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25. 宮廷近衛騎士は嫉妬深い?

誤字脱字、一部微修正をしました。

「お会いしたこと、ありますわよね?」


 シリウス様に向かって、もう一度問いかけました。


 じっと見つめられるサファイアブルーの瞳に私の顔が映っています。シリウス様は、私の両手を優しく取るときゅっと力を込めました。


「私のことを思い出して下さいましたか?私達は2年前にお会いしているのです」


 彼の目は眩しいものを見るように細めらると、右手で私の頬をゆっくりと優しく撫でました。とても愛おしそうに。


「でも、その話は馬車の中でしましょう。それに急がないと、貴方を待ちわびた私の両親が迎えに来てしまいそうですから」


 エスコートされて再び馬車に乗り込みます。そして、改めてシリウス様と向かい合わせで座ると彼は口を開きました。


「私と貴方がお会いしたのは、2年前のデヴュタントの翌日でした。それが初めて貴方に会った日です」


 静かにお答え下さいました。


「あの、とても聞きにくいのですが・・・」


「何でも聞いて下さって結構ですよ」


「・・・あ、あのですね、私は、シリウス様に、だっ、抱っこされて運ばれたことがあるのでしょうか?」


「・・・ああ。そのことでしたら。ありますよ。それも()()()


「ええっ!? 何度もあるのですの!?」


 またあのお顔です。ちょっと意地悪そうな、いたずらを仕掛けるときのようなお顔で。意味ありげに(何度か)ともう一度おっしゃいました。


 全く記憶にありませんが、嘘をおっしゃてるようには見えませんし、何より不透明な感覚ではありますが、確かに ≪記憶の断片≫ はあるのです。声も香りも、間近で見たであろうお顔の角度や胸の感触・・・。 なぜ、はっきりと覚えていないのか不思議です。バネットの言った通りなら、彼は我が家にも来ているということになります。


 何だか、シリウス様にも申し訳なくなってきました。


「シリウス様、こんなこと言うと可笑しいと思われるかもしれませんが、実は、貴方とお会いしたというはっきりした記憶が無いのです。でも、記憶の断片というか、既視感(デジャヴ)を感じることがたくさんあるのです。それも、貴方とお会いした昨日から。いろいろな場面で・・・」


「・・・・」


 シリウス様は、黙って私の話を聞いてくれました。もしかして、自分のことを覚えていない馬鹿な娘と思っているのでしょうか。そう思うと顔を上げていられませんでした。下を向いて両手を握っていると、何だか悲しい気持ちになってきました。2年前にお会いした時に一体何があったのか怖くて聞けません。

 それにどうして私は忘れてしまっているのでしょう。じわじわと涙が溢れてきました。変な事を聞かなければ良かった。そう思ったとき、


「リリ」


 優しく呼びかけられて顔を上げると、シリウス様が再び隣に座られました。そして、涙で溢れそうになっていた目を指で拭うと、そっと私を膝に抱き上げました。


「!?」


「しばらくこうさせて下さい。貴方の涙が乾くまで」


 馬車の中で横抱きされてお膝に座るなんて、息が止まるかと思いました。でも温かい胸に抱かれているとさっきまでの不安が薄れてくるように感じます。


 いきなりの行動にびっくりしましたが、この感じも何だか初めてではない。と思います。だってこの距離、この角度で男性の顔を見るという、貴重な体験にも覚えがあるような感じがしますもの。




「シリウス様、以前もこうして下さいましたのね?何となくですが覚えがあります」


「えっ?覚えがある?本当ですか?この体勢に?」


「はい。こうしてお膝に座らせて貰ったような気がします」


「・・・・そうですか。この体勢にですか」


 あら、何でしょう。シリウス様の様子が一瞬変わりましたわ。一瞬ですが美しい眉が寄せられたように見えました。でもそれは本当に一瞬で、すぐにさっきまでの優しい雰囲気に戻りましたけど。


「とにかく、貴方の気持ちが落ち着くまではこうしていましょう。話は後でもできますから」


 たくましい両腕に抱きしめられて、グリーン系のコロンの香りを吸い込みます。シリウス様の香りです。この香りも覚えがあります。私は身体の力を抜いて彼の胸に頬を寄せたのです。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「んまぁ!!」


 馬車はいつの間にか停まって勢いよくドアが開かれた。待ちかねていたスタンフォード公爵夫人が見たのは、堅物の朴念仁と思っていた息子の膝の上に ≪妖精姫≫ が横抱きにされているという稀有な場面だった。


「母上、只今戻りました」


「リリ・アンナ・グランデルク伯爵令嬢をお連れしました」


 リリは真っ赤になって立ち上がろうとしたが、シリウスの腕がそれをさせなかった。


「さあ、私の両親をご紹介しましょう。母上、そこに立っていられれると私達が出られません。どいてください」


 驚いていてまじまじと息子の顔を見ていた母になんという言い草かと思ったが、はっと気づいて ≪公爵夫人の顔≫ に戻った。そしてサロンで待っています。と言って優雅に踵を返した。


「貴方が来るのを待ちきれ無かったようです。さあ、サロンにご案内します」


ようやくリリは、シリウスの腕の中から解放された。





 緊張したリリは、シリウスにエスコートされてサロンに向かった。公爵邸はさすがに大きく、グランデルク伯爵家の屋敷よりも立派だった。大理石の壁に大きなガラス窓が特徴的な優雅で美しい屋敷。玄関ホールのすぐ横には来客用のサロンが並んでいたが、幾つもあるサロンの中でも特に女性的な感じに設えてある、少し小さめなサロンに案内された。

 初めて公爵邸を訪問するリリが、必要以上に緊張しないようにとの配慮であった。


「リリ・アンナ・グランデルクと申します。公爵様にはお初にお目に掛かります。公爵夫人にはお久しぶりでございます」


 公爵夫妻にカーテシーをして挨拶をする。そのすぐ横にはシリウスがいてくれるので、リリはいつも通りに優雅に振る舞うことができた。


「これからは、リリちゃんと呼ばせて頂くわね。何といっても私達の娘になるのですもの!ねえ、貴方」


 公爵夫人がリリの手を取ってウキウキとしている。以前から ≪妖精姫≫ のことを気に入っていた夫人からすれば息子よ、よくやった!と手放しの喜びようなのだ。

 公爵はというと、こちらも噂に聞いていた ≪妖精姫≫ が想像以上であったのを驚きつつ、未来の娘にすでにデレデレな状況である。恋愛結婚に寛容な公爵夫妻からしてもこの結婚話はまさしく理想的であった。






「ところで、シリウス。結婚はいつを考えているのだ?早い方が良いのだろう?」


 紅茶を一口飲んだところで、公爵様が私達二人を見ながらおっしゃいました。


「ええ。できるだけ早くとは思います。結婚式は準備がありますから、リリ嬢ともよく相談しないといけませんが、結婚証明書は今日届けに行ければと思っています」


「「「ええっ?今日?」」」


 公爵様、夫人、そして私の三人が揃って声を上げました。聞いていませんけど!?


「リリ嬢は、もうすぐ17歳になるでしょう。婚約期間を必要とせずに結婚できます。ですから、今日貴族院に届けをしておけば、17歳になったらその日から私達は夫婦として認められます。結婚式は来年の春ごろを予定すれば十分に準備もできるかと思います」


 なぜ、そんなに急がれるのでしょうか。シリウス様の横顔を見つめていると、


「一刻も早く、貴方を私のものにしたいのです。こんな()()()()()は嫌いですか?」


 そんなこと言えませんわ!。だって(嫌い)なんて言わせない美しいお顔で見つめてくるのですから!!




 その後、すでにシリウス様と私の両親のサインが入った結婚証明書に私と公爵様がサインをすると、満面の笑顔で私を促して立たせました。


「では、これから貴族院に結婚証明書を提出して参ります。ついでに王宮に行って陛下達にもご挨拶をしてきましょう。きっと待っていますから」


 この人、陛下達のことを()()()とか言いましたよー!!


面白い。続きが気になると思って頂けましたら

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ブックマークしてくださった皆様もありがとうございます。


別の作品「異世界エステティシャンは、王室御用達!」も更新しました。

宜しかったらそちらもよろしくお願いします。

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