第4話
「......ここが人間界か」
「レヴィ、人間界は初めてか?」
「エリオスか。あぁ。視察は部下であるカラスたちの"眼"を通して行っているからな。実際には来た事は無い」
「......それなら、今日は城の案内を。明日は城下町の案内をする。どうだ?」
エリオスの提案は私にとって有難い申し出であった。
やはり実際に自分の眼と身体で体験するのが大事なことであろう。
しかし、エリオスは王子だ。
職務があるだろうし、それに王子がいきなり町に現れたら大事になるのではないだろうか?
「折角の申し出は有難いが、お前は私に構っている暇はあるのか?」
「......問題ない。私も気分転換したいからな。職務ばかりでは息がつまる」
「早速だが城内の案内をしても?」とエリオスは言うと私の手を取って歩き出した。
......私もいい大人だ。流石に恥ずかしいのだが。
「......エリオス。この手はなんだ?」
「気にするな。貴殿がはぐれて迷子になっては困るからな」
......本当にそれだけが理由だろうか?
「......思っていたが、私に対しては砕けた態度でいいぞ?」
「!......し、しかし......」
「私は友好の関係を築きたい。ダメ、か?」
私がそう言うとエリオスは急に歩みを止めた。
そのせいで私はエリオスの肩に顔をぶつけてしまった。
......人間というのはこうも育ちが良いものなのだろうか。
羨ましい限りだ。
「それじゃあ、レヴィ。お言葉に甘えさせてもらおうかな。父上には"威厳がない"と言われてしまってね。日頃から固い口調を気を付けているんだけれど......どうも僕には合わないようで......」
「......随分と雰囲気が変わるのだな。非常に柔らかくなった」
「レヴィもそんなに固くならなくていいんだよ?」
「いや、私は普段からこの口調でな。......すまないがこのままでいかせてもらう」
そんな会話をしながらエリオスは城内を案内していく。
中庭に差し掛かったところで花のいい香りが鼻孔をくすぐる。
そこには様々な色の薔薇が咲き誇っていた。
「......凄い数の薔薇だな。それに色も様々で」
「凄いだろう?母上の趣味なんだ。僕もとても気に入っているんだ」
「......黒い、薔薇?」
「あぁ。それには母上も苦労していたよ。......そう言えばレヴィの髪の色と同じだね。黒髪は人間界にはいない色だからついついその美しさに目を奪われるよ」
......なんだかエリオスの賛美はくすぐったいものばかりだ。
エリオスは私の髪をひと房掬い上げると、そっと口づけを落とした。
これは一体どういうつもりでの行動なのであろうか?
「え、エリオス?一体何を......?」
「あぁ、ごめんよ?薔薇に引き寄せられる蝶や蜂の気持ちが分かる気がしてつい」
「さぁ、今晩はレヴィの歓迎会だ。早く行こう!」そう言いながら私の手を握り走り出すエリオスはまるで勇者の面影がなかった。
しかし、私はそんな自然体の彼に親しみを覚えた。




