第12幕 交渉
「じゃ、そろそろ時間だから。あとは彦ブーにでも聞いてよね」
「えっ?」
オツ姫がそう言ったかと思うと、石像が徐々に色づき始めていく。そしてその姿はやがて血色のいい青年になっていった。
「ちょっと、これって一体どういう事なの!?」
そして突然の出来事にオツ姫を問い詰めようと振り返ったミス・セプテンバーの前に現れたのは、その青年と入れ替わるように石と化してしまったオツ姫の姿なのであった。
「げっ、今度はこっちが石になった!?」
慌てふためくミス・セプテンバーをよそに、完全に人間の姿に戻った彦ブーは「んっ」と小さな伸びをしながら体をほぐすように腕を伸ばしている。
「ちょっと、アンタたち一体何なのよ!」
その時になって、ようやく目の前にいる妖精の存在に気が付いた彦ブーはペコリと頭を下げた。
「あ、どうも彦ブーです」
ーしばらくしてー
「・・・というわけなのよ」
「え~っ。オッちゃんは、またそんなムチャぶりを・・・」
これまでの経緯をミス・セプテンバーから聞いた彦ブーは、困ったなという表情を浮かべて石と化したオツ姫を眺めた。しかし当の本人は、涼しい顔でポーズなんか決めたりしたまま固まっている。
「だからいきなり助けろって言われても、どういう状況なのかさっぱり訳が分からないからさ、私にもちゃんと分かるように説明してよ!」
「わかりました」と頷いて彦ブーは話し始める。
「じつは僕たち、このパンナコッタ・ワールドの雇われ劇団員なんですけど、僕たちに与えられた仕事は大きく二つあります。ひとつはこのパンナコッタ・ワールドを訪れたお客様を楽しませること。そしてもうひとつの仕事が、パンナコッタ・ヘブンへのパスを求めてやってきた人たちから、パスを隠し通すことなんです」
「それで?」
「他の団員たちには内緒にしていたんですが、僕とオッちゃんは以前から付き合っていまして。そろそろ将来のことも考えようと話してしていたところ、ここの仕事はハードな割に給料もよくない、待遇もいろいろと目に余るところがありまして、まあいわゆるブラックってやつなんですけど、それでここを出て二人で別の働き口を探そうと駆け落ちを計画していたわけです」
「おぉ~!でっ?で!?」
それまでの話を興味なさそうにフンフンと聞いていたミス・セプテンバーだったが、駆け落ちというワードが出てきたとたん俄然乗り気になって喰いついてきた。
「しかし僕たちの秘密の計画がどこから漏れたのか、マダムの耳に入ったようなのです。それで僕たちがここを出ていくことに怒ったマダムは、僕たちのどちらかが石になって夜の9時になったらそれが入れ替わるという魔法をかけたのです」
「うっわぁ、ヒドッ!」
そう言いながらもミス・セプテンバーはどこか楽しげだ。
「とうぜん常にどちらかが石になっているわけですからお互い会話もできない。他の劇団員にも僕たちが付き合っているという事を内緒にしていたものですから、いまさら相談もできないという事で困っていたという訳なのですよ」
「そうなのよね~、オフィスラブはこじれると厄介なのよ!」
どこから仕入れてきた情報なのか分からないが、ミス・セプテンバーはウンウンとしたり顔で頷いている。
だが、にわかに顔を曇らせて話をつなぐ。
「でもさぁ、残念だけど私は魔法とかにあまり詳しくないからさあ・・・」
「ちょっと待って、悪いけど話は聞かせてもらったよ」
その時物陰からスケさんとプリンたちが現れる。
「急にオツ姫の気配が消えたからなんでだろうと思ったら、これまた面白い状況じゃないか」
「おお!私の秘密兵器が現れたようね。これで心配は無用よ、彦ブー」
「いや別に、君のではないから」
スケさんの姿を見つけて安堵と共に、そうのたまうミス・セプテンバーにスケさんはピシャリと答えた。そしてそのまま石化したオツ姫の姿を眺めて続ける。
「一般に解呪の方法というのは、一つの事象に対して幾つかあるんだけど、この場合で言うと反転させた石化の魔法をぶつけて解除するやり方とか、かかった魔法の根源から解除するデスペルだったり、まあ他にも術者を無力化して楔を消滅させるなど、ちょっと考えただけでもこれだけ出てくるんだけど、いくら的外れの対処をしても効果は期待できない。だから大前提として、まずはかかっている魔法の仕組みをしっかりと調べてそれに応じた対処法を見つけていかなきゃだね」
そう言ってスケさんは石化したオツ姫を見定めるように、彼女の周囲をグルリと一周回って見つめ直すが、変なポージングを決めたまま石になっている姿は、こっちが小バカにされているようでなんだかイラっと来る感情を抑えきれない。
そのときプリンがこそっと耳打ちするようにスケさんに告げる。
「彼らはNPCなんじゃなかったですか?」
「う~ん、それも含めての設定なのかもしれない。もう少し情報を引き出してみよう」
「ハイです」
彦ブーはコソコソと会話をするスケさんに一瞬怪訝な表情をのぞかせたが、すぐに何もなかったかのように話を戻した。
「そうですか、じゃあお願いしま・・・」
「ちょっと待った!お願いされるのはいいけど、こっちにも条件があるよ。じつはボクたちもここに閉じ込められていて困ってるんだ。だから成功報酬として、君たちの持っているパスを譲ってほしいのだけど」
だが彦ブーはあからさまに不思議そうな顔をする。
「閉じ込められている?ここはパスを求める人の他に一般の人にも開放されているから、入場口とは離れた場所に退場口もあるよ。そこが分からないのなら僕が案内するけど」
「それじゃ困るんだ、ボクたちは元来た道を引き返すだけの一般退場口から外に出たいのではなくて、パスを使ってパンナコッタ・ヘブンへと続く出口にこそ用があるのだから。実はさっきオツ姫とは軽く一戦交えさせてもらってね、星宮殿にある彼女の部屋にそのための出口がある事は調べがついているんだよ」
今度は困った表情を浮かべる彦ブーに、演技というか芝居臭いものを感じなくもない。この一連の流れもシナリオに沿った彼らの演出という可能性もあるのかとスケさんは心に留めておくことにした。
「いやでも、そうしたら今度は僕とオッちゃんがここから出られなくなっちゃう・・・」
「その心配は無用のはずだよ。まあ一般退場口から君たちが出ていくには目立ちすぎるからパスを使わなくちゃならないのかもしれないけど、そのパスはグループで一つ持ってれば有効なんでしょ?だったら皆でここを出れば、そのあとの君たちには無用じゃないか」
「うっ・・・」
「それとも何かい?ボクたちに不要になるはずのパスを渡すのに、何かしら不都合でもあるのかい?まあボクたちは構わないよ、それなら別の方法でパスを手に入れるまでだし」
「いや渡す、渡します!だからオッちゃんを助けて下さい」
「いいだろう交渉は成立だね」
なにやら裏がありそうな雰囲気がにじみ出ているのが気にはなる、恐らく彦ブーは何かをまだ隠しているのだろう。しかしスケさんはそれを承知で話を進めることにしたのだった。
そういえば以前、泣ける映画が好きだという話を書いて脱線したままであった。
(日常生活でも脱線しっぱなしはよくある事なのだが、お気に召されないでほしい)
今回紹介させてもらうのは"パッチ・アダムス"という映画である。
あまり内容を話すとネタバレになるので深くは書かないが、
一言で言うと"信念と矜持そして喪失の悲しみの物語"だろう
(あっ、一言じゃなかった!)
医者として自分の信念を持ち続けて戦う
そしてそれが原因で大切なものを失う
その時自分はどう生きる選択をするのか
そんなドラマである。
主演のロビン・ウィリアムスは大好きな俳優の一人だったのに
お亡くなりになったのが非常に残念だった人物である。
(主演よりも難しいとされる助演男優賞でオスカー俳優になられたことが
個人的にとてもうれしく思えた俳優)
生きるってやるせないよね~と言わしめる実話をベースにした映画
もし機会があれば一度観られてみてはどうだろう
それではまた!
アデュー
°Note




