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第14幕 枕投げじゃけん


"獅子のイビキ亭"の二階にある部屋は、わずかにではあるが下の階からの騒ぎ声が届いていたし、お世辞にも豪華とは言えないような質素な部屋ではあったのだが、料金の割には大きめの部屋でベッドなども衛生的だったので、充分満足のいく内容だった。


「へぇ、案外まともな部屋じゃない」

それが証拠に、こういう事には厳しそうなミス・セプテンバーがそれなりの評価を下しているというのが、この部屋のコストバリューを証明していた。


大きめのベッドにプリンとグリンを寝かしつけて戻ってきたヨンズと彦ブーたちに、ソファーの上でくつろぎモードのスケさんが語りかける。ヨンズと彦ブーはスケさんの向かいのソファーに腰かけ、ミス・セプテンバーはユラユラとその部屋を漂っていた。

「ふと思ったんだけどさ、チョビンさんはマダムに遠見の水晶球を貸してくれって交渉してたんでしょ?だったらパンナコッタ・ヘブンへのパスを持ってたんじゃないの?」

スケさんの問いかけにヨンズは、言ってなかったかな?という表情で答えた。

「僕も気になって聞いたことがあるのですが、どうやら手紙で交渉していたようです。ですが取り付く島もないマダムの態度に困って、今回の流れになったようなのです」

「そりゃあダメだね。そもそもチョビンさんの交渉のやり方自体に問題があったんじゃないかって気がしないでもないけど・・・。にしてもさ、パンナコッタ・ヘブンへのパスってどういうモノなんだろう?」

「あっ、見せましょうか?」

彦ブーの提案に、是非頼むよとスケさんは即答する。

まだ謎の多い彦ブーを疑うというわけではないが、実際ここまで話を進めて実は彼がパスを持ってなかったではシャレにならないし、彦ブーという人物がどれだけ信用に値する人間なのかを見極めていくためにも、ここらでパスの開示というのは避けて通れないというのがスケさんの考えでもあった。


だが人のよさそうな印象にたがわず彼の誠実さが実証されるかのように、何の躊躇もなく彦ブーが懐に手を入れて取り出されたパスの形状は大きめのリングだった。

オツ姫物語の"一連なりの星"をイメージした彫刻が施されたリングをテーブルの上に置いて彦ブーは話始める。

「このパスを持っていればパンナコッタ・ワールドを経由せずにパンナコッタ・ヘブンへ向かう道が解放されます。ただしパンナコッタ・ヘブンのエントランスでこのパスの提示を求められるので、皆さんパスを腕輪として装着した状態で向かわれることが多いみたいですけど」

「へえ、どういう仕組みか分からないけど、道が解放されるってことは何らかの魔法の力も付与されているのかな?」

「よくわかりますね、その通りです。結構高価な素材でできているらしく、かなりの魔法付与"エンチャント"にも耐えられる代物だって聞いていますよ」

「でもそんな高価なものを、今までタダであげてたの?」

高価だと聞いて目の色を変えていたミス・セプテンバーが当然の質問をする。

「マダムが言うには、パスを渡した相手がパンナコッタ・ヘブンの上客になってくれれば、そんなものいくら渡してもお釣りがくるくらいのカネを落としてくれるって言ってました」

「じゃあパスだけ頂いてトンズラされたら大損じゃない」

「このパスを入手できるのは、おひとり様一度きりですし、パンナコッタ・ヘブンの楽しさを一度味わった方は手放すことなど考えられないと言われています。またその価値が分からない者にパスが渡らないようにするのがボクたちの仕事でもありましたし」

彦ブーがプリンたちにパスを渡すことをためらったのは、これほど価値のある品だからこそ駆け落ちした後に換金して、二人の逃亡資金あるいは新しい生活を始めるための資金にしたいという思惑があったのかもしれないとスケさんは思った。


ちょっと触らせてもらっていいですかと彦ブーに断って、ヨンズはパスである"一連なりの星の腕輪"を手にとる。

「一体どんな魔法が付与されているのでしょう・・・」

なにげに漏らしたヨンズの疑問に、彦ブーから返ってきた答えは意外なものだった。

「デスペルの魔法らしいです」

「えっ!?」

一同が一瞬固まる。

「パンナコッタ・ヘブンへ繋がる道を閉ざしている魔法は常時魔法というのですか、常に発動されているわけです。パスを持っていることで、その魔法フィールドをすり抜けられるって仕組みらしいですよ」

「それって当然、オツ姫も持ってるんですよね?」

「まあ、どちらが石になっているときにパスを求める人が現れるか分かりませんから、常にひとつづつはお互い持ってます」

「デスペルってことは魔法解除の力で、パンナコッタ・ヘブンの結界をすり抜けられるんだから、それなりに強力な魔法を付与してるんだよね?言うなればイヤな魔法を退ける護符みたいなもんなんだよね?」

「まあ、そうでしょう」

何をそんな当たり前のことをもったいぶって聞いてくるのだろうと、怪訝な表情を浮かべる彦ブーに対してスケさんとヨンズ、ミス・セプテンバーまでもが固まっていた。


「・・・なんで石化すんの?」

「あっ・・・」

その場に流れる静寂。




「どぅおりゃ~です!」

「ギャフン、ダス」

その時突然、この静寂を打ち消すような叫び声がとなりの部屋から響き渡ってきた。

何事かと皆が駆け付けると、いつ起きたのかプリンとグリンが壮絶な戦いを繰り広げいていた。

「タマ取るか取られるか情け容赦は無用じゃけぇ~です!」

「望むところじゃあダス!」

「渡る世間は修羅の道、仁義なき戦いは漢の涙の夢の跡じゃけんです!」

「訳が分からんのんじゃあダス!」

部屋の中を飛び交う枕と羽毛。

早い話が、枕投げである。


「行ってきたら?」

ウズウズした様子のミス・セプテンバーにスケさんが声をかけると、ヤル気に満ちた妖精が部屋の中に飛び込んでいく。だがグリンが慌てて彼女を呼び止めた。

「重たい枕じゃ、姐さん潰れてしまうけんのうダス」

「だったら軽い枕にしてよ!」

ミス・セプテンバーの提案に羽毛だらけになった部屋の枕を確認すると、小さな妖精でも耐えられそうな枕はひとつしかない。

「だったら枕投げ鬼ゴッコにするです!」

「どういうルールなのよ?」

プリンが言うにはこうだった。誰かひとり鬼を決め、鬼に枕を当てられた者が次の鬼になる。

説明が必要なのかという気もしたが、このルールがスケさんにある閃きを与えた。


「もしかしたら石化のカラクリが分かったかもしれない」

「えっ!?」

スケさんのつぶやきに全員が振り返った。


皆さん、ごきげんよう。

今回の泣ける映画の紹介は"マイ・フレンド・フォーエバー"である。


隣に越してきた少年デクスターと友達になったエリック。

しかしデクスターは大病を患っており、エリックはそんな彼を助けるため策を練る。

子供ゆえの無知・無謀・無策。

しかし大人たちが忘れてきた、あるいは生きるために切り捨ててきた純粋な気持ちで奔走する二人。


重たいテーマであるはずなのに、そう感じさせない作品のうまさ。

観終わったときには、どこか爽やかな涙さえ流してしまう。そんな一作です。

機会があれば、一度観られてはどうでしょう。

それではまた次回!


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