第8話
私は困惑していた。"デート"とは一体何なのだろうか?
何故、エリオスはセラフィンと護衛を置いて私と二人になった?
......一国の王子が護衛もなしで大丈夫なのであろうか?
「さ!レヴィ。デートを楽しもうじゃないか!」
「......エリオス、その"デート"とは一体何なんだ?」
「へ?」
私の問いかけにエリオスは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「デートって言うのは好き合っている者同士が二人っきりで出かけること、かな?」
「......私達は好き合っているのか?」
「え?!それは......僕はそうだと思っているけれど......あっ、ほら!早く町を散策しよう!」
「あ、あぁ」
あまりにも強い視線に私は頷くしかなかった。
まぁ、なんだろうと城下の様子を知る事が出来れば私はそれでいい。
......それにしても。
「エリオス。お前魔法が使えたのだな」
「ん?あぁ。この国の者は皆使えるんだよ?」
......恐ろしい国だ、セレスティア王国とは。
視察前に知れてよかった。
「あ、ほら。市場が賑わっているよ?何か欲しいものでもあるかい?」
「ほ、欲しいものと言われてもな......ん?エリオス、エリオス。あの食べ物はなんだ?」
「あぁ、肉の串焼きだね。」
「肉......美味そうだな」
私が夢中になって串焼きの屋台を見ていると、エリオスがその屋台に向かって行った。
「オヤジさん、二本もらえるかい?」
「ハイヨ!......ん?あ、貴方は......!!」
「シー。すまないが今日はお忍びなんだ。騒がないでもらえると助かる」
やはり変装していても分かる人間にはわかるのだろう。
......まぁ、王族のオーラは隠しきれないものがあるからな。
「ほら、レヴィ。熱いうちに食べよう」
「......いただきます。......!!これは、非常に美味だな!!」
「そうだろう?ウチの国の食物はどれも美味いんだ。」
「確かに昨日の晩餐も今朝の朝食も美味かった」
私が素直に感想を述べると、エリオスは満足気に笑った。
......王子の笑みと言うより、ただの好青年の笑みで私は好感が持てた。
「......その笑み、嫌いではない」
「え?レヴィ、今なんて......?」
「な、何でもないぞ!!ほら、あちらにあるのは宝石商か?!」
私は何故だか照れ臭くなってしまった。
......普段はこんな想いする事は無いと言うのに。
なんだか鼓動が早まっている。
なんなんだ一体。
......体調でも悪いのだろうか。
人間界に来たばかりだから、そのせいかもしれない。
「レヴィ?胸を押さえているがどうかしたかい?」
「んん?!何もないぞ!!」
「......それならいいんだけど。ほら、この宝石には魔力が込められているんだ。......ん?」
「どうした?」
「いや。レヴィ、すまないんだけれど、先にあそこの噴水で待っていてくれるかい?」
......何故私を待たせるのであろうか?
エリオスに言われ私は一人噴水で腰を掛けて待っていた。
すると、子どもが悪漢に攫われようとしていた。
こんな明るいうちから人攫いなど。
......まったく。本当はこのような場所で使いたくなかったのだが。
「......シャドウ」
「う、うわぁ!!なんだこの黒いのは?!」
「た、助けてくれぇ!!」
私は魔法を発動し、子供を悪漢の手から解放させた。
子供は一目散に私の元へと駆け寄って来ると足元にしがみついた。
......敵意も恐怖も感じない。
ただ純粋な感謝を向けられた。
......こういった時どうすればいいのだ?
「兄ちゃん!今王都警備隊を呼んでいる!もう少しだけそのまま押さえてくれ!!」
「......承知した」
そして少し経つと王都警備隊?とやらが現れ、悪漢を連れて行った。
私はと言うと子供とその母親から何度も何度も礼を言われたのだった。
「レヴィ。大活躍だったみたいだね」
「......見て見ぬふりは好かん」
「そんなレヴィに......はい、これ」
「これは......?」
エリオスが差し出してきたのは、赤い魔石のブローチだった。
「これを見た瞬間にレヴィの瞳を思いついたんだ。......貰ってくれるかい?」
「......仕方ないから貰ってやる」
思わずぶっきらぼうに返してしまった。
赤い魔石は、陽の光を受けて私の瞳の様に静かに輝いていた。
......なるほど。"デート"と言うのも悪いものではないのだな。




