第13幕 食卓の騎士
カチャカチャ、ガヤガヤ・・・
ザワザワと人でごった返した店内はむせ返るような熱気に包まれ、人々のうるさいほどの話し声と食器の擦れあう音が響きわたっていた。
「ちょっとグリン!アンタ肉ばっかり食べてないで、野菜も食べなさいよね!」
「オラは肉食だから野菜はちょっと・・・」
「アンタが肉ばかり食べてるから、コッチに全然回ってこないじゃないのさ!」
「いや肉を食べる妖精ってのもどうかと思うのダス。それって妖精のイメージとしてどうなんダスか!?姉さんたちは草木の朝露とか霞を食べて生きてるっていう世間の幻想を著しく壊しているダス」
「やかましいわ!乙女はトイレに行かないだとか、そんな世間の幻想につきあって生きていられるかっつうの!覚えときなさい、世間の9割は幻想でできているのよ」
「あの一応食事中なのですが・・・」
彦ブーとの取引が成立したプリンたち一行は食事と寝床を求めてここ"獅子のイビキ亭"に来ていた。
「それで彦ブーさんはこんなところを人に見られても大丈夫なんですか?」
「あっ、全然問題ないです。って言うか、僕もパンナコッタ・ワールドのイチ従業員に過ぎませんから」
「そうなんですね」
食事に夢中になっている他のメンバーに代わり、ここではヨンズが彦ブーの話し相手になっていた。
「ところでさっきの話の続きなのですが、夜9時になったらオツ姫と石化が入れ替わってしまうっていうのは、どうやって分かったんですか?」
「だからオマエは肉ばかり食うなって言ってるだろー!」
「ギャー!」
「あぁ、それは直接言われたんですよマダムに」
「マダムに?」
「僕たちの計画がバレたあと、マダムの配下に追い掛け回されてしまって、ついにはさっきの広場で追い詰められてしまったんです。それでどうしようって、二人でその場にしゃがみ込んで迷っていたら、突然マダムが現れたんです」
「アタチ、デザート頼んでいいですか?」
「マダムが直接乗り込んできたと?」
「コラァ、私はまだ全然肉を食べてない!」
「そうなんですよ。それで焦ったオッちゃんがマダムに食い掛ってしまって、余裕で構えていたマダムとは対照的にビックリした表情のオッちゃんの足元から徐々に石化が始まって、それからみるみる間に全身が石になってしまったんです」
「それで?」
「じゃあ幻桃のゼリー・・・。いや、エーテル水ようかんにするです!」
「その時言われたんです。これから毎日夜9時になったらこの場所に来いと、そうすればオッちゃんと僕が入れ替わりに石になることでお互いを助けられる。ただし、どちらかが一日でも来なかったり遅れたりした場合は、永遠に石化の呪いは解けなくなるだろうと」
「じゃあ、姉さんはデザート食べないダスか?」
「・・・魔ゴマ添えの黒蜜ダンゴ」
「あの・・・」
「はい?」
「会話が全然頭に入ってこないのですけど」
ヨンズはテーブルのミス・セプテンバーたちを困った顔で見渡した。
「へぇ~、それじゃあキミたちはそんな経緯で夜9時になったらお互いを助けるため、さっきの広場に戻って行かなくちゃならないのか」
口の周りをスープで汚したスケさんが真顔で再確認した。
満腹になったプリン、グリン、ミス・セプテンバーはやっと大人しくなったし、支払い担当のチョビンについては皆の豪快な食べっぷりによる想像を超える出費に、しょんぼりと意気消沈したまま当分戻ってこれそうにない。
「永遠に石化の呪いが解けない・・・。って、魔法じゃないの?」
それなりに好きなものを食べられて、やっと穏やかになったミス・セプテンバーが尋ね、その問いかけに魔法ドリップで淹れたコーヒーを口にしながら、ヨンズが答えた。
「それは言葉のアヤってやつでしょう。それに人を騙すことに長けている魔女が相手なのですから、かく乱させるための言葉も含まれているかもしれません。木を見て森を見ずでは、大事な何かを見落としてしまうかもしれませんから、あまり気にし過ぎない方がいいかもしれませんね」
「だけど魔法だとしても相当高度なものになるからね。必ず核となるタネはあるはずだよ」
スケさんは口の周りをペロペロ舐めながら顔をきれいにしている。
「そうなの?」
「だって考えてごらんよ、単なる石化なら魔法をかけてそれでおしまい。だけどこの状況は、夜9時に二人が揃っていることを認識して、現在石になっている方の石化を解除する。そしてすぐさま入れ替わりに別の方を石化させる。このルーチンを毎日ループさせるんだよ?工数が段違いじゃないか」
「そうなんですよね、しかもそれを無人の状態で実行している。どんなカラクリを使っているのか」
物憂げな表情を浮かべたままのヨンズをなんとか助けてあげたいという気持ちに偽りはないのであろう、ミス・セプテンバーがう~んと唸りながらアイデアをひねり出す。
「その魔法を実行させるための魔法陣か何かを、あの広場に仕込んでいるとかじゃないの?」
「イヤイヤ、それほどの魔法陣だとかなり強力なものになるからね、漏れ出す魔力も相当なものになるはず。だけどあの場所から、そんな魔力は何も感じ取れなかった。だからその線は考えられないと思うよ」
「う~ん・・・」
「彦ブーさんは何か気になるところとかないですか?」
突然ヨンズから話を振られた彦ブーは、ビックリして皆の顔を見渡した。
「あぁいえ、魔法をかけるときには詠唱というのが必要になるんでしたよね?」
「ま、これだけ高度な魔法となると、詠唱なしに発動は難しいだろうね」
スケさんが即答する。
「だけどあの時マダムが魔法を唱えたりといった仕草はなかったように思います」
「そうか・・・、ますます分からないですね」
「あ、イヤ、分かりませんよ!?あの時は急な出来事で、僕も混乱していたし、冷静とは程遠い精神状態だったので、記憶の正確さを問われると自信が全くないですから」
「心配しなくて大丈夫だよ。確実性を重視した情報だけを集めていたら、いままで気付けなかった閃きを生み出してくれる情報が出てこなくなるから。誤った情報が含まれているかもという可能性を織り込み済みで考えるという作業も大事なんだ」
「そういうものなんですね」
「それよりも、だ」
「?」
長椅子に横になって爆睡しているプリンとグリンを見て、スケさんは溜息をついた。
「そろそろ部屋に移動しようか。オコチャマはそろそろオネムのようだ」
「あっ、じゃあ僕はこれで失礼を」
だが慌てて去ろうとする彦ブーをスケさんが引き留める。
「今日はボクたちと一緒に泊まろうよ」
「でもそれでは皆さんに迷惑が・・・」
「大丈夫、これだけの大所帯なんだ。一人増えたって誰も迷惑だなんて思わないよ」
「そうそう、それに今日は少々状況が今までと違っていますから、あなたの安全のためにも一緒に行動することが望ましいと思いますよ」
「ま、ボクたちと行動を共にしていたら都合が悪いってんなら話は別だけど」
スケさんは意地悪な目つきで彦ブーの顔色をうかがう。
彦ブーは慌ててミス・セプテンバーのほうをチラリと見たが、彼女は無言で肩をすくめながら別にいいんじゃないのという仕草で返した。
「いえ、とんでもないです!それではお言葉に甘えて、ご一緒させてもらいます」
「なら決まりだね、じゃあ部屋に行くとしよう」
話がまとまりヨンズと彦ブーとでそれぞれ手分けしてプリンとグリンを抱えると、「ワシはすこし星でも眺めて戻るよ」と言うチョビンを置いて、一行は二階にある宿の部屋へと向かうのであった。
「(これだけの大所帯、一人増えても誰も迷惑とは思わない・・・。カネ払うのワシなんだけどね)」
チョビンのつぶやきは誰にも届かなかった。




