなのです」
「それはそれで問題発言だからヤメテ・・・」
「お前さんはそんなにフォーチュンダイスが欲しいのか?」
そのハナシを隣で聞いていたアカハナがプリンに尋ねてきた。
「そりゃもう欲しいなんてもんじゃないのです!」
「そうか・・・。まあ確かに商品として並んでいたダイスは偽物なんだが、ホンモノの方はマダムのお気に入りだからな。そんなに簡単には手放さんじゃろうて」
アカハナのその言葉に、プリンが喰いつき気味に尋ねる。
「えっ、ホンモノもあるですか!?」
「いやだから、あるにはあるが手には入らんじゃろうって・・・」
「ないものは手に入らないけど、あるものは可能性がなくはないのです!」
「なんともプラス思考じゃな」
だがそんなアカハナの言葉を、上空からミス・セプテンバーはいかがわしい顔で聞いていた。
「でも何でそんなことをアンタが知ってんのよ?」
「あがぐぐっ!んんっ!?そりゃマダムがフォーチュンダイスの力で今の地位と金を手に入れたというのは、誰でも知っている有名な話じゃからな」
「フーン、でもなんかアヤシイのよね。こんな小汚いジジイが灰色の貴公子ってことはないでしょうけど、アンタの目的は何なのよ?」
「それなら簡単なことじゃ」
アカハナは胸を張って答える。
「少しだけでいいからメシを食わせてくれんかのぅ?」
「はぁっ!?」
「いやなあ、有り金全部スッちまってな。もう二日間なにも食べておらんのじゃ」
するとタイミング良くグ~と腹の虫を鳴かせてアカハナはテヘッと笑う。
「アンタねえ・・・、どんだけダメオヤジなのよっ!?」
そのアカハナのだらしなさはミス・セプテンバーの逆鱗をかすめた。
「食事をタカるために、こんなちっちゃい子供に近づいてんじゃないわよ!」
「イヤイヤ、もちろんタダでとは言わんぞ!儂はパンナコッタ・ヘブンの常連だから、ここの案内に儂を雇って欲しいんじゃ。その見返りに少しだけでいいからメシを食わせてくれんかなと・・・」
「常連のくせに身を崩すまで入れ込むような、ダメ人間の情報に信用なんかあるわけないでしょうが」
「いやぁ、手厳しぃ~」
アカハナは「へへへっ」と笑いながらミス・セプテンバーの叱責にもまるで応えた様子がない。
ミス・セプテンバーはこういった類の人物とは相性が悪いのであろう、イライラしているのがひと目でわかる。だがその様子を見ていたヨンズが隣から声をかけてきた。
「ちょっと待ってください。それでも我々は彼の協力を得なければ、立ち行かない状況かもしれませんよ」
「どういう事?」
「あれだけの大立ち回りで、つい先ほど警備兵に連行されたばかりの我々が、こうして無事戻ってきたことに周囲の人たちは訝しんでいるみたいです」
そう言われてミス・セプテンバーが辺りを見渡すと、あちらこちらでヒソヒソと話しながらこちらの様子をうかがっている人々の視線に気付く。ヨンズの言う通り、どうもその目つきや態度から察するに、良い感情は抱いてもらえていないらしい。
「連中は皆、儂らがマダムの手先に成り下がることで出てきたと思っとるんじゃろな。まあ、あながち大きく間違ってはいないのじゃが、ギャンブルをする上での三大敵のうちの一つである"元締め"その手先ともなれば警戒心は当然のことじゃろなぁ」
「そんなわけで、こんな状態では友好的に情報を引き出すことは難しいかもしれません」
「じゃろうが?じゃから儂が協力するからメシを食わせて・・・」
「やかましぃ~!」
ぺチンと音を立ててミス・セプテンバーのパンチがアカハナの顔にヒットする。
「痛いがな」
「イタイのはアンタの頭のなかよ!あ~、もうイライラするっ!」
たしかにヨンズたちの理屈は分からないでもない。しかしミス・セプテンバーからすれば、得体が知れずだらしない、そもそも信用しても大丈夫なのかそれすら怪しい人物を仲間に引き入れるようで、そこに嫌悪感を押さえつけることができないでいた。
そしてとうとう感情を抑えきれないでいる様子のミス・セプテンバーは、フラフラとどこかへ飛んで行ってしまった。
「妖精さん、どこかへ行っちゃったですよ」
「彼女の気持ちも理解できるけど、蛇の道は蛇って言うからね。それこそ得体の知れない蛇が絡み合って生きているような世界では、その実態を外の者では計り知れない。人は使いようと言えば聞こえが悪いけど、知らないことを知ろうとすれば経験者の知識は重要だから仕方がないよ」
「ふむ~っ・・・」
「まあちょっとミス・セプテンバーも感情的になってたみたいだから、頭を冷やすために一人になりたかったのかも。でも彼女も子供じゃないんだし、放っておいても大丈夫じゃないかな?それよりもヨンズさんたちが移動するみたいだよ、はぐれちゃったら大変だから早く追いかけよう」
慌ててヨンズたちを追いかけるプリンとスケさん。しかしこの選択がさらなるトラブルを生むことになろうとは、この時誰も知る由はなかった・・・。
明けましておめでとうございます。
皆さんにとって、今年が良い年とならんことを!
ホントにチビリチビリな更新ですが、今年もよろしくお願いします。
°Note




