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第18幕 マダムとの取引


プリンの暴走によって、ガシャンガシャンと音を立てて現れた機械兵。

人間の一般的な大人よりも一回り大きいサイズの機械兵五体に、プリンたち一行はあっという間に取り囲まれてしまった。赤ら顔をした小汚い男は、訳も分からず巻き込まれてしまって動揺・・・は、していない。傍目に見てもピンチと言える状況にもかかわらず、ヘラヘラと笑いながら落ち着いた様子で成り行きを見守っていた。


「オマエタチ ヲ コウソク スル」


耳障りな機械音でそう告げた機械兵が包囲網を狭めてくる。

「チョットちょっと、どうすんのよ!?」

「ヘタに抵抗しても、どうせ逃げらりゃしねぇ。ここは大人しく従うしかないじゃろうな」

「従うしかないって・・・!って、誰よアンタ!?」

「儂か?儂はアカハナと呼ばれとる」

「そんなこと聞いてない!アンタは何者かって聞いてんのよ!」

「知らんがな」

パニックに陥っているミス・セプテンバーが赤ら顔の男に八つ当たりするが、この男もなかなかの強者らしい。まくしたてるミス・セプテンバーの言葉にヒャヒャヒャと笑いながら、それを屁とも思っていないようだ。


「どうする?ヨンズさん」

「仕方がないですね。ここは素直に従いましょう」

スケさんの問いかけに答えた冷静なヨンズの判断を誰も反対しなかったので、一行は機械兵の指示に逆らわずその後を付いていくことにした。

興味本位で眺めているギャラリーというか野次馬たちの視線を無視して、プリンたちは扉から扉へとしだいに人の気配が薄くなっていく場所へと連行されていく。人目のないところへ連れていかれるということは、何をされても誰にも気付いてもらえないという事で不安感を煽られるが、ここまで来てしまってはもう引き下がれない。こうなったら覚悟を決めるしかないのだろう。


「ココ ニ ハイレ」


そう言って立ち止まった機械兵が示したのは、パンナコッタ・ヘブンの下層にある地下牢だった。

「うわっ、何かジメジメしてて変な臭いもする」

「じゃあ、お前だけ飛んで逃げてもいいんじゃぞ」

「イヤよ!私一人で何ができるってのよ!?黙ってなさいよハゲ」

「ハゲハゲやかましい!お前の方こそ黙っとれ」

精神的ストレスでイラついているのだろう、ピリピリしたミス・セプテンバーが八つ当たり気味にチョビンに食い掛っていると、どこからか声が響いてきた。


「何とも騒がしい連中であるな」

声のあるじが姿を現さないので顔は見えないが、注意深く聞いているとその声には聞き覚えがあった。

「マダム!」

「対価も支払わず私のモノを粗末に扱ってくれるとは、それなりの覚悟はできておるのだろうな?」

マダムの言わんとしている事が、つまり上層でプリンが景品のダイスを金も払わず投げつけたことを指しているのは明らかだ。

「フン、あのダイスのお金くらい幾らでも払ってやるのです!支払い属性の異名をもつチョビンのジイちゃんが!」

「・・・ナニぃ!?」

「それでは足らん」

「ふえっ?」

「お前の行動により、あの商品の価値は跳ね上がってしまったのだよ」

「どういうことですか?」

「お前の行動を許せば、不当に商品を扱っても金さえ払えば解決できるというルールをあの場にいる多くの者に与えてしまう。それはつまり私が商品を不当に扱った者がちゃんと金を払うかどうかの確認をしなくてはならないという負荷を背負わされるという事に他ならない。あのダイス自体の価値は変わらんが、私が被った不利益を上乗せしたら、あのダイスはもう只の安いダイスではなくなってしまったということだ」


マダムの理屈はもっともだ。物の価値というのは、目に見えている部分だけに与えられている訳ではない。例えて言うならば紙幣やチケットで考えてみると、物質的な価値自体はそれぞれ紙きれとしての価値しかないが、それを持っていることで価値あるものへ交換できたりサービスを得られる。付加価値がその物の価値を決めてしまう例として解りにくいかもしれないが、要は迷惑料を加味したら100ゴールドじゃあ割に合わんよというハナシである。そもそも自分の店のモノを粗末に扱われて黙っていては、マダムの沽券こけんにも関わることになるだろう。


「ならば、どうすれば許してもらえるですか?」

「そうだな、お前たちには対価に見合うシゴトをしてもらう」

「シゴト?」

「実は少々困りごとを抱えておるのだ。というのも、いま上の階に伝説のギャンブラーと噂される者が客のなかに紛れ込んでおるらしくてな、この者に手を焼いておる」

「伝説のギャンブラー?」

「そう、賭け事の天才であらゆる手段をつかって不当に利益をかすめ取っていく。この世界では灰色の貴公子などと呼ばれておる有名人らしいのだが、その存在は謎に包まれており名前も顔も分からないのだ。その者を排除するため役に立つというのなら、お前の行動の対価として認めてやってもいいだろう」

「本当にそのギャンブラーが紛れ込んでいるという保証はあるの?」

それはそうだ。スケさんの指摘どおり、誰も正体が分からない人物がそこにいるかどうかなんて、証明のしようがないのだから。

「それについては信用のおけるスジからの情報なので間違いはない」

「他に何か掴んでいるヒントというか情報はないの?」

「怪盗ピンキー・ブラッドを名乗るペニー・ザ・ギャル、怪しい噂が絶えない魔法都市の豪商アダマン、裏社会をも巧みに利用する勇者ヌンペッチィあたりのビッグネームがいま来場中という情報は得ている」

「貴公子なんて言うくらいだから若い男なんじゃないの?」

スケさんの言葉にミス・セプテンバーの眉がピクリと動く。


「固定観念は捨てるのじゃ。ピンキー・ブラッドのペニーとやらが灰色の貴公子とツルんでおるやも知れんし、悪名名高いアダマンすら手玉に取るほどのヤリ手かもしれん。はたまたヌンペッチィが灰色の貴公子の正体という線も否定はできん。この世界は騙しあいの戦場だからな、上辺で物事を判断していてはすぐに足元を掬われるぞ」

「そういえばオツ姫さんも、何やらそんなことを言っていましたね」

ヨンズは丘の上でのオツ姫の言葉を思い出してつぶやく。

「さてどうする?やらぬと言うなら、どの道お前たちはその牢のなかで朽ち果てるのを待つしかないのだがな」

「我々に選択肢は無いようですね」

「こんな臭いところに閉じ込められるのはイヤなのです!」

「ワシャもう金を払わんぞい!」

「その灰色の貴公子とやらの顔を拝んでやろうじゃないの!」

思惑は色々だが満場一致だった。


「決まりじゃな。ただし一つだけ言っておく、灰色の貴公子を見つけても決して手出しはするなよ。この私直々に手を下してやるのだから」

「だったらマダムと意思の疎通はどうしたらいいんでしょう?」

「何か情報を得たら、そこらを巡回中の機械兵に耳打ちしてくれればよい。情報は機械兵を通じて私の元に入ってくるようになっているのだから。こちらから何かを伝えねばならない時も、機械兵を通じて連絡する」

その言葉を最後にマダムの声は届かなくなった・・・。






11月24日 サブタイトル修正しました。

内容はいじっていません。


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