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第16幕 風と共に去りぬ


「皆さん、お見事です!」

マダムが立ち去った後、さわやかな笑顔でそう語る彦ブーに、スケさんは半ばムスッとした表情で返す。

「彦ブーさん、一体どういう事なのか説明してよ」


するとこれまで彼の遠慮がちで親しみのある態度は消え、どこか他人行儀で事務的にも感じるハキハキした口調で彦ブーは答えた。 

「これまでの経緯はすべてテストのようなものだったのです。マダムを楽しませることができればパスを手に入れられるゲームみたいなものだと言った方がいいのでしょうか?」

「だったらさ、ふたりがこのパンナコッタ・ワールドから駆け落ちしようって話も・・・」

「噓というか、設定ですね。私たちは劇団員と言いましたが、まあその役を演じていたようなものですよ。考えてみてもください、これだけの規模の施設で主役ともいえる重要な役をもらってる訳ですから、待遇もそれなりのものを保証してもらえてます」

「フ-ン・・・」

スケさんは彦ブーたちの事をこの仮想世界のNPCだと間違えて推測していたが、とどのつまりは彼らがNPCを演じていることを見抜けなかったという事か。


ここでスケさんに責められている彦ブーを隣で見ていたオツ姫が、助け舟とばかりに話の間に割り込んできた。

「ってゆっかぁ、何をそんなにオコってんの?あたしたちもココのシステムの一部なんだし、そこの彦ブーは三代目であたしは五代目のオツ姫。ナカのヒトを覗き込こもうと踏み込んできて、それが見えたからって腹を立てるのはスジ違いじゃん」

「でも夢の国では、それを見せない努力ってのも必要なんじゃないの?」

それでも彦ブーたちの変わりように彼女もやはり少なからず気分を害していたのだろう、ミス・セプテンバーが思わず口をはさむ。


「ってゆっか、アンタたちの目的はここを楽しむことじゃないでしょ?もちろんパンナコッタ・ワールドを楽しむために来たお客さんには全力で応えるよ、それがあたしたちのシゴトだし。でもアンタたちは違うじゃん。モードを切り替えていかないと、パンナコッタ・ヘブンに巣くう一癖も二癖もあるヤカラ達からすぐに食い物にされちゃうんじゃない?真剣勝負はもう始まってるんだから」

「へぇ、これは気持ちを切り替えるための親切なチュートリアルって訳かい?」

「どう受け取るかはソッチの自由だけどさぁ、まあ疎まれてまでバカ親切に教えてやるギリもないから別に要らないってんならいいけど~」

「まあまあ、オツ姫さんも皆さんも落ち着いてください。本心ではスケさんの仰ることも理解できるのですが、私たちもそこは仕事ですので分かってくれとは言いませんが納得はしてほしいところです」

この彦ブーの言葉にスケさんはハッとして落ち着きを取り戻す。


スケさんが何に対して苛立ちを感じているのかを冷静に考えてみると、ここまで親しくなった彦ブーがじつは演技で自分たちに接していたという事実が、なんだか騙されていたようで不快感を抑えきれない事だというのは自分でもわかっている。

(イヤもしかしたら自分の推測にいくつかの間違いがあったことを認めたくないという気持ちが、あるいは彦ブーたちを否定することで自分の間違いをなかったことにしようと転嫁されているのかもしれない)

しかしそれが仕事のためだというのならそれはそれで大人の事情で仕方がないし、そもそも彦ブーが何かを隠しているという違和感にはずっと気付いていた。そう考えれば、自分たちが抱いている感情は子供のわがままのようだと言われても仕方がない。

「たしかに偽りの演技を内緒にしたまま、お別れまで黙ったままなら良かったのかと言われたらそれはそれで違う気がするし、最後にキミたちがちゃんと話してくれたことには感謝するよ」

「そう言っていただけたら、こちらも助かります」

スケさんの言葉にオツ姫は不機嫌なままであったが、彦ブーは笑顔を浮かべて答えた。


「そんなことより早くパンナコッタ・ヘブンに行くのです!」

ここで追い打ちをかけるように"くだらない事はどうでもいいから"と言わんがばかりのプリンの提案に、なかば意地になりかけていた皆の肩の力が抜ける。

「プリンさんの言うように、私たちにはまだ彦ブーさんたちのサポートが必要なんですし、意地を張り続けてもいいことはありませんね」

ヨンズがこの話はこれでおしまいと切り上げても、不満を漏らす者は誰もいなかった。


「ではこの"一連なりの星の腕輪"を」

そう言って、安心した表情の彦ブーがプリンの腕に大きなリングを装着する。

「おお~、これで星宮殿からパンナコッタ・ヘブンへ行けるのです」

「何言ってんの?あれはスタッフ専用の通路だよ。資格を得たアンタたちにはちゃんとした専用の通路が解放されるに決まってんじゃん」

そう言いながらオツ姫が見えるでしょと指差した先に、ネオンに光輝く建物が見えた。

「えっ!?あんな建物、さっきまであったっけ?」

丘の上から見下ろせる敷地の端のほうにあるとはいえ、あれほど派手な建築物を見落とすとは考えにくいのでミス・セプテンバーは驚きの表情でつぶやく。夜にあってもライトアップされたパンナコッタ・ワールドの遊具や建築物はきらびやかで目を奪われるほど美しいが、気色の違う美しさがその建物にはあった。

「ってゆっか、それがパスの効果だっての!」

「あの建物がパンナコッタ・ワールドからヘブンへの連絡通路になっています。建物のまえに立っているスタッフにその腕輪を見せれば、中へと案内してくれるでしょう」

「おぉ~!」

プリンが歓喜の声を上げた。


「ただし気を付けてください。あちらの夢の国では自分を見失うと、飲み込まれて全てを失うことにもつながりかねません。あそこは金の亡者どもがすくう伏魔殿でもありますから、まあ大人の皆さんもついているので心配ないかもしれませんが・・・」

「・・・彦ブー、もういないよ」

「はぁっ!?」

気付くと丘の上には彦ブーとオツ姫のふたりだけで、プリンたちの一行はキレイに立ち去った後なのであった。しかもそう教えてくれたオツ姫ですら、帰るための身支度を整えている。

「ってゆっか、あたしも行くから。おつかれ~」

「またこのオチなのですか!?」

彦ブーの叫びが丘の上にこだまするが、それに気付く者は誰もいなかった・・・。



お久しぶりの"お気に入り映画"の時間である。

(そんな時間はないし、泣ける映画がお気に入りに変わっていることはナイショに)


さて今回、ご紹介の映画はと言うと"ギルバートグレイプ"である。

皆さんご存知ジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオの出演作。

田舎で家族に縛られて暮らす少年に、各地を転々として暮らす少女との出会いがあり的なお話。

ハッキリ言ってストーリー自体は好みが分かれるし、地味なオハナシ。

だが!

まだ駆け出しの頃のジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオの若いこと。

そして作中でレオナルド・ディカプリオは知的障害者の役を演じているのだが、その演技が神がかっている。(この作品でロバート・デ・ニーロに認めてもらえたディカプリオは、スター街道を駆け上ってゆくことになった)

言うなれば、この作品はジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオのふたりを観るためだけでも価値のある作品。

重ねて言うが、話は面白くないかもしれない!好みが分かれる!

しかし何かの機会があれば観てみてもいいかもしれない。

その価値はある。

私は好きだ!

今回はそんな作品の紹介である。

(ジュリエット・ルイス最近見ないな、嫌いじゃなかったのに)


ではまた!

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