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第17幕 景品所

緩やかな大理石の階段に、名工による彫刻が施された屋根を支える巨大な柱。エントランスに向かっては紅い絨毯が敷き詰められ、その上を歩くだけで自分が特別な人間になったかのような勘違いをしてしまっても不思議ではないほどの空気感である。

一言で言うならゴージャス。

パンナコッタ・ヘブンへの入口は豪華極まりなく、入口からすでにヘブンだった。


「そうそう!こういうのを私は待ってたのよ」

もともとミーハーのがあるミス・セプテンバーなんかは"すこぶる"ご機嫌だったが、年寄りと青年と子供の一行がペットのトカゲと妖精とネコを連れているというカオスな組合せに、少なからず周囲の注目を集めてもいた。

「なによ!見てんじゃないわよ!」

シャーと周囲を威嚇するミス・セプテンバーをヨンズがなだめる。


「どこに行けばいいですか?」

「あっちの方じゃないかな?ほら、それらしい人が立ってるよ」

「おぉ!」

プリンの問いかけに答えたスケさんの視線の先に目をやると、黒服を着た二人組の男が扉の番をするように立ちふさがっているのが見えた。本当にこの男たちで間違いないのかと不安を抱えつつも、プリンがこれ見よがしに"一連なりの星の腕輪"をアピールしながら黒服の男に近づいていくと、意外なことに向こうの方から声をかけてきた。


「プリン様でございますね、お話は伺っております。どうぞこちらへ」

「苦しゅうないのです!ムフーッ!」

「だから鼻息が荒いって」

プリンはスケさんの言葉に無視を決め込み、黒服の案内に従って扉を抜けるとそこは水の中に造られたトンネル通路だった。なぜそこが水の中に造られていることがわかるのかと言うと、通路の壁は透明で目の前を大小色とりどりの魚たちが泳いでいたからだ。


照明でキラキラと輝く水のなかをプリンたちは進む。

「さすがにここまでくると、なんだか場違いなところに来てしまった感もあるわね」

「フン、何をいまさら」

ミス・セプテンバーが気おされて思わず漏らした言葉に、チョビンが鼻で笑って答える。

「オラ、緊張して漏らしそうダス」

「アンタねえ、こんなとこでスプラッシュなんてシャレになんないわよ。やめなさい!」

「それはつまり"出すな出すなは出せ"の合図ダスか?」

「違うわッ!つまみ出すわよ!」

「姐さん、マジギレダス・・・」

「ホレ見てみろお前たち、出口のようだぞ」

チョビンの言葉どおり前方が明るくなってきた。それと同時にザワザワとざわめく人々の気配が近づいてきているのがわかる。


「うぉっ!」

トンネルを抜けるとそこは景品所だった。

景品所と聞いて想像するのは、小さなスペースに申し訳程度のガラクタじみた玩具などが並ぶコーナー的な空間かもしれない。

だがそこはパンナコッタ・ヘブンのパンナコッタ・ヘブンたる所以なのであろう、視界に収まる全ての空間が景品所であった。しかもその品揃えをちょっと眺めただけでも、聞いたことはあるがどこで手に入れるのであろうという名工の一品や、高価で希少性の高い薬品、はたまた個人の能力を底上げしてくれる人気アクセサリーの類いなど、欲しいものがなんでも揃っているという噂がダテではないことを証明していた。

「ちょっと見てよ!魔剣なんてのもあるわよ」

ミス・セプテンバーの叫びにそちらを注目してみると、頑丈なショーケースのなかに見事な装飾の一振りが収められていたというか、もはや鎮座ましましている。ただしその商品の前には小さな札が立っていて、そこには嫌になるような数のゼロが並んでいた。

「老眼で乱視のワシには、もうこのゼロの数が幾つあるのか数えることすらできんのぉ」

ため息交じりにチョビンがつぶやく。

「しかし見事ですね。入口で物欲センサーを最大限まで刺激し、高級感で現実味を奪っておいて感覚を鈍らせる。マダムは商才と言うのか、人にお金を消費させるために心をコントロールする術にも長けているのでしょうね」

これほどの施設を造って管理しているだけでもすごいのに、人の欲を満たすために何が必要か見極めて揃える経営力も持ち合わせているとは。さすがのヨンズも感心しきりといった様子で唸っていた。


「ん?何をしているんだい、プリン」

キョロキョロとせわしなく何かを探すプリンにスケさんが尋ねると、小さな魔女は邪魔をするなと言わんがばかりに素っ気なく答える。

「決まっているのです!フォーチュンダイスを探しているのです」

「ああ、まだ覚えていたんだね」

「当然なのです。そのためにこんな所まではるばる出張ってきたのですから!」

しかし食料品から武器に家具とえげつないほどの品揃えだがプリンの探し物は見つからない。

「なんだい、嬢ちゃん何か探し物かい?」

突然声をかけられて驚いたプリンが振り返ると小汚い男が立っていた。

酒やけの赤ら顔をした小さなおじさん。その小さなおじさんが自分の顔よりさらに赤い鼻をほじりながら聞いている。


見るからにいかがわしい気もしなくはないが、自分で探していても埒が明かないのでプリンはこの男にダメもとで尋ねてみることにした。すると答えは予想に反してあっけないほどすぐに出ることとなる。

「おじちゃん、幸せになれるというフォーチュンダイスがどこにあるか知らないですか?」

「ああ、フォーチュンダイスか。それならホレそこに」

そんなまさかと思いながらも男が指差した場所を見てみると、ザルの上に6面体、8面体、10面体あたりのダイスが山盛りになって積まれているではないか。そしてその商品の前には"幸せを呼ぶフォーチュンダイス!パンナコッタ・ヘブン土産におひとつどうぞ!"と書かれたポップが置いてあった。

「へえ~、ひとつ100ゴールドか。値段もお手頃だしいいんじゃないの?ふたつみっつ買って帰りなよ」

隣に来てそうのたまうスケさんに、プリンは顔を真っ赤にして震える。

「違うのです!アタチが欲しいのは、こんなインチキ臭いやつじゃないのです!」

そう叫ぶとプリンは山盛りになったダイスを掴むと、スケさんに投げつけた。

「あ、コラ!やめろ商品を投げるな!」

「オイオイ、お前たち商品をそんな風に扱ってたら警備兵が飛んでくるぞい!」

「ちょっとアンタたち何してんのよ!?」


ピーーーーッ!!!!


突然の警告音と共にガシャンガシャンという音が鳴り響き、どこからか機械兵がワラワラと現れる。

プリンの暴走からわずかな時間にもかかわらず、一行はマダムの機械兵によって取り囲まれてしまうのであった・・・。




【あとがき】


今回はフォーチュンダイスのダイスって何ぞやという話である。

まあテーブルトークRPGをやったことのある人にはお馴染みだろうが、要はサイコロである。

一般的に馴染みの深いのが6面体のダイスつまりサイコロだが、レアなものでは100面体、120面体なんてものもあるようだ。

(数十年前にテーブルトークで使っていたのは主に6、8、10面体あたりだったのだが、100面体なんて振っても出目が見づらいだろうという気もする)


昨今ファンタジーと聞いてコンシューマーゲーム機のロールプレイングゲームは外せない存在になっているが、まだゲーム機の性能が低かった頃はロールプレイングゲームやシミュレーションゲームがボードゲームのように箱に入って玩具屋に売ってあった。

そう、このロールプレイングゲームこそがテーブルトークRPGだったのだ。

シミュレーションゲームは中を見たことがないので適当なことを言えない(恐らくは似たようなものだと思う)のだが、ロールプレイングゲームの方でダイスを何に使うかと言うと、行動の成否判定である。

剣を振るって敵に当てる、当たったかどうかの判定、当たった場合はダメージがいくら入ったかのダメージ判定。ゲーム機のRPGではこのダメージ計算などをコンピューターがやってくれるが、そちらではダイスを振って手動で行っていたのだ。


このように冒険の運命のカギを握っていたのはダイスの出目次第。

出目が悪ければ雑魚にも苦戦するし、逆に強敵をラッキーパンチで倒せたりもする。だから出目によってはゲームの進行役となるゲームマスターの思惑とは違う方向に話が進んでいってしまうことも珍しくなく、進行役も楽しむ側も(いろんな意味で)常にドキドキのストーリー展開が待っていたのである。


さて今回、その幸せを呼び込む運命のサイコロとやらを求めてプリンたちの冒険も中盤にさしかかってきたのだが、この先どういう展開になるのか私自身まだわかっていない。

紆余曲折あるであろうドキドキの展開を一緒に楽しんで頂けたら幸いである。

(今回のあとがきはストーリーに深く関わる内容なのでこの場に記載とする)


あっ、テーブルトークRPGについて詳しく知りたい方はネットで調べてみてね☆

ではまた次回!


°Note


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