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第15幕 ふたりの魔女


「もしかしたら石化のカラクリが分かったかもしれないよ」

えっ!?と驚いた様子の皆を前にスケさんは続ける。

「とりあえずキミ達には、小さな壺でも探してきてもらおうかな・・・」



ー翌日ー


時刻は夜8時を半分過ぎようとしていた。

石化したオツ姫は昨日と同じポーズを維持したまま広場の中心に佇んでいる。

その彼女の周囲四方をプリン、ヨンズ、チョビン、グリンが取り囲み、上方ではミス・セプテンバーが皆を見下ろす形で待機していた。

「皆、準備はいいね?とても危険だから、くれぐれも注意を怠らないでよ」

「分かっているのです!」

スケさんの言葉にプリンは何度も同じことを言うなと不満気に答えた。


「彦ブーさんは、いつも通りのルーチンを崩さないでね」

「了解です!」

「壺の準備も問題ないね?」

「大丈夫ダス!宿屋のオヤジが『勝手に人の家に入って来てタンスを開けていく勇者が、どうせ片っ端から割っていくから好きなだけ持って行け』と譲ってくれたのダス」

「なんだかとても際どい会話だね・・・」

そう言いながらもスケさんは、皆の手にそれぞれ壺が準備されていることを確認して満足した様子で頷いている。


「プリン、いい頃合だから灯りの準備を頼めるかい?」

「お安い御用なのです」

それほど高度な呪文ではないのだろう、プリンの短い詠唱で上空に小さな光球が浮かび上がり、辺りを優しい光が照らし出す。ただ・・・、優しい光のはずなのだが、チョビンの頭頂部がやけに眩しい。だが今はそれどころじゃないというのは誰もが承知していた。それが証拠にミス・セプテンバーですら眩しいわね、と言いながらも我慢の様子だったのだから。

しかしあらためて見てみると、広場は靴のつま先を覆い隠すくらいの芝生が茂っていて、丘をつたうそよ風にユラユラと揺れている。そんな中でおかしなポーズで石化しているオツ姫の姿がひどく滑稽に見えた。


「そろそろ時間だよ、皆用心して!ミス・セプテンバーも分かってるね?」

「任しときなさいよ」

スケさんとミス・セプテンバーがそう言葉を交わした刹那、石と化しているはずのオツ姫の背中がモゾモゾと動いた気がした。

「来たわよ!」

ミス・セプテンバーがそう叫んだ瞬間、ストンと何かがオツ姫の真下にあたる草むらに落ちる。


その何かは草陰をガサガサと音をたてながら結構なスピードで移動を始め、ミス・セプテンバーが目を凝らしその影を上空から追うが、光を反射したチョビンの頭が邪魔をする。

「くっ、まぶしい・・・。ハゲが邪魔なのよ!こんな時には、ほっかむりでもしときなさいよね!」

「やかましい!」

草むらの中に潜む影は、オツ姫のまわりを取り囲んでいる四人の間をスルリスルリと縫うように縦横無尽に駆け巡る。そしてその影がチョビンの足元をかすめた。

「ほらハゲ、アンタの足元に!」

「分かっておるわ!」

チョビンは手に持った小さな壺を、足元の影に向かって覆いかぶせた。・・・が、壺の中にその姿が収まりきってはいなかった。何かが引っかかっていたのだろう、影が猛烈な勢いで暴れている。

そして壺を持ってしゃがみ込んでいるチョビンが影のヌシを凝視する。

それはトカゲだった。

八本足の異様な姿をしたトカゲというのが影の正体なのであった。



ここで話を昨夜に戻すとー


「ボクが思うにこの石化の原因は、魔法による効果ではないと踏んでいるんだ」

皆に小さな壺をさがすよう促したスケさんは、ヨンズにその理由を問われてそう口を開いた。

「と、言うと?」

「だって考えてもごらんよ、魔法の効果って言うのは瞬間だよ?デスペルが効いている状態で、対象を石化させようとしたら何度も重ね掛けしなくちゃならない。それでも石化しうる所まで引っ張ってこれるのか微妙だし、だいいちそんなのMPがいくらあっても足りないよ。そうなると、解呪の力よりも一段階強いなにかが必要だ」

「まあ、そうですよね」

「そもそも石化が起こりうる要因はべつに魔法だけじゃない」

「かのゴルゴン三姉妹とか?」

「ああ、メデューサの邪眼だね?方向性は近いけど、三姉妹が昼夜問わずオツ姫と彦ブーを見つめているというのは可能性として低いと思うんだ。ボクとしてはもう一つの可能性、コカトリスとつがいの関係にあると言われているバジリスクの方が怪しいと睨んでいるんだよ」

「ああ、石化トカゲですか」

「というのも、さっきプリンが話していた"枕投げ鬼ごっこ"で鬼が入れ替わるという所から着想を得たのは、さっき彦ブーからオツ姫へと石化が入れ替わった時は夜9時ということもあり、辺りが暗いせいでハッキリ見えなかったけど、もしかしてバジリスクが二人の身体を乗り換えたんじゃないのかなって思ったんだ」

「え!?」

「バジリスクは二人の身体を石化させつつ生気を吸って生きる。しかし生気を吸われ続けると吸われた方は弱ってしまうんだけど、マダムの話術によって自ずから夜9時になったら広場に戻ってくる片方に乗り換えることで、今まで生気を吸われていた側も死に至る前に解放される。解放されたと同時に、デスペルの力で石化のほうも解呪。どちらかが石になってふたたび石になる直前までの二日間のルーチンをワンセットにしたループ、これがオツ姫と彦ブーにかけられた呪いのカラクリじゃないのかな?」



そして話は今現在に戻るー


「ダメだ、チョビンさん見ちゃいけない!」

しかしスケさんの叫びもむなしく、チョビンはガン見だった。

そして間を置かずしてチョビンの足元から石化が始まる。

「こんなもので石化するなど、気合が足りんのだ気合が!」

「いやもう腰のあたりまで石化しちゃってるですよ!?」

プリンの指摘にさすがのチョビンも言葉に詰まる。


「これくらいのステータス異常、ポーション飲んどきゃ治る!」

「イヤイヤ、ムリだから!」

しかしチョビンが懐から取り出した小瓶の中身を飲み干すと、その石化が解除されてゆく。それを横目で見ていたスケさんは驚きを禁じ得なかった。

「ウソだ!中身はエリクサーか何かに違いない」

「バカめ!こんなものコンビニで100ゴールドのポーションで十分じゃ。ワシは気合で不老不死にもなれるんじゃから!」

見るとチョビンが放り投げた小瓶には、ファイト一本100ゴールドのラベルが貼ってあった。

「おお!近所のコンビニで買える、お馴染みのアレなのです!」

「どうせハゲのすることだから、中身入れ替えてるんじゃないの?」

「バカか!ワシを侮ってもらっては困る!」

しかしそんなやり取りをしている間に、チョビンの手元のバジリスクは逃げてしまう。

「しまった!シッポを切って逃げよった」

「ちょっと、何してんのよ!」


自由を得たバジリスクはふたたび、草むらの中を駆け巡る。しかしバジリスクに見られたり、触れられたりすると石化してしまうので、皆の動作が鈍ってしまうのは仕方がない。

「あっ、しまった!」

そんな皆の隙をついて、ヨンズの足元からスルリと包囲の輪を潜り抜けた石化トカゲは一目散に彦ブーのもとへと向かう。

「彦ブーさん、逃げるダス!」

「彦ブー、逃げなさい!」

しかし足がすくんだ彦ブーは身動きできない。迫る影、絶体絶命のピンチ、皆がゴクリと唾を飲み込む音が響くー。


ペチン!


プリンがバジリスクを踏んずけた。

「・・・あ」

プリンがその足をグリグリすると、トカゲはグエッと声を上げて大人しくなる。皆が放心状態で見守る中、プリンは気絶して"きゅ~"とひっくり返った石化トカゲをムンズと掴むと小さな壺のなかへと放り込んだ。

「え?」

「アタチにこの程度の石化は効かないのです!ムフゥ~」

「ってか、そうなら最初から言いなさいよ!」

鼻息荒くそう告白するプリンに皆の非難が集中するなか、突如その声は響いた。


「そこまで!」

いつの間にか石化から解呪されたオツ姫と彦ブーが並んで拍手している背後から何者かが近づいてきている気配がする。その気配は無から突然存在が実体化するように、夜の暗闇の中から姿をあらわした。

質素でありながらも優雅なドレスに身を包んだ妖艶な女性。誰が言ったわけでもないのに、誰もが一瞬で彼女の正体をマダムだと理解した。

「なかなかに面白い余興であったわ」

そう語る彼女の輪郭がボヤけているので、その姿は実体ではなく幻影なのだろうということは分かるが、伝わってくる威圧感は只者ではないことを証明していた。

「マダム、遠見の水晶球を・・・」

気持ちが逸ってそう漏らすチョビンの言葉をヨンズが横手で遮る。

マダムはチラリとチョビンの顔を眺めたが、すぐさま視線をプリンに戻すとこの幼い魔女の顔をじっと見つめた。親子と言われても違和感のない歳の差がある二人の間に不思議な空気が流れる。

「面白いな・・・」

「?」

「いいだろう、お前たちを私のパラダイスに招待してやろう」

「招待されてやるのです!ムフゥ~」

負けじとそう返すプリンにマダムはフフと笑い、背後の二人に伝える。

「オツ、彦、あとは頼むよ。わかっているね?」

「ハイ!」

ふたりの返事を聞きとげて、マダムの姿は瞬時に消えた・・・。



どうぶつの虐待を肯定しているわけではありません。


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