第5話
エリオスに連れられてやって来たのは晩餐会をするための大広間だった。
扉を開けると大きく美しいシャンデリアが広間を煌々と照らしている。
そして中央には長い食卓が並び、豪華な料理が所狭しと並べられていた。
上座には既に王が着席していた。
......待たせてしまったか。申し訳ない。
「待っていたぞ、魔王。エリオス。今宵は祝いの場だ。どんどん食べて、酒も好きなだけ飲むがよい」
「心遣い、感謝する」
「いや、感謝するのはこちらの方だ。貴殿が同盟を申し出てくれたおかげで、わしらの苦労が軽減するのだから」
......そう言われては悪い気はしない。
しかし、よくここまでのご馳走を用意できたものだ。
見慣れない料理の数々に、ついつい感心して手が止まっていると、セレスティア王がガハハと笑いながら私のグラスにワインを注いできた。
「魔王!いや、エリオスにならってレヴィと呼ばせてもらおう!酒は嫌いか?食も魔界とは違うだろうが食べられそうか?」
「......酒は好きな方ではある。食に関しては......さほど魔界と変わりないから問題は無い」
「そうかそうか!ではジャンジャン飲んでくれ!わしは嬉しいぞレヴィ!こうして魔界と人間界が友好関係を結ぶことになるとは......!!」
「......それは私も同感だ。......魔界を治める者として今までの行い、大変申し訳なく思う。すまなかった」
私が謝罪すると、一瞬、食卓が静まり返る。
しまった。せっかくの楽しい時間に水を差したか?
私が不安げに周囲を見渡していると、どこからか、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
その正体は聖女、セラフィンであった。
「魔王様。わたくしは思うのです。人間も魔界に赴いては魔物狩りをする方々がいらっしゃいます。全て魔物だけが悪いと言う事は無いと思うのです」
「......聖女」
「セラフィンで構いません。わたくしもレヴィ様とお呼びさせていただきますね?」
......人間はこうも温かいのか。
もっと早く知りたかった。
......今更だがセラフィンは"聖女"と言ったな?確かに美しい容姿をしてはいるが......骨格はどう見ても男であるし、背丈も私よりあるのではないのだろうか......?そんな私の視線に気がついたのか再びセラフィンがクスクスと笑い始めたのだ。
「"男"なのに"聖女"で驚いたでしょう?わたくしも最初は驚きました。聖女の力がわたくしに備わっていると言われた時は。けれど、今は良かったと思います」
「?何故だ?」
「......貴方様のような心の持ち主に出会うことが出来たからです」
セラフィンは一体何を言っているんだ?そう疑問を持ちながらワインを口にしようとした時、ダンッと拳を振り落とした人物がいた。
......エリオスだ。顔が真っ赤になっていて......どうやら、すっかり酒で出来上がったのが見てとれる。
「セラフィン!レヴィは僕が先に目をつけたんだ!後からぽっと出のくせに口説こうとしてるんじゃないよ?!」
「はて?エリオス様。何をおっしゃっているのか分かりません」
「セーラーフィーンー!!」
「これこれ!暴れるでない!レヴィすまない。......エリオスは酒に弱い癖して飲みたがる厄介者でな」
「......なるほど」
私はエリオスを見つめる。
......確かに先程までの凛々しい姿からは想像もできないほど、今の彼は騒がしい。
......こんな短時間でいろいろな者達のいろいろな面を見てしまった。
魔界ではまず、見ることのない光景だ。
それが何だか楽しくて、嬉しくて。私はいつの間にか自然と笑みを零していた。
......人間界に来て、良かったのかもしれない。
そんな事を思いながら私は再びエリオスへと視線を向けた。
そう言えば――。
「......ところでエリオス」
「な、なんだい......レヴィ......?」
「先程"目をつけた"と言っていたが......」
「......うん?」
「私に何かついていたのか?」
「「......」」
「......」
何故だ?何故全員黙る?
......やはり、私にはまだ人間の言葉は難しいようである。




